作業療法
Online ISSN : 2434-4419
Print ISSN : 0289-4920
41 巻, 4 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
巻頭言
  • 竹田 里江
    原稿種別: 巻頭言
    2022 年 41 巻 4 号 p. 389
    発行日: 2022/08/15
    公開日: 2022/08/15
    ジャーナル フリー
    一昔前,論文を投稿し,査読を経て,アクセプト,掲載へとこぎつけるなかで,楽しみな瞬間が3回あった.一つ目は,査読結果を読むときである.時に厳しく,悩まされる指摘もあるが,見ず知らずの査読者が自分の論文を,ボランティアにもかかわらず丁寧に読み込み,吟味し,的確に示唆してくれる状況に,「なるほど,そこがポイントか」「薄々気づいていたけど丁寧に検討していなかった」など,納得感やありがたさを感じる瞬間がしばしばあった.また,査読結果を受け取った時点では感じなかった点も,その後に研究を進めたうえで改めて読み直すと「そういうことだったか」と唸らされることもあった.査読結果は論文投稿の過程で最も楽しみであり,かつ喜怒哀楽を感じる場面である.二つ目は,アクセプトされたこと自体であり,「掲載可」「accept」の文字を見ると思わずガッツポーズが出て,それまでの苦労も一気に吹き飛んだ.ただし,この喜びは一過性であり,予想よりもすぐに収まり,淡々と「次も頑張ろう」と冷静になる自分がいるのも興味深かった.三つ目は,原稿が論文のかたちに段組みされ,校正の段階になった際,体裁が整っていない部分,言い回しや文章に違和感がある部分に校正者が赤ペンを入れてくれた校正原稿を見ることであった.査読中の論文修正の際には,指摘されたことを直そうとするあまり,視野が狭くなっていることが多く,繰り返しの表現が多い場合,助詞や形容詞の位置や用い方に不備がある場合,さらに表や図の作成方法に不自然さや問題点があってもなかなか気が付かずに進めていることが多かった.しかし,校正の段階でそれを丁寧に指摘し,修正を提案してくださる赤ペンを見ることは,何より勉強になった.そして徐々に校正原稿の赤ペンを見ることが楽しみになった.同じ雑誌に次の論文を書くときには,顔を見たこともない,声を聞いたこともない,書面でしか交流したことのない校正者を思い浮かべながら,「こう書くべきだよな」「こう書いたら大丈夫かな?」「このままでは赤ペンだな,どう表現したらよいか」と,一つ一つ文章を吟味しながら書くようになった.こうした過程を通じて文章を“意識して書く”“吟味して書く”ことが身についたように思う.
学術部報告
原著論文
  • ─SCATを用いたフォーカス・グループ・インタビューの分析を通して─
    齋藤 佑樹, 丸山 祥, 熊谷 竜太, 髙橋 慧
    原稿種別: ORIGINAL ARTICLES
    2022 年 41 巻 4 号 p. 393-401
    発行日: 2022/08/15
    公開日: 2022/08/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,作業科学の学びが,学生の作業療法に対する理解や私生活にどのような影響があるのかについて記述し,分析・考察を加えることである.作業科学を履修した1年生5名を対象にフォーカス・グループ・インタビューを実施し,SCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いて分析を行った結果,作業科学の学習経験は,作業の知識の理解だけでなく,自身を作業的存在として省みる契機となっていた.この実感を伴う作業の知識の活用経験は,クライエント中心の重要性に対する気づきを与え,父権主義的に偏った考え方の修正につながるなど,作業療法を行ううえでの大切な気づきをもたらしていた.
  • 神保 和正, 高浜 功丞, 吉村 友宏, 安森 太一, 白石 英樹, 菊地 尚久
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 4 号 p. 402-409
    発行日: 2022/08/15
    公開日: 2022/08/15
    ジャーナル フリー
    【はじめに】Capabilities of Upper Extremity Test(CUE-T)は頸髄損傷者(CSCI)に特化した上肢機能評価であり,本邦におけるCUE-Tの臨床的有用性を検証した.【対象と方法】研究1:CSCI 19名を対象とし,CUE-Tと既存の評価との相関関係を検証した.研究2:CSCI 4名のCUE-Tと既存の評価の経時的な結果を視覚化して分析した.【結果】研究1:CUE-Tと既存の評価はSpearmanの順位相関係数が0.7以上(p<.01)となった.研究2:CUE-Tは全症例で詳細な変化を検知した.【考察】本邦におけるCUE-Tの良好な妥当性と反応性が示唆された.
  • ─姿勢構造に伴う呼吸運動様式の変化─
    田代 大祐, 中原 雅美, 中川 昭夫
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 4 号 p. 410-417
    発行日: 2022/08/15
    公開日: 2022/08/15
    ジャーナル フリー
    健常若年成人男性19名を対象に,排泄姿勢である前傾座位と上肢支持手すりを用いた上肢支持前傾座位において3次元動作解析装置を用いた姿勢計測(脊柱角度,体幹角度,骨盤角度,大腿角度,臀部の高さ,円背指数)と胸壁計測(呼吸変化量),床反力計を用いた臀部荷重率,表面筋電計を用いた体幹筋活動量を計測し,姿勢を比較検討した.上肢支持前傾座位が前傾座位に比べて臀部の高さ,呼吸変化量が有意に高値を示し,上部脊柱角度,体幹角度,骨盤角度,円背指数,臀部荷重率,腹部体幹筋活動量が有意に低値を示した.上肢支持前傾座位は脊柱後彎を抑制し,上肢の支持性を向上させることで呼吸運動を良好にする姿勢であることが示唆された.
  • 髙田 善栄, 前田 眞治, 菅原 光晴, 山本 潤
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 4 号 p. 418-426
    発行日: 2022/08/15
    公開日: 2022/08/15
    ジャーナル フリー
    無視空間の特徴を知る目的で,USN患者202名のBIT線分二等分試験と線分抹消試験,文字抹消試験,星印抹消試験を上・中・下段で比較した.結果は線分二等分試験のみが特徴的な左下の無視空間を呈した.他の抹消試験は上・中・下段の左側無視に差がなく,上下方向の空間認知が可能なことを明らかにした.損傷部位の比較では前頭葉損傷群が線分二等分試験の上・下段の差でUSNを捉えられることが新たに認められた.このような特徴から空間認知要因が強い課題は上下左右の標的を近接させ,視覚探索要因が強い課題は上下方向へ誘導することが無視空間への気づきを促すと考えられ,これらを考慮すると効率的な作業療法につながると思われた.
  • 池田 晋平, 長谷川 裕司, 関本 繁樹, 王 建人, 平井 美佳, 芳賀 博
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 4 号 p. 427-435
    発行日: 2022/08/15
    公開日: 2022/08/15
    ジャーナル フリー
    COVID-19の流行下における行動制限が地域在住高齢者の主観的健康感の悪化に及ぼす影響を検討するため,神奈川県綾瀬市の高齢者を対象に2019年12月と2020年7月に追跡調査を実施した.330名のうち2時点で健康維持(A群)75.2%,健康悪化(B群)7.3%であり,A群・B群を従属変数としたロジスティック回帰分析では,主観的健康感の健康悪化(B群)に「運動器機能の低下(リスクありを維持/ありへ悪化)」,「うつ傾向(リスクありを維持/ありへ悪化)」が影響し,作業療法士が高齢者の主観的健康感の悪化を予防していくうえで,身体の活動性やメンタルヘルスを維持していくことが手掛かりになると考えられた.
  • 淺井 康紀, 下村 良充, 岩田 健太郎, 藤原 瑞穂, 大庭 潤平
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 4 号 p. 436-443
    発行日: 2022/08/15
    公開日: 2022/08/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,造血幹細胞移植患者における同種・自家移植のそれぞれの移植前から退院後の生活行為の経時的変化を明らかにすることである.方法は入院時,退院後4,12,24週のFIMとFAIを前向きに調査した.その結果,FIMは同種・自家移植ともに退院後,天井効果を認めた.FAIは同種移植では退院後4週に比べ24週でFAIが有意に高くなったが,自家移植では有意な差は認められなかった.そのため,入院中の作業療法ではIADLに着目し,病前生活や役割,環境等の情報収集,患者の状態に応じて動作指導や代償方法の検討を行い,退院後は,同種・自家移植ともに外来にてフォローアップの機会を検討する必要性が示唆された.
  • ─各リハビリテーション職種の専門性と作業療法士の役割─
    濱田 匠, 笹田 哲
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 4 号 p. 444-455
    発行日: 2022/08/15
    公開日: 2022/08/15
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児,特別支援学校,作業療法士,コンサルテーション,連携 要旨:特別支援学校での重症心身障害児の自立活動に対する,医療機関に所属するリハビリテーション職種の連携におけるコンサルテーションの特徴を明らかにするため,特別支援学校を対象に,自立活動6区分27項目で質問項目を設定し,質問紙を用いた全国調査を行った.その結果,リハビリテーション職種が職種間で連携したうえで,学校教諭と協働する意義が示された.また,各職種における主な専門性は,理学療法士は基礎的な運動機能,作業療法士は作業遂行,言語聴覚士は言語コミュニケーションであると考えられた.そして,作業療法士は理学療法士や言語聴覚士と学校教諭をつなぐコーディネーターとしての役割を担うことが期待された.
実践報告
短報
  • ─6ヵ月以上の追跡調査─
    栗田 洋平, 泉 良太, 鈴木 達也
    原稿種別: 短報
    2022 年 41 巻 4 号 p. 502-506
    発行日: 2022/08/15
    公開日: 2022/08/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的はロコモティブシンドローム(ロコモ)の者,そうでない者の作業遂行の状況が時間経過によりどのように変化をするのかを明確にすることで,作業療法士がロコモ支援に携わる意義を示すことである.25名の対象者(ロコモ群16名,非ロコモ群9名)に対し追跡調査を実施した.結果,ロコモ群でのみ,作業遂行の指標であるSOPI統制,満足,余暇活動,生産活動,総得点が初回調査に比べ追跡調査で有意に低い値を示した(p<0.05).作業療法は作業に焦点を当てる必要があるためロコモによる作業遂行の不良化は作業療法士が着目すべき課題であり,作業療法士がロコモ支援に携わることは意義があることが示唆された.
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