作業療法
Online ISSN : 2434-4419
Print ISSN : 0289-4920
40 巻, 5 号
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巻頭言
  • 坂本 安令
    原稿種別: 巻頭言
    2021 年 40 巻 5 号 p. 551
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    ここ数年,査読を担当して日本の作業療法の進化・発展を肌で感じている.欧米からの論文数には及ばないものの質の高いRandomized Control Trialsが発信されているし,臨床の緻密な観察や仮設検証に基づいたすぐれた事例研究まで学術誌には掲載されている.査読はもちろん大変な作業ではあるが,投稿者とともに日本の作業療法の発展に寄与できると考えると,身の引き締まる思いでもある.
原著論文
  • ─実態に関連する心理社会的側面からの一考─
    阿諏訪 公子, 戸ケ里 泰典, 横山 由香里, 永野 亮太, 德永 千尋
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 40 巻 5 号 p. 553-561
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,脳血管疾患患者(以下,CVD)の「発症を契機とした変化」の因子構造および,各因子と心理社会的側面との関連を明らかにすることである.調査対象はCVDが所属する患者会員とし,得られた318名の有効回答について,回答の偏りを確認後,因子分析および偏相関分析で解析した.結果,「発症を契機とした自己概念や活動指標の変化」が18項目4因子構造,「発症を契機とした家族に対する視点の変化」が8項目2因子構造であることが推定され,一部の因子と心理社会的側面との弱い相関を認めた. 作業療法士がCVDの「発症を契機とした変化」への対処能力を育て,ポジティブな変化を促すために介入する意義が示唆された.
  • ─デルファイ法を用いて─
    田村 勇樹, 會田 玉美
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 40 巻 5 号 p. 562-571
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,内容的妥当性のある作業療法士(OTR)の職業的アイデンティティ(Professional Identity;PID)尺度項目の作成とその特徴を考察することである.先行研究を基盤に25項目の原案を作成し,42名の経験豊富なOTRにデルファイ法に基づき同意度調査を行い,内容的妥当性を検討した.同時に記述式調査も行い,OTR独自の尺度項目の作成も図った.その結果,記述式調査から13項目を作成し,同意度調査で11項目が削除され,27の内容的妥当性のある尺度項目案を得た.コンセンサスが形成された項目案の傾向から,対象者の存在がOTRのPIDに大きく影響を及ぼす可能性が示唆された.今後は更なる検討を行い,尺度を完成させることが課題である.
  • ─身体障害領域急性期病棟入院中の追跡調査─
    石川 哲也, 林 純子, 友利 幸之介, 長山 洋史
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 40 巻 5 号 p. 572-580
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    急性期における協働的目標設定の可否と,可否を決定する因子について検討した.対象は急性期病棟の入院患者104名で,初回面接でADOCを用いた目標設定を行い,困難な場合は理由を尋ね,途中経過で目標が再設定できるか追跡調査を実施した.結果,目標設定が可能な割合は初回面接で40%,途中経過で31%,退院まで困難が29%であった.目標設定の可否に影響する因子は,初回面接時にFIMが98点以上だと良好でMMSEが13点以下だと不良であり,初回面接時の目標設定が困難であってもその理由が能力認識の不足や見通しの希薄の場合は,途中経過で目標設定ができる可能性があることが示唆された.
  • ─解釈学的現象学の方法を用いて─
    嶋田 隆一, 石井 良和, ボンジェ ペイター, 塩路 理恵子
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 40 巻 5 号 p. 581-590
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    治療者・患者関係,質的研究,回復期リハビリテーション 要旨:作業療法士(以下,OTR)とクライエント(以下,CL)が,治療関係構築時の経験をどう意味づけているかを理解するために解釈学的現象学による質的研究を行った.回復期病棟入院中のCLとOTR 3組に参与観察と面接を実施した.その結果,治療関係構築の意味づけとして,CLでは6つ,OTRでは5つのテーマが明らかになった.OTRとCLの間には,関係構築のための関わり,経験の共有を通したOTRとCLの関わり,関係の帰結に向けての関わりがあると示唆された.治療関係構築についてOTRは〈思いを汲み取ろうという態度〉と意味づけており,CLは〈改善の兆候の実感〉や〈いまの自分を知ってくれている存在〉と意味づけていた.
  • 杉村 彰悟, 福田 健一郎, 小鳥居 望, 室谷 健太, 小鳥居 湛
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 40 巻 5 号 p. 591-597
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    慢性の不眠を有する慢性期統合失調症圏患者を対象に運動を実施し,自覚的睡眠感の改善効果を検証した.対象は平均年齢62.3歳の女性患者9名で,夕方から運動強度約4.0 METsを20分間試みた.10週間,6回/週(計63回),1ヵ月間平均24回実施したところ,日本語版不眠重症度質問票(Japanese version of the Insomnia Severity Index;ISI-J)が改善した.また,運動を中止した1ヵ月後にはISI-Jは悪化した.この結果から,統合失調症圏障害患者の慢性化した不眠に対し,夕方の運動を継続的に実施することは自覚的睡眠感に有用であることが示唆された.
  • 佐藤 英人, 竹田 徳則
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 40 巻 5 号 p. 598-607
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    回復期リハビリテーション病棟の脳血管疾患183名・運動器疾患82名の認知症患者を対象にBPSDの調査を行った.評価にはNPI-NHを用い,総合計点ならびに下位項目得点を用いて有症率・重症度を入院時・1ヵ月後・退院時点で把握し,経過を確認した.結果,入院時に脳血管疾患44%・運動器疾患29%の割合でBPSDを認め,興奮・易刺激性・夜間行動の有症率が高かった.脳血管疾患は全体の有症率と重症度は有意に改善したが,下位項目別で退院に向け一部悪化を認め,運動器疾患では概ね有意な変化を認めなかった.回復期リハビリテーション病棟では,2疾患の経過の差異を念頭に置いた,BPSDへの作業療法立案の必要性が示唆された.
  • 小林 竜, 小林 法一
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 40 巻 5 号 p. 608-615
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    回復期リハビリテーション病棟の脳卒中患者46名を対象に「家事再開予測モデル」の外的妥当性を検証した.回復期病棟退院時に,家事再開予測モデルを用いて退院後の家事6項目(食事の用意,食事の後片付け,洗濯,掃除や整頓,力仕事,買い物)の再開状況を予測した.退院3ヵ月後にフォローアップを行い,実際の家事再開状況を調査した.家事再開予測モデルは項目ごとに判別的中率を算出し,ROC曲線のAUCにてモデルの予測能を評価した.結果,各家事項目における判別的中率は75.0~82.2%,AUCは0.71~0.86であった.本研究により,家事再開予測モデルは中等度の予測能を有していることが示された.
  • 伊賀 博紀, 澤田 辰徳, 藤田 佳男, 内野 まどか, 山崎 彩音
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 40 巻 5 号 p. 616-624
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は脳損傷者の自動車運転評価の合否判断を元にVFITのカットオフ値を算出することである.対象は運転評価を受けた65歳以下の脳損傷患者104名であった.医療記録から検査結果及び最終判断結果(運転可/不可)を抽出し,VFITの各項目に対してReceiver Operating Characteristic曲線およびArea Under the Curveを求めた.その結果,Go/no go課題検査のカットオフ値は98%であった.二重課題検査の各Stageのカットオフ値はStageⅠはカットオフ値が60.5%,StageⅡは66.5%,StageⅢは64.5%,StageⅣは54.5%であった.VFITのカットオフ値は今後の自動車運転支援の一助となる可能性が示唆された.
実践報告
  • 西村 大地, 本家 寿洋, 桜庭 聡
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 625-632
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,高齢者版・余暇活動の楽しさ評価法(以下,LAES)の結果を考慮した余暇活動の提供によって,うつ状態や生活満足度が改善するかを検討することである.今回,くも膜下出血を発症してうつ状態や生活満足度の低下および半側空間無視(以下,USN)を呈したA氏に対して,LAESの結果からA氏に特徴的な考える楽しさや人と関わる楽しさを考慮した余暇活動を実践した.その結果,うつ状態の改善や生活満足度の向上およびBIT行動性無視検査日本版の改善を認めた.したがって,LAESの結果を考慮した余暇活動の提供が,うつ状態の改善や生活満足度の向上およびUSNの改善に貢献する可能性が示唆された.
  • −症例報告−
    阿瀬 寛幸, 髙木 辰哉, 藤原 俊之
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 633-640
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    乳がん転移性胸椎腫瘍により切迫麻痺を認めた症例に対し,最小侵襲脊椎安定術前後の入院作業療法を実施した.当初,背部疼痛や神経症状に加え,家事や子育てが行えないことによる精神的・社会的苦痛を認めていた.術前安静時から生活行為の評価を行い,術後の動作指導を円滑に行うことで術後8日目に退院し,家事と子育てに復帰した.術後1年が経過し,役割を変えることなく生活を送っている.乳がんは骨転移後も放射線や化学療法の併用により長期予後が見込めることが多い.術前・術後の症状や生活行為を他職種とともに評価し,骨転移部に対する愛護的な動作指導や環境調整,社会資源の提案など退院後の生活に向けた支援が有効であったと考えられた.
  • 西村 彬, 斎藤 文彦
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 641-648
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    母子にとって道具を作成・活用することで意味のある作業が実現できた在宅作業療法の詳細を述べることを目的とする.症例は18トリソミー症候群の乳児である.身体所見では,手指の筋緊張亢進による手指間の圧痕や,寝返り動作が困難なため除圧できずに左臀部の発汗が確認された.症例の全身状態は変化しやすく,母親はかかわりに悩んでいた.そこで,母親とハンドクッションやマットなどの道具を作成して,それらの道具を活用することで抱っこや徒手療法を行い母子間のかかわりを促した.結果,症例の圧痕や発汗は確認されなくなり,母親は症例を安心して抱けた.道具を作成・活用する意味のある作業の実現により,母子のアタッチメントを促進した.
  • ─ケースシリーズ─
    稲田 雅也, 山岸 誠, 水落 和也, 中村 健
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 649-657
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    今回,段階的曝露療法を用いたプログラムの有効性を探索する目的で,上肢の複合性局所疼痛症候群(CRPS)TypeⅠ 8例を対象に実践を行った.CRPS状態(CRPSスコア),痛みの認知(PCS),心理(HADS),ADL(PDAS),上肢機能(HAND 20,STEF,握力,側副つまみ)の評価結果やプログラム内容を実施前後で調査した.結果,実施前後でCRPS状態,ADL,上肢機能に有意な改善を認めた.以上のことから,上肢のCRPS TypeⅠに対する認知行動学的プログラムを含む作業療法プログラムの有効性が示唆された.今後は本実践の効果の検証が必要である.
  • 髙木 初代, 篠原 和也, 鹿田 将隆, 野藤 弘幸
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 658-664
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    上腕骨頸部骨折と心不全により入院していた中途失聴の高齢女性に対し,機能改善を目的とした介入を約3ヵ月間行った.日常生活活動は向上したが,何事にも「自信がない」と語り,自己効力感は低下していた.そこで,人間作業モデルによるリーズニングにより,友人とのメールによる交流の再開に着目し,携帯電話のメール送受信が可能となるよう段階的に支援した.その結果,女性はメールの送受信が自立し,友人との関わりを再開させた.価値をおく友人との交流が再開したことで,自己効力感が高まり,生活範囲や対人交流も広がった.本事例から,高齢者における友人との関わりの重要性とコミュニケーション手段としてのメールの意義が示された.
  • 中島 裕也, 酒井 涼, 杉本 志保理, 小林 康孝
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 665-673
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害復職支援事例を通して,医療機関から就労支援機関へのシームレスな連携における作業療法介入を再考し,職務選定に係る整理票(以下,整理票)を用いた職場支援の効果について検討した.支援では,休職・所得保障期間を把握し,職業準備性を高めつつ就労支援機関と連携を図った.また整理票を用いて復職時の職務内容を再設計し,配置転換での復職に至った.シームレスな連携には,復職に関する情報,職業準備性の状態,就労支援機関の機能など総合的な視点を持ち,復職プランを見立てる作業療法介入が必要と考えられた.また,整理票を用いて職務内容を再設計することが職場支援への一助になることが示唆された.
  • 三宮 孝太, 本家 寿洋
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 674-682
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    本報告の目的は,高齢者版・余暇活動の楽しさ評価法(以下,LAES)の実施によって悲嘆感情が変化した要因と,運動の動機づけが向上した要因を検討し,心不全患者に対する作業療法の臨床上の提案をすることである.悲嘆感情が変化した要因は,LAESによって夫との楽しかった思い出のみが活性化し,運動の動機づけの向上は,楽しさを得た花壇管理の内発的動機づけによって自然に身体を動かし,歩行の重要性を認識したからである.よって心不全の作業療法の提案として,心理的問題のある心不全の対象者には,LAESの実施で余暇活動の内発的動機づけを開始し,LAESの楽しさの特徴を活かした余暇活動によって運動の動機づけを向上させることである.
  • ─身体垂直性の再学習に着目したアプローチと長期経過─
    本間 莉那, 大瀧 亮二, 笹原 寛, 斎藤 佑規, 竹村 直
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 683-690
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    Pusher現象を呈する脳卒中患者のうち約80%は,発症約3ヵ月でPusher現象が消失すると報告されている.Pusher現象が長引く場合,リハビリテーションの効果は低く,ADLの回復に影響を与え,結果入院期間が長期化するとされている.今回,脳卒中発症後3ヵ月以降もPusher現象が残存し,ADLに全介助を要した症例に対して,Pusher現象の発生機序とされている主観的身体垂直(SPV)の再学習を目的に長期的な作業療法を実施した.結果,Pusher現象が軽減し,ADLの自立度が向上した.Pusher現象の発生機序や病態を理解したうえでの,段階的で長期的な作業療法は有効である可能性が示唆された.
  • 後藤 紀史, 寺岡 睦
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 691-698
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    作業に根ざした実践2.0(Occupation-Based Practice 2.0)は,クライエントの作業機能障害の改善と,クライエントを取り巻く環境で生じる信念対立に対処していく方法である.本報告では,回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中後遺症を呈したクライエントに対して,OBP 2.0を用いた評価と介入を実施し,回復期リハビリテーション病棟におけるOBP 2.0の臨床有用性を検討した.その結果,関係者間での信念対立を低減しつつ,作業機能障害を改善しクライエントとの共通目的を達成することができた.OBP 2.0は多職種連携を中核概念に据える回復期リハビリテーション病棟において,有用である可能性が示唆された.
  • 森川 芳彦, 西田 智子
    原稿種別: 実践報告
    2021 年 40 巻 5 号 p. 699-706
    発行日: 2021/10/15
    公開日: 2021/10/15
    ジャーナル フリー
    今回,我々は漢字書字困難児に対して漢字を繰り返し書く練習と感覚統合療法(以下,SIT)後の漢字練習との効果を比較検討し,SITの漢字書字に対する効果を検討した.シングルケース実験法を基にABAB法を用いて漢字書字練習を行った.A期は通常の繰り返しによる漢字練習,B期はSIT介入後に漢字練習を行った.漢字書字の効果判定は漢字テストの正答率と形態的類似度を指標とした.漢字テストではA・B期ともに正答率に差を認めなかった.形態的類似度ではA期の平均値と比べてB期は改善を認めた.SIT後の漢字練習は漢字の形態が改善する効果を認めた.今後,症例数を増やし,各訓練期の回数を増やすなど一般化を試みたい.
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