昨今,医療・介護領域でエビデンスに注目が集まっている.エビデンスとは証拠であり,正確な医療・介護を実施するためのフレームである.エビデンスに基づいたアプローチ(Evidence based practice)を行う際には,なくてはならないものである.しかしながら,リハビリテーション領域,特に作業療法の領域では,これらエビデンスの構築が遅れていると,団体内外から声が上がっているのが現状である.本稿では,その中でも比較的エビデンスが豊富な領域である作業療法における脳卒中後の上肢麻痺に関わるエビデンス構築の推移を,事例報告からランダム化比較試験まで記載した.
本研究の目的は,家族介護者の従事する「介護」という作業の構成概念を生成することである.要介護者と在宅介護生活を1年以上経験している家族介護者16名を対象に非構造化面接を実施し,SCAT(Step for Cording and Theorization)を用いて分析した.その結果,構成概念は102の意味コードが生成され,家族介護者の想い,介護する生活,介護と環境の3つの大カテゴリーが得られた.作業療法士は家族介護者の作業適応への支援として,これらの視点で検討する必要性が示唆された.
地域リハビリテーションでは高齢者の役割支援が課題とされるが,役割の促進要因や健康関連Quality of life(以下,HRQOL)への影響を明らかにした報告はきわめて少ない.本研究の目的は役割チェックリスト3の日本語暫定版を用い,要支援・要介護高齢者の役割遂行,環境要因,身体機能がHRQOLへ与える影響を包括的に明らかにすることである.作成した仮説モデルを構造方程式モデリングにて分析した結果,環境要因からHRQOLへの直接効果と役割遂行を介した間接効果があった.一方,身体機能からHRQOLへの影響はなかった.要支援・要介護高齢者においては環境を包括的に支援し,役割遂行を十分に促すことでHRQOLの向上につながることが示された.
回復期リハビリテーション病棟に入院する重度認知症者に対し,人間作業モデルに基づく介入がもたらした変化と要因を提案する.Mini-Mental State Examination,認知症行動障害尺度短縮版,機能的自立度評価法,人間作業モデルスクリーニングツールを,入棟1週目,介入2ヵ月後,それ以降1ヵ月毎に測定した.自宅退院に必要な日常生活活動への介入と,興味や役割の情報と人間作業モデルスクリーニングツールの結果から計画したちぎり絵やキャッチボールといった介入を約4ヵ月間実施した結果,各評価法の評定は入棟1週目よりも全て改善した.従って,人間作業モデルに基づく介入は,対象者の認知機能と行動・心理症状の良好な変化を導いたと考えられた.
レビー小体型認知症の発症により,作業ができなくなり自分らしさを獲得できなくなったクライエントに対し,Person-Environment-Occupation Model of occupational performance(PEOモデル)を用い介入した.クライエントと作業療法士は作業ニーズを特定し,作業歴を紐解き作業分析を行い,人-環境-作業の適合を見極めるため,それぞれを個別に評価した上で作業遂行場面を観察したところ,作業形態と意味が満たされた.クライエントを主語に作業を基盤とした介入を実施した結果,人-環境-作業が最大限に適合し,クライエントは日記に「自分が生まれた感じがした」と表現する作業的存在を確認できた.さらに作業の力は,傾眠回数の減少にも寄与した.