作業療法
Online ISSN : 2434-4419
Print ISSN : 0289-4920
42 巻, 2 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
巻頭言
  • 四本 かやの
    2023 年 42 巻 2 号 p. 127
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    第二次世界大戦の反省により成立した国際連合という枠組みのなかで国際秩序は維持されてきた.民主制と独裁制,資本主義と社会主義,政治的・経済的システムの違いはあれ,平和の希求という目的のもと,いくつかの危機に際し大国は踏み止まってきた.しかし,今やそれは完全に機能不全に陥っている.現在生じている事態は,大国同士の代理戦争という意味では世界大戦といえるかもしれない.戦禍に怯え,命を落とすのは無辜の人,こどもや若者,社会的な弱者であり,指導者たちではない.私たちは戦禍情報を見聞きして,憤り,心を痛め,悲しむ.武力攻撃を始めたほうが悪いと単純に思うが,歴史的俯瞰でとらえると異なる立場もあるという.自身の立ち位置や時空間的視野によっても正義Justiceは変わりうる.互いのJusticeをぶつけ合うだけでは解決の道は開けない.その根拠を丁寧に説明し,話し合うことしか解決の道はないように思う.

第56回日本作業療法学会基調講演
  • ─作業的公正の視点─
    武田 裕子
    2023 年 42 巻 2 号 p. 129-134
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    “人々が生まれ育ち,生活し,働き,そして歳をとるという営みが行われる社会の状況”が健康格差を生じるとき,WHOはそれを「健康の社会的決定要因(Social determinants of health;以下,SDH)」と定義した.舗装されていない道路や段差などの物理的環境にとどまらず,雇用や収入,社会保障制度,さらには自立を阻害する差別や偏見といった社会状況は,困難を抱える人たちにこそ大きく影響する.SDHは社会的公正(social justice)に基づく取り組みと位置付けられているが,この公正の考え方をいちはやく明示した医療職は作業療法士である.“作業を利用し,環境に働きかける”行いは,作業の権利を保障するものであり作業的公正の実現に他ならない.

原著論文
  • 勝山 このみ, 髙島 千敬, 奥 結季恵, 阿部 和夫
    2023 年 42 巻 2 号 p. 135-140
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,パーキンソン病患者の認知機能・前頭葉機能が転倒に及ぼす影響を明らかにすることである.対象は当院で入院加療したPD患者81例,Hoehn&Yahr重症度分類Stage2~4の患者であった.転倒回数により3群に分類し,MMSEおよびFABの総点数との関係について多重ロジスティック回帰分析を用いて解析した.また,Yahr分類とMMSEおよびFAB総点との関係は,Spearmanの順位相関係数を用いて分析した.非転倒群と複数回転倒群のMMSEおよびFABの総点数との間に有意な相関を認め,FABの総点数は,転倒予測因子として抽出され,前頭葉機能低下が転倒と相関していることが示唆された.

  • ─ケースコントロール研究─
    生田 純一, 外川 佑, 那須 識徳, 川間 健之介
    2023 年 42 巻 2 号 p. 141-150
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    脳血管障害者の自動車運転評価において,簡易型ドライビングシミュレーター(以下,DS)における運転パフォーマンス特性が運転適性に関連する因子となりうるかどうかを検討することを目的に,実車評価を実施した脳血管障害者149名を後方視的に調査した.DS評価項目について主成分分析を実施し,5つの主成分に次元圧縮を行った.運転適性との関連については,従属変数を運転適性,独立変数をDS評価の主成分得点,共変量を年齢,SIAS上肢,FIM運動項目,MMSE,KDBT,SDMT,ROCF模写とした多重ロジスティック回帰分析を行った.結果,運転適性に関連して,配分性注意と車線走行能力,左右の注意配分といった3つのDS評価特性が示された.

  • 宍戸 聖弥, 篠川 裕子, 富士 しおり, 高田 哲
    2023 年 42 巻 2 号 p. 151-159
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症のある児(Autism Spectrum Disorder;以下,ASD児)の作業遂行技能および適応行動水準と知的能力を同時期に測定し,これらの特徴や関連について調査することで,評価の有用性について検討した.結果,ASD児の作業遂行技能や適応行動水準は,定型発達児と比較して-1~-2SD以下の児が多く,各評価に基づいた支援の必要性が示された.作業遂行技能は〈身辺自立〉や〈家事〉の適応行動水準との関連が示唆されたが,知的能力との関連は限定的であり,今後より調査が必要であった.対象児や保護者のニーズに焦点を当てられるAMPSやVineland-Ⅱ適応行動尺度の有用性が示唆された.

  • 山口 卓巳, 沖 侑大郎, 沖 由香里, 大平 峰子, 石川 朗
    2023 年 42 巻 2 号 p. 160-167
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,AMPSを用い在宅COPD患者の動作特性を明らかにすることと,COPD特有の重要なアウトカムとの関連性を明らかにすることである.対象は,在宅酸素療法未導入かつ自宅でAMPSが測定できた13例とした.呼吸機能検査,mMRC息切れスケール,CAT,NRADL,PFSDQ-m,AMPSを測定し,AMPSと各項目測定値との相関を検討した.結果,AMPSの運動技能・プロセス技能ともにCAT,NRADL,PFSDQ-mと相関を認めた.またAMPS運動技能は呼吸機能,mMRC息切れスケールとも相関を認めた.AMPSは既存の疾患特異的ADL尺度と相関を認めたことから,COPD患者のADL能力を反映することが示唆された.

  • ─前向きコホート研究─
    栗田 洋平, 泉 良太, 鈴木 達也
    2023 年 42 巻 2 号 p. 168-175
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,緊急事態宣言下における地域在住高齢者の作業参加を前後比較し,緊急事態宣言が地域在住高齢者の作業参加に及ぼす影響を明らかにすることである.65歳以上の地域在住高齢者に対し広報を実施し対象者を募集し,測定時期によって2群(コロナ前測定群:11名,コロナ期測定群:14名)に群分けした.各群でロコモ25,自記式作業遂行指標(SOPI)を前後比較した結果,コロナ期測定群の追跡調査は,SOPI統制,バランス,満足,余暇活動,生産活動,総得点において,初回調査に比べ有意に低い値を示した(p<0.05).本研究により,緊急事態宣言が地域在住高齢者の作業参加に及ぼす影響が明らかとなった.

  • 芝崎 律子, 川間 健之介
    2023 年 42 巻 2 号 p. 176-184
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    近年,特別支援学校ではリハビリテーション専門職の活用が活発化しているが,その活用は各自治体によって異なっている.全国的には外部専門家の活用が一般的ではあるが,特別支援学校で常勤職員として働くOTも少数ながら存在しており,勤務形態や業務内容も異なっていると思われる.本研究では,特別支援学校で働くOTの実態を明らかにすることを目的に,34名の特別支援学校に関わるOTにインタビュー調査を実施した.外部専門家はそれぞれの専門性を活かしてOTとしての業務を中心に行っていたが,常勤で働くOTは,教員としての業務も担いながらOTとしての役割も果たしていることが明らかとなった.

  • 赤堀 将孝, 石浦 佑一, 亀山 一義, 梅田 顕, 山本 順也
    2023 年 42 巻 2 号 p. 185-191
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は動作観察場面での作業療法士(以下,OTR)と作業療法学生(以下,OTS)の動作観察視点の相違と助言による変化を明らかにすることである.方法は視線分析装置を装着し,片麻痺者の食事動作の動画を視聴した.その際に OTR 5名と OTS 28名(助言ありOTS群13名,助言なしOTS群15名)の視線データを取得し,5領域に分け比較検討した.結果,助言の有無にかかわらずOTRとOTSの視線停留割合は類似し,言語指示による観察視点を示すことで,特定の領域をより注視した.しかし,臨床推論を用いた指示ではOTSの視線に有意な変化は少なく,OTSの理解に合った助言量と内容の調節により,後の観察へとつながると考えられる.

  • 松田 直人, 熊野 宏治, 進藤 篤史, 小林 香保里, 小石 恭士
    2023 年 42 巻 2 号 p. 192-198
    発行日: 2023/04/15
    公開日: 2023/04/15
    ジャーナル フリー

    本研究は,緩和ケア病棟入院患者の転倒時の最も高いレベルの動作の傾向と転倒に至る行動の動機を検証し,患者の安全と尊厳のバランスを考える一助とすることを目的とした.対象は緩和ケア病棟に入院した患者392名であった.非転倒群と転倒群の動作能力をJohns Hopkins Highest Level of Mobility Scaleで評価した.転倒群における転倒時の最も高いレベルの動作は移乗可能レベルであった.転倒に至る行動は排泄が最も多かった.医療者と患者が,早晩訪れる活動範囲の狭小化やADLの低下を見据えた話し合いの機会を設けることで,患者の自律した療養生活を支えることができると考えられた.

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