作業療法
Online ISSN : 2434-4419
Print ISSN : 0289-4920
41 巻, 2 号
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巻頭言
  • 川又 寛徳
    原稿種別: 巻頭言
    2022 年 41 巻 2 号 p. 143
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    この原稿を書きはじめたのは2021年の10月であるが,毎年10月といえばノーベル賞各賞が発表される季節である.私も大学に身を置く研究者の端くれとして,毎年ノーベル賞の行方に興味をもっており,特に近年,ノーベル経済学賞に注目している.作業療法にとっては経済学賞よりもむしろ医学・生理学賞の方が関係深そうなものであるが,それはさておき,例えば2002年はダニエル・カーネマン氏,2017年はリチャード・セイラー氏らによる行動経済学関連の研究に贈られている.その行動経済学において,「人は必ずしも合理的に行動するわけではない」ことを前提に,対象となる人々の選択に余地を残しながら行動変容を促すナッジ理論は,作業療法の臨床全般に役立つ理論であるので,興味がある方は成書にあたっていただきたい.
第55回日本作業療法学会基調講演
  • 平山 和美
    原稿種別: 第55回日本作業療法学会基調講演
    2022 年 41 巻 2 号 p. 145-153
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害のうち麻痺や感覚障害によらずに特定の行為ができなくなる症状を取り上げ,解剖学的背景,脳画像での関連脳部位の見つけ方,症状の特徴および特徴に基づいたリハビリテーションアプローチの考え方について解説した.症状を上頭頂小葉+頭頂間溝の損傷によるものと下頭頂小葉の損傷によるものとに分けると,前者に対しては症状が生じない側の手や視野で行うこと,行為をなるべく意識化することや,生じた誤りを意識的に修正することが役立つ場合が多い.後者に対しては,行為の各過程のどの側面が障害されているのかをとらえること,行為の通常の方法にとらわれずまったく新しい方法を見つけることが有効な場合がある.
  • 鈴鴨 よしみ
    原稿種別: 第55回日本作業療法学会基調講演
    2022 年 41 巻 2 号 p. 154-159
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    作業療法において,作業とは人の日常生活に関わる全ての諸活動と定義されており,作業療法は“生活の質”そのものを扱っているといえる.QOLは対象者自身が報告する身体的・心理的・社会的な生活の質であり,計量心理学的な特性(妥当性,信頼性,反応性など)を備えた尺度(調査票)によって,定量化することができる.多くの尺度が作成されており,それぞれに特徴があるので,自分の目的にあった尺度を選択することが必要である.QOL評価は,患者の理解を深めたり介入の効果を評価したりするのに有用であり,作業療法分野において重要な指標となりうる.
第55回日本作業療法学会教育講演
  • 簗瀬 誠
    原稿種別: 第55回日本作業療法学会教育講演
    2022 年 41 巻 2 号 p. 160-165
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    作業療法によって患者の主体的で多様な生き方を追求していく能力を引き出すには,対象である患者の適切な理解が必要である.しかし,同じ統合失調症の診断を受けた患者でもその在り方はさまざまであり,患者の抱える問題はバラエティに富んでいる.バラエティに富んだ問題を抱える患者を介入対象とするには,全体的に把握するホリスティック(全人的)な理解とアプローチが必要である.本論では,「精神症状および認知機能障害」「これまでの生活で形成された心理的傾向」「現在の状況に対する心理的反応」「生活技能の未習得あるいは喪失」「知識・情報の不足」「環境の未整備」の6つの観点から理解し,アプローチすることの有用性を述べた.
  • ─「想い」「役割」「先入観」に焦点を当てて─
    竹原 敦
    原稿種別: 第55回日本作業療法学会教育講演
    2022 年 41 巻 2 号 p. 166-170
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    認知症の人が社会参加をするための作業療法について,想い,役割,先入観という視点から考察した.認知症の人の言動に内在する本人の想いを受け止めること,役割獲得モデルによって段階に応じた役割獲得を支援すること,認知症の人に対する先入観,レッテル,スティグマ,偏見を払拭し,認知症の人の多様な可能性を示すことによって,多くの認知症の人が希望を持って社会参加することが可能になると思われる.作業療法士は,認知症の人を受け入れる社会の素地を創ること,すなわち,認知症の人が安心して生活できる社会に変えることが必要だと考えている.
総説
  • 白戸 力弥, 山中 佑香, 長南 行浩
    原稿種別: 総説
    2022 年 41 巻 2 号 p. 171-178
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    文献レビューにより,上肢外固定が自動車運転能力へ与える影響を整理した.8つのデータベースとハンドサーチから文献を抽出し,7論文を採用した.6編が健常者を対象とし,1編で対象の明確な記載がなかった.外固定の内訳延数は,前腕キャストが5編,前腕スプリントが2編,サムスパイカキャストが2編,Bennettキャストが2編,スリングが1編,肘上キャストが1編,肘上サムスパイカスプリントが1編,サムスパイカスプリントが1編であった.これらすべての外固定時に何らかの運転能力の低下が生じ,肘関節を含む上腕からの固定や母指を含む固定時に著しい運転能力の低下を認めた.今後は患者を対象とした研究が必要である.
原著論文
  • ─後ろ向きケースコントロール研究─
    今岡 泰憲, 廣瀬 桃子, 岩田 悠暉, 天白 陽介, 畑地 治
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 2 号 p. 179-187
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,リハビリテーションアウトカム(ADLと身体機能評価)により肺炎患者をクラスタリングし,患者背景と経過について検討することである.対象は,急性期病院に肺炎で入院した患者158名(中央値で85歳)である.方法は,階層クラスター分析を実施し,初期と退院前の前後比較を行った.結果,ADLと身体機能が中等度あるいはそれ以上の患者の多くはリハビリテーションアウトカムが改善するが,身体機能の低下を示す患者も一定数存在した.ADLと身体機能が低い肺炎患者は,終末期の患者とリハビリテーションアウトカムの改善が期待できる患者が混在していることがわかった.
  • ─尺度を活用した新人教育における学習者と教育者の経験の分析─
    丸山 祥, 宮本 礼子, ボンジェ ペイター
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 2 号 p. 188-196
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    本研究は新人作業療法士のクリニカルリーズニング学習と教育の経験を分析し,作業療法のクリニカルリーズニング評価尺度(以下,A-CROT)の有用性を検討することを目的とした.新人作業療法士と経験のある作業療法士8組16名を対象に,個別的面接と再帰的テーマ分析を実施した.結果,A-CROT使用が言語・非言語のコミュニケーションによる共同の学習と,4つの思考プロセスの学習の継続に役立ったことから,A-CROT使用の教育効果と触媒効果を確認した.一方,A-CROT使用の実用的課題として,評価方法と評価結果を活用する難しさが挙げられた.今後,A-CROTの手引書や効果的な学習・教育方法の検討が必要である.
  • 丸山 祥, 宮本 礼子, ボンジェ ペイター
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 2 号 p. 197-205
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    今回,作業療法のクリニカルリーズニングの自己評価尺度(Self Assessment scale of Clinical Reasoning in Occupational Therapy;以下,SA-CROT)の妥当性と信頼性を検討した.作業療法学生135名と作業療法士138名を対象にRaschモデル分析,確認的因子分析,仮説検証,信頼性を検討した.結果,SA-CROTの14項目と5つの評定段階がRaschモデルに適合し,確認的因子分析で4因子モデルが適合した.また,仮説検証で予測した結果が得られ,尺度の妥当性が確認された.再検査信頼性と内的一貫性で基準値を満たし,尺度の信頼性が確認された.
  • 林 浩之, 窪 優太, 林 尊弘, 越智 亮, 野口 泰司, 冨山 直輝
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 2 号 p. 206-213
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,地域在住高齢男性と女性における新規要介護認定発生と健康関連状態との関連性を明らかにすることであった.対象者は5,900名の地域在住高齢者であり,2017年の健康関連状態(運動器機能,口腔機能,栄養,社会参加・支援,抑うつ状態,認知機能,健康管理,主観的健康状態)に関する質問紙調査結果と2年間の要介護認定情報を結合し,新規要介護認定発生リスクとなる健康関連状態について男性と女性それぞれで分析した.男性では,運動器機能と主観的健康観の低さ,女性では運動器機能と主観的健康観の低さ,認知機能の低さが新規要介護認定発生と関連した.地域での作業療法実践では性差を考慮した展開も必要である.
  • 西 聡太, 當利 賢一, 大久保 智明, 野尻 晋一, 山永 裕明
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 2 号 p. 214-225
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,通所リハビリテーションを利用する要介護者を対象に自己効力感に影響を与える因子を調査した.対象者を要介護1から2(軽度群),要介護3から5(中重度群)に分けた.各群のGSESの得点を従属変数,FAI,運動FIM,認知FIMを独立変数として重回帰分析にて統計解析を行った.さらに,得られた因子の下位項目を数量化Ⅰ類にて順位付けを行った.軽度群ではFAIが選択され,「勤労」,「力仕事」,「趣味」の順番に影響を与えていた.中重度群では運動FIMが選択され,「食事」,「トイレ動作」,「排泄」の順番に影響を与えていた.GSESに影響を与える因子は介護度によって異なり,介入する視点を考慮する必要性が示唆された.
  • ─複線径路等至性アプローチ(TEA)による分析の試み─
    齋藤 佑樹, 友利 幸之介, 澤田 辰徳, 大野 勘太
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 41 巻 2 号 p. 226-238
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,訪問リハビリテーションに従事し,対象者の活動・参加レベルの目標達成を支援している作業療法士が,臨床プロセスにおいてどのような経験や臨床判断を行っているのかを明らかにすることである.4名の作業療法士にインタビューを実施し,複線径路等至性アプローチ(TEA)にて分析を行ったところ,4名は介入初期において,①クライエントが作業の視点で生活を顧みることができるよう働きかけを行っていた.また目標設定の際は,②面接評価の時間を設け,クライエントと協働的に課題を焦点化するプロセスを重視しており,目標設定後は,訪問リハの利点・欠点を踏まえ,③柔軟に介入内容の選択を行っていた.
実践報告
  • ─症例報告:小集団活動の介入可能性に関する一考察─
    舞田 大輔, 竹内 直子, 本山 実果
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 41 巻 2 号 p. 239-246
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    脳卒中後アパシー(Post-Stroke Apathy:PSA)を中心に複数の精神症状を認めた70代女性を担当した.症例は,情動感情処理障害や認知処理障害が顕著だったが,興味関心チェックリストより,〈カラオケ〉や〈親族とのおしゃべり〉に関心を抱いていることが伺えた.そこで,他者交流を介した自己効力感の向上や,自他への興味関心を引き出すことを目的に小集団活動を試みたところ,導入中は一部症状の改善が認められた.また,本人にとって「意味のある作業」を取り込めれば,集団から得られる作用を高められる可能性も示唆された.ただし,1症例による検討のため,今後は症例数を増やし科学的に証明することが必要である.
  • 宝田 光, 外﨑 達也, 安彦 かがり, 大堀 具視
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 41 巻 2 号 p. 247-253
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    Management Tool for Daily Life Performance(以下,MTDLP)は,重要な生活行為に焦点を当てた介入のプロセスをマネジメントするためのツールである.本報告では,利き手に軽度の運動麻痺を呈した回復期の脳卒中患者に対し,MTDLPの過程で,Constraint-Induced Movement Therapyに準じたプログラムを実践した.早期から活動・参加の改善に向けた社会適応プログラムを実践した結果,箸操作や書字・仕事復帰に関連した上肢操作が可能となった.合意目標に基づき設定した麻痺手の日常生活での使用は活動・参加を拡大させる可能性があることが示唆された.
  • ─事例報告─
    萬 貴裕, 野口 卓也
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 41 巻 2 号 p. 254-260
    発行日: 2022/04/15
    公開日: 2022/04/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,長期入院中の統合失調症者を対象にポジティブ作業評価(Assessment of Positive Occupation 15:APO-15)を精神科作業療法の介入に用いた内容を後方視的に報告し,その有用性を検討することであった.方法はAPO-15で評価を行い,その結果から判断された対象者の強みを基に幸福を高める作業への参加が習慣化できるよう支援した.その結果,クライエントは作業療法への参加が積極的となり,病棟内生活でも他者交流が増えるなどの幸福の促進に寄与した.APO-15は長期入院統合失調症患者の幸福の促進に貢献できるスクリーニングツールとしての有用性が示唆された.
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