本研究は、自発的なまちづくり活動の担い手の動機・展開過程に見出される担い手同士の関係を明らかにすることを目的に、茨城県古河を対象に調査を行った。結果、関係を6つの要素に分類し具体化を図ることができた。影響の度合いや役割・態様は、担い手ごとに差があるだけでなく、活動時期によっても変化している。さらに、必ずしもはっきりした意志に基づくわけではない、当事者たちにとっても即座には認識しづらい担い手同士の間接的な関係が、担い手の活動の動機・展開過程に影響を及ぼすことが明らかとなった。これは、既存のキーパーソン論が、顕在化した働きや意志を持った役割について述べていることとは違い、本研究の新たな知見である。
本研究は東日本大震災の被災地における災害危険区域内の復興過程の実態を明らかにするものである。災害危険区域に指定されつつも重要な地域として復興を進めている南三陸町、大船渡市を対象に、主にヒアリング調査と文献調査から区域内の復興にあたり発生した問題と各自治体がとった対応を変遷として整理し、分析した。結果として、被災直後においては移転要望、現地再建の要望等が問題として発生しており、危険区域の指定内容の工夫、独自の補助事業の導入等により対応していた。その後の復興過程では、未利用地の発生と維持管理コストの発生等が問題として生じており、これに対しては復興事業の導入や土地利活用者募集等の取り組みが一定の効果を持っていた。特に津波復興拠点整備事業での土地の買取、土地区画整理事業での土地の集約換地、まちなか再生計画策定による補助金を活用した商業再建等の取り組みを連携させることにより、復興が進められていた。
本研究では,まず,熊本市中心市街地の時間貸し駐車場の配置,容量,料金を調査し,空間的な特徴を明らかにする.次に,利用実態調査データを用いた駐車場選択行動モデルを推定し,選択に影響を与える要因を明らかにする.さらに,駐車場選択行動モデルを内生化した駐車シミュレーションモデルを構築し,駐車需要を予測しながら駐車場の利用者と事業者それぞれの目的を最適化するような駐車場配置/容量の最適設計モデルを提案する.その上で,熊本市中心市街地を対象にして,いくつかの配置と駐車料金パターンのもとでシミュレーションを行って配置/容量を試算し,解の特性を考察する.最終的に,都心部における駐車場の適正配置と容量設定のための有用なツールになりうるかについて評価する.
空き家増加が進む中で、その利活用によるコミュニティ再生が必要とされている。一方で、コミュニティ希薄化や崩壊の裏には、ソーシャル・キャピタル(SC)の減少が深く関わり、豊かなコミュニティ形成にはSCの醸成が重要とされる。空き家の利活用によるコミュニティ再生につなげるためには、その利活用がSC形成に与える影響を明らかにする必要があると考え、本研究では①影響を与える要素は何か、②どのようにSC形成に影響するのかに着目した。アンケート結果から、空き家のリノベーション過程で、建物の維持管理の仕方やその大変さ、引き継ぐことの責任の重大さを学ぶことがSC形成に影響する可能性が示唆された。また、設計者や所有者、仲介人とのやりとりがSC形成に影響を与える可能性が確認され、インタビューの結果、これらが規範の伝達や信頼の伝播につながることがわかった。特に、建物をリノベーションして利活用することは、SC形成において「①規範伝達の媒介②規範の体現③意思表明④共通接点の提供」の役割を果たすことが考察された。
本研究は東京都の業務地域における現状の駐車施設に関連する制度や、複数の地区で適用されている地域ルールを把握する。さらに、地域ルールが適用されている地区における駐車施設の利用実態について、地方公共団体から得た情報、現地調査にもとづく駐車施設の運用実態、駐車施設の運営会社への聞き取りにより、総合的に調査・分析を行う。その結果、地域ルールを運用するうえで生じている、「駐車施設の供給が過剰」な状態という課題に着目して、今後の地域ルール策定において3点の考慮事項を明らかにしている。特に隔地駐車の受け入れに関する今後の方向性を示唆している。
高齢化と人口減少が急速に進む地方都市においては,コンパクト・プラス・ネットワークの考え方に基づき,施設と公共交通網の両者の維持を可能とする集約方針が求められる.その際,需要の弾力性を考慮しながら,アクセス時間の差異を打ち消すような施設利用料金や交通運賃を設定して需要を適切にコントロールすることが,さらなる効率性の確保につながる可能性がある.そこで本研究では施設アクセス交通と一般交通という2種類の需要を考慮し,施設配置・公共交通ネットワーク・運賃の同時最適化モデルを開発した.そして仮想ネットワークでの計算例を通じて,施設運営効率化の施策に起因する施設利用便益と一般交通の便益の相互関係,および便益の波及メカニズムの多様性を確認した.
これからの持続可能な都市を実現するためのひとつの具体的な形として,コンパクトシティが挙げられるようになって久しい.これまで,コンパクトシティの効果に関する研究は多数蓄積されており,環境面,経済面,社会面といった様々な視点からの効果検証がなされている.本研究では,コンパクトシティの効果に関する日本国内の既存研究を網羅的に整理するとともに,研究内容の変遷及び政策の効果等を分野ごとに整理した.また,コンパクトシティ政策の実施にあたり起こり得る問題も整理し,配慮すべき事項を提示した.
経路ボロノイの面積や経路ボロノイ内の人口の状況の変化が、買い物施設の存続・撤退に大きく影響しているのではないかと考え、2000年に存在している「スーパーマーケット」「コンビニエンスストア」「ホームセンター」「ガソリンスタンド」を対象に、2010年及び2020年時点における存続ダミー、各買い物施設の経路ボロノイ、経路ボロノイ内の「人口」「15歳未満人口の割合」「生産年齢人口の割合」「高齢化率」「人口密度」「自営業者の割合」を業種別に集計した。その上で、2020年時点における存続ダミーを被説明変数に、各買い物施設の経路ボロノイの面積変化及び「人口」「15歳未満人口の割合」「生産年齢人口の割合」「高齢化率」「人口密度」「自営業者の割合」の変化を説明変数にして業種ごとに多項ロジスティック回帰分析を行った。その結果、4業種とも高精度な将来存続確率予測モデルを推定することができた。
本研究の目的は、料理屋、待合茶屋、芸妓所在の分布から、江戸期から昭和初期までの名古屋における花街の空間的変遷を明らかにすることであり、以下のような結論を得た。(1)江戸後期には、魚之棚界隈、広小路界隈、大須界隈に芸妓が所在し、魚之棚界隈が料理屋街となった。熱田界隈にも芸妓が所在していた。(2)明治初頭には、江戸後期の状況が引き継がれつつ、芸妓置屋の組合である連が設立された。(3)明治期には、近世からの市街地の東西縁辺部や、これに接続する場所でも連が設立され、新たな花街空間が出現した(巾下界隈、舎人界隈、大曽根界隈)。(4)大正・昭和初期には、芸妓置屋の立地規制がおこなわれたが限定的で、拡大した市街地においても連が設立され、新たな花街空間が出現した(金山界隈、東古渡界隈、西古渡界隈)。さらに、市街地から離れた郊外でも、路面電車の敷設を伴う土地開発に合わせ、新たな花街空間が出現した(中村遊廓界隈、名古屋港界隈)。郊外の行楽地や別荘地での料理屋開業も同様のものであった(覚王山周辺、八事周辺)。
本研究の目的は、地方都市における市街地形状の特徴を明らかにするとともに,人口密度や市街地形状といった人口の空間配置に関わる指標が公共交通サービス水準に与える影響を明らかにすることである.分析の結果、以下の三点が明らかとなった。第一に、市街地形状は、人口密度とは異なり、地理的制約や市街地連坦によって歪曲化する。第二に、人口密度と市街地形状歪度は、サービス効率性を測る指標であり、公共交通サービス水準を規定している。第三に、平均路線重複数は、人口の空間配置に関わる指標である人口密度・市街地形状歪度とは別に存在し、公共交通サービス水準を規定している。
本稿は高齢者の生活圏の把握し、福井市内の市街地中心部と周縁部の比較を行うことで、福井市に住む高齢者にとって住みやすい生活圏の形成に向けた知見を得ることを目的とした。調査により、地区内の施設数、個人属性の違いにより2地区の生活圏の広さには違いが見られた。市街地中心部に近いA地区は施設が多いため、「地区内に行くことが多い人」が多いが、単独世帯は「地区外に行くことが多い人」が多い。将来的には、単独世帯が利用しやすい場所が必要になるだろう。市街地周縁部のB地区では、個人属性に関わらず、「地区外に行くことが多い人」が多い。将来的には、自動車なしで生活できる環境づくりを進めるか、市街地中心部へ住み替えることが必要になるだろう。
本研究では,多様な人々のニーズや価値観を受け入れるための都市的機能の程度を「都市的包容力」と定義し,地方都市である岡山市を対象に日常の買い物施設であるスーパーマーケットとコンビニエンスストアに着目して定量化し,都市計画上の有用な指標である人口密度との関連性を把握した.その結果,都市的包容力(施設)と各施設に対する主観的な充実度との関連性から,都市的包容力(施設)の基準値(閾値)を特定するとともに,それらを満たすための人口密度(スーパーマーケットで50人/ha,コンビニエンストアで34人/ha)を明らかにした.また,計画に位置づけられた地域拠点であっても,都市的包容力(施設)の基準値を満たすための人口密度を下回る地域も複数存在しており,実際の都市機能との乖離も確認できた.
現在、港湾の陸域は臨港地区に指定されており,同地区内の土地利用(分区)は、港湾管理者が決定する。こうした臨港地区制度は、1950年の港湾法制定により導入された。しかし、戦後の復興都市計画では「港湾地区」と呼ばれる類似の制度が,いくつかの都市で一時的に試みられていた。また1950年代には、臨港地区を指定する権限が港湾行政ではなく都市計画行政側にあったため、臨港地区が広く利用されることはなかった。しかし,こうした制度の課題に対して,1963年に行政勧告なされ、それ以降,臨港地区に指定される港湾が急増した。以上のような臨港地区制度の成立と初期の運用の過程は、港湾の土地利用の現状を検証する上で示唆的である。
2023年現在,日本はCOVID-19の感染リスクと食品価格の高騰が共存する社会状況にある.その様な社会の中で,人々の食料品の買い物環境も大きく変容している.そこで本研究では,東京都の複数市町村を対象としたアンケート調査の結果に基づき,コロナ禍以前(2019年期)と2023年1月(2023年期)の時点間での買い物行動・意識の比較を主とする定量的分析を行う.特に,2023年期における人々の「買い物不便」の意識構造,その様な不便を抱える事の弊害について明らかにした.さらに,2023年期の買い物不便の改善に有効と考えられる施策についても検討した.それらの分析から得られた結果は,今後の食料品の買い物不便の問題の実態把握とその改善に向けた施策立案に役立つものである.
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら