日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
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放射線生物作用の初期過程:放射線生物作用のスタートポイントDNA損傷の再認識
  • 中野 敏彰, 増田 佑, 寺東 宏明, 飯島 健太, 田内 広, 井出 博
    セッションID: W6-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線、紫外線、ある種の変異原物質は、ゲノムに付随するタンパク質を共有結合により不可逆的にトラップし、DNA-タンパク質クロスリンク(DPC)損傷を生じる。DPCは、かさ高い損傷として知られるピリミジンダイマーや芳香族アダクトに比べても極めてかさ高いのが特徴であり、複製・転写装置の進行を強く阻害し細胞に重篤な影響を与えると予想される。我々は、これまでに大腸菌をモデルとしてDPC修復機構を検討し、比較的小さいクロスリンクタンパク質(CLP) (<12 kDa)を含むDPCはヌクレオチド除去修復(NER)により修復され、これ以上大きいCLPを含むDPCはRecBCD依存的な相同組換え(HR)で回避されることを明らかにした。本研究では、哺乳類細胞でも同様な機構が働くか検討した。細胞粗抽出物を用いた活性アッセイの結果、NERが除去できるCLPの上限サイズは約8 kDaであり大腸菌に比べさらに小さいことが示された。細胞をDPC誘発剤で処理し経時的なゲノムDPCの変化を調べたが、NER依存的な修復は認められなかった。したがって、哺乳類NERは処理できるCLPサイズが小さいため、同機構はDPC修復に関与しないことが明らかとなった。また、DPC誘発剤処理した細胞では、ゲノムDPCのポリユビキチン化は観察されなかったことから、NERに先行するタンパク分解は起こらないと考えた。一方、HRを欠損したirs1SF (XRCC3)および51D1 (RAD51D)細胞は、DPC誘発剤に対して高い感受性を示し、 DPC処理にHRが関与する回避機構が働いていることが明らかとなった。これと一致し、DPC誘発剤処理した細胞では、RAD51およびγ-H2AXの核内フォーカスが経時的に増加した。以上の結果から、 HRはDPC処理機構として生物種を越え働くが、NERは原核生物に限定されたDPC修復機構であることが明らかとなった。
  • 山本 修
    セッションID: W6-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    DNAの放射線分解に関する最初の報告は、1962年B.EkertによってNatureに発表された。それはチミン塩基の酸化、すなわち5,6位のハイドロキシレーションである。その後塩基損傷や鎖切断の研究が急速に進展していった。1970年代に入って水の放射線分解の研究が進み、主として·OH (G=2.70)とeaq- (G=2.70) が生成することが解り、DNA損傷機構解明の糸口となる。これらの両活性種とDNA構成成分との反応速度定数は1010と同程度であり、DNA損傷の殆んどは水の放射線分解で主に生成するこれらの活性種による酸化ないし還元によると考えられるが、DNA塩基の修飾ないし分解収率に関しては·OHの寄与がeaq-の寄与よりもはるかに高い。ピリミジン塩基の5,6位とプリン塩基の8位のハイドロキシレーションが主な反応として生じ、更なる酸化は開環に繋がる。またアミノ基が酸化されて水酸基に変化する。ピリミジン塩基の変化率はプリン塩基の変化率の約4倍である。
    ·OHの10-20%がデオキシリボース部位と反応(反応速度定数は約109)し、鎖切断が誘発される。切断機構として·OHによる4'位置の Hの引き抜きとイオン分離による場合、また4'位置のラジカル生成により3'位置と5'位置でエステル結合が加水分解される場合と、5'位置が直接ラジカルになる場合が考えられている。実際鎖切断の30%はアルカリ処理によって生じるといわれている(Elgsaeter et al., 1976)。他にタンパク質とのクロスリンクの報告もある。タンパク質に容易に生成する含硫黄アミノ酸ラジカルや芳香環ラジカルによるDNA塩基環への結合である。
放射線応答におけるクロマチン高次構造の意義
  • 鈴木 啓司, 井倉 毅
    セッションID: W7
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    細胞内のゲノムは、核内で特有の三次元的配置を構成していることが知られている。放射線によるDNA二重鎖切断の生成は、核内のクロマチンの三次元的高次構造に影響を及ぼし、これが細胞の放射線応答の契機となる。この構造変化には、ゲノム欠失などによる物理的要因と、ヌクレオソームの構成要素であるヒストン蛋白質の修飾による生物学的要因とがかかわっている。本ワークショップでは、第一線で活躍する研究者に講演をお願いし、DNA損傷修復、DNA損傷応答あるいはゲノム安定性維持におけるクロマチン高次構造変化の果たす役割について最新の情報を共有するとともに、学会員とともに放射線影響発現におけるクロマチン高次構造変化の意義について議論を深める。
  • 山内 基弘, 鈴木 啓司, 山下 俊一
    セッションID: W7-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    ATMキナーゼは放射線照射後活性化し、自身を含め、種々の基質をリン酸化することにより、損傷シグナルを伝達する。我々のこれまでの研究から、放射線照射後核内に形成されるSer1981リン酸化ATMフォーカスは、照射後時間経過とともにその数は減少するものの、残存フォーカスは直径1.6 µm以上にまで成長し、G1チェックポイント誘導に重要な役割を果たしていることが明らかになった。さらに、成長したリン酸化ATMフォーカスの出現頻度が照射線量の2乗に比例することも分かった。この結果から、我々はフォーカスの成長が、2個のDNA二重鎖切断の相互作用点、すなわち染色体転座部位において起こるという仮説を立て、その検証のために以下の実験を行った。接触阻害を2週間以上行い、S/G2/M期を2%未満にした正常ヒト線維芽細胞HE49にATM阻害剤であるKU55933(以下KU)を5 µM処理後、2 Gyのガンマ線を照射し、直後にKUおよびコルセミド含有培地に低密度にまきなおし、36-48時間後にM期を回収し、ギムザ染色およびWCP-FISH法により染色体異常解析を行った。ギムザ染色の結果、KUの溶媒であるDMSO処理群と比較して、KU処理群において二動原体染色体(断片あり)が約4倍増加することが分かった。また1-6番染色体のWCP-FISHの結果、いずれの染色体においてもKU処理群の方がDMSO処理群よりも3-7倍多く転座が検出された。さらにp53のsiRNAを処理してATMのG1チェックポイント誘導能のみを阻害し、上記と同様の実験を行ったところ、ギムザ染色による検討で、二動原体染色体(断片あり)がコントロールsiRNA処理群と比べ、約2.5倍増加することが分かった。以上の結果から、正常ヒト細胞には染色体転座を認識して染色体転座を持つ細胞の増殖を抑制する機構が存在し、その機構はSer1981リン酸化ATMフォーカスの成長に依存したG1チェックポイントであることが示唆された。
  • 井倉 毅
    セッションID: W7-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    紫外線、化学物質、放射線などによって生じるDNA損傷に対して、細胞は、チェックポイント機構を活性化させることにより細胞周期の停止を促す。その間に細胞は、DNA損傷を修復するか、あるいはアポトーシスによる細胞死を実行するか、のいずれかを選択し、染色体の安定性を維持している。DNA損傷におけるクロマチン構造変換は、修復因子やチェックポイント蛋白質がDNAにアクセスするために必要と考えられているが、その分子機構や役割については未だ不明な点が多い。我々は、TIP60ヒストンアセチル化酵素がユビキチン結合酵素UBC13と複合体を形成し、ヒストンH2AXを損傷クロマチンから放出させることを見出した。このH2AXのクロマチンからの放出は、損傷領域におけるクロマチン構造変換機構の一旦を担っていると考えている。興味深いことに、損傷依存的なH2AXのクロマチンからの放出はH2AXのアセチル化に依存しており、これまで報告されているH2AXのリン酸化には依存しない。さらに我々は、TIP60によるH2AXのアセチル化が、NBS1やATMのDNA損傷依存的なクロマチンへの誘導に必要であることを明らかにした。これらのことから、我々はH2AXのクロマチンからの放出の役割の一つは、センサー蛋白質であるNBS1を損傷クロマチンへ誘導し、DNA損傷応答シグナルを活性化させることではないかと考えている。今回は、アセチル化によって制御されるヒストンH2AXのクロマチンからの放出がチェックポイント活性化シグナルといかなる関わりを持つかについて最新の知見を紹介し、ヒストンの化学修飾のDNA損傷応答シグナル活性化における役割について議論したい。
  • KANAAR Roland, Essers Jeroen, van Mameren Joost, Modesti Mauro, Peterm ...
    セッションID: W7-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    We are interested in the mechanisms through which DNA double-strand breaks (DSBs) are repaired by homologous recombination (HR). Understanding how cells maintain genome integrity when challenged with DSBs is of major importance, particularly since the discovery of multiple links between DSB metabolism and genome instability and cancer-predisposition disorders.
    We analyzed HR in cells and in single molecule biochemical reactions. Using live cell video-microscopy we analyzed the accumulation of HR proteins in foci at sites of DNA damage. We will report on how the ATPase activity of RAD54 influences the core protein of HR, RAD51. RAD51 is the central catalyst in DSB repair through HR. It promotes DNA homology recognition and strand exchange between broken DNA and the repair template. At the biochemical level we analyzed the interaction of RAD51 with double-stranded DNA in detail. To promote repair, RAD51 polymerizes around single-stranded DNA. This nucleoprotein filament recognizes and invades a homologous duplex DNA segment. After strand exchange, the nucleoprotein filament should disassemble so that the recombination process can be completed. The molecular mechanism of RAD51 filament disassembly is poorly understood. We showed, by combining optical tweezers with single-molecule fluorescence microscopy and microfluidics, that disassembly of human RAD51 nucleoprotein filaments results from the interplay between ATP hydrolysis and the release of the tension stored in the filament. Our integrative single-molecule approach allowed us to dissect the mechanism of this principal homologous recombination reaction step, which in turn clarifies how disassembly can be influenced by accessory proteins.
DNA二本鎖切断はLET増加に伴い増加するのか?減少するのか?
  • 平山 亮一, 寺東 宏明, 横谷 明徳
    セッションID: W8
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線による電離イベントはLETの増加とともに個々の発生間隔が短くなり、適当なLETの放射線ではDNAの直径(2 nm)にほぼ等しい間隔で電離が起こり効率良くDNA二本鎖切断(DSB)が生成するため、高い生物効果が生じると考えられる。この考え方にたてば、LET増加に伴いDSB生成量は増加していくことになり、実際そのような報告も多くみられる。一方、それとは逆にLET増加に伴いDSB生成量が減少する傾向を示した報告も多い。このDSB生成におけるLET依存性の相違は古くから議論されているが、未だ解決されていない放射線生物学上の重要課題である。本ワークショップではDSB生成収率のLET依存性について、実験に用いた線質や試料、検出方法など実験条件の違いによる影響について検討を行い、フロアー壇上一体となって議論したい。
  • 横谷 明徳
    セッションID: W8-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    これまで放射線のトラック構造と生物影響に深く関係する難修復性のDNA損傷の関連について、モンテカルロシミュレーションを用いた数多くの研究が行われてきた。これらの研究は、トラックがDNA分子を通過することによる直接的なエネルギー付与(直接作用)によりDNA二本鎖切断(DSB)が高い確率で生じ、LETの増大とともにその頻度も増加することを予測している。我々はこれまで、直接作用により誘発されるDSBの収率をプラスミドDNAをモデル分子として観察してきた。試料に用いたpUC18プラスミドDNAは、通常の細胞中のDNAと同じコンフォメーション(B-form)となるよう高水和状態に維持した。この条件では、1ヌクレオチドあたりの水分子は約35分子であり試料の質量中の50%を水が占めることになるが、もしOHラジカルが生成したとしても自由に拡散できるバルク水が無いゲル状の試料である。照射に用いた放射線は、日本原子力研究開発機構高崎研究所TIARA及び放射線医学総合研究所HIMACから得られるHe, C 及びNeイオンを用いた。同一LETでもイオン種によるトラック構造の違いがあるため、異イオン種間のLETの比較は注意を要する。そこで我々は、それぞれのイオン種でLETを変えながらプラスミドのコンフォメーション変化として電気泳動法によりDSBを定量した。その結果、HeイオンによるDSB生成収率は20 keV/µmに極小値をもつが、これより高LET側では急激に収率が増大し、120 keV/µmではその約4倍の値となった。しかしさらに高LET側では、再び減少に転じた。Cイオンでも80-500 keV/µmとLETを上げていくとDSB収率は増大したが、その傾向はHeイオンに比べると小さかった。Neイオンでは、300-900 keV/µmの領域ではDSB収率にほとんど変化はなかった。以上のことは、イオントラックからの直接的エネルギー付与により生じるDSBの収率はLETの増加に伴って増大するが、その傾向はイオン種によって違いがあることがわかった。本口演では、私たちと同様なLET依存性を見せる過去の知見を交えながらDSBの生成収率と生物効果に対する考察を行っていく。
  • 寺東 宏明
    セッションID: W8-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線生物学の歴史において、電離放射線の生物効果の表出は遺伝物質であるDNAの損傷に起因するとされ、それは放射線特異的損傷としてとらえられてきたDNA二本鎖切断(DSB)の観察結果からも妥当なものと考えられてきた。粒子線生物学の興隆により、異なる線質による生物効果の差異、特にLETと生物効果の関係が注目されるようになったが、その結果は研究グループによりまちまちであり、LET依存的なDSB生成収率の傾向は収れんを見せなかった。そこで私たちは異なる標的と検出方法を用いた複数の実験系を同時平行で行い、その結果を比較検討することにより、DSB生成収率のLET依存性という古くて新しい命題にチャレンジすることにした。
    その検討は、精製DNA分子を標的にした試験管内実験と培養細胞の染色体DSBを解析する細胞内実験で行った。試験管内実験では、環状プラスミドDNAであるpDEL19(4,814 bp)と線状ファージDNAであるlambda phage DNA(48,502 bp)を照射後、それぞれ中性アガロースゲル電気泳動による環状分子のコンフォメーション変化とパルスフィールド電気泳動による分裂片集団の数平均分子量算出により、生成DSB数の解析を行った。照射培養細胞の染色体DSBは中性アガロースゲル電気泳動を用いたFARアッセイにより解析した。その結果、用いたいずれの実験系においても、γ線(0.2 keV/µm)、Cイオン(13 keV/µm)、Feイオン(200 keV/µm)によるDSB生成収率はLETに対して反比例することが分かった。この結果は、少なくとも生理的条件下におけるDSB生成収率がLET依存的に減少することを支持するものである。本口演では、私たちと同様なLET依存性を見せる過去の知見を交えながらDSBの生成収率と生物効果に対する考察を行っていく。
  • 平山 亮一, 古澤 佳也
    セッションID: W8-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    高LET放射線の特徴として、光子放射線のような低LET放射線に比べ、細胞致死効果が高いことは良く知られている。一方で、細胞致死の主要因がDNA分子の損傷であることも多くの実験から裏付けられており、中でもDNA二本鎖切断(DSB)は細胞致死に大きな役割を果たす損傷と考えられている。高LET放射線がもたらす高い細胞致死効果と細胞致死を誘導するDSBの関係を考えると、高LET放射線では低LET放射線に比べDSBがより多く生成されることがイメージしやすい。ところがDSB生成収率とLETの関係を概観すると、DSB生成収率がLET依存的に増加する報告と、LET依存的に減少する報告に二分されることがわかった。
    横谷らはOHラジカルの影響をできるだけ排除した環状プラスミドDNAならびに照射環境をつくり、放射線の直接作用がもたらすDSB生成収率をLET依存的に調べた。その結果、LETが増加するに従ってDSB生成収率が増加することを報告している。
    一方、寺東らは環状プラスミドDNA、線状ファージDNAと培養細胞内DNAのDSB生成収率とLETの関係を同一条件下で調べ、3つの異なるDNA試料のDSB生成収率はLET依存的に減少する傾向を報告している。
    この2つのグループの実験条件における放射線の作用に着目すると、放射線の直接作用が主作用となる横谷らのグループはLET増加に伴いDSB生成収率は増加する傾向を示し、放射線の直接作用と間接作用が存在する実験系の寺東らのグループではLET増加に伴いDSB生成収率は減少する傾向を示したと言える。
    また、平山らのグループでは培養細胞を用いた実験系において大気下での照射実験では寺東らと同様の傾向を観察し、大気下よりも間接作用の寄与が低いと考えられている無酸素下での照射実験では横谷らと同様な傾向を示した。つまり、LET増加に伴いDSB生成収率が増加する、もしくは減少するファクターの1つとして放射線の直接作用ならびに間接作用の寄与が関係していることが示唆された。
一般演題<口頭発表>
塩基損傷
  • 洪 正善, GERELCHULUUN Ariungerel, 盛武 敬, 榮 武二, 安西 和紀, 坪井 康次
    セッションID: OA-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】 高エネルギー陽子線は、水または体内に入射した直後のplateau部分(P点)とBragg peak近傍(B点)でlineal energy(LE)が異なり、DNA損傷のメカニズムも異なると推察される。そこで本研究では陽子線でLEが異なる2点でのDNA塩基損傷の違いを明らかにし、ラジカルの生成を制御することでP点の間接効果を抑制するとともにB点で直接効果の割合を高めることが可能かどうかを検討した。
    【対象、方法】 DNA溶液を対象として、X-線と陽子線(P点、B点)を照射し、その結果生じる8-Hydroxydeoxyguanosine (8-OHdG)を定量化し、DNA塩基損傷の違いを検討した。また、ラジカル消去剤3-methyl-1-phenyl-2-pyrazolin-5-one (エダラボン)を添加した状態で同様の検討を行った。さらに、培養腫瘍細胞MOLT-4を対象とし、X-線と陽子線照射を行い、DNA二本鎖切断部位に生じるγ-H2AXフォーカスを免疫蛍光染色法により可視化し、画像解析にてその数と面積を定量化した。
    【結果】 同線量の照射では、陽子線よりもX-線照射の方が8-OHdGを多く産生した。また、陽子線P点での照射の方がB点での照射よりも8-OHdGを多く生成した。エダラボンの8-OHdG産生抑制効果は、X-線照射後で最も高く、さらに陽子線P点、B点の順番となった。陽子線P点とB点では、照射後のγ-H2AXフォーカスの数に有意な差は認められなかったが、エダラボン添加後はB点の方が多く認められた。
    【結論と考察】 陽子線のplateau部分でのDNA損傷では間接作用が主体であるが、Bragg peak近傍では間接作用が減少し、相対的に直接作用が増加することが示された。その結果、陽子線治療において、ラジカル消去剤を用いて塩基損傷(間接作用)を抑制することで、ビームが通過する正常組織でのDNA損傷を減少させ、ターゲットに対しては直接効果の割合を高めた治療が可能になることが示唆された。
  • 山盛 徹, IRANI Kaikobad
    セッションID: OA-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】NAD+依存性タンパク質脱アセチル化酵素であるSirt1は、寿命調節に関与する酵素として近年注目を集めている。また最近の研究において、Sirt1は多様な生理機能を制御していることが報告されており、放射線によるDNA二本鎖切断修復に対してもSirt1が寄与することが示唆されている。そこで本研究では、放射線や酸化ストレスにより高頻度に生じ、遺伝子変異の要因となるDNA塩基損傷に対する修復機構である塩基除去修復に着目し、その構成要素であるAPエンドヌクレアーゼ1 (APE1)がSirt1により脱アセチル化を受けるかどうか、またそれがAPE1機能および塩基除去修復経路にどのように影響するかを明らかにすることを目的とし研究を行った。
    【方法および結果】APE1またはSirt1をRNA干渉法を用いてノックダウンしたヒト子宮頸癌由来Hela細胞では、DNAアルキル化剤methylmethane sulfonate (MMS)および過酸化水素処理により引き起こされる細胞死の増加が観察された。APE1とSirt1は細胞内において相互作用し、in vitroおよびin vivoにおいてAPE1はSirt1により脱アセチル化されることが、免疫沈降-ウェスタンブロット法により示された。APE1はX-ray repair cross-complementing 1 (XRCC1)と複合体を形成することでDNA修復活性が増強されることが知られているが、Sirt1活性化剤であるresveratrol処理により細胞内でのこの複合体形成が促進され、Sirt1のノックダウンによりこの効果は失われた。さらに、Hela細胞をSirt1阻害剤または活性化剤で処理した後、XRCC1免疫沈降物を用いてAPE活性を測定した結果、APE活性はSirt1阻害剤で減少し、活性化剤で増加した。
    【結論】本研究により、(1) Sirt1はAPE1と相互作用し、APE1を脱アセチル化すること、(2) Sirt1は脱アセチル化を介してAPE1とXRCC1の相互作用を促進することで、塩基除去修復によるDNA修復活性を増強し、結果的に細胞死を抑制することが示唆された。
  • 安井 学, 本間 正充
    セッションID: OA-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    8-オキソグアニン(8-Oxo-Gua)は、電離放射線によって形成するDNA損傷の中で代表的なDNA付加体であり、遺伝子突然変異や老化に深く関与すると考えられている。本研究では、低線量暴露のモデルとして、1分子の8-Oxo-GuaをヒトTK6細胞のゲノム内に導入し、その突然変異誘発能を解析できる系を確立することを目的とする。まず、8-Oxo-Gua1分子を部位特異的に含ませたターゲティングベクター(6.1 kbp)を作製し、TSCER122細胞株(ヒトTK6細胞由来)のチミジンキナーゼ遺伝子のイントロン内に、ターゲティングによって8-Oxo-Guaを導入した。数回細胞分裂させた後、8-Oxo-Guaが導入された細胞だけをクローニングするために選択培地で2週間培養した。次に、各クローンのゲノムDNAを抽出し、8-Oxo-Gua損傷部位周辺をシーケンスした。その結果、Gua(コントロール)を導入した時は、22クローン細胞中すべてでGuaの対面に正常塩基のCytが塩基対形成していたが、8-Oxo-Guaを導入した時は、その対面に、15%の頻度でAde(5/33細胞)、3%の頻度でThy(1/33細胞)が検出された。本研究によって、ヒトTK6細胞のゲノム内におけるDNA付加体の突然変異誘発能を解析できる系を確立することができた。また、8-Oxo-Gua1分子はヒトゲノム内において突然変異を誘発させられることが明らかとなった。
  • 加藤 悠一, 橋口 一成, 秋山(張) 秋梅
    セッションID: OA-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    DNA中の塩基が脱落した部位はAPサイトと呼ばれ、主要なDNA損傷のひとつである。APサイトは塩基の自然な脱落や塩基除去修復の中間生成物として生じ、修復されないと突然変異や細胞死の原因となる可能性がある。APエンドヌクレアーゼはAPサイトを認識し、その部位でDNA鎖を切断する酵素である。切断により生じたニックが修復合成によって埋められることでAPサイトの修復は完了する。APエンドヌクレアーゼは大腸菌からヒトまで広く保存されており、アミノ酸配列の相同性から大腸菌のエキソヌクレアーゼIII (Xth)型とエンドヌクレアーゼIV (Nfo)型の2つに大別される。Xth型とNfo型はそれぞれ発現量や誘導性などの性質が生物種によって異なっていることが知られている。今回私たちは生物の老化とAPサイト修復の関係を探るため、老化のモデル生物である線虫C. elegansを用い、Nfo型のAPエンドヌクレアーゼであるAPN-1タンパク質の機能解析を行った。私たちはまず精製APN-1タンパク質がTHF(テトラヒドロフラン)-APサイトを含むオリゴヌクレオチドを切断する活性を有するか調べた。THF-APサイトは実際に生体内で生じるAPサイトとほぼ同一の構造をした化合物であり、APエンドヌクレアーゼにより切断されることが知られている。精製APN-1タンパク質はTHF-APサイトを切断し、APエンドヌクレアーゼとしての活性を有していることが示された。APN-1タンパク質がAPエンドヌクレアーゼであることは大腸菌xth nfo欠損株のH2O2およびMMSに対する感受性がAPN-1タンパク質の発現により相補されたという実験結果からも裏付けられた。次に私たちはAPN-1タンパク質の線虫個体内における機能を調べるため、フィーディングRNAiによるapn-1遺伝子のノックダウンの影響を調べた。apn-1遺伝子のノックダウンによる線虫のH2O2などの薬剤に対する感受性の変化や寿命に及ぼす影響などを現在調べており、これらの結果もあわせて報告する。
細胞応答・放生研共同研究
  • 加藤 晃弘, 小松 賢志
    セッションID: OA-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    ナイミーヘン症候群 (NBS) は、小頭症、免疫不全、成長遅延、高発がん性を特徴とするまれな常染色体劣性遺伝病であり、NBS患者由来の細胞は染色体不安定性やS期チェックポイント異常の他、放射線高感受性を示すことを特徴とする。NBSの原因遺伝子産物であるNBS1はMRE11、RAD50とともにMRN複合体と呼ばれるタンパク質複合体を形成している。これまでの研究からMRN複合体は放射線などによって生じるDNA二重鎖切断の修復やDNA損傷チェックポイントで働くことが明らかにされているが、分子レベルでの作用機序については不明な点が多い。
    今回我々はNBS1の分子レベルでの作用機序を解析するため、NBS1と結合する新規タンパク質を同定することを試みた。新規NBS1結合タンパク質を探索するため、FLAGタグ付きNBS1を293E細胞で発現させ、抗FLAG抗体による免疫沈降を行った。ウエスタンブロッティングの結果、この沈降物にはMRE11とRAD50が含まれることがわかった。銀染色により沈降物を染色した結果、この他にもいくつかのタンパク質が含まれることが明らかとなった。これらのタンパク質についてさらに解析を行ったのでその結果について報告する。
  • 石合 正道, 島 弘季, 田代 聡, 高田 穣
    セッションID: OA-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    Artemisは放射線感受性重症複合型免疫不全症患者の原因遺伝子として同定され、リンパ球の抗原レセプターの多様性を生み出すV(D)J組換えおよび放射線(IR)照射などによるDNA二重鎖切断(DSB)修復、中でも非相同末端結合反応に関わるヌクレアーゼである。
    V(D)J組換えにおいて、Artemisはコーディングエンド末端のDNAヘアピン構造を開裂させるエンドヌクレアーゼとして機能すると理解されている。一方、DSB修復におけるArtemisの機能およびその制御系は不明な点が多い。
    IR照射により、ArtemisはATMとDNA-PKにより複数のリン酸化部位がリン酸化されることが知られているが、これらのリン酸化部位変異体はArtemisのin vitroヌクレアーゼ活性やin vivoのIR感受性やV(D)J組換えに影響しないと報告されている。
    我々は、ヒトArtemisをGFPとの融合タンパク質(Artemis-GFP)としてヒト繊維芽細胞に発現させ、紫外線レーザーマイクロ照射法により、生細胞でのArtemis-GFPの挙動を解析した。レーザー照射によるゲノムDNA損傷部位へのArtemis-GFP蓄積が見られた。Artemisのリン酸化部位変異体では、損傷部位への蓄積が抑制され、ヌクレアーゼ変異体は影響がなかった。これらの結果は、IR照射によるリン酸化はArtemisの動態を制御している可能性を示唆しており、現在その検討を行っている。
  • 土生 敏行, 松本 智裕
    セッションID: OA-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    p53は細胞周期停止、DNA修復、アポトーシス、さらにp53自身の分解に関与する遺伝子群の転写を制御している。CDKインヒビターp21はp53によって発現誘導されDNA損傷に応じ細胞周期を停止させる。またDNA損傷程度に応じアポトーシスに導くためにアポトーシス誘導遺伝子BaxやPUMAなどの誘導発現を導くとされている。
    我々はヒト培養細胞を用いたスピンドルチェックポイント解析より、p31comet(CMT2)は Mad2依存的スピンドルチェックポイント解除への関与していることを我々が明らかにしてきたが、さらなる解析よりp53もp31comet結合タンパク質であること、さらにsiRNAによるp31comet発現抑制細胞はDNA損傷を起こす薬剤に対し高度に感受性を示し、p53依存的アポトーシスを起こすことが明らかとなった。その標的遺伝子の発現を調べたところ、PumaやBaxなどのアポトーシス誘導タンパク質の発現レベルの変化は観察されなかったが、細胞周期調節因子p21タンパク質及びmRNA発現レベルがp31comet抑制細胞で著しく低下していることが観察された。さらにこの薬剤高感受性はTIP60によるp53 Lys120のアセチル化によることを明らかにした。このことよりp31cometはアセチル化を介したp53依存的アポトーシスと細胞周期停止の調節因子ではないかと考え解析を行っており、最新の解析結果と合わせて報告したい。
  • 志村 勉, 落合 泰史, 桑原 義和, 福本 学
    セッションID: OA-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    がん細胞の放射線耐性はがんの再発を引き起こし、放射線治療の失敗の主な原因である。放射線耐性の分子機構を解明することにより、耐性を抑制し、より有効な放射線治療法の確立が可能である。本研究では、放射線耐性に関わる分子の同定を目的として、ヒト肝がん細胞株HepG2と子宮頚部がん細胞株HeLaを用い、放射線治療で用いられる分割照射による放射線応答の解析を行なった。これまでの解析から、0.5 GyのX線を1日2回、31日間分割照射した細胞株(31分割細胞)では、照射していない対照細胞に比べ、放射線治療で用いられる2 Gyの放射線に対し、耐性を示した。また、31分割細胞を, さらに31日間照射を休止した細胞株(31分割休止細胞)でも放射線耐性が安定に維持されることから、分割照射によりがん細胞が放射線耐性を安定して獲得することが示唆された。
    長期分割被ばくにより放射線耐性を獲得した細胞では、細胞周期の進行を制御するサイクリンD1が過剰発現し、DNA合成期(S期)においてもその発現が維持されている。S期におけるサイクリンD1の過剰発現はS期の進行を阻害するため、長期分割被ばく細胞はS期に蓄積している。また、長期分割被ばく細胞ではgamma-H2AXやRad51のフォーカス形成が観察されることから、相同組み換え修復(HRR)が活性化されていることが示唆される。放射線耐性の獲得におけるHRRの役割を解析するため、Rad51のsiRNAを用い、HRRを抑制した。その結果、長期分割被ばく細胞の放射線耐性は完全に消失した。
    以上の結果より、長期分割被ばくによりサイクリンD1が過剰発現し、細胞をS期に蓄積させる。また、HRRを活性化することでがん細胞は放射線耐性を獲得する。HRR経路を標的として抑制することで長期分割被ばくによる放射線耐性を制御することが期待される。
  • 竹田 純, 丹羽 太貫, 松本 智裕
    セッションID: OA-9
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    電離放射線によるゲノム損傷は、初めのダメージの修復が完了したのちにも細胞応答を活性化し続け、遺伝的不安定性や変異頻度の上昇を一定期間にわたって誘導する。この現象は遅発性突然変異と呼ばれており、エピジェネティックな損傷の記憶系と、その下流に位置する変異導入系の活性化の結果起こると考えられている。
    分裂酵母Schizosaccharomyces pombeをモデル生物として用いたわれわれの研究から、これまでに、(1)X線照射は、それによる細胞周期の停止から回復したのち、約10細胞世代にわたって組換え頻度を上昇させること、(2)遅発性におこる組換えは初めの損傷の位置や損傷によって誘導される活性酸素の産生とあまり相関がなく、transに起こりうることと、(3)X線照射は、分裂を行っている細胞内における組換え修復因子Rad22の遅発的な活性化も誘導すること、(4)Rad22の遅発的な活性化は遅発性組換えと同程度の期間継続することが明らかになっている。これらの結果は、Rad22が遅発性組換えにおいて重要な役割を担っていることを示唆しているが、Rad22の遅延的な活性化を制御するメカニズムは明らかになっていない。
    われわれは現在、Rad22をベイトとしたプルダウンアッセイと質量分析を組み合わせてRad22の活性調節因子の検索を試みている。本演題では、これまでの調節因子検索の結果を、損傷記憶と遅発性突然変異の研究の簡単なまとめともに紹介する予定である。
  • 河合 秀彦, 鈴木 文男
    セッションID: OA-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    細胞内で p53 が不活性な状態で維持される為には、MDM2 及び MDMX の存在が必須である。我々は、MDM2 と MDMX が放射線照射によって生じる DNA 損傷などに応答して不安定化し、その不安定化が p53 の活性化に極めて重要な役割を果たしている事を明らかにしてきた。最近の遺伝子改変マウスを用いた研究からは、MDMX の発現レベルや放射線応答性が放射線被ばくしたマウスの生存率を決定する重要な因子の一つである事が報告されている。これまで、p53 の転写下流因子である MDM2 に関しては、in vivo 及び in vitro において非常に多くの研究がなされ、MDM2 が p53 のユビキチン E3 リガーゼとして機能し、p53 とネガティブフィードバックループを形成している事が明らかとなっている。一方、MDMX に関しては、p53 の安定性にどのように関与しているか矛盾した報告も多く、未だ解明されていないと言うのが現状である。我々の培養細胞を用いた解析からは、細胞内で MDMX は MDM2 とヘテロ複合体を形成し、MDM2 の E3 リガーゼ活性を促進している可能性が示唆されるが、これまで、 in vitro での p53 ユビキチン化の解析手法が確立されていなかった事から、その詳細な分子機構は不明であった。我々は、MDM2 と MDMX の P53 のユビキチン化による制御機構を分子レベルで解析し、放射線被ばくなどに対する P53 のストレス応答機構を明らかにする事を目的として、試験管内における P53、MDM2、MDMX のユビキチン化アッセイシステムの確立を試みている。ここで、このアッセイシステムから得られた知見から明らかとなった MDM2/MDMX ヘテロ複合体による新たな p53 のユビキチン化機構と DNA 損傷応答の分子機構について報告する。
DNA損傷・修復1
  • 立石 智, 岩淵 邦芳, 渡邊 健司
    セッションID: OA-11
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    細胞に紫外線が照射されて形成されたDNA損傷はDNA複製を停止させ、発がんまたは細胞死の原因となる。これまで我々は、停止した複製フォークに集積したRAD18タンパク質が、PCNAタンパク質にユビキチン分子を付加することにより、損傷を乗越えて複製できるタイプの複製酵素を呼び込み、複製を再開させることを報告してきた。今回、放射線照射により切断されたDNA損傷部位にRAD18が集積し、リン酸化ヒストンH2AX、チェックポイント制御因子ATM, 癌抑制因子BRCA1、DNA修復因子53BP1などと共局在することを見つけた。これらの因子に焦点を絞り、RAD18の集積に必要な因子を調査した結果、複製開始前のG1期には53BP1が必要であることがわかった。また、精製したRAD18はin vitroで53BP1の1268番目のリジンに対してユビキチン分子を付加する活性を示した。このリジン残基を変異させた53BP1は、DNA二重鎖切断部位に集積する効率が低下していた。また、RAD18欠損細胞では正常な53BP1の集積能力も低下していた。RAD18欠損細胞および53BP1欠損細胞は、細胞周期のG1期に最も高い放射線感受性を示し、かつ2つの遺伝子は同じ遺伝学的経路にあることがわかった。以上の結果から、RAD18はDNA二重鎖切断部位に集積し、53BP1のモノユビキチン化を介して、損傷を修復するモデルを提唱する。
  • 矢野 憲一, 諸冨 桂子
    セッションID: OA-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    非相同末端連結(Non-homologous end–joining, NHEJ)は哺乳類におけるDNA二重鎖切断(DNA double-strand break, DSB)の主要な修復機構である。これまで私たちはNHEJ基本因子であるDNA-PKcs, XRCC4, XLFの損傷応答反応をライブセルイメージングによって解析してきた。その結果、NHEJ基本因子のDSB上への集積はKu依存的な反応であり、DNA-PKcs, XRCC4, XLFが互いに独立に挙動する過程の後に、各因子がDSB上で協調的に作用する過程が続くことを明らかにし、この観察に基づいた新モデルを提唱するに至った。さらに生化学的な手法により、KuとXLFの相互作用がDSB上でのみ生じるというユニークな特徴を明らかにし、Ku-XLF相互作用がNHEJ経路におけるDSB認識に重要な役割を担っている可能性を示した。本研究ではKu-XLF相互作用の詳細な解析を実施した。まずKuのXLF相互作用ドメインをライブセルイメージング法と精製タンパク質を用いたゲルシフト法により明らかにした。次に、YFPタグをつけたXLF欠失体のDSB応答反応をライブセルイメージング法により解析することで、XLFのDSBへの集積に必要な領域を同定した。この領域を欠失したXLFを培養細胞中で発現させ、免疫沈降法で回収し共沈タンパク質を解析したところ、Kuの共沈が見られなかったのみならず、この欠失領域とは異なる部位と相互作用するXRCC4も、XLFとの共沈が著しく減弱していた。以上の観察はKu-XLF相互作用がDSB上でのNHEJ基本因子間の協調的相互作用に重要な役割を担っていることを示し、私たちが提案しているNHEJ経路におけるDSB認識機構の新モデルをさらにサポートするものであった。
  • 鈴木 啓司, 岡 泰由, 鈴木 正敏, 山内 基弘
    セッションID: OA-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線照射によるDNA二重鎖切断の誘導は、ATMを基点としたDNA損傷シグナルを惹起する。この過程で、ATMの活性化にともなうヒストンH2AXのリン酸化は、MDC1をはじめとするDNA損傷チェックポイント因子の集積を促し、三次元的に構築されたDNA損傷フォーカスがATMによるDNA損傷シグナルの増幅に必須の役割を果たす。最近、MDC1のリン酸化がRPN8やRNF168によるヒストンユビキチン化を促進することによって、別のDNA損傷チェックポイント因子である53BP1のDNA損傷フォーカスへの集積を維持させることが報告されたが、これらヒストンの修飾は、いずれもがDNA損傷シグナルの増幅に不可欠である。そこで本研究では、リン酸化やユビキチン化に続くクロマチン修飾であるメチル化およびアセチル化の、DNA損傷フォーカス形成における役割を明らかにすることを目的とした。
    正常ヒト二倍体細胞を、γ-線照射前後にメチル化およびアセチル化抑制状態で培養し、放射線照射によって形成されるDNA損傷フォーカスのサイズ変化を、抗リン酸化ヒストンH2AXおよび抗53BP1抗体を用いた蛍光免疫染色法により検出して検討した。その結果、p300/CBPによるヒストンH3の恒常的アセチル化が、DNA損傷フォーカスの維持に必要であることを見いだした。また、G9aヒストンメチル化酵素によるユークロマチン部位におけるヒストンH3リジン9のジメチル化も、一部DNA損傷フォーカスの維持にかかわっていることも明らかにした。興味深いことに、これらのクロマチン修飾は、放射線照射後初期のDNA損傷フォーカスの形成にはかかわっていなかった。
    以上の結果から、放射線照射後のDNA損傷フォーカスの形成には、初期形成過程に必要なクロマチン修飾と、フォーカス維持過程に必要なクロマチン修飾の異なった種類の修飾が多段階的に関わっていることが明らかになった。初期の修飾は、放射線によって生成したDNA二重鎖切断によるクロマチン高次構造変化をマークするのに必要であるいっぽうで、後期の修飾は、クロマチン高次構造変化を固定するのに必要であると考えることができる。
低線量・低線量率
  • 中司 寛子, 月本 光俊, 小島 周二
    セッションID: OA-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    当研究室ではこれまでに、自己免疫疾患モデルマウスにおいて低線量γ線照射により自己抗体産生が抑制され、病態が抑制されることを報告した。抗体産生細胞の前駆体であるB細胞は放射線感受性が高く、放射線照射により傷害を受け抗体産生が抑制されることが考えられるが、一方で低線量放射線は免疫能を亢進させるという報告がある。そこで今回、一般的な抗体産生に対する低線量放射線の影響を明らかにするため、抗原として広く用いられているovalbumin(OVA)で感作した抗体産生モデルマウスを作成し、検討を行った。BALB/cマウス(6週齢♂)にOVAとComplete Freund's Adjuvantの混合エマルジョンを皮下投与することで感作した。照射群には0.5 Gy(137Cs線源、0.88 Gy/min)γ線をOVA感作3日前もしくは11日後から週1回全身照射した(計6または4回照射)。感作後、週2回血清を採取し、経時的にIgGおよびIgE抗体濃度を測定した。各群において感作37日後に脾臓を摘出、脾細胞を単離し、脾細胞産生サイトカインをELISA法にて、またリンパ球表現型割合をフローサイトメトリーにて測定した。照射群では、IgG、IgEともに血清中濃度がcontrol群に比して高い値で推移することが明らかとなった。脾細胞中のT細胞、B細胞割合は各群間での差異は認められなかったが、照射群において抗体産生細胞の割合増加がみられた。また、抗体産生に関与する脾細胞産生サイトカインは、normal群、control群、照射群の順に産生亢進が認められた。以上の結果より、低線量γ線は免疫系全体を賦活させる可能性が示唆された。また、自己免疫疾患モデルにおける自己抗体産生抑制は、低線量γ線による直接的な傷害によるものではない可能性が示唆された。
  • 中島 裕夫, 本行 忠志, 斎藤 直, 藤堂 剛
    セッションID: OA-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    1986年のチェルノブイリ原発事故以来、低レベル放射能汚染地域に生活するヒトへの遺伝的影響が懸念されているが、ヒトにおいて影響が明らかになるまでにはかなりの時間経過が必要である。そこで、世代交代の速いマウスに着目し、実験室においてベラルーシ中等度汚染地(Babchin)の1997年、2005年放射能レベルのシミュレーションを行った。そして、低レベル放射能汚染環境下での長期内部、外部被曝マウスにおける腫瘍形成性とゲノムストレスへの影響を検討した。
    RI施設内でA/J雄マウスが放射能汚染地マウスと同じ137Csレベルになるように137CsCl水溶液を経口的に8ヶ月間自由摂取させた(137Cs濃度を 0、10、100Bq/ml群の3群に設定)。
    10、100Bq/ml群の各臓器における137Cs平衡濃度は、各群それぞれ肺では5.4、51.9、肝臓では4.8、43.2、そして、筋肉では14.9、165.5 Bq/gであった。
    137CsCl水溶液給水開始から8ヶ月後にDNA二本鎖切断の指標となるγ-H2AXフォーカスの検出を各群のマウス肝細胞で試みた。その結果、0、10、100 Bq/ml各群の細胞あたりのフォーカス数は、それぞれ、1.4、9.5、10.7個と対照群に比して被曝群の方が有意に増加していることが認められた。このことは、チェルノブイリ低度汚染地域の動物においても、慢性的な遺伝子へのストレスが続いていることを示唆するものである。
    しかし、同じマウスにおける小核試験の結果では、0、10、100 Bq/ml各群それぞれ6000細胞あたりの小核PCE数が68、63、70個と群間で有意な差は認められなかった。
    また、解析途中であるが、0、10、100 Bq/ml各群6匹ずつにおけるウレタン誘発による個体あたりの肺腫瘍発生数は、それぞれ34.8 (209/6)、41.2 (247/6)、44.2 (265/6)、平均腫瘍直径(mm)は1.70、1.71、1.74である。(日本学術振興会科研費の支援による)
  • 馬嶋 秀行, 犬童 寛子, 富田 和男, 岩下 洋一朗, 鈴木 ひろみ, 桝田 大輔, 嶋津 徹, 東端 晃, 山崎 丘, 矢野 幸子, 石 ...
    セッションID: OA-16
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    21世紀初期の20年間に長期間の宇宙飛行が計画されている。国際宇宙ステーション(ISS)の計画が進み、月のみならず火星への探査も計画されている。様々な宇宙科学実験のために宇宙空間に長期間生活する必要がある。宇宙環境では1日0.2~0.3mSvの放射線被曝が細胞代謝に影響する。そのような計画では宇宙飛行士への宇宙線による被ばくは不可避であり、そのリスクを評価する必要性が増大している。宇宙計画に伴う現実的なリスク評価を物理的、生物学的両方の知識に基づいて最適に彼らを守る緊急の必要性がある。リスクに影響する細胞の代謝やホメオスタシスを考慮し、遺伝子変化の調査が重要である。本研究ではヒト神経細胞NB-1に0.1mGy, 1.0mGy, 10mGy,そして100mGyを1回照射し、30分後および2時間後における細胞からmRNAを分離し遺伝子発現を定量RT-PCR法により分析した。その結果、ミトコンドリアゲノム、電子伝達系とTCAサイクル遺伝子のなかに増加傾向を示す遺伝子と減少傾向を示す遺伝子が見られた。一方、ベータ酸化、DNA修復、解糖系酵素、ヒートショックタンパク質、そしてアポトーシス関連遺伝子ではp53をはじめとする一部の遺伝子発現増加を除いて減少していた。AutophagyやNecrosisに関連する遺伝子発現もまた減少していた。結果として、宇宙環境におけるような低線量放射線照射によりNB-1細胞は細胞内酸化ストレスが増加し、少なくとも部分的なアポトーシス関連遺伝子発現変化を減少させ、癌化や神経障害のポテンシャルを増加させるような遺伝子発現変化が認められた。
  • 広部 知久, 江口 清美, 菅谷 公彦, 村上 正弘
    セッションID: OA-17
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    胎生9日目のC57BL/10JHir系統マウスに、低線量域を含む様々な線量のガンマ線を照射し、個体発生および神経冠細胞の分化に対する影響を調べた。その結果、ガンマ線では0.5 Gyまで妊娠率、出産率、離乳率および体重の低下が見られなかった。マウスでは放射線照射により神経冠細胞の分化が抑制され、メラノブラスト、メラノサイトが欠損することで離乳マウス(生後22日)の腹部中央等に白斑を生じる。この腹部白斑の頻度については、ガンマ線では0.25 Gy照射群から増加した。また、白斑面積も0.25 Gy照射群から増加した。次に、照射9日後の胎生18日の胎児を帝王切開で取り出し、生存胎児数、体重、発生異常、皮膚の毛球メラノサイトの分化等について調べた。ガンマ線照射個体では0.75 Gyでも一腹あたりの胎児数が減らなかった。尾の折れ曲がり等の発生異常は0.1 Gyからみられ、線量に応じて増加した。尾や四肢の付け根の内出血等は非照射群からみられ、線量に応じて増加した。また、皮膚の毛球メラノサイト数は、0.1 Gy照射群から背側も腹側も有意に減少し、線量に応じてさらに減少した。これらの結果から、ガンマ線は低線量域でもマウスの発生に影響を与え、尾、血管等の形成異常や神経冠細胞の分化抑制を引き起こすことが示唆される。
放射線治療1
  • 増永 慎一郎, 松本 孔貴, 平山 亮一, 菓子野 元郎, 田中 浩基, 鈴木 実, 木梨 友子, 劉 勇, 安藤 興一, 小野 公二
    セッションID: OB-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    固形腫瘍内の酸素化状態の操作処置による放射線照射後の肺転移への影響を、局所腫瘍内の休止期(Q)腫瘍細胞の感受性をも加味して分析する。
    【方法】
    B16-BL6腫瘍を下肢に移植したC57BL/6マウスにBrdUを連続的に投与し、固形腫瘍内の増殖期(P)腫瘍細胞を標識後、急性低酸素細胞分画(HF)を解除するニコチンアミド(NA)を担腫瘍マウスに腹腔内投与または、慢性HFを解除するとされる低温度温熱処置(MTH)を腫瘍へ施行し、その後ガンマ線を腫瘍に照射した。照射直後に、腫瘍を切離細切し単腫瘍細胞浮遊液を得、サトカラシン-Bと共に培養後、BrdUへの免疫蛍光染色法によって、照射時にQ細胞であったBrdU標識のない腫瘍細胞の微小核出現頻度(MNfr.)を得た。腫瘍内の全腫瘍(P+Q)細胞のMNfr.は、BrdUによる標識を行わなかった腫瘍から得た。他方、照射後17日後に肺転移結節数も計測した。
    【結果】
    (P+Q)細胞のガンマ線感受性はMTHよりもNAの併用によって、Q細胞のガンマ線感受性はNAよりもMTHの併用によって、より効率的に高められた。NAの併用もMTHの併用も両細胞分画の低酸素細胞分画(HF)を低下したが、特にNAは(P+Q)細胞のHFを、MTHはQ細胞のHFを効率的に低下した。無照射腫瘍では、NA投与が肺転移結節数を減少させ、腫瘍へのガンマ線照射後には、NA投与併用もMTH処置併用も照射後の肺転移結節数を減少させたが、特にNA投与併用が肺転移数を顕著に減少した。
    【結論】
    腫瘍内の酸素状態の操作処置は肺転移に影響する潜在力を有し、中でも急性HFを解除するNA投与は肺転移数を減少するためには有望と考えられた。
  • 森 美由紀, 桑原 義和, 志村 勉, 及川 利幸, 福本 基, 越後 成志, 福本 学
    セッションID: OB-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    (目的) 放射線療法は、口腔がんの治療において重要な選択肢の一つである。放射線療法で問題となるのは、放射線に耐性を示すがん細胞の増殖抑制と、治療後の再発防止である。近年、腫瘍内では血管新生がさかんであることが明らかになってきたことから、血管新生阻害薬と放射線療法の併用療法についての研究が進められている。本研究では、新規血管新生阻害薬であるRAD001が放射線耐性細胞に有効であるのかをxenograft modelを用いて解析した。
    (方法) ヒト口腔がん由来のSASと、その派生株であるSAS-Rを解析に用いた。SAS-Rは、標準的放射線療法である2Gy/dayのX線を照射し続けても増殖する臨床的放射線耐性細胞である。SASおよびSAS-Rをヌードマウスの背部皮下に移植してxenograft modelを作製した。腫瘍が一定の大きさに生着・増殖した時点から、RAD001の経口投与および2Gy/dayのX線を腫瘍部のみに部分照射した。また、in vitroにおいて血管新生因子であるVEGFの産生量をELISAで定量した。
    (結果) 組織学的解析から、SAS-R由来の腫瘍は、SAS由来の腫瘍よりも血管新生の盛んなことが分かった。RAD001単独投与またはX線単独照射よりも、RAD001とX線の併用療法が顕著な抗腫瘍効果を示した。また、併用療法においてSAS-R由来の腫瘍はSAS由来の腫瘍と比較して、早期に腫瘍の体積減少が認められた。さらにSAS-RのVEGFの産生能はSASと比較して高いことがわかった。
    (考察) 臨床的放射線耐性細胞では血管新生が盛んであることから、血管新生阻害薬とX線の併用療法が有効であることが示された。
  • 西田 直哉, 山盛 徹, 安井 博宣, 稲波 修
    セッションID: OB-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】多くの固形腫瘍において観察される代謝変化の一つに、ワールブルグ効果として知られる好気的解糖の亢進が挙げられる。ワールブルグ効果の特徴は、酸素の有無に関わらずミトコンドリア非依存的な解糖系を主要なエネルギー供給源とすることである。好気的解糖が促進される結果、ミトコンドリア機能が抑制され、アポトーシスに対する抵抗性が生じている可能性が考えられる。これまでの研究により、X線照射がミトコンドリア電子伝達系を活性化し、その結果、アポトーシスシグナルを活性化する事を見出した。本研究では、細胞内エネルギー代謝を修飾する事で、X線による細胞死を増強することが出来るのではないかと考え、実験を行った。
    【材料・方法】細胞はマウス口底部扁平上皮がん由来SCC VII細胞を用いた。薬剤として、解糖系の阻害剤である2-deoxy-D-glucose (2DG)及びpyruvate dehydrogenase kinase (PDK)の阻害剤であるdichroloacetate (DCA)を使用した。細胞を様々な濃度の2DGまたはDCAで処理後の細胞増殖死についてコロニー形成法により評価した。さらに、in vivo においてC3H/HeJ miceにSCC VII細胞を移植し、その移植腫瘍の成長に対する2DGとX線の併用効果について評価した。
    【結果】2DGまたはDCA存在下でX線照射を行うことで細胞増殖死が顕著に増強され、これらの薬剤がSCC VII細胞に対して有意なX線増感作用を持つ可能性が示唆された。また、in vivo においても2DGとX線の併用により明らかな腫瘍の成長抑制が観察された。2DGは解糖系を阻害し、一方、DCAはPDKを阻害する事によりpyruvate dehydrogenaseを活性化し、ピルビン酸からアセチルCoAの産生が亢進した結果、ミトコンドリア機能を活性化させた可能性が考えられる。従って、本実験結果は、腫瘍細胞におけるエネルギー代謝を修飾する事により放射線誘発細胞死を増強する事が出来る可能性を示唆している。
  • ~放射線治療効果の増感と阻害~
    原田 浩, 板坂 聡, 平岡 真寛
    セッションID: OB-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    HIF-1抑制剤が放射線治療の効果を増感することが報告されている。その一方で、HIF-1活性の阻害は腫瘍血管密度の減少を引き起こし、結果として放射線抵抗性の低酸素分画を増大させると考えられることから、HIF-1抑制剤に単純に期待を寄せるのは甚だ軽率であると考えられる。本研究では、HIF-1抑制剤(YC-1)と放射線の単独および併用治療後に移植腫瘍内のHIF-1活性をイメージングし、併用プロトコールを最適化することを試みた。γ線照射(5Gy)の6時間後、低酸素分画の再酸素化によりHIF-1活性がVHL依存的に減少した。その18時間後(γ線照射24時間後)にはHIF-1αタンパク質がPI3K/Akt/mTOR依存的に発現し、腫瘍内のHIF-1活性が亢進に転じた。このHIF-1の活性化をYC-1によって抑制した場合に、放射線単独治療と比較して有意な増殖抑制効果が認められた。一方、YC-1の投与後、腫瘍内HIF-1活性の低下によって腫瘍血管密度が減少し、結果として腫瘍内低酸素分画が増加した。このタイミングで放射線を照射した場合、放射線単独治療と比較して治療効果が減少した。これらの結果は、HIF-1抑制剤は投与するタイミングによって放射線治療効果を増感することもあれば阻害することもあり、最適な治療効果を得るためには、放射線照射によるHIF-1の活性化を抑制することが重要であることを示している。
放射線治療2
  • 澤尻 昌彦, 野村 雄二, 滝波 修一, 丸山 耕一, 谷本 啓二
    セッションID: OB-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    序言
    最近の生物学的分析の結果、medaka (メダカ)は、様々な疾患の遺伝的背景が推論される動物実験モデルとして注目されている。メダカに対する炭素イオンあるいはガンマ線放射線照射が咽頭歯骨における破骨細胞生成に及ぼす影響を調査した。同様に破骨細胞の誘導因子であるRANKLとその拮抗因子であるOPG調査した。
    材料、及び、方法
    メダカの全身に15, 30, 45 Gyの炭素粒子線または、ガンマ線を照射した。咽頭歯骨における破骨細胞生成は、組織学的に解析された。組織化学的分析は、破骨細胞のマーカーであるTRAP活性の活性を計測し、RANKL, OPG局在を分析するために免疫染色を行い、メチルグリーンで対向染色を行った。
    結果
    炭素粒子線あるいはガンマ線照射されたメダカのいずれの咽頭歯骨も、高いTRAP活性を示したが5日目まで、同線量照射されたものでは有意差は見られなかった。7日後ではコントロールに比べ炭素粒子線照射メダカのTARP活性が高く、ガンマ線照射メダカにおいては更に高い。RANKL の局在は、ガンマ線照射後の medaka の咽頭歯骨で歯牙に隣接する部位で発現が見られ、OPGは炭素粒子線照射されたmedakaにおける同様の歯牙に隣接する部位で認められた。
    結論
    破骨細胞のTRAP活性は、放射線照射と共に増加した。またガンマ線照射より炭素イオン放射線照射メダカの方が増強された。非照射、炭素イオン照射メダカよりも増加したことは、咽頭の骨の吸収を増加して、ガンマ,放射線照射が破骨細胞活性を刺激することを示唆する。炭素イオン放射線照射は、破骨細胞活性に対して異なる影響を与えることが考えられた。そこで、RANKL, OPGの発現を調査したところ、ガンマ線と炭素粒子線症では異なる結果が得られた。これから、炭素粒子線照射が破骨細胞成長因子の発現においてガンマ線とは異なることが示された。
  • 津田 晃久, 加藤 宝光, 藤森 亮, 鎌田 正, 辻井 博彦, 岡安 隆一, 上坂 充
    セッションID: OB-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    稀な骨腫瘍である脊索腫は主に外科療法か重粒子線治療を含む放射線治療もしくは二つの併用によって治療が行われているが、脊索腫のin vitro系での特質は明らかとなっていない。その理由は脊索腫細胞の入手が困難である事と、その細胞株の取り扱いが困難であることが挙げられる。本発表では、U-CH1由来の細胞をU-CH1-Nとしてin vitro系での以下の特性解析を行い、得られた結果をHeLa (子宮頸癌)と U87-MG(脳腫瘍細胞)の解析結果と比較を行った。
    1)細胞周期、DNA量
    HeLa, U87-MG, U-CH1-Nの倍化時間はそれぞれ18時間、24時間、3日となった。DNA量についてはU-CH1-Nが最も多く、4倍体に近い値を示し、異常な核型が見受けられた。
    2)放射線殺傷率
    X線感受性についてはU87-MG,U-CH1-NがHeLaよりも高くなり、重粒子線は3つの細胞いずれについてもX線照射よりも高い殺傷率を記録した。10%生存値で評価した生物学的効果(RBE)は、U87-MGとHeLaが70keV/μmの炭素線を用いると約2.5、200keV/μmの鉄線を用いると約3であったのに対し、U-CH1-Nは炭素線で2.5、鉄線で4を記録した。更にU-CH1-Nについてネオン線、アルゴン線、シリコン線を用いてRBE曲線を描くと、ピーク値は150keV/μmで約5.3を記録した。
    3)薬剤への耐性
    次に様々なDNA損傷を作成する4つの薬剤を用いて特性解析を行ったところ、カンプトテシン、マイトマイシンC、シスプラチンはU-CH1-Nに強い細胞毒性を示さなかったのに対し、DNA鎖切断を生成するブレオマイシンは強い細胞毒性を示した。
    本発表のデータが示した脊索腫起源細胞を用いた細胞生存率は世界初であり、また、脊索腫治療に重粒子線が適している事を示している。
  • 道川 祐市, 菅 智, 石川 敦子, 林 英樹, 岡 晃, 猪子 英俊, 岩川 眞由美, 今井 高志
    セッションID: OB-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    Objectives: Whole genome association study using microsatellite markers has been carried out to search for genes associating with acute adverse effects after radiotherapy for cancer patients.
    Materials and Methods: A total of 360 patients with head and neck, lung, esophageous, breast and cervical cancers were recruited in this study. They were divided into following two groups by the severity of the adverse effects graded by NCICTC version 2 within 3 months after completion of radiotherapy; (1) High Grade Group (HGG) who developed grade 3 or more adverse effect and (2) Low Grade Group (LGG) who developed grade 1 or less adverse effect on any of the endpoints. Each group consisted of 180 patients. Genomic DNA was individually extracted from blood cells of these patients. Two-round scanning of microsatellite markers was conducted using two pools of genomic DNA made of 90 non-overlapping patients in each group.
    Results and Conclusions: A total of 21,000 microsatellite markers were scanned using one of the pooled DNA of each group respectively in the first round yielding 3,052 markers with significantly different estimated frequency between the two groups (P-value < 0.05). Reproducibility of these 3052 markers was investigated by the second round scan using the remaining pooled DNA, yielding 159 positive markers (P-value < 0.05). Among them, ten markers locating at the distance within 100 kb from the transcription initiation site of the nearest gene were selected for further individual typing of the all 360 patients. A significant association (P-value = 1.24x105) was displayed by a marker locating at 1,500 bp upstream of Semaphorin 3A gene. Knocking down of this gene expression by siRNA treatment in a human fibroblast culture provided suppression of radiation sensitivity. Semaphorin 3A gene has been reported to encode a secreted protein with a range of functional processes including regulation of axon guidance, cell survival, motility, immune responses, and angiogenesis. It is, thus reasonable to consider this gene to influence adverse effects in several types of cancer patients.
  • 崔 星
    セッションID: OB-8
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    ここ十数年、癌幹細胞概念が提唱され、大腸癌、肝癌、メラノーマなど多くの腫瘍についてその存在が確認され、再発や転移、化学療法や放射線抵抗性と強く関与することが報告されている。高LET重粒子線はX線や抗癌剤抵抗性の腺癌系に非常に有効とされる。しかし、重粒子線照射による癌幹細胞への影響についてはまったく解明なされていない。今回、ヒト大腸癌由来HCT116細胞のヌードマウス移植腫瘍に対し、炭素線照射(290MeV/u、 50keV/um、SOBP中心)とX線照射による癌幹細胞関連タンパクの発現への影響及び腫瘍増殖遅延、治癒との関連について検討した。X線15、30 Gy照射ではそれぞれ5、28日間の腫瘍増殖遅延が認められ、60 Gyでは腫瘍の治癒が認められた。一方、炭素線5、15 Gy照射ではそれぞれ12、82日間の腫瘍増殖遅延、30 Gy照射では腫瘍の治癒が認められた。腫瘍増殖遅延曲線からX線に対する炭素線のRBEは3.82と算出された。照射1ヶ月後の病理所見では、炭素線照射の移植腫瘍はX線照射のものに比べがん細胞の腺管様構造が完全に破壊され、繊維化、空洞化が顕著であり、血管新生もより乏しくなっていることが認められた。免疫組織化学染色所見では、癌幹細胞関連マーカーCD133、EpCAM、血管新生関連因子VEGF、HIF-1aやなどのタンパク発現はX線照射により増強されるが炭素線照射により有意に抑制された。以上より、炭素線はX線照射に比べ血管新生抑制効果が強く、癌幹細胞をターゲットとしてより有効に癌細胞を死滅させることによって、腫瘍制御率が高いことが示唆された。
放射線治療3
  • 高田 真志, 山田 裕, 須田 充, 萩原 拓也, 今関 等
    セッションID: OB-9
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    ラットの肺のみに局所的に高速中性子を照射可能な照射場を放医研中性子照射場(NASBEE)に設置した。ラットの肺(スリット幅 4cm)にのみ中性子を0.05Gy/min、照射野外には10%以下で照射可能である。
    本研究では、
    1.局所中性子照射場のモンテカルロシュミレーションによる最適化
    2.電離箱による中性子とガンマ線の照射線量計測
    3.中性子の2次元空間分布計測
    4.LET検出器を用いた中性子とガンマ線のそれぞれのLET分布の計測
    5.その吸収線量計測
    6.ラット新生仔肺上皮細胞を用いたRBE評価
    を実施した。
    中性子を局部照射するための中性子ビーム形成はLiF入りのポリエチレンと鉄を組み合わせたものである。コリメーター背後の中性子の線量は7%以下に抑えることができた。中性子ビームの物理計測からのRBEは3.3であった。
    現在、コリメーターをSPF照射室に設置し、ラットへの中性子照射を行い、発ガン実験を開始した。
    この照射方法は、中性子によるある部位からの発ガンを調べることができるユニークな照射場である。
  • .OHラジカル収量~
    山下 真一, 前山 拓哉, フントウィッツ デイビッド, 翠川 匡道, 岡 壽崇, バルダッキーノ ジェハー, 田口 光正, 木村 敦, 工 ...
    セッションID: OB-10
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線の間接効果の詳細を理解していく上で水分解生成物の収量はトラック構造の解明などにおいて重要な意味を有する。これまで治療用重粒子線を用いた水の放射線分解生成物のうち主要な水和電子、ヒドロキシルラジカル(.OH)、過酸化水素の収量測定を行ってきた。Coumarin-3-carboxylic acid (CCA)を.OHの捕捉剤として用い、反応後生成される安定なケイ光物質7OH-CCAを定量することで.OH収量を高感度に測定できる手法の開発も行ってきた。本研究では実際の治療でガン患部に重ね合わされるブラッグピーク付近で.OH収量がどのようになっているか実験的に明らかにすることを目指した。
    照射には放医研HIMACからのC290および135、He150、Ar500MeV/uを用い、試料溶液にブラッグピーク付近が重なるようポリマー製エネルギー吸収材の厚さを制御して上流に挿入し、照射後HPLCケイ光測定によりケイ光体生成量を定量し、.OH収量を決定した。なお試料溶液には26および1.5mMのCCA水溶液をリン酸緩衝液でpH6.8に調製したものを用いた。
    どの重粒子線でもブラッグピーク付近で.OH収量が極小値をとること、ブラッグピーク直後で収量が数倍に跳ね上がることなどが明らかとなった。高エネルギー重粒子線のブラッグピーク付近では核破砕により生成した加速イオンよりも軽い粒子の寄与が大きくなることが知られているため、今回得られた測定結果をHIBRACやPHITSといった核破砕シミュレーションと合わせて現在検討を進め、.OH収量に対する核破砕粒子の寄与を明らかにしているところである。
  • 岡 壽崇, 山下 真一, 翠川 匡道, 佐伯 誠一, 室屋 裕佐, 林 銘章, 上林 將人, 安西 和紀, 工藤 久明, 勝村 庸介
    セッションID: OB-11
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    代謝で発生する活性酸素種と生体内障害との因果関係の解明においてはOHやO2-・といった活性酸素種に関するフリーラジカルの挙動を明らかにする必要があり、これらのフリーラジカルの選択的検出および定量が不可欠である。近年開発された新しいスピントラップ剤 CYPMPO(5-(2,2-dimethyl-1,3-propoxy cyclophosphoryl)-5-methyl-1- pyrroline N-oxide)はこれらのラジカルを捕捉しスピン付加体を形成するが、ここで得られるOH付加体とO2-・付加体はESR測定において異なる信号として観測が可能である。そのため、CYPMPOによってOHやO2-・を選択的に定量できると期待されるが、CYPMPOのフリーラジカルに対する反応性についてはまだ十分な精度で定量的に評価されていない。これらのフリーラジカルは水の放射線分解においても発生し、その挙動を理解することは放射線治療の間接効果を検討する上でも役立つ。そこで本研究では高時間分解のパルスラジオリシス法を用い、主要な水分解ラジカルである水和電子(e-aq)やOHに対するCYPMPOの反応性を調べ、標準的なスピントラップ剤であるDMPO(5,5-Dimethyl-1-pyrroline N-oxide)と比較した。さらに、ガンマ線照射によって形成したスピン付加体をESR測定で調べることにより、活性酸素由来のフリーラジカルの挙動を検討した。
  • 端 邦樹, 勝村 庸介, 林 銘章, 室屋 裕佐, 付 海英, 山下 真一, 工藤 久明, 中川 恵一, 中川 秀彦
    セッションID: OB-12
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    エダラボン(Radicut®, 3-methyl-1-phenyl-2-pyrazolin-5-one)は脳保護剤として2001年より日本で臨床利用されているフリーラジカル捕捉剤である。その高いラジカル捕捉作用から近年では放射線防護剤としての利用も検討されている。臨床における関心から抗酸化作用を調べた研究は多く存在するが、その反応性に関する研究については少ない。過酸化ラジカルとの反応や酸化反応を引き起こす酵素を使った実験結果が報告されているに過ぎず、OHラジカルとの反応性を調べた報告はほとんどない。OHラジカルは放射線による間接効果の主な原因であると考えられており、その反応性を評価することは重要である。本研究では、エダラボンとOHラジカルとの反応メカニズムを明らかにすることを目的とし、パルスラジオリシス法を用いて、エダラボンとエダラボンのフェニル基をメチル基で置換した1,3-dimethyl-2-pyrazolin-5-oneについてOHラジカルや他の酸化性ラジカルとの反応性を評価した。結果、エダラボンの反応においてOHラジカルは他の酸化性ラジカルとは異なる中間体を生成することが明らかとなった。一方、1,3-dimethyl-2-pyrazolin-5-oneの反応においてはOHと他の酸化性ラジカルとで同一の中間体を生成しており、エダラボンとOHラジカルとの反応は、フェニル基が重要な役割を担っていることが示された。従来、エダラボンの酸化性ラジカルとの反応性のメカニズムは電子移動反応や水素引き抜き反応であると考えられていたが、OHラジカルとの反応についてはフェニル基への付加反応が主たる反応であると考えられた。
発がん1
  • 今村 智子, 柿沼 志津子, 上西 睦美, 岡本 美恵子, 高畠 貴志, 山内 一己, 今岡 達彦, 西村 まゆみ, 室伏 きみ子, 島田 ...
    セッションID: OB-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、発達期における放射線の影響について注目されているが、詳細な報告は少ない。そこで我々は、発達期および成体期における放射線被ばく時年齢依存性について、マウス腸管のアポトーシスを指標に比較し、発達期における放射線の急性影響について検討した。また年齢依存性に関わる候補因子として、p53およびp21の発現を調べた。
    【材料と方法】出生直後(1日齢)、哺乳期(2週齢)および成体期(7週齢)においてX線2Gyを全身照射し、照射後3、6、12、24、48、72時間における小腸ならびに大腸のアポトーシスをactive caspase-3抗体染色により判定した。各群ともに雌雄3匹ずつ用い、アポトーシス頻度を測定した。次に、各齢照射3時間後の腸管におけるp53、p21の発現について免疫組織化学的に検討した。
    【結果】成体期および哺乳期照射群(小腸)におけるアポトーシス頻度は照射3-6時間後に最大であり、ピーク値は成体期のほうが哺乳期群よりも有意に高かった。大腸におけるアポトーシスの経時的パターンは小腸と同様であったが、その頻度は小腸よりも低い傾向がみられた。一方、出生直後照射群では、小腸では6時間以降、大腸では24時間以降に初めてアポトーシスがみられたが、頻度は著しく低かった。次に、照射3時間後のp53およびp21の発現を調べた結果、アポトーシス頻度の高かった成体期ではp53の発現が高く、p21は照射前と比べて大きな変化は観察されなかった。しかし、アポトーシス頻度の低かった哺乳期・生後直後期では、p53の発現は成体期と同様に高かったが、p21は成体期とは異なり、照射前に比べて高い発現が観察された。以上より、マウス腸管アポトーシスは被ばく時年齢に依存性していることが明らかになった。
  • 柿沼 志津子, 今村 智子, 上西 睦美, 鬼頭 靖司, 太田 有紀, 高畠 貴志, 山内 一己, 今岡 達彦, 西村 まゆみ, 室伏 きみ ...
    セッションID: OB-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子の欠損は、複製時に生じるミスマッチによってがん関連遺伝子にフレームシフトや点突然変異を蓄積する。このMMR遺伝子のヘテロ欠損は、ヒトの遺伝性非腺腫症性大腸癌の原因であり、TGFBR2BAXなどの標的遺伝子内の一塩基リピート配列にフレームシフト変異を生じさせることが報告されている。一方、MMR遺伝子のホモ欠損は小児のTまたはB細胞白血病を発症するが、その標的遺伝子はまだ明らかではない。Mlh1-/-マウスは発がん処理なしで10週齢からTリンパ腫を、15週齢から腸管腫瘍を自然発症する。本研究では、腸管腫瘍発生に対する放射線の被ばく時年齢依存性および腫瘍の特徴について解析した。
    腸管腫瘍は、2週齢または7週齢のMlh1+/+Mlh1+/-Mlh1-/- マウスにX線2Gyを全身照射後、10週齢においてデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)(1%)を1週間飲水投与して誘発した。Tリンパ腫の発生を抑制するため、すべてのマウスは4週齢で胸腺摘除した。25週齢Mlh1-/-における腫瘍の発生率は、放射線照射のみ(2週齢照射10%、7週齢照射0%)とDSS投与のみ(40%)に比べて両者の複合曝露で増加した(70%、50%)。2週齢の照射は7週齢照射に比べてがんの個数を増加させる傾向が認められた。また、放射線照射後の腸管細胞におけるアポトーシス感受性は、2週齢より7週齢で高く(Imamura et al., submitted)、これが発がんに関与する可能性が示唆された。Mlh1+/+マウスでの腫瘍の発生は認められなかった。発生した腫瘍の病理解析およびTgfbr2、Trp53、Ctnnb1などの発現(免疫染色)ならびに遺伝子変異についても解析中である。
  • 岡崎 龍史, 馬渕 洋, 吉田 安宏, 鈴木 禎史, 丁 寧, 道川 祐市, 松崎 有未, 大津山 彰, 法村 俊之
    セッションID: OB-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】我々はこれまでに、T Cell Receptor変異頻度を指標に、若年時の放射線被曝が遅延型突然変異誘発し、そこにはp53遺伝子異常が関与すると報告してきた。今回、若年時の照射による寿命への影響及びその機構を、骨髄内の骨髄球数とリンパ球数、及び細胞周期の経時的変化、脾臓細胞の増殖能の経時的変化、さらにp53及びその関連遺伝子のタンパク発現について解析した。【方法】p53(+/-)マウス及びp53(+/+)マウスを用い、8週齢で3Gy137Csγ線を照射した(照射群)。p53(+/-)マウスは24週齢及び56週齢(老齢期)にて、p53(+/+)マウスは40週齢及び72週齢(老齢期)にて屠殺し、大腿骨、脛骨及び脾臓を採取した。大腿骨及び脛骨の骨髄より骨髄球とリンパ球の数、及び細胞周期について検討した。また脾臓細胞のConcanavalin A刺激による細胞増殖能を解析した。p53(+/+)マウスを72週齢にて再度3Gy照射し、脾臓の細胞質及び核内のp53、p21及びMDM2タンパク発現の時間的経過をウエスタンブロット法で調べた。CD3-CD4+細胞におけるp53 alleleの経時的変化をPCR法にて解析した。【結果】照射群の寿命は非照射群に比し短縮していた。両マウスとも老齢期において、非照射群に対し照射群では有意なリンパ球数の減少をみた。p53(+/-)マウスでは、照射群の老齢期にてリンパ球のS期及びG2/M期の割合が増大し、細胞周期の亢進を示した。p53(+/+)マウスでは、リンパ球の細胞増殖能は加齢とともに減少し、照射群ではさらに非照射群に比べ減少していた。また72週齢における各タンパク発現は、照射群では非照射群に比べ、遅れて発現する傾向がみられた。照射群の老齢マウスでは、p53 alleleが顕著に減少していた。【考察】放射線被ばくは、加齢を促進すると考えられる。すなわち、免疫機構を低下させ、p53発現遅延やp53 alleleの減少を起こし、結果的に短命になると考えられた。
放射線応答・シグナル伝達
  • 菓子野 元郎, 熊谷 純, 劉 勇, 鈴木 実, 木梨 友子, 増永 慎一郎, 渡邉 正己, 小野 公二
    セッションID: OB-16
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】低線量放射線の生物影響は、DNAを対象とした標的効果の影響解析のみならず、バイスタンダー効果や遅延性影響などの非標的効果による影響も解明されるべきである。我々は照射細胞から分泌される因子を介したバイスタンダー効果の機構解明を目指し、ラジカルの誘導と突然変異誘発に焦点を絞り解析を行った。
    【方法】細胞は、CHO細胞を用いた。照射細胞から放出される分泌因子による影響を調べるため、照射細胞の培養上清を照射24時間後に回収し、別に用意した非照射細胞に24時間処理した。培養上清処理細胞におけるラジカルの誘導レベルは、ESR法により調べ、細胞の突然変異誘発頻度は、HPRT遺伝子座位における突然変異について6チオグアニン耐性を指標にして調べた。ラジカルスカベンジャーとしてはビタミンCを用い、液性因子を介したバイスタンダー効果の抑制効果について検討した。
    【結果】4Gyおよび0.2GyのX線照射細胞由来の分泌因子を含む培養上清を処理した細胞では、HPRT遺伝子の突然変異頻度が対照細胞群に比べ有意に高いことがわかった。このことから照射細胞から分泌される何らかの因子は、突然変異を誘発していることが明らかとなった。また、照射細胞由来の培養上清を処理した細胞を回収し、ESR法で細胞内のラジカル生成を調べたところ、遅発性誘発長寿命ラジカル(SRLLRS)が増えていることがわかった。このSRLLRSは、照射細胞においても検出され、照射数時間後から徐々にレベルが増加するものであった。SRLLRSはビタミンCにより消失したが、同様の処理により突然変異誘発も抑制された。
    【結論】放射線による突然変異生成には、活性酸素種とは動態の異なる遅発性誘発長寿命ラジカルが持続的に関与する可能性が示唆された。このラジカル種は、照射細胞から分泌される因子を介したバイスタンダー効果でも生成し、バイスタンダー細胞の突然変異生成に関わる可能性が示唆された。
  • 熊谷 純, 三浦 和人, 見置 高士, 菓子野 元郎, 渡邉 正己
    セッションID: OB-17
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    バイスタンダー生物影響は照射細胞から分泌されたバイスタンダー因子による影響に限定でき、放射線によって生成した活性酸素の影響を省くことができるため、放射線の影響機構を整理しやすい。我々は直接照射細胞中に照射後数時間かけて生成してくる遅発性長寿命ラジカル(SRLLRs)の直接ESR観測に成功している。このラジカルはアスコルビン酸を照射後に処理すると生成せず、点突然変異も抑制されることを見出している。本研究では培地経由バイスタンダーの実験系を選び、CHO細胞の突然変異とSRLLRsのレベルとの関係を調べた。γ線照射(1 Gy)されたCHO細胞(ドナー細胞)の入ったフラスコの培地を、照射後24時間後に別の正常なCHO細胞(バイスタンダー細胞)を植え込んであるフラスコに移した。培地移動してから24時間後にバイスタンダー細胞を回収してESRチューブに詰め、77 Kにて直接観測した。その結果、バイスタンダー細胞中のSRLLRsレベルは平均して20%増加した。ドナー細胞なしで培地のみを照射してレシピエント細胞に24時間晒しても、SRLLRsの増加は見られなかった。従って、SRLLRsの増加はドナー細胞から培地に溶け出したバイスタンダー因子によるものである。HPRT-の点突然変異頻度も4倍に増加した。また、培地移動と同時にアスコルビン酸(1 mM)を処理すると、SRLLRsレベルは対照群とほぼ同じくらいとなり、点突然変異頻度も有意に下がった。ドナー細胞にミトコンドリアの電子伝達阻害剤を加えると、培地移動によるSRLLRsの増加は見られなかった。以上の結果より、培地中のバイスタンダー因子はドナー細胞のミトコンドリアの機能不全と関連して生成し、バイスタンダー細胞中にSRLLRsを生成するものの、アスコルビン酸はそれを消去できることがわかった。また、SRLLRsレベルの変化と点突然変異頻度との間に相関が見られることから、SRLLRsが点突然変異誘発に関与していると考えられる。
  • 具 然和, 石田 寅夫, 竹内 由樹
    セッションID: OB-18
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    研究目的:放射線による細胞性免疫低下は、知れているが、液性免疫の影響のメカニズムについては詳しく研究されていない。そこで、本研究では、放射線照射後の血球細胞及びIL-2, IL-6, IL-12の測定を行うことにより放射線による細胞性免疫、液性免疫への影響を検討することを目的とした。
    研究方法:control群、0.5Gy群、1Gy群、2Gy群に分類した。血球数(白血球数、リンパ球数、単球数、顆粒球数)を照射前日から30日後に測定した。得られた血清より、Endogen Mouse IL-2 ELISA Kit、Endogen Mouse IL-6 ELISA Kit、Endogen Mouse Total IL-12 ELISA Kitを使用して測定を行った。
    研究結果:リンパ球数において、0.5Gy照射群では、24時間後に有意な減少が認められた。1Gy照射群では、3時間後、24時間後、3日後に有意な減少が認められた。2Gy照射群では、すべての測定日において有意な減少が認められた。IL-2では、Control群では照射前日と比較して、照射15日後に24.6%であったのに対し、0.5Gy照射群では425.6%、1Gy照射群では57.9%、2Gy照射群では199.6%となった。また、照射30日後では、control群で96.6%であったのに対し、0.5Gy照射群では383.8%、1Gy照射群では158.7%、2Gy照射群では170.8%となった。IL-6では、0.5Gy照射群では、24時間後、3日後、7日後に有意な減少が認められた。1Gy照射群では、7日後、30日後に有意な減少が認められた。2Gy照射群では、24時間後に有意な減少が認められた。IL-12では、0.5Gy照射群では、30日後に有意な減少が認められた。2Gy照射群では、3日後、15日後、30日後に有意な減少が認められた。
    結論:本研究により,放射線の影響によりリンパ球等の血球成分は早期に影響を受ける。IL-2は0.5Gyという低線量の放射線では、放射線ホルミシスにより産生が増強する傾向がある。IL-6は、放射線の影響により、産生量が低下する。しかし、0.5GyではIL-6の産生量は早期に上昇する傾向がある。4)IL-12は放射線により減少する傾向であるが、低線量放射線ではむしろ、産生量が増加する傾向がある。以上より、放射線を被ばくした早期では液性免疫が優位に働く傾向があり、時間とともに細胞性免疫が優位に働く傾向があることが認められた。
  • 大塚 健介
    セッションID: OB-19
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    我々はこれまでにマウス個体において観察される放射線適応応答のうち、0.5Gyの事前照射によって2週間後の骨髄死を免れる現象(米澤効果)の機構に関する研究を進め、個体の生存と血球の回復動態が相関すること、そして血球の中でも骨髄球系の回復誘導が重要であることを報告してきた。また、それら骨髄球系細胞の増殖を支持するサイトカインのひとつである顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の発現誘導が事前照射したマウスでより早く生じたことから、G-CSFの誘導が個体の適応応答で重要な役割を果たす因子であると考えた。そこで、事前照射をせずにG-CSFの投与のみをすることによってマウス個体の高線量照射後の生存率におよぼす効果を評価した。本大会では、C57BL/6 メスマウスに高線量(6.5 ~ 8 Gy)を照射し、高線量照射の翌日にG-CSFを尾静脈より投与して30日間の生存率を調べた結果を報告する。
アポトーシス
  • 池畑 広伸, 小野 哲也
    セッションID: OB-20
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【背景】マウス皮膚にUVBを照射すると線量に依存して突然変異が誘発され変異頻度が上昇するが、表皮では一定の線量を超えると変異頻度の上昇が抑えられそれ以上あがらなくなる。真皮ではこのような現象は認められない。我々はこの表皮特異的な突然変異誘発の抑制応答を「変異誘発抑制」(mutation induction suppression, MIS)と名付け、その研究を進めてきた。MISは太陽光UVやUVAなどでも認められる。今回MISの発生機構の解明を目指し、MIS発動に十分なUVB線量を照射後、皮膚に誘発されるapoptosisを経時的に解析したので報告する。【方法】マウスの背部を剃毛し、UVBランプ(東芝FL20S.E)で1 kJ/m2を照射した。照射後経時的に皮膚サンプルを採取し、ホルマリン固定後パラフィン切片を作成した。HE染色により皮膚組織形態の変化を観察し、活性化カスパーゼ3特異的免疫染色によりapoptosis誘発動態を観察した。またゲノム傷害特異的apoptosisに関わるとされるp53の欠損マウスでもMIS誘発動態について解析を試みた。【結果】MIS発動UVB線量の照射により、既存表皮層で全体的apoptosisが発生し、角化亢進と相まって旧表皮層全体の排除が誘導された。同時に過形成(hyperplasia)が誘導され新生表皮層に交代することが明らかとなった。p53ホモ欠損マウスでもMIS応答が確認され、遅延は認められるものの同様に全体的apoptosisにより表皮更新が誘導された。【考察】UVB照射後のp53非依存的な全体的apoptosisと過形成の誘導による表皮層の更新という皮膚のゲノム防衛応答機構が明らかとなった。新生表皮層の角化細胞は既存表皮層より深い部位(毛包等)から移動・増殖してきたものと考えられ、これによりMIS現象も説明できる。
  • 林 幸子, 櫻井 宏明, 畑下 昌範, 松本 英樹
    セッションID: OB-21
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    【目的】転写因子NF-κB活性を阻止するとされているセスキテルペン類パルテノライドの温熱増感効果のメカニズムについてwtp53遺伝子を有するヒト肺癌A549細胞を用いて解析した。パルテノライドはNF-κBシグナル経路においてp53-及びhsp72-independentにアポトーシス誘導することを明らかにした。フローサイトメトリーにおける画分によるアポトーシス誘導率はパルテノライド、温熱の併用処理により各々の単独に比べ有意な増加が見られた。パルテノライドの温熱増感効果についてNF-κB活性の動態および細胞周期応答を解析した。
    【材料と方法】パルテノライドは培養液中に溶かし最終濃度を0.02µMとし実験に供した。A549細胞の温熱・薬剤に対する感受性はコロニー形成法により評価した。同処理後のp53、hsp72およびNF-κBの動態評価はWestern blot法により行った。アポトーシス誘導量の評価はFlow Cytometry解析により行った。
    【結果】Hydroxyureaにより同調されたA549細胞のパルテノライドに対する細胞周期位相応答は温熱と同様、S期に高感受性であった。フローサイトメトリーにおけるアポトーシスの画分はパルテノライド及び温熱の併用処理により各々単独処理に比べ誘導率が有意に増加した。またG2/M期の増加、G0/G1期の減少が見られたことからCell Cycle Arrestの誘導が明らかになった。NF-κB活性の阻害効果はパルテノライドにより認められず温熱に見られ、更に併用処理において増強された。
    【結語】パルテノライドと温熱との併用処理による抗腫瘍効果はNF-κB活性の阻害によるがパルテノライド単独ではその効果は認められずむしろ温熱によって認められた。パルテノライドは温熱によるNF-κB活性の阻害効果を増強し、細胞をアポトーシスやアレストに誘導することで増殖を阻止することが明らかになった。
  • 中島 徹夫, 王 冰, 根井 充
    セッションID: OB-22
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線による血管系への影響としてアテローム性動脈硬化症との関連が指摘されている。しかしながらその機構は未だ明らかではない。アテローム性動脈硬化症の発症・進展には多くの因子が関係しているが、血管平滑筋細胞のアポトーシスもそのひとつとして考えられている。アテローム性動脈硬化症の修飾因子としては酸化ストレス、あるいは酸化型LDL(低密度リポタンパク質)などアポトーシス誘導能を持つものが多い。しかしながら動脈硬化症の発症と進展において血管平滑筋細胞のアポトーシスの関与について放射線影響との関連からの解析は行なわれていない。そこで我々はマウス血管平滑筋細胞を用いて、動脈硬化関連因子との共存条件下における放射線誘導性アポトーシスについて評価した。
    (実験方法)
    5週令のC57BL/6J雄マウスを用いてコラゲナーゼ消化法により血管平滑筋組織を採取、そこから培養細胞を得た。コンフルエントの状態になった細胞を0.1%血清存在下に置いて増殖抑制したものを実験に使用した。アポトーシスはHoechst33342染色による蛍光顕微鏡下観察、あるいはcaspase3/7の活性測定を基に評価した。H2O2は照射30分前にまた酸化型LDLは1時間前に導入してから照射を行なった。X線照射は1.2 Gy/minで10Gyの照射を行ない、照射後24時間後でのアポトーシスを評価した。
    (結果と考察)
    血管平滑筋細胞におけるアポトーシスは放射線単独ではあまり生じないが、H2O2の存在下においても放射線アポトーシス誘導に影響はみられない。しかしながら酸化型LDLとの共存下では有意に相乗的増加がみられた。さらに酸化型LDLと放射線の共存下においてはアポトーシスの増幅が認められるがLDLでは検出されなかった。これらのことからアポトーシスが放射線と酸化型LDLの組み合わせで増幅誘導されることが明らかになった。本誘導現象がどのような機構で生じうるのかを各種キナーゼ阻害剤を用いた結果を含め報告、議論する。
  • ゲレルチュルン アリウンゲレル, 洪 正善, 榮 武二, 盛武 敬, 坪井 康次
    セッションID: OB-23
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】陽子線の生物学的効果比は1.1とされているが、まだ多くの不確実性(uncertainty)が存在しており、特に高エネルギー陽子線とエックス線による生物学的効果の違いはまだ十分明らかになっていない。そこで本研究では、治療用の高エネルギー陽子線とX線によって起きる、(1)DNA二本鎖切断、(2)アポトーシス誘導、(3)コロニー形成抑制効果を検討した。
    【対象、方法】ヒト脳腫瘍培養細胞株ONS 76とヒトT細胞白血病細胞株MOLT4を対象とし、照射には200MeVの陽子線と10MVのX線を用いた。照射後に起きるDNA二本鎖切断は、 -H2AXを免疫組織化学染色し画像解析にて定量化した。また、細胞死の評価は、AnnexinV-FITCとPIの二重染色法を行い、フローサイトメトリーにて解析した。さらに、コロニー形成アッセイを行い、生存曲線をLQモデルにて解析した。コロニー形成アッセイと細胞死の検出では、培養フラスコを水中10 cmの深さに沈めて照射し、免疫組織化学染織ではチャンバースライドを使いボーラスを用いて室温にて照射した。
    【結果、考察】0.5-2Gyの範囲では -H2AXフォーカスは線量依存性に増加し照射後30分でピークとなりその後漸減した。また、同じ線量の照射で、陽子線はX線の1.14 – 1.436倍の -H2AXフォーカスを形成した。アポトーシスは陽子線照射後の方がX線より早く出現し、8Gyの照射では陽子線によるアポトーシスは12時間でピークとなったがX線では20時間でもピークは観察されなかった。また、陽子線はX線の1.01 – 1.52倍のPI陽性細胞死を誘導することが明らかになった。コロニー形成アッセイでは 10% S/Soにおける陽子線のX線に対する生物学的効果比は1.067であった。
    以上の結果から、増殖能を評価するコロニー形性アッセイよりも直接的に細胞損傷を評価する方法では陽子線の細胞障害性はX線よりも有意に高いことが明らかになり、その損傷メカニズムは異なることが示唆された。
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