日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第52回大会
選択された号の論文の284件中1~50を表示しています
特別講演1
  • 林 真
    セッションID: SL-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、
    正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。 寺田寅彦

    日本環境変異原学会と放射線影響学会の接点は、もののこわがり方ではないかと考えます。ともに閾値についての考え方、と言うかこだわりがあるのではないか。閾値がないという考えから抜け出せず、化学物質の安全性評価においてはハザードの同定が主体となってきた。最近になって、化学物質の安全性評価がハザードベースから脱却してリスクベースでの評価に変わりつつある。日本における化学物質を管理する化審法が改定され、この方向性が明確に打ち出された。遺伝毒性(変異原性より広い範囲を包含する用語として用いる)も例外ではない。これまでのハザードの検出系としての遺伝毒性試験から、リスクを考える試験へ、また、リスクを考えるための結果の解釈へとの変遷を遂げているのが現状である。遺伝毒性の特性として閾値を設定することが出来ない、との考えは未だに根強く、遺伝毒性を誘発のメカニズムとするがん原性物質、特に、DNAに直接作用し、遺伝毒性を発現する物質に関しては安全量、許容量を設定できない、と評価されているのが現状である。ただし、最近ではDNAを直接標的としない変異原、たとえば分裂装置に異常を引き起こして染色体の数的異常をもたらすものや、トポイソメラーゼ阻害剤等、タンパク質を標的とするようなものについては閾値が存在するものとして評価がなされている。しかし、我々の体を含め、自然界には多くの遺伝子突然変異原性を示す物質があり、DNAを直接標的とする遺伝毒性物質についても、少なくとも見かけ上の閾値(practical threshold)を認める方向の議論が盛んになされるようになってきた。本年の8月にスイスのバーセルで開催された遺伝毒性試験に関する国祭ワークショップでも中心的な課題として取り上げられ、議論が戦わされた。根強い反対者はあるものの、全体の流れとしては、閾値を考えざるを得ないと言う方向に向かっている。ここでは、化学物質のリスク評価に絡めて閾値議論を問題提起したい。
特別講演2
  • マルビヒル ジョン J.
    セッションID: SL-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    Despite expectations, no evidence of germ cell mutation, seen as genetic disease and adverse pregnancy outcomes (APO), has been documented in children of survivors from atomic bombs in Japan nor in offspring of survivors of childhood and adolescent cancer. Continuing basic research and animal model assesses the risk of genetic disease in 23,889 children born to 14,519 survivors of cancer diagnosed up to the age of 35 years in Denmark and Finland through population-based record linkage. Comparison children include those born prior to cancer diagnosis (n=15,740) and 98,465 children of 45,037 siblings of cancer survivors. Genetic disease and APOs are being evaluated further with dose-response analyses over categories of radiation dose and administered chemotherapy. Together with the two US studies, these findings in population-based studies in two countries are reassuring that the children of cancer survivors are not at high risk of genetic disease apart from the known genetics or familial predispositions.
特別企画
広島からのメッセージ
  • 坪井 直
    セッションID: SL-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    1. 仰天の原爆に遭遇 ―過去―
    当時私は20歳の学生で、爆心地から約1kmの街路上で被爆した。その瞬間10mも吹き飛ばされて気を失った。意識が蘇ったとき、周囲は真っ暗だった。ほとんど全身を火傷し、僅かに残った衣服もボロボロのまま、家屋の全壊や火の海となった街中をさまよい続けた。阿鼻叫喚、死臭漂う「この世の地獄」を見た。広島はその時死んだ。私は1週間後、仮の避難所で意識不明となり、その後約40日間の出来事は一切記憶にない。
    今まで11回の入退院を繰り返し、危篤状態も3度あり死を待つばかりだった。病歴は、慢性再生不良貧血症(現在)、虚血性心疾患(現在)、大腸がん、ヘルペス、白内障、前立腺がん(現在)など。毎日6種類の薬剤と2週間に1度の点滴治療をしている。精神的な不安・苦しみが深く潜行している被爆者も多い。
    2. かけがえのない命 ―現在―
    各分野の医師の方々や、識者、先輩、知人、友人、家族の配慮と支えを受け、体調を考えながら国の内外で「核兵器廃絶」を基調にしながら平和活動を行っている。北海道を始め、各地での集会に招待され、主催者も自治体、学校、労組、協同組合、若者グループ、女性グループなどで老若男女さまざまな交流をする。
    また、海外での活動にも微力を尽くしている。NGO、国際会議、平和市民団体集会、核実験抗議等に参加、原爆展とともに交流を広めている。
    3. 恒久平和確立の悲願 ―未来―
    世界の核被害者の心身にわたる諸問題解決に貢献している放影研の研究がなお一層期待される。
    核兵器の廃棄か、核兵器拡大か。地球は繁栄か、滅亡か、まさに岐路に立っている。
    私たちは、歴史や文化、民族などの違いを認め合い、政治、経済、教育、宗教、国境など乗り越えて真の平和を保障しなければならない。
    わたしたちはあきらめません! Never give up!
  • リーパー スティーブン ロイド
    セッションID: SL-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    放射線影響研究所(放影研)は、60年にわたって放射線の影響を研究してこられました。これらの研究の成果は、医学的治療のためや、基準を定めるために世界中で活用されています。長期的には、これらの研究は人間の健康維持のために欠かせないものとなるでしょう。短期的には、核兵器をなくす必要があります。
    放影研の研究は、核兵器が残虐かつ非人道的で、その影響が時間的にも空間的にも戦場に限定されないことを明らかにしています。これでわかるように、核兵器は非合法な兵器なのです。マンハッタン計画に携わった科学者の過半数は、原子爆弾は決して使用されるべきではなかったと考えています。核兵器は禁止され、廃絶されるべきだったのであり、少なくとも国際管理のもとに置かれるべきでした。今日、地球上の大多数の市民も国も、核の脅威から解放されることを願っている一方で、いまだに、貪欲で、競争好きかつ権力志向の一握りの人々が、地上のすべての生命体を絶滅の脅威にさらしていることを大目に見ています。
    来年5月、人類は、核兵器を廃絶するか、あるいは全ての国が保有することになるかを決めることになります。もし後者を選択すれば、私たちは地球上に無数にある問題を、人類を急激かつ暴力的に削減することで解決する道を選ぶことになります。私たちは、数十年、数世紀、あるいは、恐らく、永遠に、平和の文化へと昇華する希望を絶ってしまうことになるのです。国際社会が次の核不拡散条約(NPT)再検討会議(2010年5月、ニューヨーク)で、完全軍縮に向けた確実な一歩を踏み出すことに失敗すれば、2015年にあるその次の再検討会議までに核兵器国の数は、2倍、ないしは3倍にならないとも限りません。
    これを未然に防ぐためになすべきことは、ヒロシマ・ナガサキ議定書にまとめられています。私たちは即座に交渉を開始し、期限を設定しなければなりません。一刻も無駄にはできないのです。軍縮は、文字通り、生死のかかった課題なのです。
ランチョンセミナー3
  • 古澤 佳也
    セッションID: X3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    Journal of Radiation Researchは今年Vol.50を発行するに至りました。JRRは日本放射線影響学会の設立時より学会員の情報の発信に重要な役割を担って来ました。1998年からは非会員論文も掲載し、2000年からはオープンアクセスジャーナルとしてインターネットでの公開を始め、現在は創刊号(1960)から全ての論文がWeb上で公開されていて、PubMed, CrossRef, ChemPort, JDream, Google Scholarほか代表的文献検索エンジンで照会できます。インパクトファクターも2000年以降の平均で約1.5となっています。2010年からJRR編集に日本放射線腫瘍学会が加わり、論文分野にOncology関連を追加されます。配布数も現在の約1000部から3000部越になります。これを機にJRRをより一層充実させ、より公正な論文を発行するためにこのセミナーを開催いたします。
  • 山崎 茂明
    セッションID: X-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    発表倫理(publication ethics)に、なぜ注目するのか。発表なくして、科学研究活動は完結しないからである。研究者は、研究の着想とデザインから、データの収集と分析をへて、最終的に成果を論文にまとめる。論文には再現性を保証する情報が記載され、結果の信頼性が担保される。論文発表を通して、研究成果は専門領域の進歩に寄与し、社会へ応用されていく。それだけに、研究発表の倫理に焦点をあてることで、研究プロセス全体の公正さをチェックできる。研究倫理といえば、ヒトや動物を対象にした問題を思い浮かべるが、発表にフォーカスをあて、研究活動の倫理性や公正さを検討するものである。バンクーバー・スタイルと呼ばれ、生命科学・医学領域でスタンダードとなったURM (Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals) は、当初は参考文献スタイルの統一をはかる目的で作成されたが、その後研究発表倫理への強い関心を反映したさまざまな声明を発表してきた。そして2003年11月の改訂では、参考文献スタイル例は付録的な扱いになり、発表倫理についての記述でまとめられるようになった。出版・発表活動に関係するスタイル規定から研究倫理規定へと発展したのである。Good Publication Practice をキーに、オーサーシップとピアレビューを中心に検討してみたい。
シンポジウム
シグナルトランスダクションを標的とした癌治療の新展開―基礎から臨床へ―
  • 大西 武雄
    セッションID: S1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    近年、細胞生存系、DNA修復系、細胞の細胞周期、血管新生などのシグナルトランスダクションにかかわる因子のはたらきが次々と明らかになりつつある。これらの因子は様々ながん治療に対してがん細胞が生き残ろうとする際に活性化される。従って、より有効ながん治療を行うにはこれら細胞生存系のシグナルトランスダクションを制御することが重要である。本シンポジウムではこれら細胞生存系のシグナルトランスダクションを標的とした最近のがん治療の基礎的研究を紹介し、新たながん治療戦略の方向性を考える。具体的には細胞生存系のmTORを標的としたがん治療、DNA損傷誘導とDNA修復阻害のがん治療への有用性、放射線と温熱または化学物質併用による増感治療、血管新生阻害による放射線増感等についての講演と討論を予定している。
  • 三浦 雅彦
    セッションID: S1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    Despite that much effort has been made for the development of radiosensitizers, useful drugs are still unavailable in usual clinics of radiotherapy. Antiangiogenic agents are thought to be promising in cancer therapy and many drugs possessing such properties have been developed. Recently, a consensus is being made that the combination of such drugs with radiotherapy is quite effective. Sulfoquinovosylacylglycerol (SQAG) is sulfoglycolipids, which we originally extracted from natural products. We also succeeded in chemical synthesis of the agent. In this study, we show that SQAG could be a unique antiangiogenic radiosensitizer. The agent by itself had an antiangiogenic activity at high doses, however, it synergistically inhibited angiogenesis at low doses when combined with ionizing radiation using different in vitro methods. Combined treatment with SQAG and radiation appears to promote the adoption of a senescence-like phenotype rather than apoptosis by vascular endothelial cells in vitro. The agent remarkably enhanced the radioresponse of several human tumors transplanted into nude mice, accompanied by a significant reduction in the vascularity of the tumors as evaluated by immunohistochemical staining of CD31. Collagen IV, which constitutes the basal membrane of the vessels, was significantly reduced by the combined treatment. The effect of the combined treatment on vascular normalization as evaluated by the time course of α-Sma expression, a marker of pericytes, and hypoxic fractions as determined by pimonidazole staining will also be discussed. We conclude that SQAG could be a potent antiangiogenic radiosensitizer.
  • 細井 義夫
    セッションID: S1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    固形腫瘍の放射線感受性を基本的に決定しているのは、DNA2重鎖切断の生成とその修復である。DNA2重鎖切断の修復はnon-homologous end joining (NHEJ)とhomologous recombination (HR)により修復され、これらの経路に関連する多くの遺伝子がクローニングされている。大部分の放射線高感受性遺伝病の原因遺伝子はこれらの修復経路に位置していることから、これらの修復経路を構成する遺伝子は放射線増感のための分子標的となることが示唆され、実際にNHEJに属するDNA-dependent protein kinase (DNA-PK)に対する阻害剤やsiRNA/アンチセンスDNAによる発現抑制により放射線増感が得られている。我々は食道癌と大腸癌の手術標本におけるDNA-PKの発現を調べた結果、DNA-PKを構成するKu70、Ku80、DNA-PKcsの発現の間に強い相関が認められることが明らかになり、共通の転写制御によることが示唆された。また、食道癌では、臨床的に悪性度が最も高いと考えられる最侵部においてDNA-PKの発現が高く、放射線や一部の抗癌剤に対する抵抗性の原因になっていると考えられる。Ku70、Ku80、DNA-PKcsのプロモーター領域にはSp1結合配列が存在し、さらにATM、XRCC4、NBS1、MRE11など他のDNA2重鎖切断の修復に関与する遺伝子にもSp1結合は配列が存在することから、Sp1による共通の転写制御が示唆された。Sp1に対するsiRNAにより発現を抑制するとこれらの遺伝子の発現も抑制され、細胞の放射線感受性は高められた。修復に関与する個々の遺伝子ではなく転写因子を分子標的のターゲトとする利点は、単一の遺伝子制御により多くの遺伝子の発現を抑制し大きな放射線増感が得られる点と、Sp1に関しては分裂が盛んな細胞を選択的に放射線増感できる点にある。
  • 志村 勉, 角田 智, 高井 良尋, 桑原 義和, 福本 学
    セッションID: S1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線治療において、腫瘍細胞の放射線耐性は治療の失敗、がんの再発を引き起こす。より有効な放射線療法を確立するには、放射線耐性の分子機構を解明し、その抑制が必要である。本研究では放射線耐性に関わる遺伝子の同定を目的とし、放射線治療で用いられる分割照射の放射線応答の解析をヒトがん細胞HepG2とHeLaを用い、行なった。これまでの解析から、X線を31日間分割照射した細胞株(31分割細胞)では、照射していない対照細胞に比べ、放射線治療で用いられる2Gyの放射線に対し抵抗性を示した。31分割細胞を、さらに31日間照射を休止した細胞株(31分割31休止細胞)でも放射線耐性を示す。このように放射線耐性は照射休止後も安定に維持されることから、がん細胞が長期分割照射により放射線耐性を獲得することが示唆される。
    31分割細胞は細胞周期の進行を司るサイクリンD1が過剰発現している。サイクリンD1の分解はグリコーゲン合成酵素(GSK3b)によるリン酸化により促進される。31分割細胞では恒常的なDNA-PK, AKTの活性化が観察され、AKTによるGSK3bの不活性化によりサイクリンD1のタンパク分解が阻害され、過剰発現することを明らかにした。
    DNA-PK/AKT/GSK-3b/サイクリンD1経路ががん細胞の放射線耐性の獲得に関わるかどうか、AKT阻害剤またはサイクリンD1siRNAを用い検討した結果、これらの処理によりサイクリンD1の発現を抑制することで、31分割細胞及び31分割31休止細胞の放射線耐性は完全に消失した。このことから、サイクリンD1過剰発現が放射線耐性の獲得に必要であることを明らかにした。
    以上の結果より、DNA-PK/AKT/GSK-3b/サイクリンD1経路を分子標的にすることで、腫瘍細胞の放射線耐性の獲得を抑えたより有効な放射線療法の確立が期待される。
  • -細胞内酸化ストレスの役割-
    近藤 隆, 趙 慶利, 薜 政立, 古澤 之裕, 小川 良平
    セッションID: S1-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    アポトーシスは遺伝子制御された細胞死であり、がん治療においても、この効率的誘導が一つの理想とされ、その過程に活性酸素・フリーラジカルが関与することが判明してきた。最近の研究で、温熱や超音波でも細胞内に活性酸素が生成し、これがアポトーシスに重要な役割を担うことが明らかとなった。興味あることに、生体にとって酸素は生命活動に必須の分子であるが、酸素はその特異的な電子状態によりビラジカルと称され、電子移動により、より反応性の高い活性酸素に変化し、老化、発癌、そして多くの疾患の原因となる。放射線は、直接水分子を分解して細胞内に活性酸素を生成する。放射線による細胞死の多くは細胞内に生成した活性酸素に依存するので、これらの制癌因子は生体作用の点では作用機序が異なるにも関わらずアポトーシスに細胞内活性酸素が関係することは共通している。
    本発表では、主にヒトリンパ腫細胞株を用いた放射線アポトーシスにおける細胞内活性酸素修飾による影響について述べ、後半では放射線応答に活性酸素が関係するHeLa株を用いた事例を紹介する。
  • 高橋 昭久, 大西 健, 大西 武雄
    セッションID: S1-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    がん細胞ではがん化に伴って起こる遺伝子変化などにより、生存シグナルの活性化による細胞増殖の亢進や、細胞死シグナルの異常によるアポトーシスや非アポトーシス(オートファジー, マイトティック・カタストロフィ、ネクローシス)の誘導が抑えられていることが知られている。がん治療を効率よく行うために、がん細胞のシグナル伝達因子のはたらきを選択的に制御し、がん細胞の生存シグナルを抑制したり、細胞死シグナルを誘導したりする分子標的がん治療が近年注目されている。放射線(X線や重粒子線)、抗がん剤や温熱応答に影響を受ける細胞内シグナル伝達にはp53を介した経路、JNKを介した経路、Akt/mTORを介した経路、NBS1を介した経路、古典的MAPキナーゼ経路およびp38-MAPキナーゼ経路がある。これらはそれぞれ細胞死、細胞生存、細胞増殖および細胞分裂停止などを誘導する。我々はこれまでにがん細胞の生と死のシグナル応答を制御することで、放射線、抗がん剤や温熱に対する感受性を高めることを報告してきた。ここではこれまでの知見と研究結果をふまえて、我々の考えるがん治療の戦略について紹介する。
  • 播磨 洋子
    セッションID: S1-6
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    遠隔転移に関与する遺伝子について包括的に検討するために、臨床検体を用いてマイクロアレイによる遺伝子発現プロファイルを観察した。同一の放射線治療を施行した子宮頸癌III-IVA期28例を対象とした。遠隔転移を認めなかった(遠隔転移(-))群は14例、多発性遠隔転移を認めた(遠隔転移(+))群は14例であった。初診時にインフォームドコンセントを行った後に採取した未治療の子宮頸癌組織からmRNAを抽出した。マイクロアレイ解析を行い69個の遺伝子が抽出された(感度78.8%、特異度38.1%)。遠隔転移(+)群の遺伝子群にゲノム不安定性に関与するTTK遺伝子が含まれていた。予後予測スコアは遠隔転移(+)群と遠隔転移(-) 群を識別した。
    次に、予後に関与する最も重要な遺伝子を探索するためにReal-time PCR法を用いて解析した。放射線治療を施行した進行期子宮頸癌60例の初診時に採取した生検組織を用いた。検討した遺伝子はBAX、TEGT (BAX-inhibitor)、XRCC5、PLAU、HIF1A、CD44、TTKである。total RNAを抽出した後にcDNAを合成しReal-time PCR法で検討した。定量値は各ターゲット遺伝子のCt値からGAPDH遺伝子のCt値を引いた値の中央値をキャリブレーター値とし、Comparative Ct法による相対定量値で表した。予後良好群29例、不良群31例に分けて2群間における各遺伝子の相対定量値を比較した。さらに生死をエンドポイントに単変量、多変量解析を施行した。各遺伝子の単変量解析ではHIF1A (P=0.079)、TTK (P=0.092)が不良群に多く発現した。TTKは単変量解析(HR, 1.06; 95% CI, 1.0-1.12, p=0.044)、多変量解析(HR, 1.35; 95% CI, 1.02-1.78, p=0.035)ともに予後不良に有意に関与した。以上の結果からTTKは放射線治療後の予後不良に関与する重要な遺伝子の1つであると考えられた。
放射線影響研究分野における国際的情報発信:UNSCEARの重要性
  • 吉永 信治, 児玉 和紀
    セッションID: S2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書は、疫学研究から細胞・分子レベルでの実験研究まで、幅広い分野の放射線影響研究による知見を取りまとめている。これらは、国際放射線防護委員会(ICRP)や国際原子力機関(IAEA)が策定する放射線防護に関わる勧告や基準等の科学的基盤として活用されている。UNSCEARでは、最近、2006年報告書第一巻(がんの疫学、非がん疾患の疫学)および第二巻(非標的効果、免疫系への影響、ラドンの線源から影響までの評価)を刊行し、また、2008年報告書(医療被ばく、種々の線源への公衆と作業者の被ばく、事故の被ばく、人以外の生物への影響、チェルノブイリ事故の健康影響)の刊行も進めている。これらの報告書には我が国の研究成果も多数引用されており、放射線影響研究分野における国際貢献に役立っている。本シンポジウムではUNSCEARにおける最新の動向を紹介した上で、我が国の研究成果をUNSCEARにより内外に発信することの重要性を議論する。
  • 児玉 和紀
    セッションID: S2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    UNSCEAR2006報告書で述べられている「放射線とがん、非がん疾患のリスク」の概要については、日本放射線影響学会第50回大会での公開講座において報告した。そこで今回は、UNSCEAR2006報告書におけるわが国の疫学研究の貢献について報告する。
    放射線と発がんリスク:
    わが国の疫学研究で最も広く活用されているものは、これまでと同様に、放射線影響研究所(放影研)で長期間実施されている寿命調査である。部位別がんリスク評価においてはほぼ全部位で最初に引用されている。特に性別・被爆時年齢別のリスク評価は他の疫学調査では困難なこともあり、貴重な情報を提供し続けている。また、寿命調査で観察された線量反応が低線量被ばくリスク推定の根拠のひとつとしても用いられている。更に、特殊な被ばくとして、胎内被爆者調査結果も引用されている。
    以上の他に、わが国の疫学研究として、職業被ばくでは、放射線影響協会(放影協)で実施されている放射線業務従事者の追跡調査、放射線医学総合研究所(放医研)で実施されてきた放射線技師の追跡調査が引用されている。医療被ばくでは、トロトラスト患者の調査が引用されている。
    更に、国内での研究ではないものの、わが国の疫学者が共同研究者として関与している研究として、中国のハイバックグラウンド地域における研究や、マーシャル群島における住民調査も引用されている。
    放射線と発がんリスク評価においては、寿命調査が今後とも重要な役割を果たし続けていくとは思われるものの、職業被ばくなどのような低線量反復被ばくのリスクについて直接情報を提供することはできない。わが国においても、低線量反復被ばくリスクに関する疫学調査の拡充が望まれる。
    放射線と非がん疾患リスク(循環器疾患リスク):
    わが国の疫学研究で最も広く活用されているものは、放影研寿命調査である。同じく放影研の成人健康調査も、死亡調査の欠点を補完する形で引用されている。
    以上のほかに、職業被ばくでは、放影協の原発従業員の追跡調査、放医研の放射線技師の追跡調査も引用されている。
    これまで放射線リスク研究が発がんに主眼を置いてきたこともあり、非がん研究は質的にも量的にも不足している。この領域の研究も今後の拡充が望まれる。
  • 鈴木 元
    セッションID: S2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    UNSCEAR 2006年報告書は2巻に分かれており、第2巻に非標的効果、免疫系への影響、ラドンに関するレビューがまとめられている。シンポジウムでは、これらの研究領域の研究動向をUNSCEAR報告書から拾い上げ、今後の発展方向に関して紹介する予定である。これまで放射線の生物効果は、放射線のエネルギーが標的細胞の核に沈着することにより、細胞死や突然変異が引き起こされると考えられてきた。放射線の非標的効果は、核以外の細胞部分あるいは近隣の細胞への照射によっても突然変異や細胞死が起きることを示している。生体内でも非標的効果が有効に働いているのなら、高LET放射線影響、低線量あるいは低線量率の被ばくリスクを考える上でパラダイムシフトを余儀なくさせる可能性を秘めている。放射線の免疫系への影響に関しては、免疫学のめざましい進歩と新たな解析手法が放射線影響研究の分野にも導入されつつある。また、ラドンの影響に関しては、屋内ラドンと肺がんの症例対象研究およびそれらのプール解析結果がレビューされており、シンポジウムでも取り上げる。
  • 三枝 新
    セッションID: S2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、その2000年及び2001年報告書に続く最新報告書UNSCEAR2006年報告書・電離放射線の影響(第1及び第2巻)の公開を終えた。さらに2008年報告書についても2007年及び2008年会合においてその内容の承認を終え、その公開が待たれている。
    UNSCEAR事務局は、2001年報告書完成以降に開始されたこれらの課題の完成と公開に目処が立った2007年会合から、次期(2008~2015年)に取り組むべき課題の検討とそれら全体を取りまとめる戦略についての検討を開始している。
    2007年会合では、それまでに各国から提案された約40の今後検討すべき科学的課題、すなわち次期報告書の附属書となるべき課題が示された。これら課題は、事務局によってその重要性と意義が吟味され、放射線リスク推定の不確かさ、放射線被ばくによる健康影響の起因性等からなる12課題が候補として残されることが承認された。これらの課題はワーキンググループで検討され、その結果は次回のUNSCEAR会合で議論される。
  • 秋葉 澄伯
    セッションID: S2-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線被ばくの比較的高い線量による健康影響は明確であるが、Uptonが指摘したように低線量と高線量では放射線被ばくによる生物学的・細胞学的影響に質的な違いがあり(Upton, Cancer Invest 1989)、低線量被ばくによる健康影響には不明な点が多い。本シンポは、疫学研究を基に低線量放射線の外部被ばくによるがんリスク、特に固形がん(または白血病を除くがん)のリスクに関して考察を加える。低線量放射線の健康影響の評価で重要な役割を果たしうるのは、原爆被爆者の追跡調査、原子力作業者の追跡調査、自然放射線に曝露される住民の調査(インド、中国など)である。これまで、高自然放射線地域での調査はあまり注目されてこなかったが、インドでは日本との共同研究のほか、IAEA、IARC、フランス、アメリカなどの研究者が調査を開始しており、今後、重要な成果が得られるものと思われる。
長崎大学GCOEシンポジウム『システム放射線生物学』
  • 山下 俊一, 鈴木 啓司
    セッションID: S3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線による生体影響の評価、とりわけ低線量放射線による健康リスクの推定には、細胞内応答や、臓器・組織レベルでの応答など高次の成体影響の理解が不可欠である。しかしながら、とりわけ低線量放射線になればなるほど、個々の応答反応の量的閾値が下がり、個別の応答経路の解析ではなく、システム生物学の概念やその解析手法を導入する必要性が高まってくる。本シンポジウムでは、第一線で活躍する研究者に講演をお願いし、システム生物学を理解してその現状を把握すると同時に、システム放射線生物学の可能性について学会員とともに議論する。
  • PARETZKE Herwig G.
    セッションID: S3-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    Ionizing radiation has been a primordial part of the planet earth and it might be the main reason why live could florish here. All living organisms, like humans, are being exposed to many natural, civilisatoric and technical irradiations from various sources and to various degrees. Often individuals, groups, administrations and government are very much concerned about at most very small individual radiation risks, i.e. about possible health effects of low dose rates of ionizing radiation (below, say, 10 mSv/yr). Radiation research over more than 50 years in vain has tried to improve our quantitative knowledge on such radiation health effects.
    A main reason for this failure of answering such important questions is the principally wrong research strategy of concentrating main efforts on radiation effect investigations of single molecules (e.g. DNA) or of single cells (mainly in vitro). However, most health effects of living, adaptive organisms most likely actually result from rather indirect, systemic, emergent, responses at different levels of tissue organisation which, in principle, can never reductionarily be studied with single objects in isolation. In this contribution, a more promising research strategy, namely that of Systems Radiation Biology (SRB), will be outlined and justified. In this quantitative, more top-down, SRB - approach quantitative hypotheses on relevant action pathways of organismic homoestasis and its disturbances by external agents are being formulated and tested in close co-operations of theorists and experimentalists educated in different relevant disciplines (mathematics, physics, chemistry, biology, medicine, epidemiology, etc.).
  • WEBER Thomas, WATERS Katrina M., QUESENBERRY Ryan D.
    セッションID: S3-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    Annexin A2 was recently identified as a paracrine factor that mediates, in part, the anchorage-independent growth (AIG) response to low dose radiation (Weber et al., Rad. Res, in press, 2009). Paracrine-dependent AIG did not fully account for the low dose radiation AIG response and we undertook a genomics approach to identify additional sensitive markers of AIG responses. Our experimental design exploited irreversible regulation of AIG by 12-O-tetradecanoyl phorbol-13-acetate (TPA), relative to reversible regulation of AIG by basic fibroblast growth factor (bFGF). 142 differentially expressed genes were common to colonies arising from bFGF- and TPA-treated JB6 cells. The majority of genes exhibited comparable patterns of regulation in terms of increased or decreased expression, while 30 genes exhibited reciprocal regulation patterns. Hepatic leukemia factor (HLF) and D-site albumin promoter-binding protein (DBP) expression were increased in both bFGF- and TPA-induced colonies. Ectopic expression of human DBP and HLF increased low dose X-ray radiation (10 cGy)-, TPA- and bFGF-induced AIG responses. HLF and DBP expression were increased in human basal cell carcinoma tumor tissue, relative to paired uninvolved tissue from the same donor. HLF and DBP mRNA expression were also increased in a normal human skin equivalent model system (MatTek). Collectively, our approach has identified sensitive candidate biomarkers of the AIG response that are expected to enable detailed investigations of possible risk factors for radiation carcinogenesis.
  • BARCELLOS-HOFF Mary Helen
    セッションID: S3-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    Systems biology predicts that some properties result from altered relationships between components. Systems radiation biology asks not only how radiation affects specific components (i.e. cells) but also how these alterations affect interactions that maintain tissue integrity. While radiation can alter genomic sequence as a result of DNA damage, it can also induce signals that alter multicellular interactions and phenotypes that underpin carcinogenesis. Our previous studies characterized the composition of irradiated mouse tissues, identified transforming growth factor β1 (TGFβ) as a key cytokine activated by radiation, and developed novel models of radiation effects in both mice and cultured human epithelial cells. This presentation will focus on how TGFβ regulates the intrinsic DNA damage response, tissue composition and the carcinogenic effects of low dose radiation. Rather than being accessory or secondary to genetic damage, we propose that radiation induced signaling via TGFβ creates the critical context for cancer development.
    Research funded by US DOE Low Dose Radiation Program
    and NASA Specialized Center of Research
ワークショップ
若手放射線生物学研究会企画 広島で放射線発がんを考える
  • 飯塚 大輔, 豊島 めぐみ
    セッションID: W1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    広島・長崎に原子爆弾が投下されて60年以上が経過した。原爆被爆者等の疫学研究から放射線被ばくによる発がんを考える上での問題点として, 年齢依存性や低線量率における発がんリスク、放射線の標的細胞があげられる。そこで本ワークショップでは、新進気鋭の研究者から、動物を用いた研究(実験動物による発がんメカニズム研究)成果を学び、これらの問題点にどこまで迫れるか、また、それがヒトの疫学データに反映されるかどうか、共通点・相違点を議論し、今後の放射線発がん研究の方向性を探りたい。
  • 廣内 篤久
    セッションID: W1-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    低線量率放射線の発癌メカニズムについては分かっていない部分が多い。癌は自己複製と多分化能を有する癌幹細胞を起源とする細胞集団である。本研究では、低線量率放射線によって白血病幹細胞(LSC)の起源となる分化段階の造血細胞を特定することを目的として実験を行った。放射線誘発白血病の多発系であるC3Hマウスに20 mGy/day、400 mGy/day、1.0 Gy/minのγ線をそれぞれ総線量8 Gy、4 Gy、3 Gy照射して発生した白血病と、非照射で自然発生した白血病について、アレイCGHによる染色体解析、FACSによるCD抗原解析、骨髄移植によるLSCの特定を行い、それぞれの特性を比較した。染色体解析の結果、全ての実験群の白血病のそれぞれ約半数で、7番染色体のセントロメア側に約30Mbの片側欠失が見られた。対照的に2番染色体上の白血病関連遺伝子、PU.1の片側欠失は線量率に依存して高く、非照射群、20mGy/day照射群、400 mGy/day照射群、1.0 Gy/min照射群の白血病で、それぞれ6%、30%、56%、90%に観察された。これらのPU.1の片側欠失を持つ白血病(PU.1del白血病)には、線量率に関係なく残存するPU.1にも高頻度に点突然変異が見られた。PU.1del白血病は骨髄球系共通前駆細胞(CMP)に特異的なCD抗原を発現する細胞が増加していたのに対し、PU.1に異常のない白血病(PU.1wt白血病)は、リンパ球系共通前駆細胞(CLP) に特異的なCD抗原を持つ細胞が増加していた。さらにLSCの起源となる分化段階の造血細胞の探索では、PU.1del白血病は造血幹細胞とCMP様細胞、PU.1wt白血病はCLPと顆粒球系細胞にそれぞれLSCが存在した。以上の結果より、線量率の違いによってLSCの起源、及び、原因となる遺伝子異常が異なる可能性が示唆された。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
  • 今岡 達彦, 西村 まゆみ, 飯塚 大輔, 臺野 和広, 西村 由希子, 奥谷 倫未, 柿沼 志津子, 島田 義也
    セッションID: W1-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線被ばくは、ヒト乳がんのリスク要因のうちでも、因果関係が疫学的に確立している数少ない環境要因のひとつである。特に若年での被ばくによる乳がんリスクの高低は、長年議論されてきた。ラットの乳がんは病理組織学的にヒト乳がんとの共通点を多く有する良いモデルである。本発表では、主にラット乳がんに注目し、研究の先行している化学発がんの知見を参照しつつ、放射線発がんにおける被ばく時年齢依存性の現象を紹介し、そのメカニズムを考察したい。
    化学発がんの実験から、乳腺の成長過程の一定の時期に発がん物質への感受性の高いウィンドウが存在し、これは化学物質の種類に依存することが知られている。これらは乳腺の分化状態、化学物質の代謝活性化能力、および損傷修復能力の年齢変化によって説明されている。一方、放射線発がんの実験では、幼若期の被ばくによる感受性は低く、むしろ成体期の被ばくによる感受性が高い。我々は、幼若期の被ばくが卵巣を著しく損傷することと、誘発される乳がんがホルモン受容体陰性であることの関連を見出し、幼若期の被ばくによって卵巣機能が低下するために乳がんが発生しにくくなると考えている。
    また、化学発がんの感受性のウィンドウの時期が、乳管先端部の未分化細胞の増殖活性が高い時期と重なること等から、発がん物質はこれらの未分化細胞を標的としていると考えられてきた。このことは放射線発がんの実験系でも一部あてはまるものの、その他の細胞が標的となっている証拠もある。その他、誘発腫瘍に見られる遺伝子レベルの異常などから推察される放射線発がんメカニズムについても紹介したい。
  • 葛城 美徳, 郷 梨江香, 森田 慎一, 小幡 美貴, 木南 凌
    セッションID: W1-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    胸腺リンパ腫はマウスでは頻度の高いがんであり、放射線発がん初期過程に存在する前がん細胞を解析するよいモデルである。放射線照射後の萎縮した胸腺内の細胞を移植するとリンパ腫を誘発できるという実験から、萎縮胸腺内には前リンパ腫細胞またはリンパ腫発症起源細胞が存在することが示されている。ヒトでは慢性リンパ性白血病(CML)細胞分画の移植実験から、白血病発症起源細胞が同定され、注目されている。そこで、我々はマウス萎縮胸腺内に存在する前リンパ腫細胞の表現型や遺伝的変異を明らかにする試みを行った。一方、主要なヒトがんの前駆細胞の表現型の解析から、その特徴として異常な細胞増殖やその後のDNA損傷チェックポイント活性化が報告されている。そこで、DNA損傷チェックポイントの変化にも注目し解析を行った。まずγ線照射後40日および80日後のマウス萎縮胸腺についてTCRβ遺伝子座のD-J鎖組換えパターンを指標としてクローナル増殖の程度を調べた。クローナル増殖した胸腺細胞(C タイプ)は40日・80日とも約40%でみられ、その他はD-J鎖組換えパターンが正常な胸腺と同様のパターン(Tタイプ)であった。Cタイプの胸腺細胞の殆どはクローナル増殖しているのも関わらずCD4+CD8+(DP)細胞であったことから、この胸腺細胞はβ-selectionを通過した異常なDP細胞と考えられる。Cタイプ胸腺細胞の細胞周期はG1期に停止していたが、意外にもこの時γH2AXやChk1/2、p53といったDNA損傷チェックポイント経路の活性化はみられなかった。また興味深いことに、照射後40日のTタイプ胸腺細胞52例のうち17例でがん抑制遺伝子Bcl11bの領域にアリル欠損がみられた。この結果はアリル消失によって分化能を保持した状態のまま、胸腺細胞がクローナル増殖能を獲得したことを示唆する。以上の結果からヒトのCMLや悪性リンパ腫の場合と同様に、前リンパ腫細胞の成立には2段階のステップ、すなわち細胞増殖と分化停止が必要であると考えられる。
環境放射能研究とretrospective dosimetryの展開
  • 星 正治, 吉田 聡
    セッションID: W2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    1999年に発生したJCO臨界事故から10年が経過した。ここでは、原爆や核実験からJCO臨界事故までを含めた緊急時等の線量評価に環境放射能研究がどのように関与し、現在どのような展開を見せているのかについて、retrospective dosimetryを中心に議論する。Retrospective dosimetryは、被ばく時に計測しえなかった被ばく線量を事後に評価するための手法である。これはただ単に時間を遡ると言うだけでは無く、技術的進歩に伴って、これまで考えられなかった手法によって過去の試料の再評価が可能になると言う側面も含んでいる。JCO臨界事故時の線量評価は、臨床所見、生物的手法、放射化学的手法等を総動員した象徴的な出来事であった。今回はこれを振り返ることから始め、近年の加速器質量分析装置等の進歩によって、過去の事象に対してどのようなアプローチが可能になっているのかを検証したい。
  • 明石 真言
    セッションID: W2-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線被ばくでは症状がすぐにでることは一般に稀である。平成11年9月30日茨城県東海村で起きた事故(JCO臨界事故)は、症状がすぐに現れたという点で稀な範疇に入る。つまり高線量かつ高線量率での被ばくということである。放射線被ばくが起きた場合の線量評価には、生物・医学的なアプローチと再現実験を含めた物理学的なものとがある。前者は生じた体内の変化と障害の程度により行うが、体内に生じた放射性物質の定量によるものは後者に属する。治療を必要とする場合、治療方針の決定のためには早期の線量評価が必要となる。この治療方針決定のための線量評価には、小数点以下の数字まで必要とするものではなく、5 Svを超えるのか、10 Sv以下であるか、といった大まかな数字がまず求められる。一方放射線防護という観点に立てば、より詳細な数字が求められるが、計画被ばくとは異なり不慮の事故では、線量評価で一つの数字を出すことは困難である。JCO臨界事故では、高線量被ばくを受けた疑いのある3名の被ばく線量の推定がまず求められた。高線量率で高線量の全身被ばくでは、被ばくに特異的とは言えないが、嘔吐、下痢、体温の上昇などの前駆症状が現れる。これらの発症時期と程度から、3名の線量は10 Sv以上、6 Sv以上、4 Sv以下と推定され、この線量が治療方針の決定の基礎になった。最終的には、中性子により体内に生じた24Naの被放射能からの計算、染色体、リンパ球の減少速度、ホールボディカウンタの計測値等の総合評価から、各々16-25, 6-9, 2-3 生物学的γ線相当線量(GyEq)(「ウラン加工工場臨界事故患者の線量推定」最終報告書 平成14年2月)とされた。この事故では、中性子線とγ線の混合被ばくであること、事故被ばくでは常である様に不均等被ばくであり、症状の発症時期と推定線量が従来の知見と一致しないなど、線量評価の難しさが示された。また症状、リンパ球の減少速度と染色体による評価では、GyEqでしか推定できない。一方24Naの被放射能からの推定値と比較するために、中性子による影響はRBEを考慮しなければならず、13 MeVの中性子によるマウス腸管死の結果から値を1.7とした。このほかにも、骨中の32Pと45Caの量による局所線量分布、計算シミュレーション手法による線量再構築などが行われた。
  • 星 正治, 遠藤 暁, 田中 憲一, 今中 哲二, HULT Mikael, GASPARRO Joel, MARISSENS Gerd
    セッションID: W2-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    原爆放射線量評価システム2002(DS02)は日米とドイツの多くの研究グループの共同研究により確立された。DS02は原爆被ばく者の臓器線量を計算する。まず、広島と長崎の原爆本体から放出されたガンマ線と中性子のエネルギースペクトルを計算し、さらにそれらが空気中を進み日本家屋を通過し、散乱したり吸収されたりする過程を計算する。そして被ばく者毎の臓器線量が計算される。一方、煉瓦や瓦を収集しガンマ線量を測定した。同様に、鉄や花崗岩や銅のサンプルを収集し中性子により生じた放射能(Co-60, Eu-152, Cl-36 Ni-63)を測定した。DS02はこれらの測定データと比較され、DS02が正しいことが確認された。これらの線量は放射線影響研究所(RERF)の疫学調査の結果と合わせ放射線の発がんなどへのリスクが見積もられた。このリスクは放射線作業者や一般人への被ばくの限度を定める。DS02の主成分はガンマ線で旧DS86と比較して約10%増加した。この発表ではDS02の結果とDS02構築の背景を説明する。測定されたデータのうちで、遠距離のCo-60のデータがDS02と合っていなかった。ここではその遠距離でDS02と一致する新しいCo-60のデータも紹介する。
  • ―U-236グローバルフォールアウトと広島原爆黒い雨―
    坂口 綾, 川合 健太, Peter Steier, 富田 純平, 星 正治, 山本 政儀
    セッションID: W2-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 近年、U-236は環境中の燃焼U汚染を特定できる有用な指標として利用されはじめている。このような中、核実験によるグローバルフォールアウトU-236の存在が示唆された。本研究では、地殻表層土壌中のグローバルフォールアウトU-236を他の代表的なフォールアウト核種(Cs-137, 239+240Pu)と併せて評価する。さらに環境中U-236測定の応用研究として広島原爆黒い雨の地域特定を試みる。
    <方法>2008年8月石川県能美市にて、直径4.8 cm深度10-30 cmの円筒土壌コア試料を併せて12本採取した。試料を風乾後、粉砕・均一化しGe半導体検出器によるγ線測定で137Csを定量した。それら土壌を硝酸で煮沸抽出し、U、Puをそれぞれ精製後αスペクトロメトリー、ICP-SF-MSおよび加速器質量分析にて238U濃度、236U/238U原子比、239Pu、240Pu濃度を定量した。
    <結果> 土壌中236U/238U原子比および236U濃度範囲はそれぞれ1.85×10-8 - 1.09×10-7、8.92×108 - 3.76×109 (atoms/g)であった。これはインベントリーで4.72×1012 - 1.39×1013 (atoms/m2)に相当する。236U深度分布は239+240Puとよい相関を示し 236U/239+240Pu比は (1.56±0.10)×1011 (atoms/Bq)であった。これら測定結果と全グローバルフォールアウト239+240Pu (14PBq)から、グローバルフォールアウトとして全世界にばらまかれた 236Uは約900 kgと見積もられた。 このように、低い濃度の表層土壌中U-236測定から核施設などによる燃焼U汚染を評価する際には、グローバルフォールアウトU-236の影響も考慮することが重要であると示唆された。
    現在、広島市内表層土壌試料の分析・解析を行い、137Cs、236U、239+240Puの同位体組成から黒い雨の地域特定を試みている。発表ではその結果について報告する。
  • SAHOO Sarata Kumar, 村松 康行, 吉田 聡, 松崎 浩之
    セッションID: W2-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    1986年の4月から5月にかけてチェルノブイリ原子力発電所(CNPP)の事故によって大量の放射性ヨウ素(主に131I, T1/2=8日)が放出された。汚染地域における小児甲状腺がんの増加は、事故によって放出された放射性ヨウ素によるものであると仮定された。しかしながら、空気中、土壌中などの環境下における131Iレベルの適切なデータが不足しているため、患者の事故による131Iからの線量評価を行う事が困難である。この地点において、環境中の131Iレベルを評価するために、CNPPから放出された131Iと長寿命ヨウ素である129I (T1/2=15.7 × 106年)との比が使用できる可能性がある。われわれは、現在の汚染レベルと分布パターンを評価することを目的として、CNPPの30 kmゾーンから収集された土壌試料中の129I濃度及び129I/127Iの原子数比の分析を行なった。ピロヒドロリシス法が土壌試料中の127Iと129Iの分離に用いられ、微量ヨウ素の分析には、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)と加速器質量分析法(AMS)を用いた。CNPPの30 kmゾーンの表層土壌試料中の129I濃度および129I/127I原子数比はそれぞれ、4.6から170 mBq kg-1及び1.4 × 10-6から13 × 10-6であった。これらの値は129Iの世界的なフォールアウトの値と比べて非常に高く、検出された129Iの多くが事故に起因するフォールアウトである事を示している。この地域の安定ヨウ素濃度のほとんどが非常に低いレベル(1ppm以下)であった。したがって、この地域における環境中のヨウ素は潜在的に低い事が示唆された。表層及び表層下の土壌の129I /137Cs放射能比は7.3から20.2 × 10-7の幅があり一定ではない。これは、これらの核種の堆積もしくは移行の挙動が異なる事によるかもしれない。これらの結果から、得られた129Iのデータは汚染地域における131Iの評価にとって有用である事が示唆された。
  • 今中 哲二, 山本 政儀, 川合 健太, 星 正治
    セッションID: W2-5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    旧ソ連セミパラチンスク核実験場周辺の住民の被曝量を評価する目的で、核実験場周辺の村落で土壌サンプリングを行いPu-239,240とCs-137を測定してきた。いくつかの村の周辺で核実験場からの放射能雲の痕跡を確認できた。たとえば、1949年のソ連最初の核実験のグラウンドゼロから110km離れたDolon村近辺では、放射能雲通過にともなう明確な放射能汚染の分布が認められ、汚染分布をガウス関数でフィッティングした結果、村の北側2kmのところを放射能雲の中心軸が通過したと推定された。Cs-137の初期沈着量を、測定データからグローバルフォールアウトの寄与を差し引いて推定すると、雲の中心軸上で15 kBq m-2、ドロン村内では 7 ± 2 kBq m-2となった。Cs-137以外のFP核種の初期沈着量については、Cs-137に対する核分裂収率の比と放射能の輸送・沈着プロセスでのFractionation効果とを考慮して推定した。(難融性元素)/(揮発性元素)の比で表したfractionation効果(Kref)を、Dolon村周辺のPu測定データとCs-137測定データを用いて求めると、5という値が得られた。Kref=5を用いて沈着放射能からの地上1mでのガンマ線量を計算すると、Dolon村での積算空気線量は350 ± 100 mGyとなった。我々の計算に基づくと、沈着後1週間で積算線量の約70%、沈着後1ヵ月で約80%の被曝がもたらされる。我々の積算線量値は、Dolon村で採取されたレンガの熱蛍光を用いて推定された他の研究の値440 - 480 mGyと矛盾せず、現在の放射能汚染レベルを用いて50年以上前の初期汚染状況を推定する試みは有効な結果をもたらしたと考えている。
細胞核からみた放射線病態学
  • 宮川 清
    セッションID: W3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    細胞核は、染色体DNAの正確な複製と分配、そして転写によって、遺伝情報が維持され発現される場である。このような生命機能を維持するための基本的反応が効率よく行われるためには、細胞核内部には膜では区切られていないが高度に機能分担された場が存在し、それらは必要に応じて時間的かつ空間的にダイナミックに変化する。放射線被ばくによる全身における病態の理解をさらに深めるためには、細胞核の各基本的機能に加えて、細胞核の動的な構築の解明が必要である。本ワークショップでは、DNA損傷に応答する修復経路を中心として細胞核構築の最新の知見を、病態との関連性の視点から議論することによって、これまでの病態研究だけでは理解することが困難である放射線障害の発現機構の理解を深めたい。
  • 田代 聡
    セッションID: W3-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線や一部の抗がん剤などによるDNA損傷の修復エラーは、染色体転座を誘導し遺伝情報を改変することで、細胞のがん化に関与している。DNA損傷シグナル制御因子ATMの欠失やそのリン酸化酵素活性異常は、染色体転座の頻度を上昇させる。一方、一部のがん細胞などで認められる組換え修復関連タンパク質RAD51の過剰発現も、染色体転座形成を促進することが知られている。しかし、これらのゲノム修復関連因子が染色体転座形成にどのように関与しているのかは未だ不明な点が多い。
    11q23に染色体転座切断点を持つ白血病は、トポイソメラーゼII阻害剤エトポシドの治療後に発症する二次性白血病で最も多く認められる。我々は、エトポシド処理後のATM欠失細胞では、RAD51が11q23染色体転座切断点集中領域であるMLL遺伝子座BCR領域に過剰に結合していることを明らかにした。AT細胞では、損傷DNAへのRAD51の結合に先行するとされるRPAや、RPAとRAD51の交換を促進するとされるクロマチン構造変換因子INO80も、BCR領域へ過剰に結合していることを確認した。これらの知見から、ATMは、DNA損傷シグナルの制御以外に、組換え修復関連タンパク質が染色体転座切断点集中領域に過剰に結合することを阻止することで染色体転座の形成を抑制していることが示唆された。染色体転座形成におけるゲノム修復機構の異常制御について討論したい。
  • 木村 宏
    セッションID: W3-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    真核生物の染色体DNAは、ヒストン分子とともにクロマチンの基本単位であるヌクレオソーム構造を形成して存在している。ヒストンの翻訳後修飾は、DNA損傷修復や染色体分配、転写などの制御に重要な役割を果たしている。特に、ヒストンH2AXはDNAの二重鎖切断に伴い、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化を受けることが知られている。また、ヒストンH3のリン酸化は染色体の凝縮と分配に関与することが示されている。これまで、これらのヒストン修飾のダイナミクスは経時的に調製されたサンプルを解析することで調べられてきたが、今回、我々が独自に作成した修飾特異的抗体などを用いて、生きた細胞や膜透過化細胞においてリアルタイムでヒストン修飾を検出することに成功した。本発表では、(1)リン酸化ヒストンH3特異的抗体を用いた生細胞における染色体分配異常の検出、および、(2)膜透過化細胞におけるリン酸化ヒストンH2AXの検出について報告する。これらのin situヒストン修飾検出法は、染色体動態への放射線の影響を解析する上で有用であると考えられる。
  • 鈴木 亨
    セッションID: W3-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    エピジェネティク制御が心血管病態において中心的な役割を果たすことは近年明らかになりつつある。ヒストン等の翻訳後修飾やそれぞれに関わる酵素またクロマチンリモデリング因子が心血管系の発生分化から心肥大等の病態制御さらに老化(血管)までを制御することが分子、細胞、個体それぞれのレベルで明らかになってきた。従来からのシグナル伝達経路が中心にあるメカニズム論から核内プロセスが病態発症において重要な役割を果たすという考え方へパラダイムシフトが起きている。しかしながら、まだ研究は十分に進んでおらず、実際の病態制御における役割をヒトや病態動物モデルを使った十分な検証が進んでいないため、全貌が見えていない状況である。
    心血管疾患におけるエピジェネティック制御の役割を動物モデルないし分子レベルでのメカニズムを追求してきた。病態における転写因子とクロマチンリモデリング因子の相互作用並びに作用をはじめ、DNA傷害修復関連因子と心血管病態の関連を示す知見を得たので、今回発表する予定である。
  • 宮川 清
    セッションID: W3-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線や化学療法剤によりDNA二重鎖切断が生じた場合には、ATMやATRなどに始まる一連の損傷応答系が活性化され、その一つの結果としてDNA修復に関与する蛋白質が損傷部位にリクルートされる。相同組換え修復においては、早期の過程で中心的な役割を担うRAD51の核内ダイナミクスが詳細に検討され、この領域のモデルになっている。他のDNA修復経路よりも複雑な過程を必要とする相同組換え修復は多くの蛋白質による制御を必要とするが、それらの核内ダイナミクスについてはRAD51との関連において解明が進んでいるにすぎない。このような核内における蛋白質の動態は、それらの分子の機能を理解するために役立つのみならず、核機能のネットワークを解明するためにも大きく貢献するものである。そのために、我々はRAD51の周辺でDNA損傷修復を制御する蛋白質の動態を、ヒト細胞をモデルとして解析してきた。酵母の相同組換え修復におけるRAD52の重要性はよく知られているが、高等真核生物においてはその変異体がはっきりとした異常を示さないことより、その機能の重要性が確立していない。放射線照射後の核内におけるRAD52の動態を、GFPをタグとして追跡してみると、RAD51のフォーカスが照射後かなり早い時間に出現するのに対して、RAD52のフォーカス形成はかなり時間が経過してからピークに達することが判明した。また、これらの二重染色では、一部のフォーカスは共局在するが、RAD51単独とRAD52単独のものがかなり存在することも明らかとなった。これらの結果から、これまでのRAD52のRAD51依存性DNA修復経路における役割に加えて、RAD51非依存性経路における役割の重要性が示唆された。このような核内ダイナミクスの解析によって、DNA二重鎖切断修復にはこれまで想定されていた以上に複雑な過程が存在するものと考えられている。
様々な生物の放射線応答―その多様性と共通点―
  • 高橋 千太郎, 久保田 善久
    セッションID: W4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    放射線防護の分野においては人を防護することにより、人以外の環境生物の防護は達成されると考えられてきた。しかし、近年、欧米を中心に人以外の環境生物の放射線防護に関心が集まっている。人以外の生物というと極めて広範囲に及ぶが、それらの放射線影響にどのような共通点があるのだろうか?今回のワークショップは、環境生物への放射線影響について広範な研究を進めている放射線医学総合研究所環境影響研究グループの久保田氏、府馬氏らの企画によるものであり、イネ科植物、樹木、微生物実験生態系、並びに節足動物における放射線影響を研究している研究者からの発表を通して、その多様性と共通性について討議することとした。生物学的な興味はもちろんのこと、「人以外の環境生物の放射線防護」という観点からも非常に興味深い企画であり、多数の参加を期待している。
  • 中森 泰三
    セッションID: W4-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    生物多様性の保全に向けて、化学物質や放射線の影響を多様な生物について調べることが求められている。個体群の存続に関与する生存や繁殖などへの影響だけでなく、作用機作の理解やバイオマーカーの開発のために、分子レベルでの影響も解明することが重要である。トビムシは土壌を代表する節足動物として環境毒性評価試験に用いられている。トビムシの遺伝子発現を指標とした土壌診断マイクロアレイの開発も進められており、化学物質に応答するexpressed sequence tag(EST)情報の蓄積が進められている。しかし、放射線応答遺伝子については調べられていない。
    本研究では、 Folsomia candidaトビムシの放射線応答遺伝子群を同定することを目的とした。トビムシに繁殖阻害線量(4および26 Gy)のγ線を急性照射し、転写誘導された遺伝子群をhigh-coverage expression profiling(HiCEP)により同定し、線量依存性を定量PCR法により確認した。
    その結果、線量依存的に転写誘導されるものとして、酸化ストレスの解毒(glutathione S-transferase: GST)やDNA修復(poly(ADP-ribose) polymerase: PARP)、脱皮に関与するタンパク質をコードする転写産物や機能未知の転写産物が得られた。さらに、これらの中で強く誘導されたものについて、200 mGyのX線急性照射による転写誘導を調べたところ、複数の転写産物が有意に誘導された。トビムシは個体レベルでは放射線感受性が低いが(半数致死線量1350 Gy)、分子レベルでの放射線感受性はヒトに匹敵するほど高かった。しかしながら、200 mGyの線量で転写誘導された遺伝子には機能が未知のものも含まれており、トビムシの放射線応答の作用機作はヒトとは異なると考えられた。
  • ―植物モデルとしてイネを用いた場合―
    ラクワール ランディープ, Agrawal Ganesh Kumar, 柴藤 淳子, 今中 哲二, 福谷 哲, 田母神 繁, 遠藤 暁, S ...
    セッションID: W4-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    We have been investigating molecular changes in rice (Oryza sativa -crop/grass/genome model) leaves against various environmental stimuli. Our examination was extended to stress responses of rice to ultra low-dose ionizing radiation (IR) first using radioactively contaminated Chernobyl soil (CCS) from exclusion zone around Chernobyl reactor. For this purpose we established a two-week-old rice seedling in vitro model system. Rice leaves were irradiated 72 and 96 h above CCS (contained mainly Cs-137 as gamma-ray emitter), giving 5.34 microGy/day. First results revealed induction of stress-related marker genes and secondary metabolites in irradiated leaf segments over appropriate control. Secondly, employing the same in vitro model system, we replicated the first experiment using in-house fabricated Cs-137 sources with various gamma-ray intensities (2 microGy/day–100 microGy/day) and selected genes by RT-PCR. Results imply that ultra low-dose radiation elicits a defense/stress response in rice, a novel finding, suggesting rice plant as a simple and good model for investigating IR responses. Our colleague, Kimura S, will present details of experimental method at the poster session.
    Reference. Rakwal, R. et al., 2009. Int. J. Mol. Sci. 10:1215-1225.
  • 西口 満, 吉田 和正, 二村 典宏, 楠城 時彦
    セッションID: W4-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    樹木(木本植物)は、二次木部(材)を形成し肥大生長する陸生の高等植物の総称である。樹木は固着した場所から移動できず、多年生・長寿命であるために、長年月にわたり生育環境からのストレスにさらされることから、様々な環境ストレス耐性機構を発達させている。電離放射線もそのような環境ストレスの一種と考えられ、樹木の成長阻害や形態異常、枯死、突然変異などを引き起こすことが、原爆放射線の影響調査や、国内外のガンマフィールドにおける照射実験、チェルノブイリ原子力発電所の事故後の調査により報告されている。また、ゲノムサイズの大きな針葉樹(裸子植物)の方が、広葉樹(被子植物)よりも放射線感受性が高いとされている。しかし、電離放射線に対する樹木の防御機構については、不明なままであった。シロイヌナズナやイネなどの草本植物では、ガンマ線に発現応答するDNA修復遺伝子などの存在が明らかにされていることから、樹木も同様な、あるいは特有の電離放射線に対する防御機構を備えていると考えられる。
    我々は、モデル実験樹木であるポプラ(Populus nigra var. italica)を材料として、ガンマ線の影響およびガンマ線に対する防御機構の解明に取り組んでいる。ポプラにガンマ線を照射すると、線量に依存して、成長阻害、枯死、葉の形や色の異常、節間の短縮、根の細胞死、核DNAの損傷などが観察された。ガンマ線による障害に対する分子防御機構を解明するために、DNAマイクロアレイを用いて、ガンマ線照射前後のポプラの茎葉部の遺伝子発現変動を解析した。ガンマ線照射により発現量が増加した遺伝子群には、DNA修復に関わるDNAリガーゼIVやXRCC4、RAD17、また、活性酸素や過酸化物の消去に関わるペルオキシダーゼやチトクロムP450、グルタチオン代謝関連遺伝子などが含まれていた。これらの結果は、ガンマ線の直接作用および間接作用に対する防御機構をポプラが持っていることを示唆している。
  • ―微生物生態系におけるトップダウン解析の試み―
    石井 伸昌, 府馬 正一, 武田(本間) 志乃, 田上 恵子
    セッションID: W4-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    ヒト以外の生物種や環境を対象とする放射線防護の関心が世界中で高まりつつある中、ICRP、UNSCEAR、IAEAなどの国際機関で、放射線から環境を防護するための枠組み作りが進められている。放射線環境防護の目的は、「生物多様性の維持」、「生物種の保存」、および「生態系の健全性の保全」であり、この目的達成のために、ICRPでは個体や個体群を対象とした影響評価体系の構築を検討している。しかしながら、生態系は様々な生物種が集まり、互いに関係し合いながら構築されている複雑なシステムである。そのため個体や個体群を対象とした研究に加え、生物群集および生態系機能を対象とした研究も必要と考える。
    我々は生態系に対する放射線の影響をトップダウン的手法により評価することを試みている。一例として、本講演では水田土壌微生物群集を対象に、ガンマ線が細菌群集に与える効果と水田土壌から溶出する元素およびイオン濃度の変化について述べる。細菌は放射線に対する感受性が低いと一般には信じられているが、本研究において約5 Gyの照射により細菌群集構造(種組成と各種のバイオマス)が変化することが分かった。また、群集構造の変化に伴い、土壌から溶出する鉄および硫酸イオン濃度も変化した。つまり、水田土壌微生物生態系は、ガンマ線に曝露されることより、その生態系機能が変化する可能性が示唆された。
紫外線DNA損傷の修復欠損遺伝病とその分子病態
  • 池畑 広伸, 日出間 純
    セッションID: W5
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
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    紫外線主要DNA損傷(ピリミジン二量体)の修復機構であるヌクレオチド除去修復を欠損する遺伝病は、色素性乾皮症、コケイン症候群および硫黄欠乏性毛髪発育異常症など合併症も含めて8種類が存在し、紫外線感受性の亢進以外に様々な臨床症状を呈する。また、紫外線損傷の一つであるDNA1本鎖切断の修復を欠損する遺伝病として、アプラタキシン遺伝子に変異をもつ小脳失調症(EAOH/AOA1)が知られる。さらに、AAA症候群や脊髄小脳失調症14型ではアプラタキシンの核内輸送が阻害されることが最近判明した。修復欠損遺伝病における臨床症状の多様性や特異性の原因として、修復と転写の重なりや生成損傷の種類や量およびその修復能の組織間差異などが考えられるが、分子生物学的視点でどこまで説明できるようになったかを示す。
  • 森 俊雄
    セッションID: W5-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    太陽紫外線の主要DNA損傷であるシクロブタン型ダイマー(CPD)や6-4型光産物(6-4PP)は、ヒトにおいてはヌクレオチド除去修復 (NER) 機構で修復される。NER蛋白であるXPDは他の9種類の蛋白と共に基本転写因子TFIIHを形成し、NER経路において、損傷認識段階に続き呼び込まれ、そのヘリカーゼ活性によって損傷周辺のDNA二重鎖を一重鎖状態に巻き戻す。色素性乾皮症D群 (XP-D) および 日光過敏症を示す硫黄欠乏性毛髪発育異常症 (TTD) の大部分は共にXPD遺伝子変異を原因とする常染色体劣性遺伝疾患である。しかし、XP-D患者が太陽露光部で超高頻度に皮膚がんを発病するのに対し、TTD患者では健常人の頻度と変わらない。本研究では、紫外線皮膚発がん感受性差の機構を解析するため、両患者由来細胞のNER 欠損機序について詳細に検討した。
    各々3種類のXP-D細胞およびTTD細胞は共通してCPDおよび6-4PPのゲノム全体修復に欠損を示し、その欠損程度は紫外線感受性と良い相関を示した。変異XPDを含むTFIIHの細胞内濃度はXP-D細胞では正常であったが、TTD細胞では3種類とも半減していた。また、TFIIHの局所紫外線DNA損傷部位への集積はXP-D細胞では正常であったが、TTD細胞の2種類では異常が見られた。さらに、1本鎖DNA特異的結合蛋白RPAの損傷部位への結合量 (おそらく細胞内TFIIHヘリカーゼ活性を反映) は両細胞において減少し、各細胞の減少量は修復欠損の程度と相関した。以上の結果から、両患者由来細胞は共に修復欠損を示し、皮膚発がん感受性差の要因でないことが明らかとなった。しかし、修復欠損の機序については両細胞間で異なり、XP-D細胞ではヘリカーゼ活性阻害であるのに対し、TTD細胞ではヘリカーゼ活性阻害、TFIIHの細胞内濃度低下、および集積異常の複合的なものであることが示唆された。最近の報告で、TFIIHは甲状腺ホルモンレセプターを介する遺伝子発現系においてcoactivator機能を持ち、TFIIH濃度減少は遺伝子発現制御の喪失、特に発現低下を導くことが示された。それ故、TTD患者の皮膚発がん抑制の機序として、紫外線でinitiationされた細胞がpromotionやprogression過程を進行するのに必須な遺伝子産物の一部が供給不足となり がん細胞に成長できない可能性が考えられる。
  • 倉岡 功
    セッションID: W5-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    ヌクレオチド除去修復 (nucleotide excision repair: NER) は、紫外線、化学発癌剤などによって生じるDNA損傷を除去することのできるDNA修復機構である。NERに異常をもつヒト遺伝性疾患として、色素性乾皮症 (xeroderma pigmentosum: XP)、コケイン症候群 (Cockayne syndrome: CS) がある。これらの疾患の臨床症状は、NER欠損に起因した日光過敏症を共通して示す以外は、それぞれの疾患で全く異なる。XP患者は露光部分に皮膚炎症状を示し、正常人の数千倍の頻度で皮膚癌を発症する。CS患者は癌を発症しないが、種々の精神神経異常、身体発育不全や早期老化症状を呈する。NERを欠損するXPにはA~G群の7つの遺伝的相補性群 (XP-A~XP-G) が存在し、CSにはCS-AとCS-Bの2つの遺伝的相補性群が存在する。CS-A、CS-B群ではNERの中でも転写機構とカップリングしてDNA損傷の認識が行われる「転写と共役したNER:TC-NER」を選択的に欠損する。
    CS発症のメカニズムを理解する上で注目すべき点は、XPとCSの臨床症状を併発するXP/CSが存在することである。XP/CSはXPB、XPD、XPG遺伝子の変異により発症する。XPB及びXPDは、NERに加えて基本転写にも必須のTFIIH (transcription factor IIH) のヘリカーゼサブユニットであり、XP-B/CSとXP-D/CSのCS発症は転写機構の異常が引き金になっていることが示唆されていた。一方で、XPGは構造特異的エンドヌクレアーゼ活性をもち、損傷の3’側でDNA鎖を切断する。XPGのNER機構における機能は詳細に明らかにされているが、それ以外の機能は全くわかっておらず、この修復因子XPGの変異によってなぜCSの重篤な遺伝病に至るのか不明であった。
    そこでXPGのタンパク質間相互作用の重要性を考慮しXPGを含むタンパク質複合体を精製した。その結果、XPGはTFIIHと複合体を形成していることがわかった。この結果の重要な点はXP/CS発症の原因となる遺伝子産物の全て (XPG、XPB、XPD) が精製した複合体に含まれることであり、細胞内においてもXPGとTFIIHが密接に連携して機能していることを示唆していた。またXPG自身が基本転写に関与していることも明らかになった。
  • 堀端 克良, 本間 正充, 田中 亀代次
    セッションID: W5-3
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    コケイン症候群(CS)は劣性遺伝性疾患であり、日光高感受性に加え、著しい発育異常、早老症、進行性の神経変性、運動失調を示し、ほとんどが10歳までに死亡する。一方で、劣性遺伝性疾患である紫外線高感受性症候群(UVsS)は日光に高感受性を示すのみであり、早老症や神経症状等は一切見られない。CSの原因遺伝子はCSAおよびCSB遺伝子である。我々は以前にUVsSの原因遺伝子がCSB遺伝子であることを明らかにしたが、原因遺伝子が同一であるにも関わらず、臨床症状が全く異なる原因は不明であった。この原因を突き止めることで、CS-B患者でみられる重篤な臨床症状の発症機構を解明することができると考え、詳細に解析した結果、1)一例を除く全てのCS-Bでは突然変異部位に関わらず、共通する分子量の変異型CSB蛋白質(p150)が発現しているが、UVsSでは全くCSB蛋白質が発現していないこと、2)一例のCS-Bでは突然変異部位に応じた分子量の変異型CSB蛋白質が発現していること、3)ヒトCSB遺伝子上のエキソン5と6の間にトランスポゾンPGBD3が挿入されており、CSB遺伝子座位からは正常CSB蛋白質に加え、PGBD3がエキソンとして認識された結果生じる CSB/PGBD3融合蛋白質、の2種の遺伝子産物が発現しており、CS-Bで見られたp150 はこの融合蛋白質であること、4)一例のCS-BではPGBD3より上流にナンセンス変異をもつが、PGBD3が存在することでnonsense-mediated mRNA decayによる変異型CSBmRNAの分解を回避し、変異型CSB蛋白質が安定化すること、5)正常CSB、p150および変異型CSB蛋白質は共にDNA topoisomerase I(Top1)を含む蛋白質と複合体を形成し、Top1の酵素反応に影響を及ぼしていること、を明らかにした。このことから、CS-B患者で見られる神経変性や運動失調などの重篤な病態は、Top1を介在することが原因となっている可能性を指摘した。
  • ~常染色体優性・劣性小脳失調症とAAA症候群~
    平野 牧人, 森 俊雄, 池田 真徳, 浅井 宏英, 桐山 敬生, 降矢 芳子, 上野 聡
    セッションID: W5-4
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    アプラタキシンは本邦で最も多い常染色体劣性小脳失調症の原因遺伝子として同定され、本邦においてFriedreich失調症とされてきた大部分が、このアプラタキシン関連小脳失調症であることが判明した。私たちは、アプラタキシンが酵素活性を有し、病的変異蛋白が活性を失うこと、さらにDNA単鎖切断修復にin vivoで関与することを、アプラタキシンのノックダウン細胞、患者線維芽細胞、さらに患者小脳組織を用いて証明した。またDNA単鎖切断は酸化ストレスにより蓄積し、抗酸化剤により抑制された。他の研究者から、この蛋白はDNA単鎖切断部位における5’端のAMP化や3’端のリン酸基を除去する活性が報告され、本修復系の重要な構成蛋白である事が明らかにされた。
    また、私たちはアプラタキシンの核内輸送が別の常染色体劣性疾患であるAAA症候群において障害されていることを見出した。この疾患は筋萎縮性側索硬化症と類似した臨床症状を示し、時に小脳失調も呈するが、その他食道アカラシア、無涙症、副腎皮質機能不全を合併する。原因蛋白アラジンは核膜孔蛋白であり、新たに見出した変異蛋白は核膜に移行できない。AAA症候群では核内アプラタキシンの減少に伴い、酸化ストレスによるDNA損傷と細胞死が増加した。
    さらに、アプラタキシンの核内輸送に、リン酸化が関与している事を最近発見した。すなわち、常染色体優性脊髄小脳失調症14型の原因であるProtein kinase Cγ (PKCγ)がアプラタキシンの核局在シグナル近傍をリン酸化し、核内輸送を阻害した。PKC阻害薬で、アプラタキシンの核内輸送、酸化ストレス時のDNA修復能、細胞生存率は改善した。
    以上の研究成果はDNA修復蛋白であるアプラタキシンの質的・量的変化が、神経疾患に関与している事を示し、神経で多いとされる酸化ストレスによるDNA損傷蓄積が神経変性の一因であることを示唆する。
放射線生物作用の初期過程:放射線生物作用のスタートポイントDNA損傷の再認識
  • 寺東 宏明, 和田 成一
    セッションID: W6
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線の生物障害作用は、物理的~化学的~生物的過程を包含する多段階機構であり、その全ての過程における分子機構の解明は放射線生物作用の全貌を明らかにする上で重要な研究テーマである。その多段階機構の中で、遺伝物質であるDNAに対する直接的間接的な電離作用は実際的な生体構成分子の変化としての重要な初期過程であり、 DNAがもつ遺伝情報の変容を引き起こし、致死や突然変異などの最終過程の主要因である。このような観点から、放射線生物学の歴史において、DNA損傷研究は常に重要な位置を占めてきたが、近年、放射線生物作用におけるDNA損傷の重要性はすでに自明のことであるとし、本学会においてもその解明に対する興味が薄れてきている。しかしDNA二本鎖切断や酸化塩基損傷など、これまでに研究されてきた損傷は、いずれも簡単な構造をもつものばかりであり、複雑な構造をもつクラスターDNA損傷などについては、古くからその発生は確認されてきたものの、その生成収率や構造、また生物効果や修復などについて不明な点が多く残されている。また重粒子線などX線・γ線などの比較的簡単に利用できる線種以外によって生じるDNA損傷についても同様である。さらに、これまで用いられてきたDNA損傷の解析法についても、検証されることなく経験的に使われてきている問題点も存在している。本ワークショップでは、未だ不明な点が多いクラスターDNA損傷およびクロスリンク型DNA損傷に関する研究のプログレスと、放射線DNA損傷の解析法に対する問題提起について、現在それらのテーマに精力的に関わっている若手研究者による口演を行い、放射線DNA損傷研究の偉大な先達である山本修広島大学元教授に本テーマの歴史的概観を行って頂く。以上の議論により、放射線生物作用の初期過程における重要なキーステップであるDNA損傷発生過程の重要性について再認識したい。
  • ―分析データの見方と課題―
    赤松 憲
    セッションID: W6-1
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線によって生じるDNA損傷のスペクトル(損傷の種類・量・分布等)は、線質(光子エネルギー、荷電粒子の種類・エネルギー・LET)によって異なるといわれているが、その程度については今だ統一的な見解は得られていない。実験による損傷データは何らかの分析方法を用いて得られるが、ひとつの方法で得られる情報は、全体の損傷のごく一部であり、また目的の損傷を定量的に正しく検出できているか確証を得るのは困難である。したがって、検出対象となる損傷を2種類以上の方法で定量し、比較・考察することで、ひとつの方法では得られない知見が得られると期待できる。
    我々はこれまでに、60Co γ線等いくつかの線質で生じた損傷の、分析方法間の比較を行ってきた。DNA損傷の程度(一本鎖切断ssb、二本鎖切断dsb)を知るための手段としては、閉環プラスミドDNAの鎖切断による3次元構造変化をアガロース電気泳動で見る方法(以下、閉環プラスミド法)が最も良く知られているが、ssbの収率に関しては過小評価されるといわれている。実際、鎖切断の絶対量の定量が可能な、phosphodiesterase Iを利用した方法(SVPD法)[1]を用いて、60Co γ線によって乾燥DNA試料に生じる鎖切断収率を求めた結果、その値は閉環プラスミド法による値のおよそ1.3倍であった。この例が示すように、ある分析方法で検出できている対象は何か、得られる量が絶対量か否か等について、十分考慮した上で結果の判断及び結論を行う必要があるといえる。
    本発表では、いくつかの放射線で得られた損傷データ、過去の報告等を例示しながら、放射線化学と放射線生物学の橋渡しに益するDNA損傷データを実験的に得ていくための道程について議論したい。
    [1] Akamatsu, K., Anal. Biochem. 362 (2007) 229-235.
  • 島崎-徳山 由佳, 平山 亮一, 古澤 佳也, 井出 博, 寺東 宏明
    セッションID: W6-2
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/12
    会議録・要旨集 フリー
    電離放射線の他の傷害因子にみられない高い生物効果は、その生成する損傷の特異性の存在を示唆している。電離放射線がビームとして細胞を通過するとき、DNA上で損傷がビーム周辺に局在して発生する、すなわちクラスターDNA損傷が生じる。クラスターDNA損傷は、孤立損傷と比較して複製阻害能・修復抵抗性が高く、細胞死などの重篤な放射線生物効果の主要因と考えられる。一方、重粒子線を始めとする高LET放射線は、X線やγ線などの低LET放射線と比べて、より重篤度の高い生物効果を引き起こす。これは前者がより局在性の高い電離イベントを生じるためと考えられる。このことは高LET放射線と低LET放射線でクラスターDNA損傷の収率あるいは構造上の特性に違いがあることを示唆している。私達は重粒子線による生物効果の重篤性の分子基盤を明らかにする目的で、γ線(0.2keV/μm)、炭素イオン線(13keV/μm)、鉄イオン線(200keV/μm)によるクラスターDNA損傷の収率とその特性の違いについて検討した。まずクラスターDNA損傷の量的検討について、精製DNA分子ならびにCHO培養細胞を標的とした照射実験の結果、クラスターDNA損傷の収率は、LETの増加に対し逆相関することが分かった[γ>C>Fe] (日本放射線影響学会第51回大会)。本口演では細胞内クラスターDNA損傷のパルスフィールドゲル電気泳動による定量的検討の結果も合わせて報告する。また、クラスターDNA損傷の特質依存的な特性の検討については、オリゴヌクレオチド分子を標的に照射実験を行って、標的分子中の個別損傷を解析した結果、そのLET依存性が示唆された。以上の結果から、放射線生物効果のLET依存性におけるクラスターDNA損傷の寄与について、その量的効果ではなく質的効果の重要性が示唆された。
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