土木学会論文集B1(水工学)
Online ISSN : 2185-467X
ISSN-L : 2185-467X
75 巻, 2 号
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水工学論文集第64巻
  • 清水 啓太, 山田 正, 山田 朋人
    2019 年75 巻2 号 p. I_301-I_306
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     地球温暖化に伴う気候変動による降雨の激甚化に対応した洪水リスク評価の構築は,我が国における喫緊の課題である.同リスク評価の構築に向けては,地球温暖化進行時における極端現象の生起リスクを推定可能とする,アンサンブル気候予測データベースを活用した,計画降雨量の信頼区間の算定が検討されている.一方,従来慣用されてきた計画降雨量の算定手法は,過去の観測実績のみを採用しており,気候変動の影響を考慮していない.本研究では,観測値を得るごとに推定量の更新を可能とするベイズ統計理論を用いて,同データベースの将来4℃昇温実験結果を取り込み,採用確率分布とその信頼区間を更新する手法を構築した.同手法により,過去の観測実績と地球温暖化の影響を考慮した計画降雨量とその信頼区間が把握可能となる.

  • 新井 涼允, 豊田 康嗣, 風間 聡
    2019 年75 巻2 号 p. I_307-I_312
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究では日本の未観測流域を対象として,ニューラルネットワークを利用した流況推定手法の構築と精度検証を実施した.ネットワークの出力値を年流出高Qyear,豊水流出高Q95d,平水流出高Q185d,低水流出高Q275dおよび渇水流出高Q355dから成る5つの流況指標とし,入力値を気象,土地利用,地質・土壌および地形に関する25種類の流域特性指標とした.流況推定精度は,Qyearにおいて最も高く(R2 = 0.76),Q355dにおいて最も低かった(R2 = 0.45).更なる流況推定精度の改善には,学習データ数の増加と,地形・土壌・地質・土地利用に関する流域特性指標の精査が必要であることを確認した.加えて,Q355dの推定精度は,流況指標の中で最も学習データ数に対して感度が高いことを見出した.

  • 許士 達広
    2019 年75 巻2 号 p. I_313-I_318
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     水位流量曲線は日本においては2次曲線の組み合わせが用いられ,水位Hと流量Qの平方根√Qの関係に目視で折れ点位置を定め,最小自乗法で折れ線を当てはめて求められている.その結果折れ線本数など形状に個人差が生ずることや,折れ線をつなぐことに労力を要することなどの問題があった.本研究において簡易な折れ点選定法や折れ線のつなぎ方を考案し,本数をAICで最適化する方法を用いた結果,従来の目視よりも適合度の良い折れ線を数学的に求め,自動化して描くことができた.これにより水位流量曲線を描く際の省力化と精度の向上が実現された.

  • Taeun KANG, Ichiro KIMURA, Shinichiro ONDA
    2019 年75 巻2 号 p. I_319-I_324
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     In this study, we conducted a flume experiment and a numerical simulation for driftwood dynamics on an alternating bar considering the root wad effect and bed deformation. For numerical simulation, we used Nays2DH with driftwood dynamics model. We then analyzed the relationship between the bed morphology and the wood deposition patterns. The experimental results showed diverse patterns of morphodynamics and motions of driftwood, such as pushing motion, scraping erosion, piping erosion. However, the present driftwood dynamics model could not reproduce partially the angle of driftwood deposition (most of the wood pieces laterally deposited against flow direction in the experiment) because the wood collision is underestimated in the simulation. In addition, the driftwood model does not consider the pushing and scraping motion of wood pieces, and diverse sediment transports such as scraping erosion and piping erosion. It, therefore, should be considered in further study.

  • 吉田 圭介, 前野 詩朗, 永田 貴美久, 児子 真也, 赤穗 良輔
    2019 年75 巻2 号 p. I_325-I_330
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     2018年7月の西日本豪雨時,旭川下流部では大規模な洪水が発生し,砂州上の樹木や草が流出するとともに竹林の倒伏が観察された.従来,植生流出の限界条件は洪水前の植生繁茂条件の下で,流量ピーク時に植生に働く流体力や河床の無次元掃流力に基づき求めるが,本洪水の植生流出では流体力や掃流力のデータにバラツキが大きく,限界条件を合理的に検討できなった.そこで,本研究では植生高と無次元掃流力から限界条件を定めて植生を流出させながら,同時に河道抵抗を減少させて連成する洪水流解析モデルを構築した.また,航空レーザー測深から,洪水前の河床地形,地被および植生特性量の面的分布を得て,洪水流解析のデータとして利用した.平成30年の洪水流解析の結果,植生流出の限界掃流力を一定とするよりも,植生高分布や流況に応じて植生を流出させることで,洪水時の植生流出解析の再現性が向上した.

  • 尾花 まき子, 村上 尚哉, 戸田 祐嗣
    2019 年75 巻2 号 p. I_331-I_336
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     植生を伴う複断面流路での低水路と高水敷の境界部における横断混合については,河川の樹林化や土砂堆積による川幅減少の要因であり種々検討されているが,高水敷高さや植生の有無が浮遊砂の堆積へ及ぼす影響は明らかになっていない.そこで,本研究では,(1)高水敷高さ(2)高水敷植生の有無(3)浮遊砂濃度を系統的に変化させた実験により,高水敷高さが浮遊砂堆積へ与える影響とそこに植生が侵入したときの複合作用を明らかにすることが目的である.結果,高水敷上への土砂堆積は,水平渦の発生とそれによる低水路から高水敷へ向かう土砂輸送,および高水敷上水深による交換断面の大きさにより規定され,そこに植生が入ると流速低減に伴い堆積が大きく進むことが明らかになった.

  • 赤堀 良介
    2019 年75 巻2 号 p. I_337-I_342
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究では砂州の切り下げ事業後に進出した草本域に関して,現地観測の結果から得た粒度分布や,高頻度の撮影画像から得たSfM-MVS解析による微地形の変遷から,その維持機構を検討した.特に草本群落が河床材料の被覆を受けずに維持されている領域において,平均年最大値規模の出水後に細粒分のみならず砂分を多く含む土砂が堆積する現象に関して,数値解析を併用することで水理的な条件を検討した.解析では,簡易な植生内流速の算出法を用いることで,粒子沈降速度との比較から浮遊砂としての連行条件を推定可能であると仮定した.結果からは,現地観測結果との比較において,浮遊砂としての連行条件を満たしていない領域において,砂分の堆積が多く見られた.

  • Yuexia ZHOU, Gou ANDO, Kenta SUNAHARA, Yuji TODA
    2019 年75 巻2 号 p. I_343-I_348
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     This study aims to predict the potential initial recruitment zone and its coverage rate of riparian vegetation at the recruitment zone. An initial recruitment model was proposed with the considerations of inundation frequency, sediment transport and spring flood. The parameter used in the simulation is calibrated by the UAV monitoring and aerial photograph analysis results at the target river. Then the model was validated by comparing with the field survey results. The simulation results showed that the initial recruitment zone locates along the shoreline with the line shape, and the coverage rate of vegetation at the recruitment zone presents the decreasing trend from the internal boundary to the external boundary. The comparison of simulation and field survey results showed that the initial recruitment model can predict the initial recruitment zone well and approximately express the coverage rate of vegetation. This indicated that hydrological variables are significant for initial recruitment of riparian vegetation.

  • 溝口 裕太, 田中 規夫
    2019 年75 巻2 号 p. I_349-I_354
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     多年生草本ツルヨシは,礫河原において植生遷移の起点となる先駆的植物として知られている.本稿では,洪水撹乱に対するツルヨシの応答性を現地観測に基づき把握するとともに,植生動態モデルによる当該植物の生長特性の再現を試みた.撹乱頻度(比高差)が異なる3地点での観測結果より,比高差(中)かつ個体年齢3年目以上のグループが匍匐茎の本数と総延長が最も大きく,個体年齢が2年目のグループとの間に有意差を認めた.他方,植生動態モデルについては,洪水撹乱をほとんど受けていない比高差(大)地点において観測された主茎体積と匍匐茎延長を高い精度で再現したことに加え,当該モデルの汎用性の高さを確認し,異なる撹乱条件下でのツルヨシ群落の拡大予測に広く適用できる発展性が示唆された.

  • 吉田 貢士, 大澤 和敏, 鈴木 遥, 水野 広祐, 前田 滋哉, 黒田 久雄
    2019 年75 巻2 号 p. I_355-I_360
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     インドネシア国リアウ州の泥炭島を対象として,再湿地化によるCO2放出量および火災リスクの低減効果を定量評価した.観測した水文気象データとCO2放出速度の相関分析により,熱帯泥炭湿地における土壌からのCO2放出速度は,気温や地温の上昇によって促進され,地下水位や土壌水分量の増加によって抑制されることが示された.地下水位-CO2放出量推定モデルを適用した結果,地下水位計算値のNash係数が0.5以上となり実測値を概ね再現した.短期連続観測によるCO2放出速度の実測値と計算値の推定誤差はRMSEで2.5(tCha-1 year-1),相対誤差率は19%であった.モデルを用いて,再湿地化によるCO2放出量および不飽和層の削減率を計算した結果,乾季の排水路水位を100cm堰上げすることにより 17.2%のCO2削減効果が得られ,火災リスクの指標となる不飽和層厚さは46.4%削減される結果が得られた.

  • 松井 宏之, 木下 拓也, 杉崎 芽依, 大澤 和敏
    2019 年75 巻2 号 p. I_361-I_366
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究は,脱窒による水田の硝酸態窒素除去機能の定量化に向けて,湛水土壌における蒸発や浸透を考慮した硝酸態窒素除去量推定式の導出・検証,温度および蒸発が湛水土壌中の硝酸態窒素除去係数に与える影響について明らかにすることを目的とした.温度および蒸発の影響は,黒ボク土2cmの上に硝酸態窒素とメタノールの混合溶液を4cm湛水させた水田模型を用いて分析した.結果は以下の通りである.導出した式が既往の式と比較し,精度よく硝酸態窒素濃度の変化を再現できることを確認した.次に,温度による硝酸態窒素除去係数の変化を下に凸の曲線で表すことは必ずしも適切ではなく,30°C付近で最大となることがあることを示した.加えて,蒸発量の大小が硝酸態窒素除去係数に影響を与えることが示唆された.

  • 一柳 英隆, 吉野 方人, 池上 龍, 皆川 朋子
    2019 年75 巻2 号 p. I_367-I_372
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     流域の河川生態系保全の基礎情報として,九州北中部の河川上流域において,コンクリート護岸の現状を調査した.コンクリート護岸割合は,河岸距離あたりで20%近くに及んだ.コンクリート護岸割合は,標高が低く,勾配が小さい河川で高かった.これらの河川は,道路が河川に沿ったように配置されることによって,また周辺の土地が改変されることによって,さらにコンクリート護岸割合が高くなった.地質で分類した場合には,標高が低いところに分布し,河川勾配が小さく,道路が河川近傍に配置されていることが多い泥質片岩でコンクリート護岸割合が高かった.流域の生態系保全を考えると,標高が低く勾配がない上流河川や泥質片岩の河川は改変度が大きく,今後重点的に保全や復元を考える必要があると考えられた.

  • 西俣 淳一, 宮本 仁志
    2019 年75 巻2 号 p. I_373-I_378
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本論文では,都市河川の中・下流部を対象にして現地観測と熱収支解析により河川水温の形成要因を分析した.対象とした河川は首都圏を貫流する一級河川多摩川である.多摩川には複数の水再生センターから年間ほぼ一定温度の処理水が流入している.現地観測から,中流部では年間を通じて処理水からの熱フラックスの影響が河川水温の形成に大きく影響すること,下流部では年間を通して上流からの移流水塊はほぼ一定水温で流下することがわかった.一方,一次元熱輸送式を用いた熱収支解析からも,河川水温は中流部のほうが下流部に比べて夏・秋季ともに処理水の影響を受けやすいことが確認された.さらに,熱収支解析により流下に伴う河川水温の支配要因を分析したところ,中・下流部ともに秋季において,水面・潤辺などの熱フラックスに比べて処理水からの熱フラックスが水温形成に支配的であることが推察された.

  • 中谷 祐介, 井上 尚美, 西田 修三
    2019 年75 巻2 号 p. I_379-I_384
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     東横堀川・道頓堀川では貧酸素化が問題となっている.上下流端には水門が設置されており,上流水門では高DOの上流河川水を取り込むように導水操作が行われているが,DOの改善効果について十分な検討はなされていない.また,下流水門からは低DOの海水が底層に侵入しているが,実態は明らかにされていない.本研究では,東横堀川・道頓堀川において現地調査を行い,導排水操作による水質変動を把握するとともに,水門内のDO改善効果について評価を行った.その結果,適切なタイミングで導水を行えば75%以上の確率で高DO水塊を導水できること,塩水は閘門操作時に底層侵入していることがわかった.しかしながら,高DO水塊を常時導水した場合でも,流下過程における酸素消費の影響が大きいため,貧酸素水塊の発生を抑制することは難しいと考えられた.

  • 山口 皓平, 赤松 良久, 福井 慶一郎, 乾 隆帝, 河元 信幸
    2019 年75 巻2 号 p. I_385-I_390
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     近年,中国地方の多くの河川において外来沈水植物であるオオカナダモの異常繁茂が問題視されている.そこで,河道におけるオオカナダモの効果的かつ効率的な防除策を開発・検討する必要があり,本種の繁茂・成長のメカニズムを物理的に解明することが求められる.

     本研究では,切れ藻の河床定着と水理条件との関係を明らかにすることを目的に,流失した切れ藻が河床の礫に捕捉された状況を四連式水路で再現し,異なる流速,河床条件下で同時に生育実験を行った.その結果,高速条件及び変動条件では,低速条件よりも藻体の成長が抑制され,実河川においても同様な傾向にある可能性が示唆された.また,この結果から流量変動による防除策の有効性が高い事が示された.

  • 児玉 貴央, 赤松 良久, 宮園 誠二, 山口 皓平
    2019 年75 巻2 号 p. I_391-I_396
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     2018年7月豪雨において,江の川では川本観測所で観測史上第1位の水位を記録する大規模な出水が発生した.本研究ではこの出水前後に江の川の土師ダム下流から三川合流部の区間(約38km)におけるオオカナダモの被度をUAVを用いて調査を実施した.大規模出水時のオオカナダモの被度は全域で大幅に減少したものの,局所的にはオオカナダモが残存することが明らかとなった.ピーク流量時の流れの再現シミュレーションを実施し,オオカナダモの流失率と無次元掃流力・流速の関係を検討した結果,無次元掃流力と正の相関があり,出水時に無次元掃流力が高い地点はオオカナダモの被度が大幅に減少することが明らかとなった.

  • 駒井 克昭, 早川 博, 佐藤 辰哉, 中山 恵介
    2019 年75 巻2 号 p. I_397-I_402
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     オホーツク沿岸潟湖においてアマモ場の分布を人工衛星データを用いて推定し,現地観測によって得られたDIC(溶存無機炭素)とその変化量との比較により検証した.人工衛星Sentinel-2のNDVI値を平均化した値をアマモの分布密度に換算して分布データを作成した.アマモ繁茂域の内外の計17地点において2018年7~8月の約1か月間のDICの濃度変化をモデルにより計算した結果,観測値を良好に再現したことから,NDVI値によってアマモ場の分布が良く再現されたことが確認された.アマモの繁茂の有無による再現性の傾向の違いが見られたが,水面下での繁茂状況の推定が不十分であることやアマモの流水抵抗による水交換と水質に及ぼす影響が関係していることが示唆された.

  • 皆川 朋子, 川浪 健太郎, 栗田 喜久, 小山 彰彦, 林 博徳
    2019 年75 巻2 号 p. I_403-I_408
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究は,環境DNA分析を用いたイシガイの生息量評価に関する知見を得ることを目的に,イシガイのプライマー・プローブを設計し,イシガイの生息や生息量の評価に関して室内実験及び野外調査を行い検討した.その結果,室内実験によりイシガイの個体数と環境DNA濃度との間に正の相関関係が認められ,野外における定量評価への可能性が示された.これを踏まえ,野外調査への適用を検討するため農業用水路や小河川においてイシガイ個体数と環境DNAの検出数,環境DNA濃度及びフラックスとの関係性を評価した結果,特に生息数が多い保全上重要な地点の抽出に貢献できる可能性が示唆された.

  • 大中 臨, 赤松 良久, 佐藤 領星, 山口 皓平, 小室 隆, 乾 隆帝
    2019 年75 巻2 号 p. I_409-I_414
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     国内初の 3 連ダム通砂が実施される宮崎県の耳川を対象として,UAV-SfM/MVS解析を用いた通砂による河川中の土砂動態の解明と,環境DNAを用いた通砂による生態系への影響の評価・検討を行った.

     UAVによる河川写真測量の際に問題となる水域部に対してArcGISと屈折補正係数を使用して補正計算を行うことによって水域部を含めたダム通砂による地形変化を把握した.また,通砂によってダム下流域の土砂輸送が活性化し,ダムの直下では河床が洗堀傾向にあるが下流に行くにつれて堆積傾向にあることが明らかとなった.さらに,ダムの通砂による河床変動の活性化に伴って,下流域におけるアユの環境DNA濃度が増加し,アユの生物量が増加している可能性が示唆された.

  • 堀内 雄介, 松浦 拓哉, 手計 太一, Sanit WONGSA
    2019 年75 巻2 号 p. I_415-I_420
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,Chao Phraya川下流における現地観測結果とADCP観測結果を用いて,水理特性と水質特性を明らかにすることである.著者らは,2016年8月から2年以上にわたり定期的に現地観測,水質分析,ADCP観測を実施してきた.その結果に加え,タイ政府による水質・水位自動モニタリングデータを併用して,水理特性と水質特性を明らかにした.

     その結果,雨期と乾期の水位変化に応じてECが乾期の2月において上昇のピークに達し,河口からの距離80km~100km付近まで高い値を示した.ADCP観測結果では,水位上昇時には逆流現象,水位低下時には順流現象が全層で起きていることが認められた.これらの現象時において逆流現象時には海水が侵入することでECが底層で上昇し,順流現象時には全層でECが同程度の値を示すことがわかった.

  • 東 博紀, 秋山 千亜紀, 中田 聡史, 吉成 浩志
    2019 年75 巻2 号 p. I_421-I_426
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     閉鎖性海域における水環境・生態系の保全・再生や気候変動への適応策を検討する上で,集水域からの汚濁負荷流入量とその変動を把握することは重要である.本研究では,瀬戸内海の全集水域を対象とした汚濁負荷流出モデルを構築し,2006~2015年の10年間を対象として再現計算を実施した.一級河川におけるCOD,TN,TP流出量の観測値と計算値の比較を通じてモデルの再現性を確認した後,同期間のTN濃度・流出量の変動傾向について考察した.その結果,21一級水系のほぼ全てにおいてTN濃度の観測値に有意な減少傾向が認められ,本モデルの計算値もその傾向を示した.一方,計算値の流量およびTN流出量は増加傾向を示し,これらの変動傾向には降水量の増加が関与していることが示唆された.

  • 中谷 祐介, 岩岡 慶晃, 西田 修三
    2019 年75 巻2 号 p. I_427-I_432
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     合流式下水道越流水が流入する都市河川では,降雨後に浮遊汚泥(スカム)が水面に現れ,水域生態系へ悪影響を及ぼすとともに,都市景観や悪臭,公衆衛生の観点からも早急な解決が求められている.本研究では寝屋川水系平野川を対象に,水位・流速・水質計と複数の定点カメラからなるスカム観測システムを構築し,河川の流動・水質特性とスカムの挙動について調査を行った.

     平野川の流動には,日周潮や半日周潮だけでなく,大阪湾‐紀伊水道の固有振動である1/5~1/6日周期の変動成分が無視できない影響を及ぼしていた.スカムは季節に依らず発生しており,降雨の1~3日後に観測されるケースが多かった.スカムは潮汐に応じて流下・遡上しながら移流する一方,船舶の航行により破壊され沈降・消失するなど,その挙動は人為的要因の影響を強く受けていた.

  • 藤山 朋樹, 吉田 拓司, 宮本 颯太, 村上 依里子, 岡本 洋輔, 片岡 智哉, 二瓶 泰雄
    2019 年75 巻2 号 p. I_433-I_438
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究では,河川におけるプラスチックごみ輸送過程を明らかにするために,荒川の縦断方向複数地点においてマクロ・メソ・マイクロプラスチックごみの堆積量及び吸光スペクトルを用いた劣化状況の把握を行った.その結果,荒川下流部のプラスチックごみ堆積量は上・中流部よりも多かった.また,各地点の横断方向では,水際に比べてコンクリート護岸上の方が,メソ及びマイクロプラスチックの堆積量が多いことから,護岸上に長期滞在することで微細化が進行していることが示唆された.また,サイズ別の劣化度を調べたところ,マイクロ>メソ>マクロであり,細かなプラスチックほど劣化が進行している一方で,ほとんど劣化していないマイクロプラスチックも相当数存在することが明らかになった.

  • 小林 俊介, 片岡 智哉, 宮本 颯太, 二瓶 泰雄
    2019 年75 巻2 号 p. I_439-I_444
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究では,河川水中の5mm以下の微細なプラスチック片(microplastics,MP)の輸送特性を明らかにするために,平常時に江戸川野田橋で現地観測を行い,MP濃度鉛直分布を調べるとともに,採取されたMPを用いた室内実験を行うことでMPの上昇(沈降)速度を調べた.河川におけるMP濃度の鉛直分布には,水表面と底面付近にピークがあり,水表面(底面)には比重が1以下(1以上)のMPが比較的多く分布していた.また,MPの沈降速度(平均: 13.5 mm/s)は,上昇速度(平均: 2.68mm/s)よりも大きく,サイズと共に増加していた.従って,河川水中の鉛直混合下であっても,比重の大きなMPが底層に沈降していることが示唆された.

  • 東川 真也, 藤田 一郎, 中山 恵介, 谷 昂二郎
    2019 年75 巻2 号 p. I_445-I_450
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
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     急流河川では,高速流条件下において反砂堆が三次元化し,水面波が急峻な三角状となる三角状水面波列が発生することが報告されている.この水面波列は橋梁・河川構造物等への影響が懸念されているが,不明な点が多く,特に発生条件については未解明である.三角状水面波列のように大振幅の水面波が発生する現象としては「ソリトン共鳴」が挙げられ,Miles(1977)によると増幅率は最大で4倍にも達することが知られている.そこで本研究では三角状水面波列がソリトン共鳴により生じているのではないかと考え,三角状水面波列に焦点を当てた桟粗度実験を行った.その結果,実験結果と修正されたMilesの理論解がよく一致することを確認し,三角状水面波列はソリトン共鳴により発生することを見出した.

  • 井上 卓也, 岩崎 理樹, 矢部 浩規
    2019 年75 巻2 号 p. I_451-I_456
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
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     射流下の流路では,反砂堆の上の水面が河床と同位相となるため,三角波と呼ばれる大きな水面波が形成される.三角波の形成は,内部流速を局所的に変化させ,ブロックの不安定化に寄与することが指摘されている.本研究は,ブロックの設計法に関する基礎データを取得することを目的に,三次元的な反砂堆の河床形状,その上の水面形状と空間的な流速場の計測を実施した.実験の結果,三次元反砂堆の河床形状は下流側に弧を描く三日月型の形状をしており,この河床地形に起因する斜めに交差する流れが,クレストの頂部付近で水面を押し上げ,三角波を発生させていることを確認した.また,局所流速は平均流速に比べ最大20%増大していた.

  • 藤山 宗, 中矢 哲郎
    2019 年75 巻2 号 p. I_457-I_462
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究では,底流と越流を用いた水位・流量制御を特徴とするチェックゲートを作成し,水理模型実験を実施し,流況に及ぼすゲート構造の影響について,流量公式中の流量係数Cを指標とした評価を行った.水理実験においては,ゲート開度dに対する底流と越流の離隔wの比d/wが0.12~0.14の範囲にて,底流ゲートの流量係数Cd/wの増減に関係無く概ね一定であったの対し,越流セキの流量係数Cd/wが増大するにつれて1.17~2.02の範囲で大きくなった.また,底流と越流の複合時には,底流流入部の流れが越流セキ上流部の流速に影響を及ぼすことにより,全水頭が変化し,その結果として,越流セキの流量係数Cが変化したものと推察された.

  • 河元 信幸, 金城 海輝, 朝位 孝二
    2019 年75 巻2 号 p. I_463-I_468
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     直線水路と湾曲水路の横越流堰からの流出特性の相違を検討するために,水理条件と横越流堰条件をあわせた実験を行った.その結果以下の結論を得た.1) 湾曲水路の流下方向水面形は直線水路と比べて横越流堰の有無,長さに関わらず水面が低くなる.2) 横越流堰がない場合の流速分布は,横越流堰の長さに関わらずその差異は小さい.3) 両水路ともに横越流堰と反対側に滞留領域の存在が確認された.その規模は横越流堰の長さに比例して広範囲になり,その際の流出流入比は大きくなる.また湾曲水路よりも直線水路で滞留領域が広くなる.4) フルード数に対する流出流入比は,直線水路よりも湾曲水路の方が大きい.

  • 大串 浩一郎, 川原 航, 森田 俊博
    2019 年75 巻2 号 p. I_469-I_474
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     筑後川では戦国・江戸時代以降,洪水疎通能力を高める目的で蛇行部を直線化する捷水路が作られた.我が国最大の干満差を有する有明海の潮汐の影響を受ける筑後川下流域では,捷水路建設後も筑後川に合流する支川はいずれも旧蛇行部にまず流入し,その後,本川に流れ込んでいる.しかしながら,旧蛇行部を残して支川をここに合流させるシステムの目的や効果はよく分かっていない.

     本研究では,旧蛇行部を含めた筑後川下流域の一次元不定流解析及び二次元氾濫解析を行い,捷水路と旧蛇行部,流入支川群などを含めた当該流域の治水・利水の効果を水理学的に検討した.その結果,有明海の潮汐の影響を受ける地域と受けない地域においてそれぞれ特有の治水・利水の効果が見られた.

  • 藤本 真志, 岩本 直弥, 新谷 哲也, 横山 勝英
    2019 年75 巻2 号 p. I_475-I_480
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     汽水域では潮汐の影響により塩分濃度が時空間的に変化するため,生態系の保全管理のためには生物ごとに生育に適した環境がどこに形成されるか明らかにする必要がある.本研究では汽水域三次元流動シミュレーションに粒子追跡モデルを追加し,汽水魚が産卵した後の浮遊挙動を推定するモデルを構築した.粒子モデルには,魚の卵と周囲水の密度差に起因する浮上沈降の効果を組み込んだ.また,粒子追跡計算では,z-coordinateの地形表現に起因する粒子トラップを回避する修正を施した.本モデルを筑後川感潮域に生息する特産汽水魚のエツCoilia nasusの卵に適用し,産卵後の卵の移動特性を解析した.モデル化粒子と浮力を考慮しない中立浮遊粒子の挙動を比較した結果,中立浮遊粒子に比べて河口へ流出が抑えられ,モデル化粒子の有効性を示すことができた.生存状況と卵が接触した累積塩分量の関係を用いて,最適な産卵場所を逆推定した結果,既往研究で示された生物学的な知見との対応関係を考察することができた.

  • 杉本 尚子, 白川 耕, 杉原 裕司, 山上 路生, 岡本 隆明
    2019 年75 巻2 号 p. I_481-I_486
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     開水路乱流場の自由表面にせん断応力(界面せん断応力)が付加された場合に,乱流場がどのように応答するのかについてDNSおよび標準k-εモデルによる数値実験を行った.乱流特性量の鉛直分布特性は界面せん断応力の正負に強く依存して変化することを示した.負の界面せん断応力が作用する場合,DNSの結果では半水深付近の主流速がせん断応力がない場合に比べて加速することを確認したが,標準k-εモデルではこのような特徴を再現できない.また,界面発散とテイラーマイクロスケールのスケーリング則は,界面せん断応力の大きさや正負に関わらず普遍的に成立するが,界面発散と乱れエネルギー散逸率のスケーリング則は破綻することを見出した.このことは界面のスカラー輸送が界面のせん断応力の正負の符号によって変化する事を意味する.

  • Naveed ANJUM, Norio TANAKA
    2019 年75 巻2 号 p. I_487-I_492
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     In the present study, a turbulent flow structure through vertically double layer vegetation (DLV) as well as single layer vegetation (SLV) under steady subcritical flow condition of inland tsunami in an open channel was investigated computationally by incorporating a three-dimensional (3D) Reynolds stress turbulence model, using FLUENT. The numerical model showed the ability to capture inflection in velocity profiles close to the top of short vegetation height, and suggested the modeling of inflection over this mixing layer region of flow. The production of turbulent kinetic energy and dissipation of turbulent energy through the vegetation region was observed to be comparatively very high for DLV flow as compared to that of SLV flow, which suggested that incorporating short vegetation within tall vegetation significantly increases turbulence in the flow and dissipation of turbulent energy. The 3D simulation data of velocity and shear stress around the mixing layer was also used to derive important information that could be used in 2D modeling of flows through DLV.

  • 大柿 貴利, 冨永 晃宏
    2019 年75 巻2 号 p. I_493-I_498
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     水制背後の減速や堆積促進などの目的に応じた適切な杭水制の設置方法を考える上では,水制下流の流れ構造について詳細な検討が必要である.本研究では,円柱を透過型水制として用い,杭群の具体的な配置方法の基礎的特性を明らかにするために,円柱を1列配置し直径と本数を変化させて,同じ透過率に対して円柱の直径と間隔の違いが水制背後の流れ構造に及ぼす影響について実験的に検討した.同じ透過率でも杭直径と杭間隔の組み合わせにより,水制背後の流れ構造は異なり,杭間隔が大きくなると通過流量が増大した.水制背後の減速率は透過率の減少に伴い増大するが,同じ透過率でも直径が大きくなるほど減少した.このような減速率の変化は相対杭間隔を用いて表現することができた.

  • 渡辺 勝利, 大中 臨
    2019 年75 巻2 号 p. I_499-I_504
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究では,土留め壁工法を河川護岸として実用化したガンロック護岸の防災性能を向上させるために,旧ガンロックを改良した新ガンロック護岸の粗度係数,流体力に対する安定照査,護岸周辺の流速分布特性,内部流況の特徴を水理模型実験,力学モデルによって検討した.その結果,新ガンロック護岸の粗度係数は0.041であり,旧ガンロック護岸のそれよりも2割程度増加することが明らかとなった.力学モデルの計算からは,抗力,揚力に対する限界流速が算出された.また,護岸周辺では旧ガンロックに比べて大規模かつ強い二次流が形成され,護岸周辺における主流速の低減効果が認められた.さらに,新ガンロック周辺には大規模な渦構造が形成され,主流速の低減効果や二次流の生成に寄与することが推察された.

  • 宮川 幸雄, 小野田 幸生, 大槻 順朗, 中村 圭吾
    2019 年75 巻2 号 p. I_505-I_510
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     大型糸状藻類カワシオグサは,ダム等の影響によって粗粒化・安定化した河床に繁茂しやすく,アユ等藻類食者の餌資源として適さないことなどから,河川環境劣化の一つの表れであるとみなされている.しかし,カワシオグサの定着・生育環境,特に河床材料との関係性に関して十分に明らかではなく,定着リスクの評価手法の構築に至っていない.本研究では,ダム下流等における広域的な河川環境の健全性を評価する手法の確立を念頭に,矢作川中流域の越戸ダム上下流における現地調査データから,河床粒径分布と流況による土砂の移動特性を考慮したカワシオグサの定着予測モデルを構築し適合性を検討した.その結果,本ケースでは,ダムの上下流環境の違いや洪水履歴がカワシオグサの定着可能性に影響をもたらすものの,河床材料の中間径のみを用いた簡易評価モデルでも有用な判別性能を有することが示された.

  • 糠澤 桂, 有働 祐也, 鈴木 祥広
    2019 年75 巻2 号 p. I_511-I_516
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     流域一貫での河川環境管理のためには,水系内の環境勾配に沿った生物の存在量を把握することは有意義である.そこで本研究では,宮崎県小丸川水系において,底生動物と付着藻類の網羅的なサンプリングと機械学習を用いることにより,流域規模で底生動物群集の個体数予測における餌資源因子の重要性を評価した.宮崎県小丸川水系において上流域と下流域それぞれ33地点と17地点の調査地点を設定した.クロロフィルaは,下流域の摘み取り食者の個体数と有意な正の相関を示した(r=0.524, p=0.031)ものの,掃き取り食者とは明瞭な相関関係を有していなかった.ランダムフォレストにより底生動物個体数密度の予測モデルを構築した所,10地点以上に存在した63分類群にとってクロロフィルaの重要性および予測能力は高くない一方で,樹冠開空度はわずかに予測性能を向上させることが示された.

  • 河野 誉仁, 赤松 良久, 乾 隆帝
    2019 年75 巻2 号 p. I_517-I_522
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     河川管理においては治水,利水とともに環境保全が重要視されるが,このような河川管理のためには河川生態系の理解が必要である.そこで,島根県の一級河川である高津川において,生物量モニタリングを実施し,河川生態系を構成する主要生物(魚類,底生動物,藻類)の生物量の季節的変動及び出水攪乱への応答を明らかにすることを試みた.その結果,各生物の羽化や産卵等に伴う生物量やサイズの変動を捉えることができた.また,出水ピーク時の流速及びD50の無次元掃流力と出水前後の生物量及び個体数の関係性を検討した結果,対象の9分類群のうち4分類群において明確な負の関係性がみられ,生物ごとに生物量や個体数が半減,0になると推定されたときの流速や無次元掃流力が異なることが明らかとなった.

  • 乾 隆帝, 河野 誉仁, 赤松 良久, 栗田 喜久, 後藤 益滋
    2019 年75 巻2 号 p. I_523-I_528
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究では,佐波川および小瀬川において,アマゴを対象に,環境DNA分析をによって得られた夏季の分布情報と,水温ロガーによって得られた水温データを用いてアマゴの分布予測モデルを構築し,水温変化時における分布域の変化を予測することを試みた.その結果,アマゴの分布には夏季日中の平均水温が最も影響を与えていることが明らかになり,さらに,水温上昇・低下時のシナリオ分析の結果,アマゴの生息域は,夏季の日中の河川水温が1℃上昇するだけで半減し,3℃上昇するとほぼ無くなる可能性が高いことが明らかになった一方,水温が低下すると生息域が大幅に増加することが明らかになった.

  • 吉田 圭介, 乾 隆帝, 宇田川 涼平, 前野 詩朗, 赤松 良久, 児子 真也, 髙橋 幸生, 永田 貴美久
    2019 年75 巻2 号 p. I_529-I_534
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     これまでアユの産卵床の調査方法は一般に,潜水による着卵礫の目視確認であり,得られる結果は経験や技量に加えて調査時間や労力に依存する.そのため,河床環境が悪化した河川や,大河川および急流河川で産卵の可能性を検討する際には必ずしも十分な方法とは言えない.本研究では樹林化で河床撹乱が低減しつつある旭川下流部の3地区の瀬においてアユの産卵可能性を検討することを目的に,秋期のアユの河川降下に合わせて,昼夜間の環境DNAの変化と産卵行動および瀬の水理特性との関係を調査した.

     その結果,水理特性値が空間平均的に産卵に適した条件の瀬では着卵礫が観察され,また昼夜間で比較すると環境DNA濃度は夜間に急増することが分かった.さらに,着卵礫が観察されず,特性値が空間平均的には産卵に適さない条件の瀬であっても昼から夜にかけて環境DNA濃度は増加することがあり,そこからアユが部分的に好条件の河床を探し出して産卵する可能性が推察された.

  • 駒井 克昭, 湯原 和樹, 広木 駿介
    2019 年75 巻2 号 p. I_535-I_540
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     河川水温の変化が遡河性魚類の腐敗に伴う栄養塩の還元量と河川の水質に及ぼす影響を実験的に検討した.道東地方の遡河性魚類として資源量の多い魚種の一つであるカラフトマスOncorhynchus gorbuschaを対象とし,遡上時期の10~11月の河川水温を想定して遡上後の腐敗に伴う栄養塩の還元速度の実験を行った.実験条件として魚体の部位,性別,河川水と蒸留水,および水温の違いを考慮した.その結果,温度が高い条件でNH4-NやPO4-Pの溶出速度が大きく,部位や性別も還元速度への影響が認められた.1968~2017年の50年間における河川水温と河川流量の変化に基づいて推定した結果,カラフトマスの死骸からのNH4-Nの還元量は最大40%増加していることが明らかとなった.

  • 松澤 優樹, 福田 信二, 大平 充
    2019 年75 巻2 号 p. I_541-I_546
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     湧水起源の都市小河川において,希少魚種であるホトケドジョウLefua echigoniaを対象とする網羅的な生息環境調査を実施し,得られたデータから生息環境評価モデルを構築した.月一回の頻度で2年間実施した現地調査の結果に対してランダムフォレスト(RF)を適用した.その結果,高い再現性が得られたとともに,本種の生息環境として,流速が重要であることが示唆された.生息場ポテンシャルを示す応答曲線により,20 cm/s以下の低流速域に加え,50 cm/sを超える条件において生息場ポテンシャルが高く評価された.これは,既往の研究における報告と相反するが,対象水域には多くの大礫や植生が存在していることから,これらによる流速緩和効果が本種の分布に寄与したと考えられる.今後は,遊泳能力の定量評価等による本種の生息環境特性の理解深化が課題である.

  • 鬼束 幸樹, 泉 孝佑, 窄 友哉, 宮川 智行, 峰下 颯也, 本松 七海
    2019 年75 巻2 号 p. I_547-I_552
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     近年,河川環境の悪化がウナギの種の存続や成育速度に影響を与えていると推測されており,ダムや堰にウナギ用魚道を併設することが望まれている.欧米のウナギ用魚道では,斜面上に設置するブラシや円柱突起物は千鳥状または格子状配置のいずれかの方法が採用されている.しかし,どちらの配置方法がウナギの遡上に適切かは不明であり,突起物の配置方法について比較検討した研究例はおそらく存在しない.本研究では,ウナギ用魚道内に設置した突起物の配置方法がニホンウナギの遡上特性に及ぼす影響について検討した.その結果,本実験条件の流量範囲では格子状配置と比較して,千鳥状配置の方がニホンウナギの遡上率や遡上速度が増加することが解明された.突起物を千鳥状に配置することがニホンウナギの遡上率の向上につながると推測される.

  • 鬼束 幸樹, 窄 友哉, 宮川 智行, 田島 怜太
    2019 年75 巻2 号 p. I_553-I_558
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     昨今,ウナギの個体数は減少の一途を辿っている.その要因の一つに,取水堰や落差工等が水域の連続性を断ちウナギの生育に悪影響を及ぼしていることが挙げられ,解決策として立体網目状マットを用いたウナギ用魚道の設置が報告されている.しかし,ウナギの遡上に最適な立体網目状マットの幾何学形状は不明である.本研究では,ウナギ用魚道に設置された立体網目状マットの密度および流量を変化させ,ニホンウナギ未成魚の遡上特性に及ぼす影響の検討を行った.その結果,立体網目状マットの密度が増加すると,ウナギの遡上成功率および空隙進入率が低下し遡上速度が増加する.また,立体網目状マットの密度の増加に伴いウナギはより蛇行するようになるが,マットの密度が一定値を超えると直線的に遡上する.

  • 安田 陽一, 増井 啓登
    2019 年75 巻2 号 p. I_559-I_564
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     洪水時に,落差構造物下流側の局所洗掘および河床低下が生じることが問題視されている.この多くは,越流した流水が落下し潜り込むことで,最大流速が河床付近に位置し,かつ下流側遠方まで続いていくためだと考えられる.本研究では,緩斜路に大粗度を設置し,斜路から流下する主流を水面付近に位置させることによって,洗掘防止および減勢機能を持たせる大祖度斜路工を提案した.粗礫とコンクリート製ブロックを用いた2通りで,与えられた段落上のフルード数および相対落差(段落上の射流水深に対する落差高さ)に対して,下流水深を変化させて実験的に検討した結果,どちらの粗度を用いても斜路勾配を少なくとも1/20にすれば,段落流れで潜り込み流れが形成される領域内で常に水面に沿う流れに変化させ,かつ主流の流速を減衰可能であることを示した.

  • 高橋 直己, 木下 兼人, 齋藤 稔, 柳川 竜一, 多川 正
    2019 年75 巻2 号 p. I_565-I_570
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     一般市民が簡単に扱えるように開発したV形断面可搬魚道を,水生動物の遡上阻害が深刻な現場に設置し,さまざまな通し回遊性水生動物の遡上に対する本魚道の有効性を検証した.実験の結果,8種類の通し回遊性水生動物が本魚道を利用したことが確認され,本魚道が遊泳魚,底生魚,甲殻類といった,移動特性の異なる複数の種に有効であることが明らかになった.また,複数の勾配と流量に関する実験条件にて魚道内の流速を測定したところ,少なくともθf(魚道設置角度) = 18°でQ(流量) = 2〜6L/s,もしくはQ = 5L/sでθf = 15 〜22°の範囲内であれば,本研究の現地実験で水生動物が遡上に利用していた,魚道側壁水際部の緩やかな流れ場が担保されることが明らかになった.

  • 五十嵐 善哉, 君和田 祐弥, 田中 規夫
    2019 年75 巻2 号 p. I_571-I_576
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     レベル 2 津波に対して計画される多重防御構造の減災効果を一般化するには,精度が高くかつ計算負荷の小さい津波氾濫解析モデルが必要である.特に,堤防越流の解析は氾濫域や背後の家屋破壊等に大きく影響するため精度が求められる.

     本研究では1次元非線形長波方程式を改良し,既往研究および水理実験との比較から精度を検証した.その結果,遡上先端計算法の工夫やQUICKスキームの導入により堤防天端上の水面形の精度が向上することが示された.また,堤防天端幅に対するグリッドサイズが1倍以下であれば堤防越流量の精度は高く,堤防の法肩・法尻の地盤高を適切に与えれば,2倍でも堤防背後の水深と越流量の精度は高い.また,非定常流においても堤防背後における水深・流速の時系列変化の精度が高いことが示された.

  • 浪平 篤, 髙木 強治
    2019 年75 巻2 号 p. I_577-I_582
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     トレンチ付き落差工流れの既往の模型実験を対象に,鉛直2次元URANSを実施した.乱流モデルには二次非線形k-εモデルを適用し,水面変動の解析手法にはVOF法を用いた.落差工における流況の解析結果は,実験結果と同様,流量一定時にはトレンチの長さの増加に伴って露出射流,波状跳水,振動跳水,潜り噴流へと変化した.振動跳水において繰り返される流況の変化過程,および,その変動の周期も実験結果と概ね一致した.振動跳水が発生するトレンチ長さの範囲が実験結果の半分であるといった課題も残されているが,本研究によるURANSはトレンチ付き落差工における大きな水面変動を伴う非定常流を解析できる可能性を有することが確認された.

  • Akihiko NAKAYAMA, Wei Song KONG, Lap Yan LEONG, Khai Ching NG
    2019 年75 巻2 号 p. I_583-I_588
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     The Weakly Compressible Smoothed Particle Hydrodynamics (WCSPH) has been reformulated to simulate turbulent free-surface flows with high turbulence and large fluctution of the free surface. The commonly encountered stability problem associated with the particle method has been treated by the diffusion and dissipation terms that naturally arise in the particle-interpolated continuity and momentum equations rather than artficial damping terms. The effects of the solid boundaries have been incorporated by formulating the equations of motion separately from the particles away from solid boundaries by using the wall law similarities for turbulent flows over smooth and rough surfaces as well as laminar flow depending on the Reynolds number. The proposed method is compared with the existing SPH method and the experiment and the results are shown to agree with experiments without the stability problem.

  • 高鍬 裕也, 福岡 捷二
    2019 年75 巻2 号 p. I_589-I_594
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     石礫河川では,大粒径粒子により河床の骨格が形成され,さらにその上を別の大粒径粒子が移動する.そのため,河床近傍の水流と移動粒子との相互作用の機構を明らかにすることは重要である.本研究では,転動・跳躍する粒子群を含む浸透性固定床粗面乱流の三次元数値実験を実施し,浸透性粗面上の乱流構造と,転動・跳躍する粒子群による主流の構造変化を検討した.その結果,粒子の跳躍運動に伴い,低い位置の遅い流速が高い位置に輸送され,高い位置の縦断方向流速がかなり小さくなることを明らかにし,粒子の跳躍運動がejectionに相当する効果をもたらすことを示した.また,主流の乱れ強度分布は,粒子の無い場合の分布と比べ大きくなり,大粒径粒子の流れ構造に及ぼす特徴を明示した.

  • 横嶋 哲, 島田 佳昭
    2019 年75 巻2 号 p. I_595-I_600
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/11/16
    ジャーナル フリー

     粒子–流体間の相対加速の履歴に依存するバセット力の評価には高い負荷を伴うため,履歴を完全に無視,もしくは一部だけが考慮されてきた.本研究では,バセット履歴力が一様乱流中の微小粒子のクラスタ特性に及ぼす影響について,粒子比重が1.005から10000の範囲で詳細に検討した.バセット履歴力はvan Hinsberg et al. (J. Comput. Phys. 230 (2011) 1465)の方法で近似した.この方法はバセット力を非常に低い負荷で正確に評価できる反面,有限時間twinよりも過去の影響を無視する従来法では,結果がtwinの値に強く依存した.バセット履歴力は,比重が1.5−10程度の条件下で特に顕著に,クラスタの程度を弱めることが示された.

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