土木学会論文集B3(海洋開発)
Online ISSN : 2185-4688
ISSN-L : 2185-4688
70 巻, 2 号
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海洋開発論文集 Vol.30
  • 高橋 直樹, 津田 和夏希, 森川 嘉之, 高橋 英紀, 高野 大樹, 東畑 郁生
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_900-I_905
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     液状化に伴う側方流動を防止する根本的な方法は,液状化の発生を抑制することである.しかし,側方流動が生じる範囲は数百m四方にわたるため,この方法は費用が高くなり現実的ではない.このため,側方流動を抑制する合理的な対策工法が必要である.筆者らは,低改良率の杭式改良による側方流動対策に関する検討を行い,対策効果の最大化を目指して改良杭の配置についても検討を深めてきた.本文は,改良杭の配置形状の違いが側方流動抑制効果に与える影響ついて,三次元流体解析と遠心模型実験で検討した結果を述べたものである.検討対象とした杭配置は整列配置と提案する流動閉塞杭配置であり,流動閉塞杭配置の方が整列配置よりも側方流動抑制効果が高いことを示した.
  • 池田 秀文, 河野 正文, 清山 貴俊, 山本 修司, 高瀬 英悟, 片桐 雅明, 大石 幹太
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_906-I_911
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     浚渫土砂処分場の受入容量を増大させるための方策として,堆積している土砂の間隙水を強制的に搾り出す地盤改良工法がある.本文では,新門司沖土砂処分場の一部で行われた真空圧密工法の設計,動態観測結果,真空圧除荷後の地盤調査結果を示し,当初設計では地盤モデルに過剰間隙水圧を考慮していなかったために動態観測結果を表現できなかったことを示す.次に,過剰間隙水圧を考慮できる地盤モデルの設定方法を提案し,その妥当性を動態観測結果と比較して示す.さらに,過剰間隙水圧を考慮した地盤モデルで解析した真空圧載荷打切り時の応力状態が妥当であることを地盤調査結果で検証し,これを根拠に,双曲線法を用いた真空圧載荷打切り時の設定方法を提案する.
  • 佐々 真志, 山﨑 浩之, 後藤 佑介, 深津 圭佑, 菊池 喜昭, 野津 厚
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_912-I_917
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     東日本大震災では,地震動の継続時間が長かったことや,余震が連続して起こる等の事象によって,液状化被害が拡大したことが報告されている.本研究では,本震と余震の地震動の連成作用による砂質地盤の3つの液状化機構を実験的に解明し,過剰間隙水圧の伝播と消散を考慮した数値解析手法を構築すると共に,断続的な地震動及び時間経過に対する液状化対策地盤の安定性について詳しく検証し明らかにした.得られた知見は,地震動の連成作用下の砂質地盤の液状化リスクの評価・予測・対策に有効に寄与することが期待できる.
  • 佐々 真志, 後藤 佑介, 深津 圭佑, 菊池 喜昭, 山﨑 浩之
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_918-I_923
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,液状化層がシルトや粘土など透水性の低い非液状化層に挟まれた互層地盤を対象とした一連の振動台実験を通じて,その液状化特性を体系的に明らかにするとともに,砂層地盤に対するSCP設計の再評価を行い,改良目標となる地盤N値と液状化抵抗の関係により,締固めによるDr値とK値の上昇の双方の影響を統一的に評価しうることを明らかにした.さらに,互層地盤に対してSCP対策の適用は,上述の地盤の密実化と応力増加の効果に加えて粘土層を貫く砂杭の過剰間隙水圧消散の3つの働きによってきわめて有効に機能することを明らかにした.これらの知見は,互層地盤の液状化対策の実務指針として重要である.
  • 佐々 真志, 後藤 佑介, 山﨑 浩之, 高橋 英紀, 小濱 英司
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_924-I_929
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     岩ずりは排水性が高いことから液状化しにくい材料として,液状化対策を目的に岸壁の埋立て材に使用される.しかし,岩ずり地盤は水中への直接投入により造成されるため緩く堆積している場合があり,地震時に液状化は起こさなくても地震動の繰返しせん断により大きな沈下を起こす可能性がある.本研究では,このような岩ずりの動的特性を明らかにすることを目的として,各種の岩ずりを用いた一連の大型単純せん断試験を実施した.その結果,岩ずりの種類によらず,その体積収縮特性は,密度,拘束圧,繰返しせん断応力比に依存し,密度が低く,拘束圧が高く,繰返しせん断応力比が大きいほど,残留体積ひずみが顕著に増加することを明らかにした.さらに,岩ずりを水中投入した場合の湿潤密度・間隙状態についても確認し,岩ずりを埋立材に使用する際の将来の地震動による残留体積ひずみおよび沈下評価・予測に有用なチャートを提示した.
  • 大矢 陽介, 小濱 英司, 菅野 高弘, 瀬戸口 修造
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_930-I_935
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     置換砂層を基礎とする防波堤を対象に,海溝型地震動によって発生する数メートルオーダーの沈下を抑制する工法について,1g場大型模型振動実験にて検討した.沈下抑制の対策工として,既設防波堤を想定し,防波堤直下地盤を改良しない矢板工法および固結工法に加えて,津波越流に対する洗掘対策として適用される腹付工を対象とした.振動実験の結果,いずれの対策工法も沈下を完全に防ぐことは難しいが,加速度振幅が小さく継続時間が長い海溝型地震動を対象とすると,地盤改良しない腹付工であっても地盤の有効上載圧の増加による液状化抵抗の増加により,過剰間隙水圧が上昇する時刻の遅延,過剰間隙水圧が高い状態の継続時間の短縮により,無対策と比べて沈下量を抑制できることが分かった.
  • 秦 吉弥, 野津 厚, 山田 雅行, 常田 賢一, 青木 伸一
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_936-I_941
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     岩手県宮古市田老では,2011年東北地方太平洋沖地震による巨大津波の来襲により,巨大防潮堤が破壊されるなどの甚大な被害が発生し,多数の死者・行方不明者が出た.延長の長い防潮堤は,場所によっては津波来襲前の強震動の作用により損傷を受けていた可能性もあり,防潮堤沿いにおける強震動の評価は非常に重要であるが,田老街区では本震記録として気象庁計測震度の値しか残されていない.そこで本研究では,田老の防潮堤沿いにおいて余震観測を実施し,得られた記録に基づきサイト特性の評価を行い,SPGAモデルに基づく強震波形計算を行うことで,本震時に防潮堤に作用した強震波形を推定した.
  • Chen Chen, Shigeaki Shiotani, Kenji Sasa
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_942-I_947
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     Waves, currents, and winds are important factors for safe and economic ship navigation, especially in coastal areas where ship density is relatively higher and the topography is more complicated. In this research, the eastern Seto Inland Sea, also known as the Harima Nada area, was selected for conducting numerical ship navigation. Ship traffic information was given from AIS, and WRF, SWAN, and POM models were used to produce numerical simulations of wind, waves, and currents, respectively.
     The high-resolution weather and ocean information was then used to conduct numerical ship navigation. To verify their accuracy, results simulating the weather and ocean were compared with actual observation data. The findings showed that the estimation of a ship's position using the proposed numerical navigation simulation method was effective in helping a ship navigate safely and economically.
  • 高 欣佳, 牧野 秀成, 古莊 雅生
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_948-I_953
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     経済発展と共に物流のほとんどを担う海上交通において,船舶数も急増しそれらが航行する海域では輻輳するため海難事故が多発している.船舶の安全かつ効率的な運航を行うためには,船舶の航行実態及び航行海域の輻輳状況の詳細を把握する必要がある. 本研究では,特に,船舶が入港する際に港外で入港の順番を待つ所謂“沖待ち”行動に着目した. この船舶の沖待ち行動は航行船舶にも影響を及ぼすために把握する必要があるが,これまでは各船舶の沖待ち自体のデータを入手することは難しく,沖待ちの実態を把握することが困難であった.しかし,本研究では,近年,船舶に搭載が義務付けられた船舶自動識別装置から送信されるデータを収集し解析することで,沖待ち船舶を抽出しその実情を把握した.更にそれらが航行船舶に与える影響を把握するために,海域における船舶密度を基に船舶の輻輳状況を解析した.本稿では,これらの結果について報告する.
  • 安部 智久, 赤倉 康寛
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_954-I_959
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     東京湾等の湾域においては荒天時に船舶が港外で錨泊を行っているが限られた海域中での錨泊であることから,輻輳度等についての現況を把握することが重要である.また現在の港湾施設の技術基準では荒天時の避泊面積の算定式が記載されておらず面積規模の尺度が欠如している.本研究では三大湾の荒天時の錨泊実態について,AISの船舶動静データにより分析を行うとともに,錨泊円の面積の分析から避泊面積の算定式に対する考察等を行うことで今後のより安全な水域利用の方策について検討を行った.
  • 赤倉 康寛, 安部 智久
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_960-I_965
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     航路計画に当たっては,対象船舶と航行環境が特定できる場合には,船舶の諸元値や航行速度等の計画条件を物理的・定量的に説明できる第2区分照査法が用意されている.しかし,公共航路の計画において,対象船舶を,ある特定の一隻に確定することは困難である.
     以上の状況を踏まえ,本研究では,第2区分照査法の公共航路への適用性の向上を目的として,同一船種・船型における,操縦性能の差異による航路幅員算定値の変動幅を算定した.その結果,75%カバー率において,操縦性能の差異による変動を明示的に確保するには,モデル船算定値に,単航路で3%,往復航路で6%の余裕分を考慮すれば十分であるとの結論を得た.
  • 牧野 秀成, 奥野 誠
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_966-I_971
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     船舶の操船者は, 海上交通の保全を念頭におきながら,海上を航行する時々刻々と変化する気象・海象状況や自船の周囲環境などを迅速かつ的確に認識し操船しなければならない.通常,これらは操船経験により養われるのだが,操船経験の少ない操船者も海上に出れば船としては同等であるため,如何にこの経験不足を補うかが重要な課題である.また,操船経験が豊富な操船者であっても,不慣れな海域を航行する際は操船技術を満足に活かし切ることは困難であり,この場合も何らかの航行支援があればより安全な航行が可能となるため操船者のストレスも緩和される.こうした背景のもと,本研究では,船舶の安全航行支援のための可搬型遠隔モニタリングシステムの構築を目指す.
  • 増田 光弘, 南 清和, 増田 光一, 居駒 知樹
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_972-I_977
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     津波が港湾内に来襲した場合,岸壁に係留された船舶は,係留索の破断に伴う岸壁への乗り揚がりや漂流などの被害が発生することが想定される.これまで著者らは,増しもやいによる津波対策の適用性について検討を行ってきたが,津波高や入射角度によっては,増しもやいのみで津波被害を防ぐことは,困難となる可能性がある.そこで本研究では,2011年3月11日の東日本大震災時,宮城県塩釜港湾内の浮桟橋と観光船が無事だった事例に着目し,浮体式津波対策用岸壁を提案した.本論文では,数値シミュレーションによって,浮体式津波対策用岸壁の係留索の破断および船舶の乗り揚がりに対する防災・減災効果について検討を行い,浮体式津波対策用岸壁の適用性および課題点について考察を行った.
  • 増田 光一, 村田 一城, 居駒 知樹, 増田 光弘, 大野 正人
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_978-I_983
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     津波における岸壁に係留された船舶の被害は船舶の衝突,漂流といったように複合的であり,その原因の1つが岸壁に係留された船舶の係留索の破断であるといえる.しかし,2011年3月11日に発生した東日本大震災時に宮城県塩釜港内にある浮桟橋では,係留された観光船の係留索は破断せず漂流しなかった事例が確認されている.そこで本研究では3次元MPS法を用いて浮桟橋を介して船舶を係留した場合,係留索張力が軽減させる効果があるのか数値検証を行い,浮桟橋の固定岸壁係留に対する優位性について検討した.また,津波の入射角度の違いや,津波高の違いによる挙動特性の解析を行った.
  • 牧野 秀成
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_984-I_989
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     本研究は船舶の航行データであるAISデータを利用することで大津波来襲を早期に把握し,それを陸上に通達するシステムの構築を目的とした研究である.通常,日本沿岸を航行する船舶は沖合10km~30kmの海域を航行しており,その多くが自船の情報を他船に通知することを目的とした自動船舶識別装置(Automatic Identification System:以後AISとする)の搭載を義務付けられている.津波来襲時,最も早くその影響を受ける巨大構造物は沖合いを航行している船舶群であり,それらが影響を受けた情報をいち早く陸上に伝達できれば時間的な猶予が確保できるため,沿岸地域の人々の避難や防災・減災対策はより安全な方法を選択し実行することが可能となる.このように,本研究では日本の沿岸を航行するほとんどの船舶がすでに搭載しているAISの発展的使用として,それらを津波の検知センサの如く使用することで大津波来襲を早期に検知し,その情報を陸上に伝達するというこれまでにない斬新かつ効果的なシステムの構築を目指す.
  • 野口 孝俊, 内藤 裕之, 守屋 典昭, 眞鍋 匠
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_990-I_995
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     東日本大震災では,地震による被害に加え,大規模な津波により貨物やがれき等が大量に港内に流入し,航路や泊地を閉塞したため,港湾機能が一時完全に麻痺する事態となった.東京湾に東日本大震災級の大津波が来襲した際には,首都圏の機能を麻痺する被害が想定されるが,緊急避難物資輸送を行うための航路の早期啓開は必要不可欠である.本稿は,啓開を行うための海底障害物の形状,寸法,および座標などを早期に把握できる4Dソナーシステムの実用性を現地確認し,航路啓開技術としての有効性について評価したことを報告する.
  • 宇野 宏司, 廣瀬 裕基
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_996-I_1001
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     南海トラフ巨大地震による津波で大阪湾圏域の沿岸部には大きな被害が及ぶことが懸念される中,緊急避難場所としての駅舎利用や堤防としての機能発現など,沿岸部の鉄道インフラ施設を活用した防災・減災が期待される.本研究では,大阪湾圏域沿岸部を走るJR阪和線・紀勢本線(天王寺~串本),阪神本線・なんば線(三宮~大阪難波),南海本線(難波~和歌山市)の路線構造や駅舎(全149駅)の標高・構造を調査するとともに内閣府の中央防災会議のモデル検討会で示されたシミュレーション結果を活用することによって,現時点での想定津波に対する浸水可能性を検証し,鉄道施設による津波防災・減災効果を明らかにした.また,大阪湾圏域の鉄道インフラ施設による津波防災・減災対策の現状と課題を整理した.
  • 玉井 昌宏, 辻本 剛三
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1002-I_1007
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     琵琶湖湖岸の水泳場の底質砂について,その色彩の特徴と起源を明らかにするために,水泳場と周辺河川の河口の底質砂を採集した.琵琶湖に流入する河川をグループ化して,その流域の地質特性を把握したうえで,それと底質砂の色彩との関係を検討した.加えて,湖西地域の水泳場に対して簡易な最適化分析を適用して,底質砂の供給源となると予想される河川との関係について検討した.その結果,水泳場の砂の色彩は,背後流域の地質状況によって概ね説明できることがわかった,また,湖西地域の各水泳場に対する周辺河川の影響度を定量的に示すことができた.
  • 五明 美智男
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1008-I_1013
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     高度成長期を中心に埋立工事が進められた東京湾臨海部小河川の下流から河口部は,合流式下水処理の排水路を兼ねることが多く,汚泥の堆積と還元化,悪臭などの問題を抱えている.身近な地域における受動的な環境問題の地道な改善を目標に,“地域環境リテラシー”の向上,住民の関心・関わりの増大に寄与する技術コミュニケーションの仕組みを内包させた水域底質改善を試みた.技術コミュニケーションの定義を検討した上で,その手段と促進策として,ビオトープ構造要素を用いた簡易構造の設置,追跡踏査,耕耘調査を実施し,住民視点でそれらの効果について考察した.その結果,簡易かつわかりやすい構造の設置により場の現象の理解が進み底質改善の課題が明確になること,潮干狩りや田植え等における人による土の直接的な撹拌効果が顕著であること,撹拌効果をSIモデルとして表すことができることを示した.
  • 田井 明, 田中 香
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1014-I_1019
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     有明海再生のためには,有明海に関る自治体や漁業者・市民が科学研究から得られる知見に基づいて議論・協力することで再生策を実行していくことが必要である.その第一段階として,本研究では,漁業者を対象に有明海の物理環境に関するヒアリング調査と最新の科学的知見がどの程度整合しているかについて検討を行った.その結果,(1)潮位・潮流は,変化の時期などは漁業者の感覚と科学的知見が良く一致しているといえる.(2)締め切りの実施された1997年は,月の昇交点運動のピークであったこと,太平洋スケールの海面上昇が生じていたこと,などによりこれ以降の変化を締め切りの影響とミスリードしやすい状況であった.よって,漁業者の感覚を,締め切りの影響ではなく締め切りの時期と言い換えると多くのことが科学的に説明可能になることが明らかとなった.
  • 加茂 崇, 鈴木 信, 和田 敏裕, 岩崎 高資, 渡辺 卓也, 西 隆一郎, 鶴成 悦久
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1020-I_1025
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     福島県松川浦への淡水流入量の推定および浦口周辺の水圏環境についてモニタリングを行った.水収支式によって,淡水流入量を推定した結果,陸域からの流出量(11,839.1万m3/yr)に対して,河川流量が93.1%(11,069.1万m3/yr),地下水量が6.9 %(824.6万m3/yr)と推定された.地下水量824.6万m3/yrは0.26m3/sであり,松川浦流域の小河川である梅川の推定流量0.19m3/sと同レベルの値であった.浦口周辺の地形は,汽水湖の典型的な地形であるFlood Tidal Shoal(浅瀬)と水深の深い水路で特徴づけられ,下げ潮時の観測では表層・底層共に流速分布はほぼ同程度であることが分かった.また,潮汐と潮流は基本的に同位相に近く,観測地点においては流速が最大で約1.0m/sであった.2013年9月6日から11月7日にかけての浦口のChl.a濃度は0.1~9.9μg/ℓの範囲で,平均値は3.6μg/ℓであった.
  • 渡辺 国広, 草加 速太, 稲田 敏昭, 諏訪 義雄
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1026-I_1031
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     セットバックによって砂浜が創出された場合の環境変化を把握するために,伊勢湾西南海岸でセットバック直後から約4年半にわたって定期的に植生調査を実施したところ,セットバック後の約3ヶ月間は非海浜性の植物が急速に繁茂して海浜表面を覆い,その後,徐々に海浜植生の割合が増加したことが観察された.この遷移は波浪作用を直接受けない箇所でも進行したが,波浪を受ける箇所では高波浪のたびに海浜植生への遷移が急激に進んでおり,波浪による攪乱が海浜植生への遷移を促すことが示唆された.波浪遡上の履歴の推定と地形,底質等の現地観測の結果より,遷移を促す波浪は地形変化や底質の交換を起こすほどでなく,表面を洗う程度でも十分であると推察された.
  • 大橋 正臣, 河合 浩, 三上 信雄, 水垣 滋, 大村 智宏, 山本 潤, 門谷 茂
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1032-I_1037
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     鵡川沿岸は北海道を代表するウバガイ(ホッキガイ)の好漁場である.当海域は一級河川である鵡川,沙流川により流域全体から底質材料と栄養塩が供給されることで,好漁場が形成される一方,出水時には濁水による浮遊砂が流入し光環境を悪化させる.我々は当海域の基礎生産構造を明らかにするために平水時,夏季出水時,融雪出水時の調査を行った.調査結果から濁水による光環境の変化は基礎生産に影響を及ぼすことが判明している.本研究では観測した光量子量,SS,Chl-aを用いて光環境について整理・検討し,当海域の消散係数に関する予測式の提案を試みた.本研究の成果は,沿岸域の基礎生産量などを低次生態系モデルで予測・解析する上で有効な知見になると考える.
  • 矢北 孝一, 森本 剣太郎, 御園生 敏治, 増田 龍哉, 滝川 清, 秋元 和實, 吉田 由美
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1038-I_1043
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     八代海におけるアマモ生育の地域特性,環境条件を検討するため野坂の浦を対象海域とし,アマモの最盛期から発芽期までの大潮期に現地観測を行った.広域的な地形調査よりアマモ場の平均勾配が1/100以下,標高TPは-3~-2mの範囲で生育していることが確認された.株密度と底質の調査により,生息条件として中央粒径は,0.1~0.2mm,含泥率は,10~60%であった.さらに既往の研究成果と比較し,含泥率40%以上,8月の平均水温が28℃以上での生育が確認され,八代海における地域特性を示した.ADCPの観測より,下げ潮最強時にアマモ種子が域外へ流出する可能性を指摘し,水深平均した流速を代表流速とすることで,広域的なシールズ数評価の可能性も示した.天然アマモ場と移植域における定点での連続観測結果より,シールズ数の評価を実施し,その相違を示した.
  • 佐藤 仁, 岡元 節雄, 関口 浩二, 本松 敬一郎, 黄金崎 清人, 山本 潤, 山下 俊彦
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1044-I_1049
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     磯焼け対策の一つとして,ウニ駆除による藻場回復が各地で進められている.しかし,餌料環境が悪い海域において駆除したウニは生殖巣指数が低く,そのままでは商品価値がほとんど無い状況にある.よって,ウニによる食害対策と平行して,駆除したウニへの餌料供給も含めた総合的な磯根資源の利活用が課題となっている.
     著者らは生分解性素材をロープ養殖方式の基材に用いて磯焼け地域に海藻を繁茂させ,併せて藻食性動物に餌料供給する手法を開発した.それは海藻の幼芽期に一定の強度を有し, 海藻の繁茂時期に合わせて生育用基材が劣化・破断して餌料供給するものである. 現地水温の年変動を再現した浸漬実験により, 素材の配合割合による劣化特性を示した.
  • 廣瀬 紀一, 柴田 早苗, 若林 信孝, 昇 悟志, 三井 順, 浜口 正志
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1050-I_1055
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     近年の港湾,漁港,海岸施設の整備では,環境や生物との共生が求められる.これらの施設に用いられる消波ブロックや被覆ブロックには,海藻類の着生が期待されるが,従来のブロックは海藻類の着生を考慮した形状ではなく,藻場の形成に強く寄与するものではなかった.そこで,従来のブロックと同等以上の安定性,水理機能を有し,環境共生機能,特に海藻類の着生に配慮した形状の消波ブロック並びに被覆ブロックを開発した.これらのブロックの環境共生機能を把握するために,全国で現地調査を実施した.その結果,調査実施箇所すべてにおいて,カジメやアラメ等の大型海藻の着生が観察された.さらに,アワビ,サザエ等の魚介類の蝟集も観察された.
  • 間辺 本文, 菅原 吉浩, 本田 耕一, 澤田 竜美, 浅見 能章, 塚本 邦芳, 伊藤 靖, 三浦 浩
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1056-I_1061
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     国では,日本海西部(兵庫県~島根県沖)の排他的経済水域において,ズワイガニとアカガレイの資源の増大を図るため,平成19年度に保護育成礁の整備事業を創設し,平成24年度末までに計画した21地区のうち9地区の整備を完了した.本報では,保護育成礁で囲まれた保護区の内部及び対照区における小型トロール網や籠網等による漁獲調査,さらにはズワイガニの資源評価のためのトロール調査データなどの既存の漁獲情報の分析の結果に基づき,小型トロール網と籠網により保護区内の生息状況が把握でき保護区内では成体(魚)のみならず未成体(魚)が多数生息していること,保護区は対照区に比べて生息密度が高いこと,ズワイガニについては保護区周辺のCPUEが高く好漁場となっていることなど,保護育成礁の効果を明らかにした.
  • 篠崎 知美, 三戸 勇吾, 亀山 豊, 菅野 孝則, 村上 和男
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1062-I_1067
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     生物共生型護岸における水質浄化機能と貧酸素といった外的環境要因が水質浄化機能に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的に,東京湾内に整備された生物共生型護岸の実証施設において調査を行った.調査対象とした生物共生型護岸は,護岸の前面に階段状に干潟場が配置されており,上・中・下段の3段の干潟場がある.対象の干潟におけるアサリの個体群は夏季から秋季にかけて,殻長20mm以上の大型個体群の消失があり,同時期に発生した貧酸素の影響と考えられた.また,これに伴いアサリによる懸濁態窒素の摂取量およびアサリへの窒素固定量は大幅に減少し,一時的に窒素の負荷源となることが示された.アサリによる窒素浄化量へ及ぼす貧酸素の影響は大きく,生物共生型護岸の干潟の機能維持には,貧酸素対策が重要であることが示唆された.
  • 竹山 佳奈, 河野 裕美, 蔵持 登士江, 岩崎 彩加, 村上 智一, 木村 賢史, 鵜飼 亮行, 中瀬 浩太
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1068-I_1073
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     熱帯性海草の一種であるウミショウブは八重山諸島周辺海域が分布北限であり,環境省RDBでは絶滅危惧II類に掲載されている.本種は西表島の一部で群落の衰退・消失が確認されているが,島内広域における分布の現状は不明である.一方,本種の生活史や生育や分布の条件に関する知見は少なく,群落が本格的に衰退・消失する前に,分布・群落状態および生育環境条件について明らかにする必要がある.
     そこで,西表島北西部の浦内湾~崎山湾にかけてウミショウブの分布を調査し,群落の形成される環境の物理場について検討を行った.その結果,ウミショウブの分布する環境は,D.L.±0.0~-0.5mの水深の外洋と比較して波浪の影響が小さい内湾に分布していたが,密生状態の群落が形成されている範囲はウミショウブが生育していた海岸延長の14%に過ぎなかった.
  • 村上 智一, 河野 裕美, 岩崎 彩加, 蔵持 登士江, 下川 信也, 木村 賢史
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1074-I_1079
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は,西表島北西部のウミショウブを対象に,その群落の分布や規模を決定付けるだけでなく,衰退・消失した群落の自然回復力に直接的に関わる種子の分散力を評価することである.そのために,西表島においてウミショウブの生態調査を行い,種子の放出や分散に関わる生態諸量を明らかにした.そして,海洋モデルを用いて西表島網取湾の海水流動を再現し,そこで生態調査によって得られたデータを基にしたウミショウブ種子の粒子追跡解析を行った.
     その結果,ウミショウブ種子の3時間の平均移動距離は群落サイズとほぼ同程度であり,分散力が極めて弱いことが明らかとなった.この主因は種子の浮遊時間の短さにあり,さらに湾内の弱い流速にも一因があった.よって,ウミショウブ群落が衰退した場合には自然に回復する可能性が低いものと考えられる.
  • 横山 佳裕, 藤井 暁彦, 中嶋 雅孝, 内田 唯史
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1080-I_1085
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     本研究では,博多湾における季節の違いによるアサリ浮遊幼生の挙動を,数値シミュレーションを用いて解析した.その結果,(1)各産卵場から産まれた浮遊幼生は,産卵場周辺の流れや出水に伴う海水表層の流れの変化により,博多湾内を移送される経路及び分布の特徴が異なる.また,出水期には非出水期と比べ多くの浮遊幼生が湾外へ流出し,各生息場へ供給される幼生の数は減少する.(2)出水が少ない春季や秋季に産まれた幼生の着定や着底後の成長・生残の状況により,アサリ資源量が変動する可能性がある.(3)アサリ資源の形成・維持のためには,春季・秋季産まれの稚貝の成長・生残を高める生息場の保全が重要である.博多湾央海域のアサリ生息場を保全し,資源量を増加させることにより,西側海域への幼生の供給量が増え,アサリ資源の形成に繋がることができると推察された.
  • 穴口 裕司, 藤澤 真也, 田中 丈裕, 田上 英明, 伊藤 靖
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1086-I_1091
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     貝殻を円筒形のメッシュパイプに詰めた貝殻構造物は,海中において多様な底生生物・付着生物の好適な棲息場として機能することがこれまでの研究で明らかとなっている.本研究では,全国31海域における貝殻構造物に生息する小型動物を海区ごとに区分し,魚類に摂餌される餌料動物と懸濁物食性動物に分類した.前者については魚類を通じた食物連鎖による炭素循環量,後者についてはろ過摂餌による海中の有機懸濁物(TOC)の除去量を定量化し,貝殻構造物をベースとした物質循環についての評価を行った.その結果,貝殻構造物1m3当たり年間約10~13kgの有機炭素が除去され,これをCODに換算すると人工干潟65~79m2に相当し,下水処理場における費用では人口1.2~1.7人,年間56~76千円相当の経済効果を見込まれ,沿岸域における物質循環促進技術としての有効性を示すことができた.
  • 小林 薫, 松元 和伸, 森井 俊広, 中房 悟, 鳥居 宣之
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1092-I_1097
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     キャピラリーバリア(以下,CB)の限界長に関する研究の多くは,砂層と礫層の2層構造による基本特性を把握することを主目的としている.しかし,実構造物への適用にあたっては,礫層,砂層を構築した上に,覆土を設けるのが一般的である.従って,覆土を加えた3 層構造の浸潤特性や限界長について把握しておくことが必要不可欠である.本論文では,限界長は地表面からの浸潤フラックスqで大きく変化するため,qの効果を明確にすることを目的に,覆土+CB層を実規模大で構築し,散水強度を変えて限界長などを測定した.CB層と覆土+CB層の限界長を比較した結果,覆土の効果を取り込んだ覆土+CB層の限界長を設計していくことが,実構造物に実装していくために重要であることを実験的に明らかにした.
  • 上月 康則, 中岡 禎雄, 中西 敬, 森本 登志也, 玉井 卓也, 森 紗綾香, 山中 亮一, 奥嶋 政嗣
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1098-I_1103
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     大阪湾湾奥の尼崎港で行われている,過剰な栄養塩を海と陸とで循環させることによる環境改善,地域課題解決に向けた協働の取り組みについて評価を行った.協働の規模で可能な「水環境改善の効果」を定量的に理解することができた.特に栄養塩の系外除去による汚濁防止効果は確実でわかりやすく,広く共有できる結果であった.「地域課題の解決」では,本活動の成果は埋立地の緑化や低炭素型社会形成にも寄与できること,環境意識を高め,尼崎の海への郷土意識を醸成させることもできていた.特に学校教育と連携すれば教育効果はさらに高めることもできると思われる.最後に協働の仕組みが活性を失わず,継続されているのは,活動の内容が多様で,多様な関心を持つ参加者に対応できていたことが示唆された.
  • 中本 健二, 廣中 伸孝, 樋野 和俊, 日比野 忠史
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1104-I_1109
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     広島デルタ太田川派川河岸には有機泥が堆積し景観,親水性が低下している.市内派川河岸の親水性の回復を目的に,石炭灰造粒物を用いた底質改善実証試験事業(産官学プロジェクト)が進められている.有機泥が堆積する河岸干潟での重機作業では,仮設作業床の構築が不可欠である.重機を用いる石炭灰造粒物の撒布作業では,造粒物により作業場の構築が可能であることを確認し,作業場そのものにも底質改善機能を有する浄化層(造粒物層)の構築法を開発した.本論文では対象干潟の事前調査と実証試験区の構築および定期的なモニタリングを行い,造粒物の散布と作業場構築技術を検証・評価した.本技術は,施工後に仮設作業場の撤去が不要で,底質改善に寄与すると共に遊歩道等に活用でき事業のB/C向上が望める新たな作業場構築技術として評価できる.
  • 日比野 忠史, 中本 健二, 廣中 伸孝, 樋野 和俊
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1110-I_1115
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     太田川市内派川である京橋川には上げ潮により河口から浮遊物質が輸送され約1cm/年程度の有機泥堆積がある.市内派川では河岸に堆積したヘドロの浄化と生態系の再生が取り組まれており,市内中心を流れる京橋川河岸においても底質改善技術の実証が行なわれている.本論文では河岸干潟に構築したアルカリ剤造粒物である石炭灰造粒物層内での酸化物による底質の改善状態を評価するための調査項目および分析結果について考察した.有機物特性を把握するため,有機泥のC/IL比(有機物組成),燃焼特性(含水量,不安定有機物量等),n-ヘキサン抽出物質(油脂類),酸素消費速度(ODU量),pH~ORP関係を指標とした.提案した分析指標により,石炭灰造粒物層内に溶出した陽イオンの効果が還元化した有機泥に顕著に現われること等を確認でき,その浄化能力が認められた.
  • 竹山 佳奈, 佐々 真志, 中瀬 浩太, 牧野 武人
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1116-I_1121
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     干潟造成事業は浚渫土処分だけではなく,アサリ等の漁場や自然再生の場の造成としても重要な役割を担っている.そのため,地形的安定性だけではなく生物相の変遷に関して,長期的なモニタリングを継続し,適切な評価や管理をおこなう必要がある.そこで,2008年に造成した大島干潟の底生生物の遷移状況について5年間調査を実施し,初期段階の生物相の遷移とその特徴,および地盤環境と分布について分析した.また,干潟の生物分布と地盤環境に関して,地盤内の水分動態を示すサクションや干潮時に保水性を有する澪に着目して評価をおこない,干潟の設計に必要な地盤環境条件の抽出を試みた.その結果,大島干潟の生態系は干潟地形形成5年後にも関わらず,100種以上の種が微地形やサクションに応じて出現する多様性の高い生物相が形成されていた.
  • 鶴成 悦久, 西 隆一郎, 浜本 麦, 濵﨑 浩徳, 池田 克彦, 加茂 崇, 渡辺 卓也
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1122-I_1127
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     鹿児島湾の北部に位置する湾奥部海域は2012年3月16日に「霧島錦江湾国立公園」に指定された.同時に海域公園地区として国立公園内に指定された重富干潟は,鹿児島湾の浄化に欠かせない重要な干潟である.過去には多くのアサリが採れるなど資源豊かな干潟であったが,近年はアサリ生育不良のため,潮干狩りが禁漁されている.このような干潟生態系を形成する底生動物群集の変移を解明するためは,地形や底質環境といった物理的環境を把握することは極めて重要であるが,同干潟の底質や地形に関する知見は少ない.そこで,本研究では同干潟を対象に2009年から2012年の4年間に亘って底質と地形に関する現地調査を行った.加えて,同干潟を含む流域の雨量解析や干潟に作用する波浪の推算等を行い,干潟の物理的な環境特性を表す地形変化や底質分布について考察した.
  • 斉藤 直, 桑原 智之, 相崎 守弘, 徳岡 隆夫
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1128-I_1133
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     自然再生推進法は,地域が主体となって損なわれた自然環境を科学的知見に基づき回復することを基本としており,地域の発意によって自然再生事業が進められる.大規模な環境修復が必要となる場合,地域の企業の参画が必要不可欠であり,その成果が最終的に公共事業へ受け渡されていく必要がある.
     本稿では,中海の環境修復において,地域住民の実施できる事業と地域企業の実施する事業を総合的に推し進めることにより,環境修復を図る取組みを紹介するものである.特に,規模の大きい窪地の環境修復については,地域住民と地域企業を科学的知見に基づいた相互理解を図って連携して,大規模な環境修復に向けた実証試験を自然再生事業として実施し,地域の発意としての環境修復を将来の公共事業につなげるための合意形成の取組みを行った.
  • 矢野 真一郎, 西村 圭右
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1134-I_1139
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     有明海における諫早湾干拓事業が与えた密度成層に起因する流れ,すなわちバロクリニック構造への影響についてはこれまであまり議論されていない.そこで,3次元数値モデルを用いて,諫早湾の締切堤の有無による塩淡成層に起因するバロクリニック構造への影響を評価することを試みた.その結果,以下に示す知見が得られた.1)締切堤により諫早湾や島原半島沿いにおいて流速が減少し,それに伴いそれらの領域で塩淡成層が強化される,2)小潮から大潮へ移るフェーズにおいて,締切堤の成層を強化する影響が強まる傾向がある,3)締切堤が塩淡バロクリニック構造に与える影響の大きさは,潮汐条件や出水規模の組み合わせにより異なる.
  • 高山 百合子, 伊藤 一教, 織田 幸伸, 片倉 徳男
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1140-I_1145
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     海洋工事では,施工中に発生する濁りを日々管理する必要があり,その手段として,流況予測計算結果を用いて濁り拡散を計算するツールが有用である.一般的な流況予測計算では,海浜流や吹送流等を考慮した高精度な計算が実施されることから,計算に長い時間を要する.そこで,本研究では,短時間で流れと濁り拡散の予測結果を得ることを目的として,リーフ地形における潮流と海浜流を対象に,それぞれの流速成分を単純に重合して流れ場を算出する簡易計算を試行し,その結果を用いて濁り拡散計算を実施した.その結果,潮流と海浜流を重合する際,潮流の潮位に合わせて,潮位条件を変化させた海浜流を用いることにより,リーフ周辺の濁り拡散について,高精度な流況計算結果に対する良好な再現性が示された.
  • 齋藤 孝, 滝川 清
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1146-I_1151
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     八代海南部の長島,獅子島周辺では,ブリ養殖業が盛んで「鰤王」というブランド名で世界にも流通している.しかし,当該養殖海域ではChattonella antiqua赤潮が度々発生し,1988年以降の養殖被害額は104億円を超えており本種赤潮対策が重要課題となっている.筆者らは,北部水域の赤潮調査データを基にHSIモデルを適用した発生予測手法を開発しているが,本研究では本種赤潮による養殖被害が増大している南部水域においてHSIモデルの適用性とその検証を行った.赤潮発生年と非発生年の比較から発生水域の水質環境特性を明らかにした上で,2009年の南部水域赤潮時における本種細胞密度の時系列変化を再現した結果,0.65と高い決定係数を得た.HSIモデルによる赤潮予測では,栄養塩類の時空間変動とともに出水による密度成層形成等の海洋構造要素が重要視された.
  • 金山 進, 肴倉 宏史, 水谷 聡, 加藤 嘉英, 髙橋 克則, 木曽 英滋, 平井 直樹, 宮崎 哲史
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1152-I_1157
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     製鋼スラグを干潟・浅場造成や深堀埋め戻し等の海域改善事業に利用する際には,これらが海域のpHに及ぼす影響を事前に予測評価することが重要であり,このためには海水中へのアルカリの供給量を把握する必要がある.スラグ固体表面からのアルカリ発生特性は物質自体に固有のものであり,限られたケースの室内実験で把握することができるが,これを海域に積層させた状態で供用した場合には積層空隙内でのアルカリの移流拡散というサブシステムが介在し,流速以外にも,粒径,空隙率や積層厚といった要因が影響するため,条件の多様さや縮尺の問題などから,全ての条件を室内実験で包含することは難しい.本研究では,固体表面からのアルカリ発生特性が判明しているスラグの積層内でのアルカリ挙動に対する解析モデルを構築し,既往の大型水槽実験結果に基づく検証を行うとともに,積層条件がアルカリ溶出特性に及ぼす影響について検討した.
  • 吾妻 咲季, 村上 和仁, 五明 美智男, 天野 佳正, 中村 明彦
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1158-I_1163
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     蓮沼海浜公園ボート池における富栄養化の原因は底泥に蓄積した栄養塩によるものと考えられる.本研究では,貝殻を散布した底泥処理における底質環境への影響を解析することを目的とし,底泥の間隙水の栄養塩および硫化物を測定した.さらに各種底質改善材を供試した培養実験を行い,吸着等温式から各処理における各種栄養塩の吸着効果について比較検討した.間隙水の結果より,窒素濃度は貝殻を散布することにより低下した.リン濃度では未処理系よりも貝殻散布系において,未焼成系よりも焼成処理系において低濃度となった.吸着等温式より,窒素ではCaO散布系およびDAF(Dissolved AirFlotation;加圧浮上処理)+CaO散布系で負の吸着式となり,リンではCaO散布系で最も吸着効果が高かった.貝殻との比較では窒素は貝殻散布,リンはCaO散布において高い吸着効果が得られた.
  • 園田 吉弘, 滝川 清, 荒巻 智子, 川崎 信二, 齋藤 孝
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1164-I_1169
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     1981~2008年の東シナ海北部海面水温,有明・八代海海域の水温,塩分,潮位および周辺陸域の気温,流入河川の流量データを用いてMann-Kendall検定,均質性検定等の統計解析を行い,東シナ海北部海面水温および気温と有明・八代海の水温の関連性,潮位変動と水温変動の関連性,塩分と流入河川の流量の関連性を検討した.検討の結果,有明・八代海海域の水温変動は,東シナ海北部の海面水温,周辺陸域の気温の変動の影響を強く受けており,その傾向は八代海でより顕著であることがわかった.また,潮位の上昇は,水温の上昇と同時かあるいはやや遅れて出現しており,水温変動が潮位変動の要因の一つである可能性が示唆された.有明・八代海湾口部の塩分の経年変動に,筑後川,球磨川からの河川流量の経年変動の影響が現れ,特に,梅雨期においてその傾向が顕著である.
  • 川崎 浩司, 鈴木 一輝, 高杉 有輝, 青木 伸一
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1170-I_1175
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     台風0918号襲来時に伊勢湾・三河湾で観測された気象・海象観測データに基づき,同台風による高潮特性を議論するとともに,台風0918号が三河湾の水塊構造に及ぼす影響について考究した.その結果,三河港で生じた高潮は,台風通過の影響で伊勢湾側の水塊が自由長波として三河湾湾内に流入したことによって生じたことがわかった.さらに,密度・水質構造の観点からは,台風接近時の東風に起因した鉛直混合により底層の貧酸素状態が解消されたこと,台風通過の河川出水に伴って密度成層の再形成やクロロフィルaの増大が生じるなど,台風襲来時のみならず,台風通過後においても三河湾の水塊構造が大きく変化することを明らかにした.
  • 吉江 祐人, 丸谷 靖幸, 中山 恵介, 駒井 克昭, 新谷 哲也, 渡辺 謙太, 一見 和彦, 桑江 朝比呂
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1176-I_1181
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     北海道北東部に位置するコムケ湖において,春季および夏季を対象とした観測を実施し,詳細な流動場の把握のため湖内全体を対象とした数値解析を行い,水質及び流動特性について解析および検討を行った.現地観測の結果,オホーツク海と直結する第一湖の塩分は,季節に関係なく常に高い値を示した.干潟が存在する第二湖の塩分は,春季に雪解けにより淡水流入の影響が強くなるため低い値を示す.一方で,雪解けの影響が少ない夏季においては,塩水流入が強くなるため高い値を示すことが分かった.さらに,コムケ湖全体を対象とした数値解析を行い,湖内の塩水滞留域について検討を行った.その結果,夏季において第二湖の干潟域に塩水が長時間滞留する領域が存在することが分かった.
  • 駒井 克昭, 中山 恵介, 松原 健也, 川口 貴之, 山﨑 新太郎, 渡辺 謙太, 一見 和彦, 桑江 朝比呂
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1182-I_1187
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     わが国有数の渡り鳥の飛来地であるオホーツク海沿岸のコムケ湖において,干潟域での塩分や水位,浸透流の連続観測,および溶存有機物の分析を行い,春期と夏~秋期における干潟での水質変化と干潟地下水の挙動の関係性について明らかにした.第1湖の干潟ではバーの沖側で夏~秋期に比べて春期に陸域土壌由来のフルボ酸様物質の蛍光強度が大きく,季節的に河川水や地下水が干潟水質に及ぼす影響が変化している.また,第1湖の干潟では夏~秋期に比べて春期では1桁大きい速度で干潟地下水が湧出していることが分かった.一方,第2湖の干潟では通年で第1湖の干潟に比べて干潟地下水の浸透流速が小さい.さらに,春期と夏~秋期の湖水と干潟堆積物中の塩分プロファイルの結果より,地下水の湧出が塩分上昇を妨げている可能性が示唆された.
  • 田多 一史, 所 立樹, 渡辺 謙太, 茂木 博匡, 桑江 朝比呂
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1188-I_1193
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     北海道コムケ湖において現地調査(春季,夏季)を実施し,大気-海水間CO2フラックスの空間分布特性の把握を行った.また,大気-海水間CO2フラックスに影響を及ぼす環境要因(風速,水温,塩分,全アルカリ度,溶存無機炭素濃度,生物過程による炭素増減量)の相対的な影響度を把握するために,パス解析を用いた分析を行った.その結果,大気-海水間CO2フラックスは,湖央付近を中心に大気から海水中へCO2の吸収となっており,(1)風速,(2)塩分に起因する流入負荷,そして(3)湖内の生物過程(呼吸・分解,光合成)から影響を受けることがわかった.
  • 鈴木 武
    2014 年 70 巻 2 号 p. I_1194-I_1199
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
     IPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書(AR5)の公開を受け,AR5で採用された代表的濃度経路(RCP2.6,RCP4.5,RCP8.5)および気候モデル(MRI-CGCM3,MIROC5,HadGEM2-ESX)による2050年および2100年の海面上昇量をもとに,高潮浸水による被害リスクを全国の低地を893に分割して推計し,それらの結果を集約し,高潮浸水による被害リスクの全国の空間的な分布と2100年までの50年間隔の変化を把握した.推計結果から,三大湾,瀬戸内海および有明・八代海の沿岸地域が相対的に大きなリスクになること,2100年までの100年間の間ではリスクが直線的に増加していく可能性があることが示された.
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