土木学会論文集B3(海洋開発)
Online ISSN : 2185-4688
ISSN-L : 2185-4688
77 巻, 2 号
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海洋開発論文集 Vol.37(特集)
  • 井手 喜彦, 大橋 果歩, 琴浦 毅, 山城 賢, 橋本 典明, 児玉 充由
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1-I_6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     海上工事における施工可否判断を行う際は,比較的波高の低い波に対して正確な波浪予測が求められる.加えて,波高の値自体ではなく,ある閾値を超えるか否かという“閾値超過判定”を正確に行えるかが重要となる.本研究では,低波浪に対する閾値超過判定を高い的中率で実施することを目的とし,機械学習とアンサンブル気象予報データを組み合わせた予測手法を構築した.アンサンブル気象データを入力値としたニューラルネットワーク回帰モデルから6日先までの波高を予測し,得られた波高のアンサンブルデータを用いてベイズ推定を行うことで最適値を得た.その結果,高い精度で閾値超過判定が行えることが分かり,本手法の有用性が確認できた.また,閾値超過判定を直接行う分類モデルを用いた予測手法でも高い的中率が得られることが分かった.

  • Tracey H. A. Tom , 間瀬 肇, 池本 藍, 川中 龍児, 武田 将英, 原 知聡, 金 洙列
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_7-I_12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     全球波浪予報は日本沿岸の波浪予測値として利用するには空間解像度が低いので,機械学習を利用して1週間先までの波浪予測を行うGroup Method of Data Handling (GMDH)手法やArtificial Neural Network (ANN)手法を利用する波浪予測モデルが提案されている.本研究では,機械学習の1つであり,複数の決定木を組み合わせて識別性能を上げるアンサンブル学習手法であるXGBoostを利用して,全球波浪モデルGWMの予報値を日本沿岸の波浪予測値に変換するGWM to XGBoost波浪予測モデルを構築し,その予測精度を検討するものである.

  • 大井 邦昭, 三上 信雄, 岩本 典丈, 完山 暢, 古殿 太郎, 坂本 葉月, 山﨑 将志, 中瀬 聡
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_13-I_18
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     漁港施設の防波堤や岸壁の点検では,施設の大部分が水中であり潜水士による目視観察調査が主体で行われているため,診断結果にバラつきが生じ客観性に欠けることや調査に多大な労力を要することが指摘されており,センシング技術を利用した点検手法の高度化や簡便化が求められている.

     著者らはこれまでセンシング技術の一部である,水中音響機器のナローマルチビームおよび水中3Dスキャナーを活用し,点検方法としての有効性を提示するとともに,精度や適用性を提示した.本稿では実際の点検業務への導入を目指し,現地試験にて両機器の適用条件を明らかにした.また,目視観察が難しい沖合構造物の点検において,水中3Dスキャナーによる点群データと UAV による画像データの利用による点検手法を提案し,その有効性を検証した.

  • 中泉 昌光
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_19-I_24
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     漁業地域では人口減少・高齢化が進展し,働き方改革と新たな資源管理システムへの対応が求められているが,ほとんどの拠点漁港・市場では,伝票等紙媒体で販売業務を行い,多大な労力と時間を要している.そこで本論文は,電子入札など販売業務の効率化に先進的に取り組んでいる地区についてICT導入の効果を分析し,その定量的効果を明らかにすることを目的としたものである.その結果,せり・入札販売の電子化,特に電子入札は販売業務の省力化・省人化及び時間短縮,リードタイムの短縮の効果があること,販売情報が電子的に記録・保存されることから,伝票の整理と仕切書・販売通知書の作成・発行,水揚げデータの集計と関係機関への報告にも省力化・省人化,時間短縮の効果があることがわかった.先進地区の効果分析から, ICT導入の効果における評価項目と便益の計測方法が得られた.

  • 矢崎 真, 中村 亮太
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_25-I_30
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     津波により沿岸部に発生する被害拡大の要因として,津波による流体力だけでなく瓦礫やコンテナ等の津波漂流物によるものも大きい.一方で,津波漂流物による構造物に対する衝突力の数値計算は行われているが,津波漂流物の漂流軌道の数値計算による評価は少ない.本研究では実験スケールにおけるエプロン上のコンテナ漂流挙動の計算を行い,既往研究における水理実験と比較して,DualSPHysicsによるダムブレイク型実験の波高・流速の再現度と津波漂流物の軌道解析に関する有用性について検証した.結果として,実験スケールにおける波高と流速は高精度に再現できていた.次に,コンテナの漂流傾向は,最大縦方向変位は過小評価傾向であったが,漂流距離の傾向と拡散角度は良好な再現性があり,DualSPHysicsを用いたコンテナ漂流軌道解析はこれらの制約のもと可能であることが確かめられた.

  • 山本 剛士, 安田 誠宏, 富田 達也
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_31-I_36
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     近年のGPUなどのコンピュータの処理能力の向上に伴い,数値モデルを実現象の解明に適用する研究事例が増えてきており,海岸構造物の設計にも適用されつつある.SPH法に基づくオープンソース流体解析コードDualSPHysicsは,GPU解析が可能である点から海岸構造物の設計への適用が期待される.本研究では,陸上構造物に作用する津波波圧評価に対するDualSPHysicsの適用性を検証した.また,計算精度・計算コストについて,OpenFOAMによる解析結果と比較した.両数値モデルで津波波圧評価への適用性が示された.特に,DualSPHysicsで境界条件mDBCを用いると低解像度でも実験結果と良好に対応した.OpenFOAMの方が計算コストは大きいが,衝撃波圧を除くと精度良く評価することができた.計算コストを考慮すると,陸上構造物に作用する津波波圧評価にはDualSPHysics + mDBCの適用性が高いといえる.

  • 飯干 歩, 平石 哲也, 濵田 英外, 森田 章一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_37-I_42
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     防波扉は折りたたみ式の可動式津波低減設備で,津波発生時に自動的に起立して波の浸入を防ぐ.本研究では,防波扉の実用化に必要とされる条件を,水理模型実験と数値解析の両面から検討した.OpenFOAMを用いて数値解析モデルを構築し,津波低減効果の評価を行った.波高計測値のみで防波扉の性能を評価する手法は,堤体の正味の津波低減効果を正当に評価できておらず不適切であった.一方,通過水量データでの評価は,堤体の津波低減効果を最も適正に評価しており,防波扉の津波低減効率は7割以上を示した.防波扉の強度分析では,ヤング率が大きい木材の場合,防波扉を強度面で安全に運用できると判断した.検討結果を踏まえて,防波扉は津波対策防災設備として実用性が認められると判断し,防波扉の現場設置モデルを提案した.

  • 三井 順, 渡部 未樹久, 久保田 真一, 松本 朗
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_43-I_48
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     遊水部を有する長周期波対策マウンド構造物の消波性能を水理模型実験により検討した.遊水部の影響については,特に潮位が下がりマウンド天端が露出する条件では遊水部付きの方が反射率は低くなり,遊水部なしの断面より効果的であることが明らかとなった.また,波長で無次元化した堤体幅(B+B*)/Lが0.08程度以下の範囲においては,マウンドの天端高を平均潮位より少し高く設定することで,消波性能がさらに向上することがわかった.加えて,VOF法に基づく数値解析により水理実験の再現計算を実施した.透水層内の抵抗力に関しては実測値に基づく係数を用い,さらにKC数の影響を考慮することで,反射率を精度良く推定可能であることを示した.

  • 川崎 浩司, 二村 昌樹, 佐藤 兼太
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_49-I_54
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     近年,計算機の飛躍的な性能向上に伴い,オープンソースソフトウェアが,数値流体力学ツールとして注目を集めている.しかし,最近のオープンソースソフトウェアは,その開発が急速に進んでいるため,基礎的なモデル検証が十分に行われないままに応用される傾向も見られ,ソフトウェアの正当な評価が誤解されている向きもある.本研究は,海岸・海洋開発分野において適用例が報告されつつあるOpenFOAMとDualSPHysicsの非ニュートン流体解析への適用性の検証として,ポアズイユ流れとスランプ試験をベンチマーク問題とした比較検証を行った.本研究は,同じベンチマーク問題を異なる2つのソフトウェアを用いて計算することで,それぞれのソフトウェアの計算モデル,精度,計算コストの特徴を明らかにした.

海洋開発論文集 Vol.37
  • 松下 紘資, 山本 拓, 安田 誠宏, 大熊 康平
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_55-I_60
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     近年,地球温暖化の影響による最大クラスの台風の来襲などにより越波被害が頻発しており,設計沖波の見直しが全国的に進んでいる.これに伴って設計波が大きくなると考えられ,今後,越波対策として消波工の需要は高まっていくと推察される.護岸の設計実務で越波量を算定する際,合田の越波流量算定図が使用されるが,消波工の断面形状や被覆形式等の条件が合わない場合も補間して使用している.本研究では,完全被覆かつ全断面形式の消波工断面について,施工事例を参考に波浪条件等を設定した水理模型実験を実施し,越波流量算定図を作成した.また,2層被覆形式についても同じ条件で実験を行い,被覆形式の影響を定量的に評価した.さらに,CLASHデータベースに基づく越波流量推定式および打上げ・越波統合算定モデル(IFORM)の適用性を確認した.

  • Sindhu SREERANGA, Hiroshi TAKAGI, Rikuo SHIRAI, Shin-ichi KUBOTA, Jun ...
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_61-I_66
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     Mangrove restorations have been implemented in many countries, but the success rate is still not very high. It often fails during the initial stage of plantation due to various negative environmental impacts. In particular, high waves may cause the failure of young seedlings. A series of field surveys were conducted in a mangrove forest of Amami Oshima, Japan, in May and December 2019. Mangrove growth tests were carried out for observing the growth rate of young mangroves by planting several seeds of Kandelia obavata. In a manual wave experiment in the site, a one-month-old mangrove plant had bent and submerged due to continuous wave impacts of 10 cm high in maximum, while a six-month-old mangrove was undamaged. For investigating whether young mangroves are protected with a small breakwater, a portable reef was designed using the conventional design formula for rubble-mound breakwaters. The wave-dissipating performance of the reef was examined by the CFD model using olaFlow/OpenFOAM. Four breakwater geometries with a similar cross-sectional area were tested for local wave and tidal conditions in the mangrove forest of Amami. The numerical results showed that the mounds with an area of about 1m2 can attenuate the wave heights by 48-82%. Although wave transmission varies depending on the geometry, a small rubble mound breakwater would sufficiently work to protect mangrove plants in their early growth stage.

  • 村上 啓介, 木村 篤志, 真木 大介
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_67-I_72
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     本研究は,海岸護岸を対象に,風速と波の打ち上げ高の関係について,風による堤前波浪場の変化に着目して明らかにすることを目的に行った.風による波の打ち上げ高の増加特性は,堤前での砕波の有無により異なる.非砕波の場合,波の相対打ち上げ高は風速に伴って指数関数的に増加する.他方,護岸前方で砕波が生じる場合,波の打ち上げ高に対する風速の影響は極めて小さい.風速に対する波の相対打ち上げ高の増加には,風による護岸法先波高の増幅が大きく影響する.加えて,風速が増した状況になると,護岸法面を波が遡上する際に働く風応力の効果が明示的に見られた.風速に対する波の相対打ち上げ高の増加を,風速をパラメータに指数関数で仮定した場合,その係数は堤前での波形勾配とある程度の相関がある.他方,法先付近の底面流速に対する風速の影響は極めて小さい.

  • 鶴田 修己, 鈴木 高二朗, 朝比 翔太, 冨本 正, 西森 忍
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_73-I_78
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     空港などの護岸の高さが制限される条件下では,スリットケーソンが有効な越波低減策の一つに挙げられるが,高潮時に遊水室が水没した場合には越波抑制効果が十全に発揮されない可能性があり,その影響についての定量的な検討も十分ではない.特に,護岸の隅角部では波の収斂によって越波流量が急増するため,スリットケーソンだけでの越波を十分に低減させることが難しい.本研究では,スリットケーソンの遊水室水没時の換算天端高係数を評価するとともに,波が隅角部に対して直入射する場合と斜め入射する場合とでの越波流量の変動傾向を調べた.また,スリットケーソンに付加可能な対策工として,簡易な波返工の設置によって隅角部における越波流量が効果的に抑制されることを示した.

  • 田中 仁, Nguyen Xuan TINH , 余 錫平, 劉 光威
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_79-I_84
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     風波の下での底面境界層は水深に比べてきわめて薄いが,周期の増加に応じてその厚さを増す.そのため,津波や潮汐などの長波の下では定常流に類似した流れ場が形成されると考え,定常流摩擦係数が使用される.ただし,このような波動型から定常流型の境界層への遷移過程は明らかではない.本研究においては滑面乱流を対象として波動境界層の遷移に関する検討を行い,既往実験結果および新たに実施した実験結果をもとに遷移条件を定式化した.また,線形長波理論を用いて得られた判定式を変形し,波高・水深比,および水深・波長比で表示された簡便な式を得ることが出来た.この結果によれば,たとえ長波に分類されても定常流型の抵抗則を適用出来ない範囲が広く存在していることが判明した.津波による土砂移動などの算定にはこのような境界層の遷移を適切に反映する必要がある.

  • 河村 裕之, 松下 紘資, 大熊 康平, 平山 隆幸, 間瀬 肇
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_85-I_90
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,津波や波浪に対する防波堤補強工法として開発されたカウンターウェイトブロック(CWB)の,防波堤開口部から流入する津波流れに対する安定性を断面2次元実験によって検討した.安定性評価式としてイスバッシュ式を採用したが,イスバッシュ数は模型縮尺や初期水深で変化するため,安定限界流速のみでイスバッシュ数を適切に評価することは困難であること,フルード数を用いるとこれらの問題が解消され,イスバッシュ数を適切に評価することができること,また,CWBに作用する流体力はフルード数との相関が高く,フルード数を用いた安定性評価方法は妥当であることがわかった.

  • 渡辺 一也, 谷口 隼也, 齋藤 憲寿, 林 直幸, 鎌滝 孝信
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_91-I_96
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     東日本大震災では沿岸のみならず,河川を遡上し流下した津波が,河川堤防を越えて沿岸地域に甚大な被害をもたらした.そのため,沿岸域における津波防災を考える上で,津波の河川遡上への対策が重要である.一方,日本海側では活断層が陸地に近く,地震発生から津波到達までの時間が短い傾向に加えて,太平洋側と比較して津波のデータや記録は少ない.

     そこで,本研究では日本海側,特に秋田県の小河川である竹生川と白雪川を対象に1983年日本海中部地震をもとに津波の数値シミュレーションを行い,実測値との比較検討を行った.その結果,竹生川周辺の津波堆積物であると推察されたものは日本海中部地震以前のものについても海由来であった.白雪川では引き波の際,①浜堤を越える,②白雪川に直接流入する,③白雪川の右岸において,東側に流れてから海に戻る様子が確認された.

  • 仲保 京一, 木村 雄一郎, 山川 善人, 水谷 征治, 山下 徹, 長野 章, 下迫 健一郎, 清宮 理
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_97-I_102
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     海底設置型フラップゲート式可動防波堤は,平常時は海底に倒伏して船舶の通行を確保し,津波や高潮が予測される場合には水面上に浮上させ,航路を締め切ることで背後域への浸水を抑制する.本技術は2003年に開発が開始され,2011年から3年間の実海域試験を経て,2017年に岩手県が行う津波対策施設に初採用された.詳細設計では特に設備完成後の維持管理性に留意し,現地施工では,困難が予想された水門本体と56本の鋼管杭との現地接合の施工方法の検討に留意した.現地試運転では,実機における扉体の動作特性を確認し,所定の性能を満足することを確認した.2020年12月に無事に施工を完了した.

  • 齋藤 憲寿, 渡辺 一也, 石塚 大智
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_103-I_108
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     2011年の東日本大震災により,従来の想定をはるかに超える規模の津波が来襲し,建築物や自動車,船舶などが流され,大量の漂流物によって壊滅的な被害を受けた.そこで,津波発生時において浮体式津波避難シェルターを用いた避難方法が提案されており,建物上に設置したシェルター模型の挙動や波力について検討が行われているが,模型を水路に固定した状態で波力を測定しているため,実際の津波に対する状況とは異なっている.本研究では漂流物模型に圧力センサを取り付けて津波の衝突実験を行い,漂流状態における波力を検討した結果,浸水条件によって波力の最大値や模型の挙動が異なることや,模型を固定することにより波力を過大に評価していたことが明らかとなった.

  • 高橋 研也, 田中 仁
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_109-I_114
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     上部工を有する傾斜堤の港内側被覆ブロックの耐津波特性に着目した水理模型実験および流体解析をおこなった.3段階に潮位を設定し,津波が堤体を越流および浸透する通常の実験ケースに加えて,越流のみを発生させたケースおよび浸透流のみを発生させたケースも実施した.

     その結果,潮位が高い場合は水面近傍の被覆ブロックがわずかに被災するのみであったが,潮位が低い場合は被災位置が下側にずれるとともにその程度も大きくなった.また,浸透流を作用させない場合は被災時の越流水深が深くなった.越流量と浸透流量の和がブロックの安定性に寄与していること,ブロック底面で動水圧の上昇が,表面で落水に伴う負圧が発生し,浸透力と法先方向流速が大きくなると被災すること,潮位や落水位置が負圧や高流速の発生に影響を及ぼすことが分かった.

  • 木元 恵夢, 富田 孝史
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_115-I_120
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     津波漂流物の運動には不確実性があり,その運動は漂流物の初期状態に大きな影響を受けることが知られている.本研究では,陸上に置かれた直方体の津波漂流物を対象に,津波遡上流れに対する漂流物の初期角度θ0が,漂流物の運動に及ぼす影響を模型実験から明らかにした.流れに対して斜めな面を持つように配置された模型は流れに直交する方向にも変位するが,流出の初期に模型が回転することにより流れに対する角度が増大し,それにともなってその変位量が変化した.θ0=30°のときには初期位置から最大で16.7°の方向に移動する模型もあった.実験毎に異なる直交方向変位の標準偏差はθ0によらず流下に伴って0.04の変化率で増大した.また近接した2つの漂流物には相互作用が生じて,単体とは異なる運動を示した.

  • 阿部 幸樹, 加藤 広之, 岩瀬 浩之, 髙師 拓也
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_121-I_126
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     岩手県宮古市の重茂漁協での津波に対する漁船避難ルール検討をケーススタディとし,津避難途中で津波第1波が到達した状況下において,操業中の漁船の避難に関する検討・分析を実施した結果,「操業海域から避難海域への避難」において,小型船外機船は長時間の海上滞在における課題があること,また「操業海域から安全な高台への避難」の検討では,地震発生から「津波により岸壁への係留が困難となるまでの時間」として津波の第1波到達時間を用いず,地震発生後に「漁港港口部の津波流速が漁船航行困難となる時間,津波流速が漁船接岸速度を上回る時間,津波が主要岸壁を越流する時間」のうちいずれか短い時間を用い,これらと操業海域から安全な高台へ避難する時間を比較することにより漁船の避難可能性を検討することが重要であることが解明された.

  • 犬飼 直之, 石貝 翔馬, 松田 曜子
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_127-I_132
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     2019年6月に発生した山形県沖地震では,新潟県村上市府屋で震度 6 強、新潟市では震度 4 を記録し,山形県鶴岡市鼠ヶ関など各地で津波が観測された.幸い津波被害は発生しなかったが,新潟県付近では定期的に地震津波が発生することから今後の対応の知見を得るために津波情報発表時に新潟における住民や行政はどのような対応をしたのかを把握した.

     ここではまず地震と津波の概要を把握すると共に,津波の伝播状況を数値シミュレーションから把握した.結果の確からしさは観測値と比較しよく一致することを確認した,次に,地震発生後の行政から住民への情報伝達方法や実際の状況を電話の聞き取り調査などで把握した.最後に新潟市を中心とした新潟県内で住民へのアンケートを実施し,地震発生時にいた場所や,地震や津波情報の入手方法などを把握した.

  • 鈴木 高二朗, 鶴田 修己, 中村 康大, 朝比 翔太, 久保田 博貴
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_133-I_138
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     人体模型が津波由来の渦に巻き込まれる過程を詳細に調べ,渦に巻き込まれる過程で人体に働く力や渦に抵抗する必要浮力を明らかにすることを目的として,大型水路内部にコンクリートブロックを設置して孤立波による大型渦を再現し,人体模型が巻き込まれる過程を調べた.

     その結果,1)波高0.2~0.5mの津波(孤立波)が人体模型に作用すると,コンクリート方塊背後の渦に人体模型が巻き込まれ,深部に引き込まれるのが観測された.2)渦の回転半径,角速度から人体模型に働く向心力を算定した.3)ライフジャケットを装着した人体模型は水面に浮かぶことで渦に巻き込まれることから回避された.4)体の軸に垂直な軸を中心に回転する場合,手足や頭部などがより大きな半径で回転し,波高0.5mの津波では最大加速度が12m/s2(1.2G)にもなる遠心力が手足に働く可能性がある.

  • 鈴木 高二朗, 池田 直太, 鶴田 修己, 朝比 翔太, 久保田 博貴, 伊藤 春樹
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_139-I_144
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     浦戸湾口部に計画されている防波堤周囲の津波による洗掘と堤体の安定性を明らかにするため,大型平面水槽において移動床水理模型実験を行った.この際,レーザー変位計により水を張った状態で地盤高さを精細に計測する新しい測量を導入した.その結果以下のことが明らかとなった.1)発生頻度の高い津波により防波堤堤防部で8mにおよぶ洗掘孔が発生し,マウンドや被覆ブロックは散乱し,ケーソンも滑動した.2)最大クラスの津波では洗掘がさらに激しく,ケーソンは転動して50m以上移動した.3)堤頭部周囲の洗掘は港外表層から港内底層に潜り込む速い流れで発生するものと推定された.

  • 池町 円
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_145-I_150
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     利用しやすいフェリーターミナルを整備するには,国・港湾管理者・利用者が連携してターミナルのレイアウト計画を検討することが重要である.しかしながら,国・港湾管理者と利用者の間には,現場での荷役作業に関する知識・経験に大きな差があり,利用実態に関する十分な認識共有が図られないまま,検討が進められるという課題がある.

     本研究では,高松港朝日地区で新たに整備が予定されているフェリーターミナルでの車両乗下船作業を再現する離散型イベントシミュレーションを構築し,シミュレーションの分析結果をもとに,国・港湾管理者・利用者が連携してターミナルのレイアウト計画を検討する.このことを通じて,国・港湾管理者と利用者が同じ認識を持ちながらターミナルレイアウトを検討する手段として,離散型イベントシミュレーションモデルが有効であることを提示する.

  • 白石 悟, 福原 朗子, 木内 伸洋, 松田 寿, 矢神 雅規
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_151-I_156
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     再エネ海域利用法の施行後は北海道においても洋上風力発電の事業提案が活発化している.今後,洋上風力発電の導入を図るためには,市民からの幅広い支持を得る必要がある.本論文においては,北海道における洋上風力発電の導入に向けた動向を述べる.また,筆者らが2017年から2019年に実施した学生と市民を対象とする洋上風力発電の認知度に関するアンケート調査の結果を示し,洋上風力発電の認知度に及ぼす要因を述べる.

  • 赤倉 康寛, 高橋 宏直
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_157-I_162
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     近年,コンテナ船の遅延が大きな問題となっており,船舶大型化に伴うアライアンスの再編によって航路サービスが集約され,特定の港湾・コンテナターミナルへ寄港が集中していることが主要な原因の一つとみられる.

     以上の状況を踏まえ,本研究は,世界のコンテナターミナルを対象に,遅延を引き起こす船舶の沖待ちを把握し,沖待ち時間に及ぼす影響を分析したものである.各船の沖待ち時間は,AISデータを利用して,船舶の入港から着岸までの時間に着目して算定した.算定結果により,各ターミナルの沖待ち時間は,バース占有率の上昇に従い急激に増加する傾向があることに加え,着岸船の到着遅延,荷役時間の長期化やターミナルのスケジュール特性が大きく関わっていることが明らかになった.

  • 澤頭 良介, 島田 良, 石川 仁憲, 小峯 力
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_163-I_168
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     わが国の約200箇所の海水浴場ではライフセーバーによる溺水者のレスキューが毎年2,000~3,000件発生している.溺水時には,救助要請サインとしてヘルプシグナルの発信が世界的に推奨されているが,1人のライフセーバーは1,000人以上の利用者を監視するため,その発見は容易ではない.この対策として,AIによってヘルプシグナルを自動で検知する研究が進められている.しかし,先行研究でAI学習に用いられた動画は冬期に撮影され,被験者はカメラに近い位置で正面を向いている等,設定条件が限定的であった.本研究では,夏季海岸利用時の状況を考慮した画像データを用いて,実用化に向けたAIモデルの構築を試みた.学習データの組み合わせを変えた3つのAIモデルを構築し,精度の違いを明らかにすると共に,高い精度でヘルプシグナルを検知可能なことを確認した.

  • 勇﨑 大翔, 岡田 智秀, 佐藤 明穂
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_169-I_174
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     太平洋沿岸地域を中心に津波対策が議論されている.その具体策を講じる際には地域の産業や生活面に不自由をきたさぬよう「地域性」に配慮すべきと考える.これに関し,伊豆半島沿岸地域では,地域の特色により50の地区に分割し各地区で「津波対策地区協議会」を設立し,地域性を考慮した津波防災まちづくりの検討を進めている.そこで本研究では,地域に即した津波防災まちづくりのあり方を導くため,調査資料が得られた伊豆半島東部沿岸地域(熱海市と伊東市の12地区)の各地区協議会で構築された「津波対策の地区整備方針」と地域特性の関係を捉え,3 つの整備タイプを明らかにした.

  • 廣末 邦夫, 桑垣 千春, 本廣 裕一, 胡田 一史, 森山 弘將, 塚野 真美, 北出 圭介, 近藤 良
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_175-I_180
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     乗降客数が我が国最大の地方港湾である広島県宮島の玄関口である厳島港宮島口地区は,宮島への移動に過ぎない状態であったが,観光客急増に伴い,交通渋滞の悪化,桟橋の老朽化,滞留スペース不足などの問題が顕在化し,宮島口地区整備事業が実施された.本研究は,インバウンドに対応した「みなとまちづくり」の視点から,a)宮島口地区の「みなとまちづくり」実施過程,b) 港湾施設・ターミナル整備の特徴と留意点,c)事業実施における効果と今後のあり方について考察した.

  • 鶴田 修己, 鈴木 高二朗, 柳澤 英明, 森 信人
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_181-I_186
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     マングローブや松林に代表されるグリーンインフラは,環境改善の効果に焦点が当たる一方,防護機能を有するインフラの一部として設計へ織り込まれるには至っておらず,その検討例も見当たらない.防護施設としての取り扱いには,成長・枯死などの有機的に変動するグリーンインフラの植生状況に応じて防護性能の変化を考慮しつつライフサイクルコストを算定する必要がある.本研究では,マングローブを対象に,既往の実験結果から林帯幅・植生密度及び波の減衰効果の関係式を構築して,越波流量との関係からグレーインフラとグリーンインフラの最適な組み合わせ方法を検討する.また,林帯幅の拡幅やコストの変化など将来予測を織り込んだライフサイクルコストの変動傾向についても併せて検討を実施した.

  • 安部 智久, 上田 剛士
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_187-I_192
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     新型コロナウイルス感染症の流行は,100年ぶりに感染症が世界的に流行したという点で未曽有の事態であった.これは海運を中心とした国際ロジスティクスに対し大きな影響をもたらしたが,特徴的であったのは異なるロジスティクスの関係者に対し異なる影響が生じ,また様々な対応がなされたことである.本稿は,感染症に対するロジスティクス分野での知見を蓄積し今後の対応に貢献することを目的とし,コロナ禍においてロジスティクス関係者が行った対応を整理・比較するとともに,今後の対応を考察するものである.

  • 上田 剛士, 安部 智久
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_193-I_198
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     新型コロナウイルス感染症は,2020年初頭から世界で蔓延し,世界の経済と海運に対して多大な影響を与えた.本稿は,このパンデミックを踏まえ,今後の我が国行政機関の港湾政策立案や,海運業界の対応策検討等に資する基礎的情報を取りまとめるため,PIERSやLloyd's等の海事データを用いて,コロナウイルスの海運への影響を定量的に把握するものである.

     分析の結果,アジア各国の対米輸出コンテナ貨物量が生産,消費活動に影響されて大きく変化したこと,その要因は主に家具等の製品の需要増加であること,日本国内の港湾において積み替えられる貨物量が増加したこと,各国の港湾におけるクルーズ船と自動車専用船の寄港回数が大幅に減少したこと等の傾向が把握された.

  • 島田 良, 石川 仁憲, 澤頭 良介, 小峯 力
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_199-I_204
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     2020年夏季は,Covid-19の影響で全国約40%の海水浴場が不開設となったが,地域によっては多くの利用者が海岸に訪れた.感染収束がみえないなかでは,2021年夏季の海岸利用も適切な感染防止対策が求められる.対策の検討には2020年の利用状況が参考になり,利用者自身によるCovid-19感染へのリスク管理には定量的な情報の提供が有効である.本研究は,海水浴場の定点カメラによる撮影画像から,AIを用いて密の状態を定量的に算出し,2019年と2020年の夏季海岸利用状況の変化を調べた.その結果,2020年は平日に利用者が多く,利用者数のピークの時間帯が日中の13時から14時にずれていたことから,人の集中を避けた利用状況であったと考えられた.しかしながら,2m以内の人の密集は日曜に多く,またピークの時間帯前後で多くみられた.

  • 佐々木 大輔, 松本 大輝, 中山 恵介, 田多 一史, Hao-Chi Lin , 濱田 拓也, 新谷 哲也
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_205-I_210
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     気候変動の緩和策として,海洋生態系の光合成活動によって吸収・貯留される炭素である「ブルーカーボン」が注目されている.ブルーカーボン生態系の1つであるアマモについて,流れの影響を受けて変形すると二酸化炭素吸収効果が大きく変化すると考えられるため,流動が水草に与える影響を詳細に評価する必要がある.このような理由から,個々のアマモを独立したオブジェクトとして定義し,流れ場との相互作用を詳細に再現できる水草モデル(Submerged Aquatic Vegetation model:SAV model)が最近の研究において提案された.そこで本研究では,このSAV modelの再現性の検証を目的として,低発泡ポリエチレン製の水草模型を用いた水槽実験を行った.その結果,SAVモデルは流れ場および水草の形状を高精度に再現できた.

  • 小柳 桂泉, 下平 剛之, 中村 充裕, 山波 博明, 菊池 喜昭, 森川 嘉之, 宮田 正史
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_211-I_216
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     本邦で開発された新技術である回転圧入工法による控え杭式鋼管矢板岸壁構造がダカール港の無償事業で採用された.本構造は国内での実績がなく,岩地盤でも十分に信頼性の高い技術であると判断してODA無償事業で導入した.本構造の導入にあたっては,専門家による技術検討委員会を立ち上げ,技術的課題を検討した.検討の結果,回転圧入工法であれば岩地盤でも打設可能との判断に至り,採用に至った.本事業での導入にあたり,相手国の要望に合わせて構造細目をカスタムメイドした.我が国の高い技術力を相手国に体感してもらうことにより,「質の高いインフラの海外展開」の具現化につながると考えられる.本稿では,国内実績のない本邦新技術をODA無償事業で導入するための基本手順を整理し,そのメリットと留意点を論じた.

  • 米山 治男, 加島 寛章
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_217-I_222
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     港湾の技術基準に記載されている係船柱の設計に利用される係留船舶の牽引力の標準値は,貨物船を対象とした風荷重に対する係留船舶の動揺シミュレーションによる牽引力の算定結果を基に設定されている.一方,コンテナ船や旅客船は,船舶に対する風の受圧面積が大きいため,対象船舶の諸元や係留索の配置状況等を考慮した上で係留船舶の動揺シミュレーション等を用いて牽引力を算定し,係船柱の規格を選定する方がより適切である.そこで,船舶の牽引力の標準値の適用範囲を把握するために,貨物船に加え,コンテナ船及び旅客船を対象として,風荷重が作用する場合の係留船舶の動揺シミュレーションを実施し,係船柱に作用する係留船舶の牽引力に与える船種の影響について比較評価した.

  • 佐藤 晴高, 趙 容桓, 中村 友昭, 水谷 法美
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_223-I_228
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,背後構造物を想定した反射壁の有無による下部固定型の逆三角形型振り子式発電装置の発電性能を評価する断面二次元水理模型実験を実施した.振り子の発電量と発電効率は,線形理論を用いて発電装置を取り付けた際の評価をした.その結果,反射壁の未設置時には比較的短い周期にて発電効率が最大となり,越波による効率低下は小さいことが確認された.反射壁の設置時には,水深に関わらず発電効率は定常波の節付近で増加,腹付近で減少し,効率が極大となる位置が周期により節とずれるケースが確認された.また,周期が短いほど,水深が浅いほど効率は増加する傾向が確認されたが,著しく効率が上昇する周期が存在する可能性が示された.壁を設置することにより節付近で効率が2倍以上,最大で6倍程度上昇する可能性も示唆された.

  • 今井 脩雅, 木村 克俊, 宮武 誠, 山本 泰司, 名越 隆雄, 阿部 翔太
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_229-I_234
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     小型船舶の係留施設として整備中のコンクリート底板を有する鋼製桟橋において,鋼管に取り付けられたゴム製防護工が,波浪による転動石の衝突により破損した.本研究では,現地の消波堤および桟橋を縮尺1/30で再現し,不規則波実験を行って,桟橋周辺に存在していた直径20~40cmの粗石の耐波安定性を明らかにした.次に縮尺1/10の大型実験を行って,不規則波群中の最高波の流れ場を段波により再現し,粗石を模擬した球体模型の直径を変化さえて,安定限界流速を求めた.その上で,安定限界を上回る流れが作用した場合の球体模型の移動速度を求めた.さらに円柱部材に組み込んだ分力計により,球体模型の衝突力を測定した.その結果,防護工の被災時と設計波の2つの波浪条件に対して,粗石の直径と衝突力の関係を示した.

  • 久保田 徹, 長谷川 巌, 髙橋 康弘, 中川 大, 小林 茂則, 渡部 昌治, 化生 順一郎
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_235-I_240
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     斜め入射波に対するスリットケーソンの反射特性および越波特性を把握することを目的に,平面水槽において模型実験を実施した.併せて,平面模型実験における斜め入射波の反射率の測定および解析の方法を検討した.反射率の解析には2点の水位による方法および1点の水位と流速による方法を適用して,平面水槽内に生じる地点ごとの波高の違いを考慮し,地点に応じた護岸法線位置での通過波データを用いることにより反射率解析精度を高めた.入射角0°,20°,39°の3種類の入射角で実験を行い,斜め入射の場合でも直角入射の反射率と大きな違いはないことがわかった.また,スリットがほぼ水没する条件では直立消波構造による越波低減効果が得られないことが確認され,直立壁として扱うことで合田らの算定図により,越波流量を推定できることがわかった.

  • 坪川 良太, 六浦 和明, 飯田 泰成, 牛渡 裕二, 松田 達也, 越智 聖志, 宮武 誠, 佐々 真志
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_241-I_246
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     近年,海面上昇や波高増大に伴い,海岸道路に襲来する高波の発生頻度が増加傾向にあり,これにより海岸道路の盛土被害が多発している.本研究では,擁壁背後の道路法面へ作用した波(遡上波・越波)により生じた道路法面陥没被災をもとに,被災時の対象擁壁における沖波諸元の波浪推算を実施するとともに,被災外力および被災発生時の異常時断面における道路法面の侵食について,移動床実験により,道路法面陥没の被災メカニズムを明らかにした.

  • 酒井 大樹, 辻本 剛三
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_247-I_252
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     捨石堤の施工現場では,高波浪によって捨石堤が被災することが問題となっている.捨石堤の被災について検討する手法として水理模型実験と数値解析が考えられる.数値解析では個別要素法や粒子法が一般的に思いつくが,それらの手法は計算負荷が大きい.施工現場では,一刻も早い被災程度予測が求められる.著者らは,捨石堤の被災過程が移流拡散現象に近いことに着目した.本研究では,一次元移流拡散方程式を差分法により解くことで簡易的に捨石堤の被災過程を再現することを目指した.

     過去の実験データを元に移流速度Cと拡散係数νをチューニングした.その結果,天端高の低下は拡散係数νの設定,岸側への変形については移流速度Cの設定で再現できた.本手法は全く新しいもので課題は残っているが,非常に簡易的であることから将来的には3次元への拡張も期待できる.

  • 澁谷 容子, 山本 郁佳, 荒木 進歩, 久保田 真一, 小竹 康夫
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_253-I_258
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     防波堤や護岸などの前面には消波工が設置されることが多く,補修・維持管理のためには消波工の断面変形に伴う波力や越波の変化を把握することが重要である.消波ブロック被覆堤を対象に水理模型実験を行い,消波工の断面変形と波力の関係を調べた.規則波および不規則波を用いて実験を行った結果,波高の増大および被災の進行に伴って作用波力は大きくなるが,低天端構造物においては波高が天端高さの4.5倍以上の場合に水平波力は減少する結果を得た.また,不規則波作用下における最大波力は規則波のそれよりも大きくなることが確認された.さらに,最大波力を引き起す波浪は必ずしも最大波高ではなく,1/10最大波高が2波連続して作用した場合も最大波作用時と同程度の波力を引き起す可能性があることがわかった.

  • 金子 剛史, 大村 智宏, 古市 尚基, 佐伯 信哉
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_259-I_264
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     漁港の斜路の反射率は直立壁に比べて小さく,斜路が港内の静穏性を確保する機能をもつことが築港技術者の間で古くより知られている.しかし,漁港の斜路を想定した波浪制御特性の検討例は乏しく,港内静穏度解析の実務において斜路の反射率は天然海浜の反射率0.05~0.2を参考に設定される.他方,長周期波に対して天然海浜は完全反射に近づくことが指摘されている.本研究は数値波動水槽を用いて様々な波高・周期の規則波の漁港斜路での砕波・反射過程を調査した.その結果,斜路勾配が急になるほど,波形勾配が減少するほど,反射率が増大し,既往知見と整合する傾向を確認するとともに,漁港斜路の反射率に一律一定の値を用いることが必ずしも適切ではないことを示した.さらに,計算結果に基づき,規則波作用下における斜路での反射率の算定式を提示した.

  • 久保田 博貴, 鈴木 高二朗
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_265-I_270
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     被災を受けた防波護岸の仮設工による応急復旧を効率的・効果的に実施するための施策が推進されているが,護岸上に設置された仮設工の耐波安定性に関する研究事例はほとんどない.そこで本研究では,護岸上に設置された土のうの耐波安定性を評価するために大規模水理模型実験を実施した.実験結果から,土のうを護岸上の前面に1列1段で設置した場合は被災率が合田波圧と比例関係にあることが分かった.滑動よりも転倒で被災を受け易く,安定性照査においてモーメントの中心点を沖側へ移動することによる土のうの設計手法を示した.また,土のうを2段2列で設置した場合,越波水塊が上側から衝突することで後列から被災するというメカニズムを明らかにした.さらに,金網枠で土のうを連結した場合は耐波安定性が向上することを確認した.

  • 重松 孝昌, 田口 恵美, 加藤 健司, 脇本 辰郎, 吉岡 真弥
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_271-I_276
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     脱化石エネルギー政策を推進するためには,その代替となる再生可能エネルギーの安定供給が必要となる.そのひとつの手段として波力発電技術の開発・発展が望まれる.本研究では,港湾構造物中に水車を導入することを想定して,縦スリット直立消波工における流速の現地計測を行い,流速の出現頻度と襲来波浪の関係について検討した.全国港湾海洋波浪情報網(神戸港)における観測波浪諸元から,大阪夢洲護岸スリット式ケーソン内の波浪諸元との関係を明らかにするとともに,スリット通過流速の推定法について提案した.

  • 二村 昌樹, 川崎 浩司, 西田 修三, 村上 智一, 下川 信也
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_277-I_282
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     地球温暖化に伴う海面上昇や台風の強大化により,将来的に計画規模を上回る高潮の発生が危惧されている.高潮に対するハード面の減災対策を検討するため,本研究では防潮壁のかさ上げが高潮の浸水特性に与える影響を評価した.防潮壁をかさ上げした場合,堤内地への越流量が減少して海域に滞留する海水が増加することで海域の水位が上昇する.その際,海域の水位上昇量は吹き寄せ効果の影響を受けるため,湾口部よりも湾奥部で大きくなる.これにより,湾奥部に面した地域では越流量が増加し,堤内地の浸水深が上昇する地域が発生する可能性があることが示唆された.また,浸水量を市町村別に整理した結果,防潮壁のかさ上げがもたらす減災効果は市町村間で差があることが明らかとなった.

  • 井瀬 肇, 田所 篤博, 原 信彦, 樋口 直人, 松林 清志, 井上 省吾, 本多 和彦, 河合 弘泰
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_283-I_288
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     港湾の管理者・利用者は台風接近の遅くとも3日前には防災行動を開始する必要があるが,その段階で高潮を予測できるのは独自の予測システムを持っている人に限られる.そこで,予測システムや専門知識がなくても高潮偏差の概略値を推定できる図表(高潮早見図)を試作した.それは,様々な台風のコース,中心気圧,進行速度に対する高潮計算を実施し,その結果を大阪湾の港湾ごとに整理したものである.平成30年台風第21号を例に,気象庁の台風進路予報を用いて観測値に近い値を推定できることも確認した.このように,高潮早見図は,3日以上前に防災行動を適切に開始する判断に有効なツールとなり得る.

  • Jasmine WILCHCOMBE, Ryuichiro NISHI, Jeffrey SIMMONS, Matthew WIDLANSK ...
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_289-I_294
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     Hurricane Dorian made landfall in The Bahamas on Sept. 1 2019 and is an extreme example of a common threat to tropical and subtropical coastal regions. With maximum sustained winds clocking in at 295 km/h, Dorian is tied with the Labor Day Hurricane of 1935 as the strongest category 5 hurricane to make landfall in the Atlantic. In The Bahamas, Dorian persisted for over 48 hours (over 24 of which were at category 5 strength) and resulted in catastrophic environmental, economic, and social damage, as well as unprecedented loss of life. Field surveys and data mining including SNS questionnaires were conducted immediately after the storm’s passage in Sept. 2019, and 6 months following in March 2020 in order to understand the storm surge impact. Storm surge magnitude was recorded at 84 points on the island of Grand Bahama. Storm surge inundation was found to be on the order of 8m above sea level, with approximately 70% of the island affected and flow direction was found to be highly influenced by topographical interaction with elevated ridges, creeks, ponds, and canals. Depending on the direction of storm approach and surrounding geography, property lying less than 8m above sea level can no longer be assumed safe.

  • 梶川 勇樹, 森山 諒也, 黒岩 正光, 武田 将英, AIN NATASHA BALQIS
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_295-I_300
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/30
    ジャーナル フリー

     本研究では,着床式洋上風力発電施設の基部で発生する局所洗掘現象の高精度予測を最終目標とし,一様流中における円柱周辺の流れと局所洗掘を適切に再現できる乱流モデルを明らかにすることを目的として,RANSに基づく種々の乱流モデル(標準型k-ε,RNG k-ε,標準型k-ω,SST k-ω)と解像度(円柱直径方向の表現格子数)を変えた流況解析を行うとともに,洗掘解析では掃流砂の非平衡性の影響について検討した.固定床での流況解析から,乱流モデルとしてはSST k-ωモデルが最適であり,円柱周辺流況の適切な再現には,円柱を表現するための解像度で少なくとも直径方向に十数メッシュ程度が必要であることが分かった.また,移動床での洗掘解析から,対象実験の範囲ではRNG k-ε及びSST k-ωの両乱流モデルの違い,および掃流砂の非平衡性の影響は明瞭には表れないことを示した.

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