超音波照射に基づく,Dimyristoylphosphatidylcholine (DMPC)から構成された大きいサイズの多重膜ベシクル(MLV)の,小さいサイズの一重膜ベシクル(SUV)への移行過程を示差走査熱量測定によって検討した。そこでは,最終段階のSUVが,中間過程で出現する大きいサイズの一重膜状ベシクルを経て達成されることを明らかにした。また,本研究で得られた,サイズ及び膜の多重性の異なる代表的3種ベシクル,すなわち超音波照射によって作製されたSUVおよび大きいサイズの一重膜状ベシクル,さらにMLV,のゲル-液晶相転移(
Tm転移)の熱的挙動は明らかに異なることが示された。これら3種ベシクルの
Tm転移に基づくエンタルピーおよびエントロピー変化量,そして転移温度はベシクルのサイズが増大する順序,すなわちSUV < 大きいサイズの一重膜状ベシクル < MLVの順序でいずれも増大した。さらに,~-5℃温度での熱処理によって,SUVは大きいサイズの一重膜状ベシクルを経て,最終的には多重膜構造のベシクルヘと移行した。3種ベシクルの熱力学的諸量に基づいて作製したGibbsエネルギー(
G)~温度(
T)曲線は,エンタルピー(
H)~温度(
T)曲線と同様に,ゲル相において,SUV < 大きいサイズの一重膜状ベシクル < MLVの順序で低下することが示された。以上の結果から,DMPCベシクルは,脂質分子がより密に会合することから生じるエンタルピー効果によって,熱力学的により安定化することを示唆する。
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