石油化学工業の災害は依然として減少の兆しを見せていないが,それらの災害では反応の熱的暴走が主原因となる例が少なくない。
化学災害を防止を目的とする,種々の熱的測定装置の開発が進み,反応性化学物質や化学プロセスの熱危険性予測の重要性が認識されつつある。
一方,過酸化水素や有機過酸化物は,合成反応原料や触媒として工業的な重要性が高く,また反応中間体として生成する例も少なくない。これらの化合物は不安定なペルオキシ結合を有することから反応,貯蔵,輸送,処理工程での火災や爆発事故が数多く発生し,反応暴走事故の主要原因物質とみなされている。
われわれはこれらの過酸化物の反応プロセスにおける熱危険性を検討しており,今回はアミノチアジアゾールニトリル誘導体のアミド化にともなう,熱危険性評価を加圧DSC,反応熱量計を用いて行った。
試料の5-アミノ-1,2,4-チアジアゾール-メトキシイミノアセトニトリル(以下M-14と略す)は,医薬品製造の中間体として知られている。
M-14と同時に,他の環状ニトリル化合物のアミド化反応での熱的挙動も検討した。
以上の測定より得られた知見を整理する。
(1)加圧DSCは溶剤に希釈されていたり,揮発性のある不安定化学物質試料の熱的評価に有効であった。また,熱分析での測定結果は比較的試料量の多い反応熱量測定の安全な測定条件を設定するためにも必要である。
(2)ニトリル化合物のアミド化ではニトリル化合物や溶媒の種類,温度,反応温度などにより,反応が熱的に暴走する可能性があることが明らかになった。
(3)ニトリル基と芳香環(複素環)との位置により反応性に大きな差がみられた。これは生成するニトリルラジカルの安定性の相違によるものと推定される。
(4)反応熱量計(RC1)を用いることで溶媒の種類や温度条件,撹拌速度,冷却能力などの適切な設定が可能となった。
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