天然多糖プルランの100単糖当たりに1.7個のコレステロール基を導入した疎水化プルラン(CHP)は,水溶液中で分子集合体を形成し,それのヒドロゲル状中心部に水溶性タンパク質を取り込むことが明らかにされている。これに基づいて,本研究においては,CHP分子集合体と牛血清アルブミン(BSA)との相互作用を高感度恒温滴定型熱量測定,高感度示差走査熱量測定および円偏光二色性スペクトル測定から検討した。測定温度25℃での恒温熱量測定からは,CHP分子集合体へのBSAの取り込みは発熱現象を伴い,それはBSA1モル当たり-98kJのエンタルピー変化量(Δ
Hb),8.5×10
7M
-1の結合定数,11分子のCHPから構成された1つのCHP分子集合体に対してBSA1分子の飽和化学量論的当量によって特性化されることが示された。その他の測定からは,CHP分子集合体に取り込まれたBSAは,10%程度のヘリックス構造の減少を示し,100℃までの昇温においても熱構造転移を示さないことが明らかにされた。これらの結果より,本研究の反応はエンタルピー効果に基づき,これにはゲストBSAを取り込むことによってホストとしてのCHP分子集合体の構造変化が関係し,おそらくCHP糖鎖とこの親水性タンパク質との間での分子間水素結合形成が関与していることが示唆された。その結果,水素結合されたBSAは少なくとも温度100℃までに渡って熱的に安定化されることが考察された。
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