インドネシア共和国ジャカルタ市の大気汚染状況は,クルマの急増によって悪化しつつある.本報では,浮遊粒子状物質,鉛,および大気中二酸化窒素について報告する. 対象はジャカルタ市とその周辺で,市の人口は826万人(1990年国勢調査),1980~1990年の平均年人口増加率は2.42%である.市内に大工場はなく,鉄道も発達していない.車登録台数は,1982年1,120万台,1992年1,912万台である.二酸化窒素の測定は,柳沢・西村のフィルター・バッジ法によった. 1992年の大気中平均浮遊粒子状物質は0.15mg/m3,鉛は1μg/m3前後であった.また戸外の一日平均こ二酸化窒素濃度は,市の中心で30~40ppb,市の中心のややはずれで20~30ppb,市の境界で10~20ppb,そして市の周辺市で5~15ppbであった.東京都区部の40ppb前後と比べやや低い値である.家屋内外の一日平均二酸化窒素濃度差では,市内外26地点のうち3地点は屋内のほうが高く,鉄筋コンクリート造りのホテルでは,逆に屋内は屋外の約1/4であった.その他は屋内外同レベルであった.一定点における二酸化窒素濃度の週日変化を市内のホテルの窓の外(高さ8m,道路から70mの距離)で10日測定したが,最高は火曜日の32.6ppb,最低は日曜日の16.8ppbであった.イスラムの正月Idul Fitriにも同様の測定を実施したが,正月は約10ppbで,正月の翌週の月~ 金曜日はおよそ15~25ppbであった.正月のクルマ通行台数はその前後と比べて約1/4であった. 以上,ジャカルタ市の二酸化窒素濃度は東京都心のそれと比べやや低く,逆に浮遊粒子状物質濃度などは高かった.エンジンの燃焼効率の悪いクルマの多いことが要因として考えられる.交通量の少ない日は二酸化窒素も低く,主要な発生源がクルマであること(64-73%)が確かめられた.
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