口腔内のα型溶血連鎖球菌は,齲蝕のみならず,細菌性肺炎や感染性心内膜炎などの起炎菌を含んでいる.歯面上の細菌は歯磨きによって物理的に除去できるので,歯磨き習慣が確立する幼児期に確実な歯磨き法を指導し訟ければならない.本研究は,幼児が自ら行う歯磨きの前後で,歯面上のα型溶血連鎖球菌数の変化を明らかにし,口腔内環境の清潔や肺炎感染防止対策,歯磨き習慣の確立に役立てることを目的とした. 対象児は,保護者の同意が得られた117名の保育所児(3歳児,4歳児,5歳児)で,月齢は60.5±9.9ヶ月であった.細菌数は,性別にかかわらず,歯磨き前よりも歯磨き後のほうが有意に少なかった.ただし,歯磨き前が6.1×10
4CFU/mL,歯磨き後が3.1×10
4CFU/mLであり,幼児のセルフケア能力をさらに高める指導が必要である. 歯磨き前の細菌数は,4歳児よりも3歳児のほうが多い傾向がみられ,3歳児では十分に微細運動が発達していないと考えられた.歯磨き所要時間と細菌減少数には有意な相関関係は認められず,短時間でも正しい磨き方をすれば細菌数を減少できると考えられた.また,歯磨き前の細菌数は,父親がいない幼児,同胞がいる幼児のほうが有意に多く,齲蝕と肺炎感染防止の観点からこれらをハイリスクな対象として扱う必要性が示唆された.
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