情報通信学会誌
Online ISSN : 2186-3083
Print ISSN : 0289-4513
ISSN-L : 0289-4513
36 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
寄稿論文
  • 岩城 正和
    2018 年36 巻1 号 p. 3-10
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/21
    ジャーナル フリー

    放送のデジタル化やスマートフォンの急速な普及に伴い、多岐にわたる情報を多くの人々に届ける環境が整いつつある。一方で、高齢者や訪日外国人の増大、趣味・嗜好の細分化など社会構造の変化や多様化に対応した情報の提供が求められるようになった。NHKでは、公共放送の重要な役割として、視聴覚障害者向け放送サービスの拡充に努めるとともに、放送をより多くの人に楽しんでいただくため、高齢者や障害者、日本語を母語としない外国人などを対象に、人にやさしい放送技術の研究開発に取り組んでいる。NHK放送技術研究所では、これまでの放送波によるサービスに加え、放送と通信が連携した新しいユニバーサルサービスの可能性について検討を進めている。その中から、音声認識による字幕制作、CGによる手話アニメーション生成、やさしい日本語を使ったニュースサービスなど、放送サービスの情報アクセシビリティー向上にむけたNHKの研究開発の取り組みを紹介する。

  • 難聴者向け「みえる電話」サービスの開発導入
    河田 隆弘, 廣橋 道夫
    2018 年36 巻1 号 p. 11-16
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/21
    ジャーナル フリー

    緊急トラブル対応をはじめ、日本社会では未だに電話でしか出来ない手続きが数多く存在する。しかし、コミュニケーション相手の唇の動きも表情も見えない電話シーンは、難聴者にとって大きな課題となっている。NTTドコモでは、発話内容を認識して文字化する音声認識技術を電話用途に応用し、「みえる電話」サービスを開発した。本サービスを利用すると、通話相手が話した内容をリアルタイムで文字で読むことが可能となる。自身で話すことが苦手な方でも、文字入力した文章を通話相手に読み上げてくれる。本稿では開発に至った経緯、開発内容、導入後の反響と今後の課題についてまとめる。今後もICTを活用した革新的なサービス・製品を提供し、電話リレーサービス等の取り組みと合わせて、情報アクセシビリティの持続的発展および社会的課題の解決に貢献したいと考える。

  • 山田 肇
    2018 年36 巻1 号 p. 17-22
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/21
    ジャーナル フリー

    日本では、2011年に障害者基本法の改正、2013年に障害者差別撤廃法の制定、条約の批准など、障害者政策が段階的に強化されている。これらの法律は、公共および民間セクターが情報のアクセシビリティに対応することを要求し、特に公共機関にとって義務的と解釈できる。しかし、情報アクセシビリティへの対応は実際には進んでいない。他の国々は、官民双方に情報アクセシビリティを義務として課しており、施行力は日本よりも強い。情報通信機器やサービスの新技術がアクセシビリティ問題を容易に解決できるのを考慮すると、日本も情報アクセシビリティを義務付けることが適切である。

特集論文
  • 政見放送への手話通訳・字幕の付与、選挙公報の点訳・音訳を中心に
    大倉 沙江
    2018 年36 巻1 号 p. 23-30
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/21
    ジャーナル フリー

    高齢化の進展に伴い、中途障害者が増加している。このことから、聴覚障害者は手話、視覚障害者は点字といったステレオタイプを超えて、障害の種類や程度、コミュニケーション手段の違いに応じた情報提供が求められている。本稿は、障害がある有権者に対する選挙情報の保障に関わる国レベルの政策の現状と課題を明らかにすることを目的とする。具体的には、政見放送への手話通訳・字幕の付与、選挙公報の点訳・音訳を中心に、審議会の会議録や新聞記事を用いて検討を行った。分析の結果、政見放送については、衆議院議員総選挙の比例代表では字幕の付与が、参議院通常選挙の選挙区では手話通訳および字幕の付与が認められていないことが確認された。また、選挙公報については、点字版はすべての都道府県で作成されているものの、拡大文字版は半数以上の都道府県で作成されていないことが確認された。選挙情報の保障に向けて、障害がある有権者の選挙情報の保障をいかに、誰の責任で実現するかという点に関する政策決定者や有権者の間の合意形成を図ることが緊要であり、将来の政策展開に必要な課題が整理された。

  • ソーシャルインクルージョンの視点から
    栗原 佑介
    2018 年36 巻1 号 p. 31-36
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/21
    ジャーナル フリー

    本稿は,障害者と著作権法の関係を明らかにする。障害者が著作物を利用するため,よりよい情報アクセシビリティの確保を図るべく,ソーシャルインクルージョンを考慮した制度設計を提案する。本稿では,まず,マラケシュ条約の概要,わが国著作権法の現状と課題を明らかにする。次に、障害は,機能障害と社会的障壁の相互作用によって生じていることから,情報アクセシビリティの確保の点からは,著作権の権利制限又は例外の制度設計においては,社会的障壁の除去を目指す必要がある。この観点から,「ソーシャルインクルージョン」の実現のため,著作権法も障害者福祉目的の包括的な権利制限規定を検討するなど,柔軟な制度設計が必要となる。

  • JIS X 8341-3に基づく専門家評価による問題の分析
    渡辺 昌洋, 浅野 陽子
    2018 年36 巻1 号 p. 37-45
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/21
    ジャーナル フリー

    高齢者、障がい者を含め誰もがウェブを使えるようにすること、すなわち、ウェブアクセシビリティは近年ますます重要になっている。ウェブサイトを使うことによって、特に、高齢者、障がい者の生活は非常に便利になっている。自治体サイトでは日常生活のために重要な情報を発信しているため、特に、ウェブアクセシビリティは重要である。本稿では、無作為に抽出した30の地方自治体のウェブアクセシビリティ方針の有無を調査した。さらに、トップページのアクセシビリティをJIS X8341-3 に基づき2013年と2017年に専門家評価を行った。その結果、2017年現在でも23.3%の自治体しかウェブアクセシビリティ方針を公開していないことがわかった。また、満たしている達成基準の割合は4年間で増えていたが、すべての達成基準を満たしているサイトはないことがわかった。さらに調査結果から、自治体サイトにおいてよく見られたアクセシビリティの問題を分析し、アクセシブルなウェブサイトへの障壁を明らかにした。

論文
  • 米国法上の議論の分析を通じた一考察
    海野 敦史
    2018 年36 巻1 号 p. 47-60
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/21
    ジャーナル フリー

    営利的表現たる情報の開示の強制(営利情報開示強制)は、一般に、日常生活において必要となる情報の提供を目的とし、各人の自己決定を促進する効果を有する。当該自己決定は、表現の自由の保障根拠である自己実現の価値に資すると同時に、開示強制の対象となる情報を通じて思想の自由市場の欠陥が是正され得るという要素を介しつつ、自己統治の価値をも促進し得る。かかる営利情報開示強制の正の効果は、営業主体の自律的決定の余地を減殺するという負の効果との適切なバランスの下に正当化され得る。しかも、営利情報開示強制は営業主体の(別途の)表現の機会自体を剥奪するものではないということにかんがみると、かかる負の効果が比較的低いと考えられる。これに対し、営利的表現における表出行為の制限(営利的表現規制)は、前述の正の効果が期待される余地が乏しいままに、営業主体の自律的決定を一方的に阻害し得る。よって、営利情報開示強制は営利的言論規制と規範的に区別され、その正当性は認められやすい。ゆえに、憲法上、営利的表現の表現者は、国民生活に必要となる商品・役務に関して提供する営利情報の選択に関しては、限定的な範囲での自由を行使し得るにとどまると解される。ただし、このことは、営利情報開示強制が、もっぱら取引の円滑化等を目的とする場合に限って妥当し、思想等の開示強制を目的とすると認められる場合にはその限りではない。後者の場合、営業主体の消極的表現の自由のほか、憲法上強固に保護されている思想・良心の自由を侵害する可能性が高いからである。

  • 福家 秀紀
    2018 年36 巻1 号 p. 61-74
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/21
    ジャーナル フリー

    本研究は、利用者にも競争事業者にも大きな影響を及ぼす可能性のある、NTT東西の電話網(PSTN)からIP網への移行計画に関わる課題を評価することを目的とする。評価に当たっては、(1)消費者志向、(2)将来志向、(3)競争中立性、(4)規制の比例性の4つの視点を重視する。そのため、本稿は以下のように構成する。第一に、移行の背景として、ブロードバンドと携帯電話の普及の影響を確認する。第二に、2010年以降公表されたNTT東西の移行に関する文書を分析する。第三に、NTT東西の計画を受けた総務省の対応を分析する。第四に、NTT東西の計画と総務省の対応を対照させることによって、移行に当っての課題を明らかにする。最後に、以上の分析に基づき円滑な移行に向けての筆者の提案と今後の課題を示す。

    なお、本件は現在進行中の事象であり、また移行計画の詳細が必ずしも示されていないことから、本研究も中間的なものであることを付記しておく。

feedback
Top