日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第50回日本植物生理学会年会講演要旨集
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  • 三田 智子, 吉田 和生, 宗景 (中島) ゆり, 明石 欣也, 横田 明穂
    p. 0501
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    強光乾燥などのストレス条件下では、吸収する光エネルギーが植物体内で消費されるエネルギーの量を上回るため、葉緑体内は過還元状態になり、光合成器官が損傷を受ける。このようなストレス条件下での電子伝達制御機構について知るために、本研究では乾燥耐性能を有する野生種スイカを用いて、ストレス前後の葉緑体チラコイド膜タンパク質のプロテオーム解析を行った。ストレスに応答して興味深い挙動を示すタンパク質として、cyt b6f複合体の構成成分であり、光合成電子伝達を担う重要なサブユニットである葉緑体Rieske鉄-硫黄タンパク質に注目して解析を行った。その結果、ストレスに応答して、異なるpIを持つRieskeタンパク質スポットが新たに出現すること、またそのスポットはストレスの緩和によって可逆的に消失することを見出した。また、クロロフィル蛍光や酸素電極を用いた解析から、in vivoin vitroにおいて、ストレス条件下で光合成活性がcyt b6f複合体で下方制御されていることを示唆する結果が得られた。ストレス条件下では、cyt b6f複合体で光合成電子伝達を抑制することで、光化学系Iの光障害を防ぐという機構が存在する可能性が考えられる。また、その機構に異なるpIを持つRieskeタンパク質が関与するかどうかについても考察する。
  • 岩井 優和, 横野 牧生, 稲田 のりこ, 皆川 純
    p. 0502
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    光環境の変化やストレスによって、光化学系Iと光化学系IIの励起状態の均衡が崩れた際、植物は集光アンテナタンパク質の配置換えによって、エネルギー分配を最適化している(ステート遷移)。これまでに我々は単細胞緑藻クラミドモナスを用いた生化学的解析によって、ステート遷移時の光化学系タンパク質の構造変化を明らかにしてきた。しかし、細胞内で同様の構造変化が起きているという直接的な証拠はまだない。そこで本研究では、クロロフィル自家蛍光の蛍光寿命イメージング(FLIM)という新しい技術を用いて、ステート遷移によるタンパク質超複合体の構造変化をリアルタイムで可視化することを試みた。まず、顕微鏡下におけるステート遷移の誘導法を確立し、更に生きているクラミドモナス細胞の経時的FLIM解析の為のデータ取得条件を最適化した。確立したFLIM測定により、生きた野生株細胞におけるステート遷移の可視化に初めて成功した。本発表では、変異株のFLIM測定結果を含め、最新のデータを報告する。
  • 滝澤 謙二, 高橋 新一郎, 得津 隆太郎, 皆川 純
    p. 0503
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    暗順応した高等植物の葉緑体が急激に光を受け取ると、チラコイド膜内のプロトン濃度が上昇し、光阻害を回避するために非光化学的な励起エネルギーの消失(qE)が起こる。Chlamydomonas reinhardtiiに代表される多くの緑藻ではqE の活性が低く、代わりに光化学系IとIIの間で集光タンパク質を可逆的に移動させて励起状態のバランスを保つステート遷移の役割が大きいとされている。ただし、qEの能力自体が低いわけではなく、強光、二酸化炭素欠乏などのストレス環境下では高いqE活性が見られる。また、南極氷結湖の特異な環境でステート遷移能力を失ったChlamydomonas raudensisでは暗所から明所への順応の過程で高等植物と同等の高いqE活性を示す。これらのことから、ステート遷移の何らかの作用がqEを抑制していると考えられる。暗処理によりステートIIに誘導したC. reinhardtiiに光を照射すると直後に高いサイクリック電子伝達が見られるが、チラコイド膜内外のプロトン勾配の増加は緩やかである。このことはATP合成酵素における高いプロトン透過性から説明できる。本研究ではステート遷移の過程で起こるチラコイド膜タンパク質のリン酸化・脱リン酸化とストロマの無機リン酸濃度に依存するATP透過性を関連付け、新たな光合成制御機構を提唱する。
  • 石田 智, 羽野 泰史, 高林 厚史, 石川 規子, 遠藤 剛, 佐藤 文彦
    p. 0504
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    NAD(P)H dehydrogenase(NDH)は光合成明反応においてNAD(P)Hの還元力を基にプラストキノンを還元する役割を担い、光合成明反応で生産されるNADPHとATPの生産量を調節する。NDHのサブユニットの多くは陸上植物および藍藻で保存されているが電子供与体認識部位を始めとするNDH活性に重要なサブユニットの同定には至っていない。
    我々のグループはシロイヌナズナの核コードNDHサブユニットの遺伝子発現プロファイルを基に6つの新規NDH関連遺伝子(NDF1,NDF2,NDF4,NDF5,NDF6,PPL2)を同定し、昨年の発表ではNDF2およびそのホモログNDF5がNDH活性に必須であることを示した。
    本発表では、1) BLAST解析からNDF2およびNDF5の進化における分岐段階を推測し、2) 代表的なndh変異体を用いたウエスタン解析からNDF2とNDF5の役割の違いについて考察する。
  • 山内 靖雄, Sugimoto Yukihiro
    p. 0505
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    アラビドプシス(col-0)の光合成活性に対する温度の影響を、クロロフィル蛍光(Fv/Fm)を指標に調べたところ、35°C以下では影響が見られないのに対し、40°C以上の高温で急激なFv/Fmの減少が観察された。この減少は光に依存しており、光を照射することによりFv/Fmの減少はキャンセルされた。減少したFv/Fmの回復には24時間が必要であり、タンパク質合成阻害剤シクロヘキシミドが回復を阻害したことから、核コードの光合成系タンパク質がダメージを受けていることが考えられた。そこでPSIIの重要な核コードタンパク質であるOEC33の挙動を免疫ブロッティングで解析したところ、高温処理したアラビドプシスでOEC33タンパク質量の減少が観察された。次にNAD(P)Hデヒドロゲナーゼサブユニットを欠損したミュータント(ndhO)の高温耐性を調べたところ、col-0で見られた40℃におけるクロロフィル蛍光の減少、およびOEC33の減少が観察されなかった。野生株における高温ストレス前後のOEC33タンパク質の酸化修飾、過酸化脂質修飾を調べたところ、両者とも検出されなかった。これらの結果はNAD(P)Hデヒドロゲナーゼは、酸化障害が関わらない何らかのメカニズムで暗所・高温下におけるPSIIへのダメージに関与していると考えられる。
  • 鈴木 健策, Ratel Emilien
    p. 0506
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    イネ(あきたこまち)では、幼苗全体を10℃前後の低温に1週間程度曝しても可視的な障害は起こらない。しかし地上部だけを低温に曝すと2、3日で変色、枯死等の可視的障害が起こる。この障害に先立ち、光合成電子伝達機能に著しい障害、すなわち光化学系IIとIの間に電子伝達の遮断が起こる(Suzuki et al. 2008)。これらが水耕液中の硝酸イオンに依存して起こることは前回報告した。しかし光合成機能解析を25℃に戻してから行ってきたため、この「遮断」が低温障害の原因か結果かは不明であった。今回は「遮断」の原因を知る手掛かりを得る目的で、暗低温処理中に9℃で光合成機能解析を行った。その結果、低気温・低地温(9℃/9℃)では光化学系?の電子伝達速度が無処理(25℃/25℃)と同程度に高いこと、低気温・高地温(9℃/25℃)では光化学系IもIIも電子伝達速度が著しく低く、光照射の直後から光化学系IIが過剰還元状態で光化学系Iが過剰酸化状態であること等がわかった。一方、単離チラコイド膜における光化学系IIと光化学系Iの間の電子伝達の部分反応解析では、光のもとで高地温・低気温処理を行っても「遮断」を説明できるような特異的な活性低下は認められなかった。今回の結果は、高地温・低気温での「遮断」が低温処理中に既に起きていることを示している。また、サイクリックな電子伝達の機能停止がその原因の可能性がある。
  • 川浪 悠生, 鈴木 雄二, 牧野 周
    p. 0507
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    高CO2環境で生育した高等植物の葉ではRubisco量が減少することが知られている。しかし、これがRubiscoの生成の抑制と分解の促進のいずれに起因するのかは不明である。そこで本研究では、イネを材料とし、高CO2処理によるRubiscoの生成と分解を15Nトレーサー法を用いて調べた。
    CO2処理は第3葉期から開始し、対照区で大気条件(約39Pa)、高CO2区で76 Paとした。第10葉の出葉から老化に至るまで経時的にサンプリングした。Rubisco量は対照区において、葉の展開と共に増加し、完全展開時に最大となり、その後速やかに減少した。高CO2区のRubisco量は葉の一生を通じて対照区よりも低く推移し、光合成速度も同様な変動をした。Rubiscoの生成は対照区において、葉の展開中に活発に行われ、その後急激に低下した。Rubiscoの分解は葉の展開後期に始まり、老化過程を通して活発であった。一方高CO2区では、葉の展開中の生成は対照区よりも抑制されていたが、完全展開後は差がなかった。Rubiscoの分解は、老化初期において対照区に比べ促進されていたものの、分解量の総和は若干少なかった。これらの結果から、イネ葉における高CO2処理によるRubisco量の減少は、主として葉の展開時のRubisco生成の抑制と老化初期の若干の分解促進の結果であった。
  • 佐藤 直樹
    p. 0508
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    光走性などにより重力に逆らって指向性運動を行う細胞の高密度集団では,生物対流が見られることが古くから知られているが,個々の細胞の運動動態については知られていない。生物対流は生物が示す非平衡ダイナミクスの一つであるが,個々の細胞を直接観察できる点で,代謝など細胞内のダイナミクスよりも解析しやすく,生物現象一般のモデルとなることが期待される。昨年の年会では,培地密度を高くすることによって倒立対流ができることを示した。また,生物対流の確立にいたる過程には,光のない条件における等方的運動から,光照射下における光走性運動の開始,集積した細胞層における細胞間反発による「小噴火」,細胞層不均一化による細胞流の開始などの段階があることを示した。本研究では,細胞集団中における特定細胞の軌跡を観察する方法を開発し,これにより個々の細胞運動動態の解析を可能にしたので,細胞集団の運動動態特性の時間的発展について報告する。
  • 神田 拓也, 田中 祐二, 松田 祐介
    p. 0509
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    海洋性珪藻類は地球上の一次生産の25%を担うが、汽水域にも適応し、広範な塩応答性を有する。海洋表層の塩濃度は気候、地理、季節など様々な要因により変化するが、珪藻等海洋一次生産者の低塩応答機構については報告例が無い。本研究では、海洋性珪藻Phaeodactylum tricornutumを用いて、低塩応答を転写レベルで調査した。通常海水 (0.5M[Na+]) で生育した細胞を低塩環境 (0.1M[Na+]) へ移し、生育速度から低塩順化初期及び後期に類別した。低塩処理直後を含めた各過程からRNAを調整し、cDNA-amplyfied fragment length polymorphism (cDNA-AFLP)法により半網羅的なトランスクリプトーム解析を行った。その結果、74のcDNA断片で低塩応答性が確認された。アスコルビン酸生合成経路のGDP-mannose 3’ 5'-epimerase、典型的ストレス応答性遺伝子であるHeat shock protein、また数種のNa+ transporterが強い塩応答性を示した。アスコルビン酸生合成経路、活性酸素除去酵素の多くも低塩環境下でmRNA蓄積量の増加が見られたことから、P. tricornutumは低塩順化過程で酸化ストレスを受けることが示唆された。
  • 井上 拓也, 北原 悠平, 松田 祐介
    p. 0510
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    海洋性珪藻Phaeodactylum tricornutumの葉緑体β型carbonic anhydrase(PtCA1)のプロモーター(Pptca1)はCO2、光、およびcAMPによって制御されていることが知られている。Pptca1では、3つのタンデムに配置した哺乳類型のcAMP応答配列がCO2応答に必須であることがわかっており、我々はこれらをCO2/cAMP-responsive element(CCRE)と名づけた。本研究では、P. tricornutumのゲノムからCCRE結合因子を探索し、性質について調べた。CCRE結合因子候補として、8つのCREB/ATF superfamilyのcDNA(PtbZIPs)を単離し、発現用ベクターに導入後大腸菌に形質転換した。その結果、PtbZIP2, 3, 7が可溶画分に確認された。CCRE配列を5つ結合したプローブを用いたゲルシフト解析の結果、PtbZIP7がCCREへ特異的に結合することがわかった。PtbZIP7の発現をRT-PCRにて確認したところ、High CO2およびAir環境下共に発現が見られたが、High CO2環境下よりもAir環境下で発現量が高いことがわかった。これらの結果より、PtbZIP7はPptca1のCCRE領域に結合し、ptca1の発現調節に関与している転写因子であることが示された。
  • 石原 靖子, 井戸 邦夫, 伊福 健太郎, 佐藤 文彦
    p. 0511
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    高等植物には光化学系II(PSII)酸素発生系タンパク質であるPsbPに加えて、複数のPsbPパラログが存在している。特にPsbP-like 1(PPL1)タンパク質は、その配列からシアノバクテリアのPsbPホモログ(cyanoP)のオーソログであると考えられる。これまでに我々のグループでは、シロイヌナズナppl1変異株を用いた解析により、PPL1がPSIIの構成因子ではなく、強光時におけるPSIIサイクルの修復段階に関与する因子であることを明らかにした(Ishihara et al. 2007)。本研究ではさらに、シロイヌナズナ野生株およびPSII機能維持に関連した変異株を用いて、PSII修復サイクルにおけるPPL1の挙動を検証した。その結果、D1の合成/分解に関わるvar2, fug1, var2/fug1(Miura et al. 2007)ではPPL1の発現に変化が認められないのに対して、生育光においてもシビアな光阻害を受けるpsbo1(Murakami et al. 2002)では野生株の2倍程度にまでその発現量が増加していることが判明した。PPL1はストロマチラコイドに局在しており、ショ糖密度勾配遠心法でチラコイド膜タンパク質の複合体画分に回収されたことから、現在PPL1と直接相互作用する因子を同定するべく解析を進めている。
  • 森本 和成, 森 仁志, 春日 純, 藤川 清三, 荒川 圭太
    p. 0512
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    寒冷地に生育する樹木の木部柔細胞は深過冷却によって氷点下温度に適応している。このような木部柔細胞では、季節的な低温馴化によって過冷却能力が向上することで冬季の厳しい氷点下温度に対する抵抗性(凍結抵抗性)が著しく高まる。これまでの研究により、木部柔細胞の深過冷却機構では細胞壁構造や細胞内に蓄積する糖類、氷核形成阻害物質などが関与することが示唆されているが、主たる細胞成分の一つである可溶性蛋白質が過冷却能に対してどのような役割を果たしているのかに関する知見は少ない。そこで本研究では、北方樹木の木部柔細胞の過冷却能の変動によく対応して変動する蛋白質を特定することを目的とした。野外に生育するカラマツ(Larix kaempferi)の2ないし5年生の枝を用い、季節的な低温馴化による過冷却能の上昇ならびに人為的な脱馴化処理による過冷却能の減少の双方に対応して、蓄積量が増減した可溶性蛋白質を二次元電気泳動法で検出した。そして、変動した16個の候補蛋白質をトリプシン消化後、LC-MALDI MS/MS解析に供試してde novo sequencingした。予測されたアミノ酸配列をもとにデータベースを検索した結果、機能未知な樹木由来の蛋白質と類似したものがいくつか見いだされた。現在、引き続きこれらの蛋白質の同定を試みている。
  • 石川 雅也, 土志田 妙子, 長谷川 郁子
    p. 0513
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    シュロは、ヤシ科植物の中で最も高い耐寒性を示し、その葉は-14℃まで被害を受けない。一般的に高耐寒性植物でも夏は殆ど凍結に耐えないが、シュロ葉は夏の生育期間でも冬と同等の耐寒性を示す珍しい植物である。その耐寒性機構は、DTAやMRI観察から深過冷却によることが判っている。その深過冷却の機構を探るため、葉のメタノール抽出画分について、研究を進めている。メタノール抽出により、葉の深過冷却能は著しく低下する。この画分には、氷核活性細菌やフェナジン、ヨウ化銀などの氷核活性を抑制する作用がある。また、水の過冷却を安定化させる作用がある。本画分を更に、水画分、酢エチ画分、ブタノール画分に分配し、各画分の抗氷核活性と過冷却安定化能について調べた。その結果、過冷却安定化能は、酢エチ画分≧ブタ画分>水画分の順であった。氷核活性細菌に対する抗氷核活性は、酢エチ画分≧ブタ画分>水画分の順であったが、フェナジンに対しては、水画分≒酢エチ≒ブタ画分で、ヨウ化銀に対しては、水画分>酢エチ>ブタ画分であった。これらの結果は、氷核活性物質により有効な抗氷核活性成分が異なる可能性を示唆した。また、抗氷核活性を定量的に表す手法を開発した。本方法を用いて、シュロ葉メタノール抽出画分の各氷核活性物質に対する抗氷核活性の定量的評価を試みた。
  • 古戸 あかり, 南 杏鶴, 上村 松生
    p. 0514
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    温帯性植物は氷点以上の低温に曝されると凍結耐性が増大する(低温馴化)。この過程では、細胞膜の機能を維持することが重要な因子の一つである。近年、細胞膜においてスフィンゴ脂質やステロール脂質と特定のタンパク質から形成されるマイクロドメインの機能性が注目されている。動物細胞においては膜輸送やシグナル伝達に重要な役割を果たすことが示唆されているが、植物細胞では構成成分に関する報告例にとどまり、具体的な機能はほとんど不明である。本研究では、低温馴化における細胞膜マイクロドメインの機能を理解するために、シロイヌナズナの低温馴化過程における細胞膜マイクロドメイン脂質組成の変化を解析した。シロイヌナズナ植物体より細胞膜画分、さらにそこからマイクロドメイン画分を単離し、各々の脂質解析を行った。その結果、マイクロドメインでは低温馴化過程でステロール脂質の割合が増加し、スフィンゴ脂質(グルコセレブロシド)とリン脂質が減少する傾向を示したのに対し、細胞膜ではグルコセレブロシドの割合のみが大きく減少した。マイクロドメインと細胞膜の脂質組成の変動が異なっていることは、低温馴化においてマイクロドメインが特異的な機能を有していることを示唆している。現在、低温馴化過程で変動する脂質とマイクロドメイン局在タンパク質との相互作用を解析しており、それらの結果から低温馴化におけるマイクロドメインの機能について考察する。
  • 深澤 直美, 高橋 和恵, 佐々木 裕, 上村 松生
    p. 0515
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    シロイヌナズナT87培養細胞はアブシジン酸(ABA)処理により凍結耐性が増大する(Sasakiら 2008)。この凍結耐性の増大は、細胞分裂が盛んな時期(生長曲線では誘導期に相当)でのみ起こり、細胞肥大の時期(対数増殖期)には見られない。しかし、本培養細胞の凍結耐性増大に関わる要因については未だ不明な点が多い。本研究では、ストレス応答性タンパク質の1つであるデハイドリンに着目し、本培養細胞におけるABA誘導性凍結耐性の増大との関係を解析した。シロイヌナズナゲノムには、デハイドリン遺伝子が10個存在する。本培養細胞におけるデハイドリンタンパク質の発現を調べるため、全てのデハイドリンが持つK-segmentを認識する抗体を用いてWestern blotを行った。その結果、一次元電気泳動においては8本のバンド、酸性領域の二次元電気泳動においては4個のスポットを確認した。また、特異的プライマーを用いて6個のデハイドリン遺伝子の発現を解析した結果、ABAに応答して3個の発現が増加した。タンパク質発現と遺伝子発現解析の結果から、誘導期細胞でのみABAに応答して2個のデハイドリンの蓄積量が増大することを明らかにした。この結果は、これらの誘導期特異的ABA誘導性デハイドリンが凍結耐性増大に関与していることを示唆している。現在、質量分析によるそれらのデハイドリンの同定を行っている。
  • 中井 勇介, 佐藤 雅彦, 河内 孝之, 中平 洋一
    p. 0516
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    VOZ (Vascular plant One Zink-finger protein)はone zinc-fingerモチーフをもったDNA結合タンパク質であり、陸上植物で広く保存されている。シロイヌナズナには二種のVOZ(VOZ1, VOZ2)が存在するが、二重変異体が長日条件で遅咲きを示すことから、光周性花成制御への関与が提案されている。一方、VOZはヒメツリガネゴケにも存在することから、陸上植物に共通した花成以外の生理現象に関与することも考えられる。
    本研究では、シロイヌナズナvoz1/voz2二重変異体のDNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、voz1/voz2では低温適応に関わる遺伝子群の発現に有意な上昇が認められた。さらに、voz1/voz2は野生型と比較して顕著な耐凍性の向上を示した。以上の結果は、VOZが低温ストレス応答に関わる負の調節因子である可能性を示唆している。現在、voz1/voz2における既知の低温シグナル制御因子の発現解析を進めており、その結果も併せて、低温シグナル伝達経路におけるVOZの役割を議論したい。
  • 吉田 拓実, 中嶋 潤, 戸高 大輔, 佐久間 洋, 中島 一雄, 溝井 順哉, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0517
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物の生育は、環境ストレスにより影響を受ける。シロイヌナズナの転写因子DREB2Aは環境ストレス応答に重要なシス因子であるDREに結合し転写を活性化することで、乾燥や高温ストレス耐性獲得に重要な役割を果たす。高温ストレス応答に関して、現在までの研究でDREB2Aを起点とした下流の標的遺伝子の解析は進んでいるが、DREB2A自体の発現制御機構は明らかにされていない。本研究では、高温ストレス下におけるDREB2Aの発現制御機構の解明を目的とし、DREB2Aのプロモーター解析、一過的遺伝子発現系を用いた制御因子のスクリーニング、さらに得られた制御因子の過剰発現体と破壊株におけるDREB2Aの発現解析を行っている。
    GUSリポーター遺伝子とDREB2Aプロモーターのデリーションシリーズを結合したコンストラクトを導入した形質転換シロイヌナズナの解析から、HSFの認識配列であるHSE配列を含む領域が高温ストレス応答に重要であることが明らかとなった。この領域とGUS遺伝子を結合しリポーター遺伝子として一過的遺伝子発現系を用いて、シロイヌナズナに存在する21個のHSFの転写活性化能を解析した。数種のHSFが転写活性能を持つことが示された。これらのHSFが高温ストレス時のDREB2A遺伝子の発現を活性化している可能性が考えられ、それぞれについて過剰発現体及び破壊株を作製し解析を行った。
  • 池田 美穂, 光田 展隆, 関 原明, 篠崎 一雄, 高木 優
    p. 0518
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    高温ストレス応答に関与する転写制御因子Hsfの中でも、転写活性化領域を持たないclass B Hsfは植物に特異的であり、その機能については不明な点が多い。我々はトランジェントアッセイの結果から、HsfB1が転写抑制因子であることを明らかにし、さらに、HsfB1およびリプレッション活性を持たないmHsfB1の過剰発現体を用いた発現比較解析の結果から、この遺伝子が高温誘導性遺伝子の発現を制御する可能性を見出した。そこで、二つの過剰発現体を28℃の弱い熱で処理し、高温誘導性HsfsおよびHSPの発現解析を行ったところ、HsfB1がこれらの発現を抑制し、その制御にはリプレッション活性が必須なことがわかった。また、リポーターを用いたプロモーター活性解析の結果、HsfB1は、各プロモーターの高温応答性を抑制することも明らかとなった。そこでHsfB1と機能重複すると思われるHsfB2Bについて二重変異体を作成し、マイクロアレイによる発現解析を行ったところ、二重変異体においては、定常状態でもHsfsHSPの発現がみられた。また、二重変異体を28℃の弱い熱で処理した場合には高温誘導性Hsfsの発現が異常に誘導された。一方で、32℃では、二重変異体と野生型の間の差が小さくなったことから、HsfB1と HsfB2Bは高温ストレス応答のレベルを適性に調節する機能を持つ転写抑制因子であると考えられる。
  • 石川 智子, 築地 由佳, 坂田 洋一, 田中 重雄, 篠崎 一雄, 太治 輝昭
    p. 0519
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    塩生植物 Thellungiella halophila は、モデル植物である Arabidopsis と核酸レベルにおいて90%の相同性を持つ近縁種で、塩ストレスに対し極めて高い耐性を示すだけでなく、凍結ストレス、酸化ストレスなどにも著しい耐性を示す。さらに我々は、様々な非生物的ストレスに対する Thellungiella の耐性を調べたところ、高温ストレスに対しても顕著な耐性を示すことを明らかにした。
    そこで我々は、Thellungiella の高温ストレス耐性に関与する因子を探索するため、Thellungiella 完全長 cDNAクローンを Arabidopsis へ形質転換し、機能獲得型変異株スクリーニングである FOX hunting (Full-length over expressor gene hunting) を行い、高温耐性獲得株の選抜を進めている。
    我々は遺伝子の機能ごとにターゲットを絞って行う mini-scale FOX hunting を行っており、高温ストレス耐性への関与が示唆される遺伝子群をターゲットの1つとしている。ターゲット遺伝子には、Heat Shock ProteinやHeat Shock Factorを中心として、酸化ストレス応答や、適合溶質の合成に関わる遺伝子などを抽出した。本大会ではスクリーニングの現状を紹介する。
  • 豊田 正嗣, 田坂 昌生, 森田(寺尾) 美代
    p. 0520
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    植物は重力を感受し、根や茎などを屈曲させる重力屈性反応を示す。これまでの遺伝学的・生理学的研究により、比重の大きいアミロプラスト(Am)の沈降が重力感受に深く関わると考えられてきた。垂直ステージ顕微鏡を用いた花茎内皮細胞内のAmの動態解析の結果、Amは恒常的に跳躍運動をしており、90o回転後も重力方向に対して複雑な運動をすることが報告されている。1g環境で見られるAm動態は、比重差に由来する沈降運動以外に細胞骨格を介した運動などの様々な運動成分が含まれるため、Amのどのような運動が重力感受に関わるか結論に至っていない。そこで重力依存的な沈降が他の運動成分よりも支配的となる遠心過重力環境を用いて、過重力によって引き起こされる屈性反応および過重力中のAm動態を解析し、重力感受に必要なAmの運動について研究を行った。シロイヌナズナ花茎切片に過重力(10g)を30秒間負荷すると有意に重力屈性反応が引き起こされた。つまり10g・30秒間のAm動態に重力感受に関わる運動が存在する可能性が高い。最近我々は過重力中のAmをリアルタイム観察するために遠心顕微鏡を開発した。これを用いて10g中のAmを観察した結果、細胞内の大部分のAmが過重力負荷と同時に沈降を始め、30秒程度で複数のAmが底面の原形質膜に到達した。よって、重力によりAmが細胞底面に向けて沈降することが重力感受に重要であると考えられる。
  • 山本 紘輔, 志田 智史, 小林 智也, 小栗 秀, 桃木 芳枝
    p. 0521
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    近年本研究室では,トウモロコシおよびサイラトロ芽生えからのアセチルコリンエステラーゼ遺伝子(AChE)のクローニングに成功した.本研究において,我々はトウモロコシAChEのアミノ酸配列と77%および66%の相同性を有する2種類のイネAChEホモログ(rice AChE1およびAChE2)を発見し,イネにおいて各ホモログ遺伝子を過剰発現およびノックダウンした.Rice AChE1およびAChE2を過剰発現した形質転換イネは,ベクターコントロールと比較して極めて高いAChE活性を示した.そのため,両rice AChEホモログ遺伝子はイネにおけるAChE遺伝子であり,イネには2種類のAChEアイソザイムが存在することが示唆された.また,rice AChE1およびAChE2の細胞内局在性を緑色蛍光タンパク質および蛍光免疫染色法を用いて検討した.その結果,両rice AChEsは細胞外領域に局在していた.さらに,rice AChE1およびAChE2を過剰発現およびノックダウンした形質転換イネを用いて,熱および重力などの環境ストレスに対する両AChEの応答を比較検討した.(本研究は(財)日本宇宙フォーラムが推進している「宇宙環境利用に関する地上研究公募」プロジェクトの一環として行ったものである.)
  • 西川 仁, 澤 嘉弘, 柴田 均, 薮田 行哲, 丸田 隆典, 重岡 成, 石川 孝博
    p. 0522
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    ユーグレナ(Euglena gracilis Z)のAsA生合成は、高等植物のD-マンノース/L-ガラクトース経路とは異なり、D-ガラクツロン酸(D-GalUA)およびL-ガラクトン酸(L-GalA)を代謝中間体とするD-GalUA経路により進行する。この経路において、L-GalAからL-ガラクトノ-1,4-ラクトン(L-GalL)への変換にはアルドノラクトナーゼ(ALase)が関与するが、光合成生物において本酵素は未同定である。そこで、本研究ではユーグレナALaseを分子レベルで解析することにした。ユーグレナESTデータから既知のラットALaseとの相同配列を見出し、全長配列をクローン化後、大腸菌発現系を用いて組換え体酵素を作製した。ユーグレナALaseは補因子としてZn2+要求性を示し、L-GalAからL-GalLおよびL-グロン酸からL-グロノ-1,4-ラクトンへの反応を可逆的に触媒した。L-GalAおよびL-GalLに対するKm値は、それぞれ1.55 ± 0.3 mMおよび1.67 ± 0.39 mMであった。二本鎖RNA導入によりALaseのサイレンシングを行ったところ、培地中にL-GalLを添加した場合のみ正常な細胞増殖の回復が認められ、本酵素がユーグレナAsA合成に必須であることが示された。
  • 田島 奈緒子, 澤 嘉弘, 柴田 均, 重岡 成, 石川 孝博
    p. 0523
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    カタラーゼを持たないユーグレナは、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)が主要なH2O2代謝酵素として機能している。今回我々は、ユーグレナAPXのcDNAを単離し、その分子特性の解明を行った。ユーグレナESTデータに基づき、ユーグレナAPXの完全長cDNAを得た。ユーグレナAPXは、一次配列のほぼ中央を境に互いに68.5%の相同性を持った2つの活性型APXがタンデムに配置されていた。分子プログラムMOEによる構造予測の結果、ユーグレナAPXは分子内二量体構造を形成することが推測された。ゲノムサザンおよび部分遺伝子配列の解析結果より、2つのAPXドメインは同一遺伝子上にコードされ、シススプライシングにより発現調節されていることが示された。また、APXのN末端上流には、102アミノ酸残基からなるユーグレナ特有のクラスII型プラスチド移行シグナル様配列が存在していた。細胞分画による局在性検討の結果、APXタンパク質は細胞質画分にのみ検出されることから、プロセッシングによって成熟型となり細胞質に局在することが強く示唆された。二本鎖RNAをユーグレナに導入しAPXの発現抑制を試みた。コントロールに比べ約20%にまでAPX活性が低下したAPX発現抑制細胞では、細胞内に顕著なH2O2の蓄積が観察された。
  • 高橋 健太郎, 嶋田 知生, 西村 いくこ
    p. 0524
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    クチナーゼはエステラーゼの一種で、植物のクチクラを構成するクチンを分解する酵素である。これまで、クチナーゼは主にカビにおいて研究されてきた。カビは植物に感染する際に、クチナーゼによって植物の防護壁であるクチクラを分解して、菌糸を侵入させると考えられている。一方、植物由来クチナーゼに関しては、花粉で活性が検出されているにすぎない。花粉管が柱頭に侵入する際、柱頭のクチクラを分解するためにクチナーゼは働いていると考えられている。しかし、植物由来クチナーゼの分子実体は未だ不明である。本研究では、シロイヌナズナを用いて植物由来クチナーゼを単離同定することを目的とした。まず、シロイヌナズナの遺伝子の中で、エステラーゼをコードするものをリストアップした。その中で花粉特異的な発現パターンを示すAtCUTI1に着目した。AtCUTI1を異所的に発現する形質転換体を作製すると、葉で「器官接着」や「トルイジンブルーで容易に染色される」などのクチクラ欠損に特徴的な表現型が観察された。また、AtCUTI1とGFPの融合タンパク質 (SP-GFP-AtCUTI1) を葉で発現させると、GFP蛍光が細胞外で観察された。以上の結果から、AtCUTI1は細胞外でクチンを直接分解するクチナーゼであることが示唆された。
  • 山口 明美, 松嶋 修平, 塩井 祐三
    p. 0525
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    我々はホウレンソウの葉から合成基質N-succinyl-Leu-Tyr-aminomethylcoumarin (Suc-LY-AMC) を分解し,pH 5付近に最大活性を持つ3つのシステインプロテアーゼを見出し,SoCP (Spinacia oleracea Cysteine Protease) 1-3と命名した.この酵素は,セネセンスの進行に伴って活性が上昇した.SoCP2からSoCP3への転換に伴って,単量体から三量体となり分子量が大きく変化した.この転換はin vitroでも起きることが確認され,セネセンスだけではなくその他の要因によっても容易に転換されることが示された.さらにクロマトグラフィーによって高度に精製したSoCPは, 41 kと 14 kのタンパク質からなる複合体を形成していた.アミノ酸解析,cDNAクローニングによって,41 kのSoCPはグラニュリンドメインを持つシステインプロテアーゼ,14 kのタンパク質はシスタチンであることが明らかになった.SoCPがシステイプロテアーゼの阻害剤として知られているシスタチンと結合した状態で酵素活性を発現しているのかを明らかにするために,シスタチンについても解析中である.本研究では,SoCPとシスタチンの精製と性質について述べ,セネセンスに関連するシステインプロテアーゼの活性化と分子状態の変化について報告する.
  • 伊藤 大輔, 山田 浩平, 石川 和也, 小川 貴央, 吉村 和也, 重岡 成
    p. 0526
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    我々はこれまでに、シロイヌナズナにおける27種類Nudix hydrolase (AtNUDX1-27) の中で細胞質型AtNUDX11およびミトコンドリア型AtNUDX15が様々なCoAに対して加水分解活性を有することを示した(Plant Physiol. 2008, 148: 1412-24, Plant J. in press)。さらに、AtNUDX15は選択的スプライシングによりペルオキシソーム局在型アイソフォームも生成していると考えられた。そこで本研究では、遺伝子破壊株を用いてAtNUDX11及びAtNUDX15の生理機能を解析した。AtNUDX11およびAtNUDX15遺伝子破壊株の葉では、CoA pyrophosphohydrolase活性が野生株と比較してそれぞれ80.4%および46.2%に減少していた。しかし、野生株と比較してそれら遺伝子破壊株の生長、花成や種子形成に有意な変化は見られなかった。また、CoA生合成酵素変異体で共通して認められる特徴の一つであるスクロース非添加培地での発芽初期段階の生長阻害および塩(125 mM)ストレス耐性も認められなかった。これらのことから、AtNUDX11およびAtNUDX15は互いに機能を相補していると考えられた。現在、二重遺伝子破壊株の作出およびCoAや脂肪酸含量の定量を試みている。
  • 木村 裕一, 藤川 愉吉, 江坂 宗春
    p. 0527
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    ホスホリパーゼA2(PLA2)はグリセロリン脂質の2位のエステル結合に作用し、遊離脂肪酸とリゾリン脂質を産生する酵素の総称である。現在までに、多数の植物種においてPLA2の発現や存在が確認されるようになり、その重要性が示唆されている。しかしながら、植物PLA2に関する研究は動物PLA2に比べ、著しく遅れている。イネゲノムデータベースより、イネのゲノムには、動物の分泌型PLA2(sPLA2)の一次構造と相同性がある4種の遺伝子が存在する事が分かった。これまでに、それら4種のうち2種の遺伝子については、その遺伝子発現が報告されている。本研究では、4種のsPLA2の遺伝子発現について検討したところ、発芽一週間のイネのshootにおいて、いずれのsPLA2も遺伝子発現している事が分かり、イネゲノム中で確認された4種のsPLA2遺伝子は、いずれも機能している事が示唆された。現在、イネ植物体を用いて、ストレス応答などにおける4種のPLA2の遺伝子発現応答について解析している。
  • 関根 康介, 榊原 由紀子, 長谷 俊治, 佐藤 直樹
    p. 0528
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    植物の亜硝酸還元酵素(NiR)と亜硫酸還元酵素(SiR)は、アミノ酸配列や補欠分子族などの構造的共通点を多くもち、機能的にもよく似た特徴をもつ。両者は基質であるNO2-とSO32-に対する選択性により区別できるが、その差が生じる理由は明らかになっていない。シアニディオシゾンのゲノムには、2個のSiR相同遺伝子(CmSiRA, CmSiRB)が存在するが、NiR相同遺伝子は存在しない。一般的にSiRは弱いNiR活性を持つことに加え、CmSiRB遺伝子はゲノム上で硝酸還元酵素と硝酸トランスポーター遺伝子に挟まれて存在することから、CmSiRBはNiRとして働く有力な候補である。そこで、CmSiRBの組換えタンパク質を作製し、酵素学的特徴を調べた。CmSiRBはNO2-に対し比較的高いターンオーバー数(約500 mol mol enzyme-1 min-1)を示したが、親和性はトウモロコシSiRと同程度に低かった(Km = >1 mM)。一方、SO32-に対して極めて低いターンオーバー数(約4 mol mol enzyme-1 min-1)を示したが、親和性は非常に高かった(Km = <10 μM)。この結果から、CmSiRBは一般的なSiRと同様の基質親和性を持ちながら、亜硝酸還元活性が強化され、亜硫酸還元活性が弱められた特殊なSiRと考えられる。
  • 皆川 俊, 近藤 恭光, 齊藤 安貴子, 長田 裕之, 仲本 準
    p. 0529
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    主要な分子シャペロンの一つHsp90は、標的とする「基質タンパク質」と相互作用して、その構造・安定性と機能を保証している。Hsp90の基質タンパク質として転写因子やプロテインキナーゼなどのシグナル伝達分子が多く同定されている。細胞増殖や分化に重要な役割を果たすこれらのシグナル伝達分子は、癌細胞の増殖にも関係しているが、geldanamycinなどの低分子化合物によりHsp90の機能を特異的に阻害すると培養癌細胞の増殖が抑制され、また実験動物での腫瘍縮小効果が観察されている。Hsp90の機能を調節する化合物の発見は、基礎研究のみならず応用研究においても重要である。
    今回我々は化合物アレイを用いて、物理化学的相互作用を指標にHsp90のシアノバクテリア・ホモログHtpGと相互作用する化合物の探索を行った。その結果、いくつかのリポペプチド系の化合物がHtpGと強く結合した。そこで、これらの化合物がHtpGのシャペロン活性にどのような影響を及ぼすのかを調べた。化合物はHtpGのATPase活性に影響を与えなかったが、HtpGの熱変性タンパク質の凝集抑制活性を阻害した。次に各ドメインを欠失させたHtpGを用いて、SPRやタンパク質凝集抑制実験等を行い、化合物の結合ドメインを解析した結果、これらの化合物はHtpGのN末ドメインと結合することが強く示唆された。これらの詳細について報告したい。
  • 西山 泰孝, 山内 清司, 源治 尚久, 遠藤 弥重太, 戸澤 譲
    p. 0530
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物ゲノム上に存在する全遺伝子のうち、約3割は膜タンパク質をコードすると推定されている。これらの膜タンパク質の一部は二次代謝において重要な機能を持つ。すなわち、生合成経路上の重要な反応を触媒する、あるいは代謝物の輸送や蓄積に関与する膜輸送装置を構成するといった機能を果たしており、有用物質の蓄積メカニズムを解明する上で膜タンパク質の詳細な生化学的機能解析は必須である。近年、無細胞翻訳系による膜タンパク質合成技術が開発され、種々の膜タンパク質の構造解析や生化学的機能解析に応用されている。本研究ではコムギ胚芽抽出液を用いた無細胞翻訳系を用いて膜結合型酵素タンパク質を合成し、機能型への再構成を簡便に行うことが出来る実験系を確立することを目的として実験を行った。
    N末端側に膜結合ドメインを持つ膜結合型酵素タンパク質について、コムギ胚芽抽出液を用いて翻訳反応を行い、得られたタンパク質を用いて目的タンパク質の酵素活性を測定した。リポソームならびに界面活性剤の存在下、あるいは非存在下で翻訳反応を行い、検出される目的タンパク質の活性を比較した。また、目的タンパク質が保持する補因子の添加濃度について検討し、最適なタンパク質合成条件を決定した。さらに、酵素活性測定時に添加するリポソームならびに界面活性剤の濃度について検討し、反応条件の最適化を図った。
  • 山内 清司, 魚住 信之, 林 秀則, 遠藤 弥重太, 戸澤 譲
    p. 0531
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    脂肪酸によるタンパク質の修飾は、膜表面への移動・局在やタンパク質間相互作用の変化など、タンパク質機能調節に重要な役割を果たしている。ミリストイル化は、脂肪酸の1つであるミリスチン酸が翻訳時にタンパク質のN末端に付加する反応である。シロイヌナズナにおいてミリストイル化を受けると推測されるタンパク質は319種類存在し、その種類もキナーゼ、転写因子など多岐に渡るが、タンパク質の機能とミリストイル化の相関については不明な点が多い。この要因の1つとして簡便な植物タンパク質のミリストイル化検出系が存在しないことがあげられる。そこで我々は、コムギ無細胞翻訳系を用いて簡便かつ再現性の高い植物タンパク質のミリストイル化反応系の確立を目的として研究を行なった。ミリストイル化のコンセンサス配列を持つシロイヌナズナのタンパク質3種類およびミリストイル化配列を融合させた可溶性タンパク質2種類をミリスチン酸存在下でコムギ無細胞翻訳系により合成し、各タンパク質がミリストイル化されていることを確認した。また、ミリストイル化配列に変異を導入した場合ミリストイル化は見られなかった。このことから、コムギ無細胞翻訳系は植物タンパク質のミリストイル化を簡便に検出する上で有用であると考えられる。現在リポソームを用いて各タンパク質の膜との相互作用を解析しており、これらの結果も合わせて報告する。
  • 高橋 宏隆, 関 原明, 篠崎 一雄, 遠藤 弥重太, 澤崎 達也
    p. 0532
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    タンパク質のユビキチン化は、細胞周期やシグナル伝達、遺伝子発現を始めとする多くの細胞プロセスに関わる重要な翻訳後修飾であり、ユビキチン活性化酵素E1、結合酵素E2ならびに連結酵素E3を介して行われる。モデル植物であるシロイヌナズナにおいては、これらの構成因子をコードする1,300以上の遺伝子が明らかとなっているが、個々の詳細な機能については未詳な点が多い。そこで本研究では、これらの事象を明らかとする足がかりとして、コムギ無細胞タンパク質合成系とエナジートランスファーアッセイ系であるAlphaScreenを組み合わせた、in vitroにおける網羅的なタンパク質ユビキチン化の検出系の構築を目指した。今回、未精製のシロイヌナズナ組換えタンパク質を用いた解析から、29個のE2のユビキチン化を検出した。さらに、これまで生化学的にほとんど未解析であったHECT型E3およびRING型E3のポリユビキチン化を検出した。興味深いことに、未精製のE2やE3タンパク質は、E1などの上流因子の添加を必要とせず、コムギ無細胞系内在のE1やE2によって機能することが明らかとなった。一方、コムギ無細胞系には、アッセイ系の障害となる26S proteasome 活性はほとんど認められなかった。今後、本実験系を基盤とし、シロイヌナズナのユビキチン化経路の解明に向けて、より簡便かつ多目的なアッセイ系の構築を進める。
  • 三浦 謙治, Lee Jiyoung, Jin Jing Bo, Yoo Chan Yul, 三浦 友子, Hasegawa Paul M.
    p. 0533
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    我々は翻訳後修飾因子であるSUMO (Small ubiquitin-related modifier)の研究を行っているなかで、シロイヌナズナにおけるSUMO E3 ligase SIZ1がABA(アブシジン酸)シグナルを調節していることを明らかにした。SUMOは14kDaからなるタンパク質で、E1, E2, E3タンパク質によって基質タンパク質に結合する。このうちE3タンパク質SIZ1の変異株siz1は発芽、根の伸長においてABA感受性を示した。いくつかのABA応答性遺伝子がsiz1変異株では強く誘導されていたことから、SIZ1はABAシグナルを負に調節していることが示唆された。bZIP転写因子ABI5の変異株abi5との二重変異株siz1 abi5の解析からSIZ1とABI5が遺伝学的にエピスタティックな関係にあった。SIZ1はSUMO E3であることからABI5のSUMO化をin vitroおよびin vivoで調べたところ、ABI5の393番目のリジン残基がSUMO化されることが明らかとなった。SUMO化部位に変異を導入したABI5K391R発現植物体ではsiz1変異株と同様、発芽時にABA感受性を示し、またABA応答性遺伝子が強く誘導されていた。これらの結果から、SIZ1によるABI5のSUMO化がABAシグナルを負に調節することが明らかとなった。
  • 深谷 文統, 日比野 隆, 中村 辰之介, 高倍 昭洋
    p. 0534
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    我々は植物およびラン藻のNa+/H+アンチポーターの機能解析を進めている。耐塩性ラン藻Aphanothece halophyticaから単離したNhaPタイプNa+/H+アンチポーター(ApNhaP1)はpH5から9の広いpH範囲にわたって高いNa+ /H+の交換活性を示した(J. Biol. Chem 276, 36931-36938 (2001))。一方、ApNapA1はアルカリ性で高いNa+ /H+の交換活性を示した(Appl Environ Microbiol 71, 4176-4184(2005))。最近、マルチサブユニット型Na+/H+アンチポーター(Mrp)がラン藻に存在することが明らかになった。このアンチポーターの活性と生理的役割りを明らかにするために、淡水性ラン藻Synechococcus elongatus PCC 7942及びAphanothece halophyticaからMrp遺伝子を単離した。これらの結果について報告する。
  • 堤 浩一, 伊藤 貴之, 日比野 隆, 田中 義人, 高倍 昭洋
    p. 0535
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    海岸地域に自生する塩生植物であるAtriplex gmeliniは、葉の表面に多数の塩腺 (のう状毛) をもつ。のう状毛とは、1~3細胞からなる柄の部分と、その頂点に位置するのう状細胞からなる組織であり、のう状細胞の部分に塩を蓄積させることが知られている。こののう状毛の塩蓄積機能によりA. gmeliniは塩ストレスに対する高い耐性を持っていると考えられているが、のう状毛が耐塩性にどのような役割を果たしているのかを検討した報告はほとんどない。
    そこで本研究では、のう状毛の耐塩性に関する機能を調べるために、A. gmeliniに0 mM、50 mM、250 mMのNaClを含む培地で生育させたときの形態的、生理的な変化を、のう状毛と葉に分けて調べた。形態的には、通常の光学顕微鏡による形態観察に加え、Na+の局在を示す蛍光試薬であるSodium Greenを用いてのう状毛および葉組織におけるNa+の分布を調べ、各塩処理濃度間で比較をおこなった。生理的には、イオン含量、塩処理によって生合成が誘導されるグリシンベタインなどの適合溶質の含量、およびグリシンベタインの合成に関与する酵素であるコリンモノオキシゲナーゼのタンパク質含量を調べ、同様に各塩処理濃度間で比較をおこなった。
    得られた結果を、のう状毛の耐塩性に関する機能という観点から考察する。
  • Ahmad Aftab, Niwa Yasuo, Kobayashi Hirokazu
    p. 0536
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    In screening of activation-tagged mutants for salt tolerance at cellular levels in Arabidopsis thaliana, we identified 18 potential mutants. In one of them, salt tolerant callus 8 (stc8), a gene for basic helix-loop-helix transcription factor (bHLH106) was found activated regardless of NaCl stress. bHLH106 was highly expressed in calli and salt-inducible. Green fluorescent protein (GFP) fused with bHLH106 has shown that it is located in the nucleus. A knock-out line of bHLH106 was more sensitive to different concentrations of NaCl than the wild-type. The back-transformation has resulted in calli over-expressing bHLH106, which were tolerant to different levels of NaCl stress compared with calli transformed with a blank vector. The over-expression of bHLH106 in differentiated plants has also exhibited tolerance to 100 and 125 mM NaCl. These results indicate that bHLH106 plays an important role in regulation of salt stress in Arabidopsis.
  • 小野 寛和, 南雲 美穂, 篠崎 一雄, 坂田 洋一, 田中 重雄, 太治 輝昭
    p. 0537
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    Arabidopsis に近縁の塩生植物 Thellungiella halophila は、Arabidopsis と同様の遺伝学に向く利点を持つ。また、Arabidopsis と核酸レベルで90%以上の相同性を示すにも関わらず、著しい耐塩性の他、凍結・高温・酸化ストレスにも顕著な耐性を示すため、非生物ストレス研究のモデル植物として注目されている。本研究室では Thellungiella の様々な組織および塩、低温、凍結ストレス、ABA処理を行った植物体を用いて完全長 cDNA ライブラリーを作製し、9,569 の独立したクローンを得ている。そこで本研究では、得られた完全長 cDNA クローンより耐塩性を付与することが可能な遺伝子を探索するため、機能獲得型変異株スクリーニングである、full-length cDNA over expressor gene (FOX) hunting を Arabidopsis を対象植物として行い、耐塩性が向上した形質転換体の選抜を試みている。ターゲット遺伝子としては、全9,569クローンの中から耐塩性への関与が考えられた433個の遺伝子を抽出し、遺伝子個々に形質転換を行う方法と、433個の遺伝子群を1度に形質転換する2通りの方法で進めている。現在、耐塩性試験と並行して433個の遺伝子の過剰発現植物について個別にデーターベースの構築を行っている。
  • 鈴木 昭徳, 宮本 摩由, 土屋 有美子, 高橋 秀樹
    p. 0538
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    窒素はアミノ酸を構成する元素であり、多量必須元素の中でもとりわけ重要な無機元素である.土壌中の窒素源を効率的に吸収するために植物には窒素栄養条件に応答して根の形態を制御する機構が備わっている.窒素過剰条件下のシロイヌナズナでは側根の生育が抑制されるが,一方で,硝酸イオンを局所的に与えることにより側根の形成と伸長が促進される.後者のメカニズムで側根の伸長に必要な転写因子として,MADS box型転写因子ANR1が同定されているが,他の窒素栄養条件に応答して根の生育を制御する因子の報告は少ない.
    本研究では新奇の窒素栄養応答に必要な候補因子として,ANR1と遺伝子ファミリーを形成しているAGL21について機能解析を行った.AGL21は根で特異的に発現し,窒素欠乏条件下に発現量が増加する.AGL21のプロモーター領域とGFP遺伝子をつないだ融合遺伝子を持つシロイヌナズナでは,主根および側根の先端部においてGFP蛍光が観察された.また,低硝酸条件下において,agl21変異株では側根の長さが野生型株と比較して短かったのに対して,AGL21過剰発現株では側根の伸長が強く促進され,側根の数も増加していた.以上の結果から,AGL21は低窒素(低硝酸)条件に適応するために,側根の形成と伸長を促進する転写因子であることを明らかにした.
  • 小林 佑理子, 黒田 桂史, 木村 圭介, Southron- Francis Jennafer, 古澤 彩, 木村 和彦, 井内 聖, 小 ...
    p. 0539
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    Cuは必須微量元素であるが、過剰なCuは根の生育を阻害する。本研究ではLer/Cvi RILsの相対根長を指標としたQTL解析から、根のCu耐性QTL1(寄与率52%)を第1染色体に検出した。全体に対する地上部のCu含量はQTL1=耐性型(Ler)>感受性型(Cvi)であり、QTL1はCuの根から地上部への移行制御に関与していると考えられた。QTL1にはCu輸送蛋白遺伝子PIB-1-type ATPase HMA5が座乗し、HMA5-KOは根のCu蓄積により超感受性を示す。LerはHMA5-KOの感受性を相補したが、Cviは相補しなかった。よってQTL1原因遺伝子はHMA5遺伝子であると結論した。CviとLer-HMA5の間には2つのアミノ酸多型が存在した。酵母相補性試験から、N923T置換がCvi-HMA5の機能損失を説明するQTNであることがわかった。この多型は、PIB-1-type ATPaseで完全に保存されているN(x)6YN(x)4Pモチーフに存在した。感受性Chi-2にも同様にP626L置換がCPC(x)6Pモチーフに存在した。しかし、40種の野生株間ではアミノ酸多型と耐性差に関連性はなく、100種類の野生株間では根からのCu移行率と根のCu耐性に有意な正相関はなかった。
  • 河内 美樹, 森 春樹, 小八重 義裕, 富岡 利恵, 前島 正義
    p. 0540
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナ液胞膜亜鉛輸送体AtMTP1は亜鉛とプロトンとの交換輸送により細胞質亜鉛を液胞へ能動輸送するZn2+/H+ exchangerである。AtMTP1遺伝子欠損株mtp1は野生株と比較して亜鉛感受性であることから亜鉛耐性に重要な役割を果たしていると推測される。本研究では、mtp1とWTを比較することにより、亜鉛による成長障害のメカニズム、亜鉛恒常性機構におけるAtMTP1の生理的な役割を解析した。
    WTは0.5 mM亜鉛存在下でも正常に成長するが、mtp1は根の伸長は著しく阻害される。亜鉛ストレスを除くと根の伸長は再開することから細胞死はしていない。形態観察より細胞分裂と伸長が抑制されていることが確認された。蛍光プローブを用いた解析はmtp1の根端で活性酸素が蓄積していることを示した。またmtp1では活性酸素除去酵素CSD1, CSD2遺伝子の発現上昇と、細胞膜型亜鉛輸送体ZIP1の転写量減少などがみられ、根の伸長障害は過剰亜鉛により発生した活性酸素によるものであると、強く示唆された。さらにICP-AES分析より明らかになった過剰亜鉛によるイオンバランスへの影響、電子顕微鏡観察と顕微元素分析より示された亜鉛濃度上昇時に特徴的にみられる細胞内形態について報告する。
  • 相原 加奈子, 杉浦 美羽, 林 秀則
    p. 0541
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    Synechococcus sp. PCC 7942の転写因子SmtBは、メタロチオネイン様タンパク質SmtAをコードするsmtA遺伝子の転写を制御するリプレッサーであり、細胞内のZn2+と結合するとオペレーター/プロモーター領域(o/p)に対する親和性を失い、smtA遺伝子の転写を誘導させる。最近ゲノム情報が公開されたSynechococcus sp. PCC 7002にも、7942と同様のメタロチオネイン様タンパク質SmtAおよび、その転写因子と思われるSmtBが存在する。しかし、7942-SmtAは比較的低濃度のZn2+存在下で発現するのに対し、7002-SmtAは高濃度のZn2+存在下で発現し、重金属ストレスへの応答に差異がある。7942-SmtBと7942-o/p、7002-SmtBと7002-o/pによりそれぞれによって形成されるタンパク質-DNA複合体の種類をゲルシフト法により解析すると、7942-SmtBでは4種の複合体を形成するのに対し、7002-SmtBは6種の複合体を形成することがわかった。また、タンパク質-DNA複合体の形成を阻害するZn2+濃度は異なっていた。これらの原因として、7942-SmtBと7002-SmtBにおけるZn2+結合サイトの構造の違い、およびo/p領域における認識配列の違いなどが関与すると思われる。
  • 山地 直樹, 馬 建鋒
    p. 0542
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    イネは代表的なケイ素集積植物であり、特に出穂期のケイ酸吸収はその収量に大きく影響することが知られている。我々はこれまで、根の効率的なケイ酸吸収を担う輸送体Lsi1, Lsi2 (Ma et al. 2006, 2007)と、導管からのアンローディングを担い葉のケイ酸分配に影響するLsi6 (Yamaji et al. 2008)を単離・解析してきた。今回我々はLsi6が生殖生長期のケイ酸分配にも重要な役割を果たしていることを明らかにした。
    栄養生長期から生殖生長期への転換は養水分の流れの大きな変化を伴い、その分配には節が重要な役割を担っていると考えられている。Lsi6は出穂期以降の上位の節で著しく発現が増大し、特に大維管束の周縁部の木部柔組織において導管に面した極性局在がみられた。Lsi6のT-DNA挿入変異株では穂(籾、穂軸、穂首)のケイ素蓄積量が約1/3に低下し、逆に止め葉の葉身には2倍の蓄積が見られた。また切除した未熟穂について水分の蒸散を測定したところ、T-DNA挿入株では蒸散速度が有意に増大し、「白穂」が容易に再現された。これらの結果から、蒸散流に伴って根から地上部へと吸い上げられたケイ酸は、節において穂の維管束へと積み替えられ、その過程のうちLsi6は下位の導管からのケイ酸の積み降ろしを担うと考えられた。
  • 三谷 奈見季, 山地 直樹, 千葉 由佳子, 馬 建鋒
    p. 0543
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    前回の大会でオオムギから単離した排出型ケイ酸トランスポーターHvLsi2についてその単離と発現パターンなどを報告した。HvLsi2はイネOsLsi2と約86%の類似性があり、ケイ酸のefflux輸送活性を持つ。またmRNAは主に根で発現しており、この発現はケイ酸の添加によって低下した。さらに異なるオオムギ品種でこの遺伝子の発現量はケイ酸の吸収量と高い正の相関があった。今回はHvLsi2の細胞内局在性やイネlsi2変異体に対する相補性試験を行ったので報告する。オオムギの根からミクロソームを抽出し、ショ糖密度分配法で分画後、HvLsi2抗体や各種マーカータンパク質抗体によって細胞内局在を調べた。その結果HvLsi2は細胞膜画分に局在していることが明らかになった。また免疫組織染色によりHvLsi2の組織局在を調べると根の内皮細胞のみに局在し、向心側への極性局在は見られなかった。植物でのHvLsi2のケイ酸輸送活性を調べるために、OsLsi2プロモーター制御下でHvLsi2をイネのlsi2変異体に形質転換体したところ、ベクターコントロールに比べ変異体によるケイ酸の吸収が増加した。また興味深いことにHvLsi2はイネの根で向心側への極性局在を示した。現在HvLsi2とOsLsi2のタンパク質あたりのケイ酸輸送活性の比較およびmRNAの発現量の比較等の解析を行っている。
  • 高柳 欣幸, 井沢 有希, 隠岐 勝幸, 藤澤 由紀子, 加藤 久晴, 岩崎 行玄
    p. 0544
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    動物や酵母の3量体Gタンパク質は、α,β,γの3種類のサブユニットから構成される。植物にも、これらに相当するホモログが存在し、植物ホルモン、光、エリシターなどの情報伝達に関与していることが示されている。イネ3量体Gタンパク質αサブユニット(Gα)遺伝子欠失変異体(d1)は、矮性、短粒、濃緑葉などの表現型を示すため、Gαは伸張成長や細胞分裂に関わっていると推定されている。野生型イネとd1の組織切片を比較したところ、d1の組織長は約半減しているが、細胞長は同じであったため、イネ3量体Gタンパク質は細胞数を正に制御する因子であることが明らかになった。
    Gαが発現している組織・器官等を詳細に解析するため、Gα遺伝子のプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子であるβ-glucronidase遺伝子(GUS)を連結したコンストラクト(Gα promoter::GUS)を作出後、イネに導入した。Gα promoter::GUS形質転換体は、伸長している葉で強い発現がみられ、完全に伸長した組織ではGUSの発現は弱かった。また、shoot apical meristem (SAM)ではGUSの発現は非常に弱く、SAMよりも発達中の葉でGUSの発現が高いことが示された。これらの結果は、器官決定後の細胞分裂・伸長に3量体Gタンパク質シグナリングが重要な働きをする可能性を示唆している。
  • 田中 秀典, 刑部 祐里子, 桂 彰吾, 水野 真二, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0545
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    受容体様キナーゼ(RLK)はシロイヌナズナゲノム中で大きな遺伝子ファミリーを形成しており、植物の生長や発達だけでなくホルモンやストレスに対する応答においても重要な役割を担っている。我々は乾燥や塩、低温ストレス条件下で遺伝子発現が誘導されることが確認された細胞質型RLK(RLCK)を単離しABA-HYPERSEBSITIVE RECEPTOR-LIKE CYTOSOLIC KINASE1 (ARCK1)と名付けた。ARCK1プロモーターを用いてGUS遺伝子を発現させたシロイヌナズナ形質転換体のGUS活性は通常生育条件で子葉に検出され、塩処理によって子葉と本葉で活性が上昇した。ARCK1-sGFP融合タンパク質はシロイヌナズナ形質転換体において細胞膜に局在した。次にARCK1欠損変異株(arck1-1arck1-2)を用いて解析を行った。通常生育条件でarck1変異は植物の形態に影響を及ぼさなかったが、ABA含有培地においてarck1変異体の発芽が野生株に比べて遅延した。以上の結果からARCK1は乾燥や塩、低温ストレスといった環境ストレス条件下で発現が誘導され、シロイヌナズナのストレスシグナル伝達経路において機能している可能性が示唆された。
  • 久保 知之, 加藤 宏明, 渡辺 智, 千葉櫻 拓, 吉川 博文
    p. 0546
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC7942株においてブリーチングは、センサーヒスチジンキナーゼであるNblSにシグナルが伝達されることで制御されると考えられている。我々は酵母2ハイブリッド法を用いたタンパク質間相互作用解析から、NblSとレスポンスレギュレーターであるRpaB、SrrAとの特異的相互作用を見出した。次にこれらのタンパク質を精製し、NblSの自己リン酸化活性、NblSからRpaB、SrrAへのリン酸基転移活性を確認した。ブリーチング時に発現誘導される nblAの上流には、RpaB結合配列であるHLR1様配列が存在することが報告されている。そこで精製RpaBを用いてゲルシフト解析を行った結果、RpaBは nblA上流に結合した。次に nblS rpaB破壊株を作製し、 nblA転写産物を解析した結果、野生株と比較して通常の生育条件下において発現量が顕著に増加した。以上の結果からブリーチングはNblRによる正の制御機構に加え、NblS-RpaBによる負の制御機構によって厳密に制御されることが明らかとなった。これらの結果をふまえ、本大会ではNblSによるシグナル伝達機構の詳細を考察する。
  • 野村 裕也, 小森 禎子, 植村 周平, 吉岡 美樹, 吉岡 博文, 中平 洋一, 椎名 隆
    p. 0547
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    Ca2+は細胞応答を制御する重要なシグナル分子である。病原体の感染や様々な環境ストレスにさらされた植物細胞では、細胞質Ca2+レベルの一過的変化が生じ、下流の生体防御応答を起動する。一方、葉緑体はジャスモン酸をはじめとするストレスホルモンの生合成に関係し、活性酸素種の主要な生成場所でもある。しかし、病害・ストレス応答における葉緑体の役割について、詳細はほとんど分かっていない。
    我々は、イクオリンを用いた葉緑体内のCa2+測定系を確立し、エリシター分子や各種環境ストレスに応答して、ストロマ内のCa2+濃度が一過的に上昇することを見いだしている。この葉緑体Ca2+シグナルは、 チラコイド膜に局在するCa2+結合タンパク質 CASに依存する。一方、CAS欠失変異体では、WTと比べて塩ストレスによる壊死が速まり、逆に高浸透圧ストレスやflg22処理によるアントシアニン蓄積は遅くなる。さらに、エフェクターによる過敏感細胞死の誘導が遅延することも見いだしている。また、CAS欠質変異体ではflg22処理によるPR1の発現誘導が抑制される。CASは、葉緑体Ca2+シグナルの発生に関係するとともに、感染や環境ストレスに対する防御応答を促進する重要な働きをしていると考えられる。葉緑体タンパク質CASが、どのように感染・ストレス応答を統合的に制御しているのかについて考察したい。
  • 浅野 智哉, 水野 宏美, 幸節 健, 町田 泰則, 山口 和男, 西内 巧
    p. 0548
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    ムギ類赤カビ病菌によって産生されるトリコテセンは、タンパク質合成を阻害するファイトトキシンとして知られている。我々は、トリコテセンの一種であるT-2 toxinによってMPK3及びMPK6が活性化されることを明らかにしている。一方で我々は、T-2 toxinによる防御応答の制御因子としてAtNFXL1を同定しているが、AtNFXL1タンパク質複合体の構成因子の一つとして、新規MAPKKKであるMKD1を同定している。MKD1タンパク質の構造は、病害抵抗性に関与することが示唆されているEDR1に似ていた。さらに、mkd1変異体は、T-2 toxinを含まない培地で生育させても野生型と比較して表現型に差はみられないが、T-2 toxin を含む培地で生育させるとT-2 toxinに対する感受性が低下した。次に、MKD1の標的MAPKKを同定するために、シロイヌナズナの全てのMAPKKについて、酵母two-hybrid解析を行った。その結果、MKD1は2種類のMAPKKと相互作用することが示唆された。また、mkd1変異体においてMPK4の活性は野生型と比較して差はみられなかったが、MPK3とMPK6の活性は約半分に減少していた。これらのことから、MKD1はT-2 toxinによって誘導される新規MAPキナーゼカスケードの重要な因子であることが示唆された。
  • 菱沼 悠, 賀屋 秀隆, 朽津 和幸
    p. 0549
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    活性酸素種生成酵素NADPH oxidaseは、植物の生体防御,ストレス応答,形態形成等広範な過程で重要な役割を果たす.シロイヌナズナには,その本体酵素をコードすると考えられるAtrboh遺伝子が10種存在する.ヒト培養細胞HEK293Tを用いた異種発現系解析により,AtrbohC, D, Fは,ROS生成能を持つこと,EF-handモチーフへのCa2+の結合とリン酸化により相乗的に活性化することを示した(Takeda et al, Science, 2008; Ogasawara et. al., JBC, 2008; 木村ら 日本植物学会大会2008)が,それ以外の遺伝子の機能は不明である.そこで,植物の生活環全体における積極的なROS生成の生理的意義を明らかにするため,シロイヌナズナAtrbohA-Jの網羅的な解析を進めている.これまでに,AtrbohGを除く全ての遺伝子を単離し,異種発現系を用いてCa2+イオノフォアionomycin,タンパク質脱リン酸化酵素阻害剤calyculinAにより誘導されるROS生成活性を調べた.これらのROS生成活性の相違について報告し,Atrbohの機能分担について議論する.
  • 木下 耕吾, 中島 裕人, 末松 知隆, 藤江 誠, 山田 隆, 宇佐美 昭二
    p. 0550
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    MAPキナーゼ情報伝達系は様々な生物種の細胞機能制御に必須な重要な情報伝達系であるが、植物固有のgroup D MAPキナーゼに関してはほとんど研究は進められていない。植物モデル生物の微細緑藻クラミドモナスには、植物に保存された5種のMAPキナーゼ相同遺伝子をコードしている。そのうちgroup D MAPキナーゼと推定されるMAPK2及びMAPK4相同遺伝子は遺伝子構造及び機能は不明のままであった。我々は両MAPキナーゼ相同遺伝子のcDNA及びゲノムDNA配列を決定することにより、タンパク質の構造的特徴を明らかにすると共に、他種藻類・高等植物相同遺伝子との構造的比較から、group D MAPキナーゼの機能に必須なドメイン領域の推定を行った。また、RT-PCR法により発現量・発現時期の推定を行い、MAPK2相同遺伝子は通常培養時に弱く恒常的に発現しているのに対し、MAPK4相同遺伝子はまったく発現していないことを明らかにした。現在、両相同遺伝子のRNAi発現抑制体を作成し、細胞機能への影響を調べることにより、微細緑藻における機構を解明すると共に、高等植物における機能推定を進めている。また、上流因子のMAPKキナーゼを特定するために、クラミドモナスがコードする2種のMAPKキナーゼ相同遺伝子についてもRNAi発現抑制株を作成し、表現型に対する影響を調べている。
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