研究 技術 計画
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研究論文
  • 牧 兼充
    原稿種別: 研究論文
    2025 年40 巻2 号 p. 144-165
    発行日: 2025/08/31
    公開日: 2025/09/03
    ジャーナル フリー

    スター・サイエンティストとは,卓越した研究業績を残す少数のサイエンティストのことを指し,通常のサイエンティストに比べて,多くの論文を出版し,多くの被引用を集め,スタートアップ設立にも積極的である。米国のバイオテクノロジー分野においては,スター・サイエンティストと企業が何らかの形で関わると,それぞれ研究業績および企業業績が上がるという「サイエンスとビジネスの好循環」が成立している。本研究では,大規模データセットを構築し,日本のスター・サイエンティストの現状を分析した。日本には,スター・サイエンティストが196人存在し,その中で19人(全体の9.69%)はスタートアップに関わっている。更に,スター・サイエンティストが関わるスタートアップは,M&A,IPO,ベンチャー・キャピタルからの資金調達などの指標において正の影響が見られた。また企業と関わるスター・サイエンティストは,関与後により多くの高被引用論文を創出するなどの研究パフォーマンスの向上が観測された。以上から,「サイエンスとビジネスの好循環」は現在の日本に発生していることを示した。1995年からの日本のナショナル・イノベーション・システムの変革は,スター・サイエンティストのイノベーションの関与を大きく変え,スタートアップ創生が中核と位置付けられるようになった。また,スター・サイエンティストのメカニズムについて,日米に顕著な違いは見られなかった。

  • 佐々木 香織, 木村 映善, 伊藤 伸介
    原稿種別: 研究論文
    2025 年40 巻2 号 p. 166-190
    発行日: 2025/08/31
    公開日: 2025/09/03
    ジャーナル フリー

    わが国は医療等情報の利活用を推進するために医療健康分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律が施行されている。しかし,現行の認定事業者から匿名加工医療情報を研究者に提供するサービス形態では,個人情報の保護の観点からの加工が研究を遂行することを困難にするケースに対応できない可能性があること,他分野の情報とのリンケージに関する実績が少ないため,発展的な研究に寄与し難いのではないかという課題認識があった。そこで,わが国が模索している,仮名加工医療情報及び計算機資源を利用者に提供する制度と実装に,比較的早い時期から取り組んでいるスコットランドの状況を,文献調査とインタビュー調査で明らかにした。スコットランドでは,英国国家統計局(Office for National Statistics: ONS)が開発し,行政記録データの利活用の整備において展開された5つの安全模範(Five Safes Model)を発展させ,Trusted Research Environment(TRE)下で,行政記録データや医療健康データ等とのリンケージ,研究者へのTREリモートアクセスの提供,研究者への研究倫理・情報セキュリティに関する研修,TRE利用の資格認証などの運用を確立していた。一般データ保護規則(GDPR)下での公益性が認められる研究のサポートのありかたは,わが国における医療等情報の利活用を推進する施策の検討において参考になると思われる。

  • 小松原 康弘, 井ノ口 宗成
    原稿種別: 研究論文
    2025 年40 巻2 号 p. 191-207
    発行日: 2025/08/31
    公開日: 2025/09/03
    ジャーナル フリー

    我が国では,南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの巨大災害が発生する可能性が指摘されている。これまで大学や研究機関,民間企業等において,防災・減災に関する調査研究が進められてきた。しかしながら,実被災地における科学技術の活用は発展途上の段階にあるといえる。他方,国内外では科学技術の活用に向けた変革が進行している。このような状況において,被災地の実態を考慮すると,科学技術の進展と被災地の現実との間には乖離があるのではないかと推察される。本研究では,被災地における社会課題解決を目指した科学技術の活用事例に着目し,科学技術の活用を進める上で必要な要素を明確化することを目的とする。具体的には,安全・安心な社会の実現に対して実践的に貢献した取り組みを表彰する電子情報通信学会 安全・安心な生活とICT研究会における「安全・安心ベストプラクティス賞」過去受賞者を対象とした本研究で提案する手法に基づき,被災地における科学技術の活用に関する実態と課題について探索的に分析する。さらには,上記の探索的分析結果を踏まえつつ,令和6年能登半島地震の被災自治体である氷見市で実施された住家被害認定業務の実行担当者を対象とした本研究で提案する手法に基づき,最新の被災地における科学技術の活用に関する現状と課題についても探索的に分析する。また被災地において科学技術の活用を進めている現場から見えている新たな課題についても整理する。

  • 水原 善史, 高木 一樹, 倉敷 哲生
    原稿種別: 研究論文
    2025 年40 巻2 号 p. 208-227
    発行日: 2025/08/31
    公開日: 2025/09/03
    ジャーナル フリー

    ディープテックスタートアップの中心である大学発スタートアップの成長には,創業時からそのビジネスの核となる優れた研究成果を有する研究者の積極的な関与が欠かせない。本研究では,日本国内の大学発スタートアップのデータとして経済産業省が管理する「大学発ベンチャーデータベース」を利用し,これらのスタートアップに関与する研究者の背景情報(論文および科研費のデータ)と資金調達額の関係性を分析した。ここから,機械学習手法を用いて日本の大学発スタートアップの成長に寄与する研究者の特徴を評価するモデルの開発を目指した。本研究ではスタートアップ各社の資金調達額を目的変数,各社に関与する研究者の背景情報を説明変数として設定し,データを2つの群に分類する複数のケーススタディを通じて,特徴量重要度を算出可能な機械学習アルゴリズムを用いた解釈性の高い2値分類モデルを構築した。これらのモデルは,研究者の背景情報を基に大学発スタートアップの成長を予測する上で一定の精度を達成した。また,モデルを分析することで,一定の基準値を超えた論文評価や科研費の獲得している研究者が大学発スタートアップの成長に貢献していることを確認した。

研究ノート
  • 吉田 公亮, 吉岡(小林) 徹, 牧 兼充
    原稿種別: 研究ノート
    2025 年40 巻2 号 p. 228-242
    発行日: 2025/08/31
    公開日: 2025/09/03
    ジャーナル フリー

    研究開発拠点の新設は,イノベーション創出を目指した戦略的行動として多くの企業によって実行されている。これまで,研究開発拠点の立地や複数拠点による研究開発の空間的分業がイノベーションの成果に及ぼす影響に関して,主に企業間での比較が行われてきた。一方で,研究開発拠点の新設はその中で働く研究者のイノベーション活動に影響を及ぼすと推測されるが,そのような観点での検証はこれまでほとんど行われていない。本研究では,富士ゼロックス株式会社(現 富士フイルムビジネスイノベーション株式会社)を対象として,新たな立地での研究開発拠点の新設が研究者のイノベーション活動に及ぼす影響を定量的に検証した。その結果,新設の研究開発拠点に移動した研究者は,拠点内ならびに他拠点の研究者とのコラボレーションが促進され,出願特許の技術分野の多様性が増加したことがわかった。また,移動した研究者は,出願特許数ならびに審査官被引用数が増加したことがわかった。さらに,媒介分析の結果,コラボレーションと技術分野の多様性の増加が,結果として,出願特許数と審査官被引用数の増加につながっていることがわかった。

  • 伊藤 敏孝, 島岡 未来子
    原稿種別: 研究ノート
    2025 年40 巻2 号 p. 243-257
    発行日: 2025/08/31
    公開日: 2025/09/03
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,自然科学分野のプロジェクトで不確実性の低減に用いられる冗長性について,ヘルスケア分野のイノベーション・エコシステムにおける知見を集積整理すること及び研究余地の示唆を得ることである。【対象と方法】2000年から2023年までの間の文献を対象に,Web of Science,CiNii及びJ-STAGEの学術文献データベースを用いてスコーピングレビューを実施した。【結果】検索の結果,645文献を特定し,スクリーニングにより10文献を選抜,最終的に2014年から2022年の5文献を採用した。【結論】冗長性に関する研究は自然科学分野で最も多く,経営学,社会学及び行政学を含む社会科学分野における先行研究は少なく,イノベーション・エコシステムにおける研究はほとんど行われていない。一方,採用した文献では,エコシステムにおける複数のアクター間の相互作用による冗長性の存在が同定され,冗長性による不確実性の低減において正の作用と負の作用があること及び冗長性の定量的な測定手法が示された。理論的フレームワークとして,トリプルヘリックス理論による相互冗長性が不確実性を低減させること,アクター間に生ずる冗長性の分析には非公式な「弱い紐帯」(weak ties)に着目したソーシャルネットワーク分析のアプローチが有効である可能性が示唆された。イノベーション・エコシステムにおける冗長性の研究は初期段階にあり,研究余地があることが確認された。

編集後記
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