蒸発散量(ET)の適切な推定は,農地におけるよりよい家畜ふん尿及び水管理を行う上で重要である.ボーエン比法や渦相関法などの微気象学的方法が ET 測定には一般的であるが,特殊な測定器や複数の測定器が必要である.一方,熱収支法による ET 推定は,簡易に入手可能な気象観測データを使って行うことができる.熱収支法を使った ET 推定値をボーエン比法による測定値と比較して評価した.岩手県盛岡市近郊にあるリード・カナリーグラス牧草畑において,短波放射量,気温,相対湿度,風速などの気象データを測定した.また,ボーエン比法測定装置も同一ほ場内に設置した.牧草キャノピー表面における熱収支式は,キャノピー温度 Ts の関数として表される.蒸発散量 E を求めるためにニュートン・ラプソン法を使って Ts についてこの熱収支式を解いた.熱収支法では,Rn > 500W m‒2 の時に純放射量 R(W m n ‒2)と潜熱フラックス LE (W m‒2)をわずかに過大評価した.しかしそれ以外の時は,熱収支法で推定した Rn と LE および顕熱フラックス H (W m‒2)は,ボーエン比法で測定したこれらの値と良く一致した.日の出から日没の間の蒸発散量の積算値を日蒸発散量として,2003 年 7 月 1 日から 7 月 28 日まで計算した.両法による日蒸発散量は,r = 0.96 (P < 0.001)で非常に良く一致した.熱収支法による日蒸発散量の推定は有効であると考えられる.
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