国内外の原子力発電所のステンレス鋼製機器の溶接部分において応力腐食割れが問題とされており, その対策として溶接部を熱硬化性の樹脂でカバーする予防保全工法が知られている.従来からあるこれらの施工法では施工に要する時間が長く, 作業者の被爆量が問題とされてきた.そこで我々は溶接線部分を樹脂でカバーする新たな施工法を開発した.この施工法においては, 工場で予め樹脂複合材料のシートを成形加工することにより作業時間の短縮化を実現した.2種類の熱硬化性のエポキシ樹脂及びビニルエステル樹脂がこの施工法に用いられる.種々の条件下における樹脂複合材料の接着強度を試験した.2種類の樹脂複合材料は, ステンレスに対する接着強度が空気中で温度が0~150℃ の範囲において, 2MPa以上の良好な結果を示した.エポキシ樹脂複合材料は水中で施工した場合でも, 空気中とほぼ同等の結果を示した.ガンマ線の20MGy照射後も接着強度は2MPa以上を維持し, この結果よりこれらの樹脂複合材料は良好な耐放射線性能を有することが明らかになった.熱劣化させた後の引張強度試験結果から作成したアレニウスプロットにより40年以上の寿命が示された.施工試験により, 2種類の樹脂複合材料は平滑な溶接線でも段差のある溶接線でも同様に施工できることが確認された.この施工法は耐熱性, 耐放射線性及び作業時間の短縮を要求される環境において, 溶接線に対する予防保全施工法として有効であると考えられる.
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