高分子の劣化機構解析には主として劣化残渣を利用した分析が主流である.しかし,高分子の劣化反応には揮発する成分も多く含まれており,残渣の分析だけでは反応機構を完全に解明するには不十分な場合も存在する.本論文ではマイクロUV照射装置を用いたμ-UV/Py-GC/MSによるAC-2235のUV劣化機構について解析した.AC-2235はPMMAとPBAのコポリマーである.μ-UV/Py-GC/MSにより検出された成分から,PMMAとPBAのどちらかでは無く,両方の成分が紫外線により分解されていることを明らかにした.
同時に最大18個のポリマー試料の促進劣化を可能とする多試料UV照射装置を開発した.この照射装置の基礎的な性能を,耐衝撃性ポリスチレンを試料として,発生ガス質量分析(EGA-MS)測定し,得られるEGAサーモグラムのピーク幅の変化に着目し,試料の促進劣化度とその精度を評価した.また,以前に開発した単一試料用UV照射装置と新規開発装置での促進劣化度について比較検討を行った.
紙や絹を基底材とする絵画などにおいて,銅含有彩色材の緑青が使用されている文化財資料では,緑青により基底材の劣化が進行し,褐色に変色する「緑青焼け」と呼ばれる劣化現象が観察される.本研究では,室町時代制作の仏画であり,「緑青焼け」が顕著にみられる絹本絵画について,修理にあたり取り除かれた2層の旧裏打紙を分析の対象とし,セルロースの分子量分布に着目し,劣化の状態を調べた.紙のセルロース分子量については,2層の裏打紙ともに,「緑青焼け」の箇所において,無着色部分よりも分子量が低下していることがわかった.さらに,「緑青焼け」の影響がみられる裏打紙中において,無着色部分の裏打紙よりも銅Cuを多く検出した.顔料に由来するCuは,2層の裏打紙に移動し,これらが,裏打紙の分子量低下をも促進していることが示唆された.また,絹本絵画の水洗浄に用いた吸取紙においてもCuを検出したことから,Cu成分の一部が水溶性であることがわかった.