熱酸化劣化したエチレン-プロピレンージエンゴム(EPDM)の構造のキャラクタリゼーションをFT-IRおよび熱分解GCにより試みた.透過法の顕微FT-IRにより, 生成した官能基の深さ方向分布を解析した結果, 予想された通り, 表面に近い領域ほど酸化劣化が進行し, 特に, カルボン酸類が生成しやすいことが判明した.また, 加硫前後のEPDM試料について, 減衰全反射(ATR)FT.IRにより試料の表面近傍を解析した結果, いずれの場合も熱酸化劣化により主鎖の劣化生成物と関係する飽和および不飽和カルボニルのピークが観測された.熱劣化に伴う全カルボニルの相対的な生成量は, 同程度の加熱処理時間で比較すれば原料EPDMより加硫試料のほうが著しく小さく, 加硫により熱酸化劣化反応が抑制されていることが認められた.一方, 両試料の間では飽和カルボニルと不飽和カルボニルの生成の比率に違いがあり, 原料EPDMに比べ加硫試料のほうが熱酸化劣化に伴う不飽和カルボニルの相対的な割合がかなり大きくなった.こうしたことから, 熱酸化劣化に伴う不飽和カルボニルの生成は, 飽和カルボニルに比べ加硫時に生成した硫黄架橋構造による抑制を受けにくいことが示唆された.さらに, 熱分解GC(/MS)による劣化試料のパイログラムの解析により, ジエン単位の側鎖二重結合が酸化して生成したアセチルシクロペンタジエン(ACP)が検出され, ジエン単位の近傍で優先的に熱酸化反応が進行していることが判明した.これらの測定結果を総合して硫黄加硫したEPDMの熱酸化劣化機構について考察した.
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