アンサンブル
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24 巻, 4 号
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特集「相分離生物学」
  • 原田 隆平
    2022 年 24 巻 4 号 p. 191
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー
  • 寺澤 裕樹, 笠原 浩太, 高橋 卓也
    2022 年 24 巻 4 号 p. 192-197
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    生体高分子の液-液相分離について, その微視的な分子メカニズムの解明が重要な課題となっている. 分子シミュレーションはそのための有力なツールのひとつとなっており, 様々な手法やソフトウェアが提案されている. その試みのひとつとして, 我々の研究グループでは独自の分子動力学計算プログラム myPresto/omegagene の開発を行ってきた. 本稿では本ソフトウェアの開発と, これを用いた粗視化モデルによる蛋白質液滴様集合体の形態解析への応用について紹介する. 本研究ではモデルとなるペプチド配列に対して様々な分布で荷電性残基を導入して, 配列上の電荷分布が液滴様集合体の形成に及ぼす影響を調べた. その結果, 総電荷が同一の場合でも, その電荷分布によって液滴様集合体の形態や諸性質が大きく異なることがわかった.

  • 足立 景亮
    2022 年 24 巻 4 号 p. 198-204
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    鳥の群れや細胞集団といった自ら動く要素の集まりはアクティブマターと呼ばれる.近年の研究により,様々なタイプのアクティブマターで気液相分離に似た相分離が現れうることが明らかになってきた.本稿では,相分離に焦点を当ててアクティブマターの協同現象について解説し,関連する我々の理論研究も簡単に紹介する.

  • 田中 肇
    2022 年 24 巻 4 号 p. 205-214
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    近年,細胞質や核に存在する膜なしオルガネラを形成する生物相分離とその生物学的機能が注目されている.液体状の凝集体は,一般に球状の液滴として形成される.一方,最近,タンパク質顆粒,局在体,中心体集合体など,ネットワーク状の形態を持つ様々な凝集体が細胞内で発見された.したがって,何が細胞内相分離の相分離形態を制御しているのか,またその形態が生物学的な機能とどのように関わっているのかは重要な基本的問題であるが,いまだ解明されていない.ここでは,ソフトマター物理学における粘弾性相分離の知見に基づき,2 相間の分子ダイナミクスの差が相分離により形成される凝集体の形態を制御している可能性について議論する.具体的には,2相間の移動度の差が小さいと液滴状,大きいと遅い相が少数相であってもネットワーク状の形態をとることが予想される.特に,非構造化高分子(メッセンジャーRNA など)が2相間で非対称に分配されることで,相間の動的非対称性が高まり,遅い相のネットワーク状パターンが形成され,それがさらに高分子間結合によって安定化される可能性があることを示す.また,生物学的反応や力学的機能面から見たネットワーク状の相分離形態の持つ特性についても考察する.

  • 吉澤 拓也, 松村 浩由
    2022 年 24 巻 4 号 p. 215-219
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    タンパク質や核酸などの生体高分子の液−液相分離による液滴形成が注目されるようになり,様々な手法を用いた解析が進められている.相分離による液滴の特徴は流動性であり,液滴同士の融合性などの振る舞いによって評価される.さらに理解を深めるためには,どのような相互作用が液滴形成に寄与しているか,また,液滴中で分子がどのような状態であるかを詳細に解析する必要がある.本稿では,相分離研究の代表的なタンパク質であるRNA 結合タンパク質FUS を例に,相分離性解析の実験的アプローチを紹介する.

  • 西奈美 卓, 白木 賢太郎
    2022 年 24 巻 4 号 p. 220-224
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    タンパク質は水溶液中で多様な状態を形成できる.タンパク質の立体構造は,今では人工知能を使えばほぼ完全に予測できるようになってきたが,タンパク質は凝集体やゲル,液-液相分離によるドロプレット,アミロイドなどの多様な状態を形成する.はたして,ゆで卵のような身近な現象がいずれはシミュレーションできるようになるのだろうか? 本稿では,タンパク質の溶液状態に関する実験科学の現状を紹介してみたい

最近の研究から
  • 髙野 芙巳生, 平塚 将起, 高橋 和義
    2022 年 24 巻 4 号 p. 225-233
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    紫外線や海流によって細かくなった結晶性高分子はマイクロプラスチックと呼ばれている.その主要な構成要素は結晶性の高いラメラ構造であると考えられている.そのため,ラメラ構造の分解過程の解明はマイクロプラスチック分解技術の発展につながる.しかし,秩序化したラメラ構造が単純な温度変化によって融解する過程の詳細は未だ解明されていない.そこで,分子動力学(Molecular Dynamics: MD)シミュレーションを用いてラメラ構造が融解してメルト構造に転移する過程をミクロスケールで追跡した.しかし,MD の結果のみでは融解過程を精密に描画することは難しい.構造の変化を解析するためには,ラメラ構造とメルト構造を区別する定量的な指標が必要である.局所秩序変数(Local Order parameter: LOP)は構造の秩序化の度合いを定量化できる指標であり,異なる構造を区別するためによく用いられる.本研究では,教師あり機械学習を用いて,ラメラ構造とメルト構造を分類できる最適なLOP を自動的に探索した.このLOP を用いて融解過程の解析を行った.その結果,ラメラ構造に含まれる結晶部と非晶部の隙間から融解が開始するミクロな現象を可視化することに成功した.

連載
  • ー凝縮系の第一原理計算の方法論についてー
    高橋 英明
    2022 年 24 巻 4 号 p. 234-237
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    ハイブリッド型の第一原理分子動力学法(QM/MM 法) においては,QM とMM の空間領域が接する境界近傍を理論的にどう扱うかというQM/MM 境界問題が古くから知られている.この境界問題には,大別して2種類がある.1つ目は,QM/MM の境界線が共有結合を横切る場合に発生し,特にタンパク質のようにペプチド鎖を境界線が横断する場合に問題になる.2つ目は,例えば溶質をQM とし溶媒をMM として扱う溶液のQM/MM シミュレーションにおいて,溶質近傍の溶媒分子をQM 領域に取り込む拡張型のQM/MM シミュレーションを実施する場合に問題となる.後者の境界問題を解決する方法は主にadaptive 法とconstraint 法の2つに分類される.本寄稿では,これら2つの方法を概説し,続いてconstraint 法に分類される筆者らの方法を導入する.

博士論文紹介
  • 矢木 智章
    2022 年 24 巻 4 号 p. 238-243
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    本稿では, 筆者が執筆した博士論文の第二章, 第三章に関する内容である「密度汎関数理論における自由エネルギー密度汎関数の新しい構成方法」について紹介する. 密度汎関数理論は溶媒和の熱力学的な性質を計算するための有力な方法の一つである. 一方で, 未知である自由エネルギー汎関数を構成するための一般的指針が存在しないため, その近似精度を系統的に向上させることが困難である. 本研究では, 従来の近似理論からの系統的な改善を目的として, 自由エネルギーの新たな汎関数形を提案し, これを決定するための積分方程式を導出した. 本手法をLennard-Jones 流体の気液相平衡と溶媒和の解析に適用したところ, 従来の近似からの大幅な改善を得た.

  • 島田 真成
    2022 年 24 巻 4 号 p. 244-250
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/10/31
    ジャーナル フリー

    液体を結晶化が阻害されるほどの速度で急冷すると,結晶とは異なる固体状態になる.これがガラスである.ガラスは,多くの面で結晶とは異なる性質を示し,その理解は結晶に比べて大きく遅れている.近年の理論的,数値的研究の発展によって,ジャミング系と呼ばれるガラスの一種が,ガラス全体の理解を進める上で鍵となることが分かってきた.しかしながら,理論研究は平均場理論に集中している.これは空間次元を無限大にするというような理想的な極限で厳密になる理論であり,数値実験の結果と比較する際には困難が伴う.そこで本研究では,理論と数値実験の差を埋めるべく,空間次元9次元までのジャミング系を用いた数値実験を行い,結果として数値実験と理論が確かに整合的であることを解明した.

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