ゴムやプラスチック，生体材料など高分子を利用した材料は身の回りに沢山ある.材料開発では，実験に 先行した物性評価やその分子論的な起源を探るために, 分子シミュレーションもよく利用される.近年はマ テリアルズインフォマティクスにおける材料データの生成や検証といった役割も大きくなっている.しかし， 高分子は分子内自由度が高く，絡み合いなどのために平衡緩和に長時間計算が必要になるなど，計算コスト が大きい.このため分子の特徴を踏まえた粗視化シミュレーションの技術が必要になる.本稿では，単一の 高分子メルトおよびブレンド系へ系統的粗視化を適応した事例を紹介し，粗視化シミュレーションの活用法 について考えてみたい.

PMMA 樹脂の中にa-Al2O3 粒子を分散させた複合材料の粒子分散構造を, 直接数値シミュレーション(DNS) によって評価した.粒子間斥力の起源を粒子表面に形成された界面相同士の反発とするモデルを定義し，溶 融混練法を想定した DNS を行い，粒子分散構造をシミュレートした.これを二次元動径分布関数に変換し， 実験的に作製した複合材料の粒子分散構造と比較した.比較検証の結果から，モデルが適切であると判断し， 複合材料の研究開発において界面相を考慮することの重要性を明確化した.この一連の研究を振り返り，計 算機シミュレーションと企業研究とのインタープレイについて考察した.

現在，計算材料科学技術は，日本の材料産業分野の研究開発において，データ科学技術の急速な展開，お よび，世の中のデジタルトランスフォーメーションの巨大な潮流とも相俟って，実活用化は一段と加速し， 既にコモディティー化，デファクトスタンダード化しつつある.しかし，その高精度ゆえの実活用限界の低 さ，計算プログラムの膨大化・複雑化，実装技術の古さ，主流である手続き(命令)型プログラミングの限 界，レガシーなプログラム言語，他，数多くの重要な課題が顕在化している.我々は，現状からのブレーク スルーの可能性を探るべく，計算材料科学への数学・数理科学からの新たなアプローチを試みている.本稿 では，手続き型プログラミングに代わる，数学・数理科学の知識と技術を積極的に関数型プログラミングに 取り入れた数理ベースプログラミングによるアプローチについて紹介する.

CAMM フォーラム[1](一般社団法人 企業研究会主催)は,今年 10 月で 35 年目(第 35 期)を迎えた.1987 年，日本の計算科学の歴史と歩みを共にするかのように発足した CAMM フォーラムに，筆者自身も 1990 年 の入職以来，四半世紀以上関わっている.本稿では，知る人ぞ知る(知らない人は知らない)ささやかな活 動ではあるが, CAMMフォーラム創設の経緯や活動内容を紹介することで日本の計算科学史の一端をご紹介 したい.

リン脂質二重膜は細胞膜・生体膜のモデル系として用いられている.リン脂質二重膜で起きる相分離，膜変形は 物理化学現象として興味深いだけでなく，細胞機能との関連性からも重要視されている.電荷を有しているリン 脂質(荷電リン脂質)が膜に存在する場合，これらの現象の理解には静電相互作用を考慮する必要がある.その 結果，電気的に中性な膜では見られない振る舞いをすることがわかってきた.本稿では，荷電脂質膜での相分離， 形態変化について，実験と粗視化分子動力学シミュレーションを組み合わせた我々の研究成果について紹介する.

これまでは分子シミュレーションの方法について説明してきた.これからは，分子シミュレーションから得 られた座標と運動量(分子動力学法のみ)を用いて得られる熱力学的性質，構造的性質，輸送係数の計算方法 について説明する.これらの諸量は，実験的に測定される量であるので，分子シミュレーションの方法の検 証ができると同時に，自然界で起こっている現象を分子シミュレーションにより原子レベルで詳細に調べる ことが可能である.今回は，輸送係数の計算方法について説明する.

本連載 (20) において Gauss 型の交換ホールを用いる Becke-Roussel(BR) の交換汎関数及びその拡張版の理論 と方法を概説した.本稿では，水分子上に置かれた種々の参照点に対して，BR 汎関数や一様な電子ガスの交換 ホール関数を算出し，これらを正確なホール関数と比較する.これにより，参照点が分子の外縁部に置かれた時， 参照点と交換ホールの中心が乖離する現象を，BR の方法が定性的に適切に記述できることを実証する.これに対 して，一様な電子ガスをベースとする局所密度近似 (LDA) は，参照点が分子の中心付近に存在する場合には適切 な交換ホールを与えるものの，外縁部においては定性的にもその描像が破綻する.さらに，参照点を分子系から 遠ざける時の交換ポテンシャルを種々の DFT 汎関数で計算し，その問題点を議論する.

光化学反応や太陽電池の動作など，複数のポテンシャル面が関与する非断熱動力学が重要となる現象は数多い. 非断熱動力学を計算化学的に扱うためのプラグマティックな手段として，surface hopping 法に代表される非断熱 分子動力学法が広く用いられている.しかし計算コストの大きさから，小分子など単純な系以外への適用は容易 ではなかった.筆者は博士課程において，大規模・複雑な系に適用可能な効率的非断熱分子動力学手法の開発と その応用に取り組んだ.本稿では，博士論文で扱った内容のうち，系を空間的に分割する分割統治法に基づく非 断熱分子動力学計算の大規模化とその応用に関する部分を抜粋し解説する.

タンパク質の構造変化は分子機能と密接に関係し，これらダイナミクスを調べることは学術的にも産業的 にも意義が大きい.本研究では，並列に独立な短い MD を繰り返すことで，外部摂動に頼ることなく，タン パク質の特定の構造変化を効率的に誘起するエッジ拡張型並列カスケード選択分子動力学(eePaCS-MD)法を 開発した.eePaCS-MD は Markov State Model と組み合わせることで，自由エネルギー地形を効率的に計算す ることができ，accelerated MD と組み合わせることで，サンプリング効率の向上が期待される.これら手法に よって，タンパク質の構造変化を効率的に探索できるようになった.

Over the past 15 years we have been developing tools for interacting with biomolecules using haptics. Interactions with biomolecules in the virtual world are made via a haptic-feedback device that is able to resist inputs from the user or even act to move the user’s hand in response to molecular forces. Here we highlight the key methodological advances made in the development of these tools including Haptimol ISAS, a tool for interacting with a molecule’s solvent accessible surface, Haptimol ENM, a tool for applying forces to an elastic network model of a biomolecule, DockIT (formerly Haptimol RD), for interactive rigid docking, and Haptimol FlexiDock, for interactive docking that models flexibility in the receptor molecule.