宇宙線が大気中で引き起こす空気シャワーの研究に,筆者がコンピュータを利用して以来,今年で59年になる.その間,秩序‐無秩序現象の映画作成,またソフトコア系の結晶化・ガラス化の問題,2成分ソフトコア・イオン系の超イオン導電体の問題に分子動力学法を用いた研究を行ってきたが,ここでは映画作成の話を述べた後,京都大学を例として計算機システムがリプレースを繰り返しながら今日に至った状況,「京」コンピューターの出現について述べ,おわりに分子シミュレーション研究会の発足に至る経緯を述べることにする.
分子シミュレーション研究会は,1997年11月開催の第11回分子シミュレーション討論会(於倉敷市)において,それまで年に一度の討論会開催を唯一の活動とする分子シミュレーション研究者コミュニティを基盤としながら,新たな研究者組織 (登録会員組織)として正式に誕生しました.私は研究会の発足に当たって明確な目的と決意を込めて臨んでいました.研究会創設の理由(研究会の目標)については 第31回分子シミュレーション討論会特別講演要旨集(本稿の後半に再掲)に書かせて頂きました.研究会創設時の状況は次の挨拶文にも具体的に触れています.
分子シミュレーション研究会発足前後の様子については, すでに本誌2010年の特集で15ページにわたって書いた[1]. 今回は, 実験化学者の筆者が分子動力学シミュレーション(以下MDと略す)を始めた経緯を主に記したい.
まず私自身の研究と分子シミュレーションとの関わりのいきさつ,討論会参加のきっかけを述べます.また討論会のニュースレターと研究会のニュースレター=アンサンブルの発行に長くかかわったのでその経緯・推移を書きます.さらに研究会事務局の運営などについてのことに触れます.最後に私の分子シミュレーションへの思いを述べます.
分子シミュレーション研究会設立時から幹事として運営に携わらせて頂いた.本稿では,そのいくつかについて書かせて頂きたい.第二回の国際会議の開催,学生優秀発表賞のこと,アンサンブルの電子アーカイブ化,などを取り上げ,この20年の研究会運営の一端を紹介したい.
第1回分子シミュレーション討論会が開催されて30年,分子シミュレーション研究会が正式に発足して20年となる.この間の活動を振り返り,これからの課題について私見を述べてみたい.
分子シミュレーション研究会発足20周年を記念して,「若手研究者より研究会に期待すること」をまとめたので報告する.分子シミュレーション夏の学校,分子シミュレーションスクールでアンケートを実施し,その内容をまとめて本記事を執筆した.それぞれ28人,52人から有効なご回答をいただいた.ここでは興味深い意見を中心に取り上げさせていただく.
分子シミュレーション研究会発足20周年を記念し,この20年間の研究会に関するいくつかのデータをまとめた.具体的には,研究会,討論会,夏の学校,分子シミュレーションスクール,アンサンブルに関するデータを報告する.なお各種データは,2002年までは河村雄行先生がまとめた分子シミュレーションのあゆみを参照し,その後は事務局(三上益弘先生,岡崎進先生,田中秀樹先生,泰岡)に保管されているデータを参照した.
初回は,モンテカルロ法と分子動力学法の誕生の歴史について述べたい.モンテカルロ(MC)法の誕生の契機は第二次世界大戦中の原子爆弾の開発において,媒質中の中性子拡散を正確に予測するために,主としてスタン・ウラムにより創始され,フォン ノイマンはその命名者となった.一方,分子動力学(MD)法は,アルダーらにより,剛体球系で創始され,ソフトコア系に拡張され結晶の放射線損傷のシミュレーションに適用された.その後,MC, MD法ともに物質科学に本格的に利用されるようになった.
物質中を電子がどのように流れるかという問題は学術的興味だけでなく,エレクトロニクスなど応用上の観点からも重要である.電子伝導物性は物質によって大きく異なり,温度上昇とともに移動度(伝導度)が減少する物質もあれば逆に増加する物質もある.さらに低温下や試料サイズがナノスケールになると,伝導度の量子化も観測される.私達は物質やその試料サイズ,温度などによって大きく変わる電子伝導現象を系統的に扱うために,量子論に基づく大規模伝導シミュレーション法である「時間依存波束拡散法」を開発してきた.ここでは代表的な π 電子系であるカーボンナノチューブや有機半導体に適用した例を示しながら研究内容を紹介する.
Mori–Zwanzig (MZ) 射影演算子法とiterative Boltzmann inversion (IBI) 法を用いた粗視化モデルの構築手法を紹介する.MZ法に基づく一般化Langevin方程式から,履歴効果を考慮した非マルコフ散逸粒子動力学の運動方程式を定式化する.Lennard–Jones流体を粗視化対象とし,分子動力学シミュレーションから粗視化二体ポテンシャルと記憶核を抽出する方法を説明する.MZ法に基づき二体ポテンシャルと記憶核を抽出し,さらにIBI法によって前者を修正することで,系の静的・動的特性を同時に再現できることを示す.
水分子と生体物質の相互作用は,生体物質の安定性,機能発現,振る舞いを理解する上で極めて重要である.我々は,分子シミュレーションを用いた単糖水和殻中の水分子の振る舞いについて研究を行った.まず,6種類の異性体の分子動力学シミュレーションを行い,異性体,温度,濃度の変化が単糖水和殻に与える影響を明らかにした.また,第一原理分子動力学シミュレーションおよびラマン分光実験によって,単糖水溶液中にブルーシフトを示す水分子があることを見出し,その分子メカニズムを明らかにした.
2014年7月からフランス・ボルドー大学に,その後2015年7月から2017年6月まで米国ケント州立大学にて,合計3年間を研究員として滞在したのでその体験を紹介します.
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