アンサンブル
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22 巻, 2 号
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特集「非平衡系の時系列データ解析」
  • 中村 壮伸
    2020 年 22 巻 2 号 p. 109
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー
  • 斉藤 真司
    2020 年 22 巻 2 号 p. 110-117
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    凝縮系では,幅広い時間・空間スケールをもつ複雑な揺らぎが普遍的にみられる.さらに,相互作用の強い系や温度の低い系においては,揺らぎにより時間とともに変化する局所環境等に起因する不均一性により,その揺らぎの様相はさらに複雑なものとなる.系の揺らぎは時間相関関数や応答関数で解析することができる.しかし,スペクトルの裏に潜む揺らぎの時間変化や集団平均で記述できない不均一な揺らぎや状態変化の解明には,三時間の相関関数や応答関数の解析が必要となる.ここでは,三時間応答関数および三時間相関関数およびその二次元振動・寿命スペクトルにより何が分かるかについて概観する.

  • 森 貴司
    2020 年 22 巻 2 号 p. 118-126
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    相加性は統計熱力学の基本的な性質である.相加性を認めれば,そこからエントロピーの凸性,異なるアンサンブルの等価性,比熱の非負性など,様々な重要な性質が導かれる.統計力学の理論を数学的に厳密に適用すると,短距離相互作用系の平衡状態は必ず相加性を満たすという結論が得られる.しかしながら,この議論には落とし穴があり,短距離相互作用系であっても,「真の平衡状態」に達する前に現れる長寿命の「準平衡状態」においては,自由度間に実効的な長距離相互作用が働く結果相加性を破る場合があることを説明する.この「準平衡状態」はもとのハミルトニアンとは異なるハミルトニアンの平衡統計力学で記述される.つまり,多体系の非平衡ダイナミクスから得られる時系列データの中に,まったく異質なハミルトニアンの平衡統計力学が埋まっていたことになる.

  • 秋元 琢磨
    2020 年 22 巻 2 号 p. 127-133
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    微粒子のランダムな運動であるブラウン運動の拡散性は,溶媒の粘性や粒子の形状などで決まる物質の静的な性質である.近年,その拡散性が時間的に大きく変化することがわかり,その揺らぎに注目が集まっている.本稿では,拡散係数が時間的に変化するランジュバン方程式において,単一の軌道から計算された平均2乗変位の揺らぎの理論を紹介する.この理論を用いると,1 分子の軌道から任意の時刻での拡散性を精密に見積もることができる.この手法を応用することにより,過冷却液体における拡散状態の遷移やガラス転移点近傍での緩和時間の異常性を明らかにする.

  • 畝山 多加志
    2020 年 22 巻 2 号 p. 134-141
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    メソスケールにおける拡散や緩和のような動的挙動を記述するためにランダムノイズを含んだLangevin 方程式が広く用いられている.しかしながら,着目する粒子が過冷却液体のような動的に不均一な環境に置かれていたり,からみあった高分子のように運動に影響する形態自由度を持つ場合には,単純なLangevin 方程式では運動を記述しきれない.最近,そのような系を表現するために,拡散係数を時間とともにゆらぐ物理量とみなすモデルが提案されている.本稿ではゆらぐ拡散係数の概念やゆらぐ拡散係数を持つ系の拡散や緩和挙動の解析結果,ゆらぐ拡散係数に関連するモデル等について解説する.

最近の研究から
  • イオン液体の輸送物性予測への応用
    石井 良樹, 松林 伸幸
    2020 年 22 巻 2 号 p. 142-150
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    本稿では,密度汎関数法に基づく第一原理計算とBlöchl 電荷解析を用いて,凝縮系で非分極力場を構築する方法論について紹介する.この Blöchl電荷は,分子が孤立系から凝縮系へと溶媒和した時に生じる電荷移動効果と分極効果を効率よく記述することができ,凝縮系の多体効果を平均的に取り込むことができる.そのBlöchl電荷を用いた非分極力場を,室温電解質として有用なイオン液体系の分子動力学計算に適用したところ,エネルギー特性に対する影響は小さいものの,輸送物性の確度が大きく向上した.すなわち,従来の分子力場で報告されていたイオン液体の分子シミュレーションにおける低流動性の課題を系統的に取り除き,イオン伝導率と粘性率を定量的に評価できる分子力場として機能することが分かった.

  • Duy Phuoc Tran, Hiroaki Hata, Takumi Ogawa, Yuta Taira, Akio Kitao
    2020 年 22 巻 2 号 p. 151-156
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    Parallel Cascade Selection Molecular Dynamics simulation (PaCS-MD) is among the enhanced sampling methods without applying extra bias potential/force. Here we report our recent advances in applying PaCS-MD to investigate association and dissociation of protein/peptide complexes. In combination with the Markov state model (MSM), PaCS-MD/MSM exhibits its ability to predict native complex structure and calculate the binding free energy, association and dissociation rate constants of the complexes in agreement with experimental data.

  • 浅野 優太, 渡辺 宙志, 野口 博司
    2020 年 22 巻 2 号 p. 157-162
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    流体に極微量の高分子を加えることで流動抵抗が劇的に低減するトムズ効果や,水中で回転するタービンの周りでキャビテーションにより発生する気泡の運動など,工学上重要な問題はミクロスケールからマクロスケールまでシームレスに影響を与えるものが多い.これらの問題は典型的なマルチスケール・マルチフィジクス問題であり,解析が極めて難しく,メカニズムはよく分かっていない.計算機の発達により,流れそのものを分子動力学(MD) 法を用いた全粒子計算で解析するという力任せな方法が現実味を帯びてきた.本稿では,複雑流体の流動,キャビテーションを伴う流動に関して,著者らが行ってきたMD 計算の紹介を行う.

連載
  • 原子間・分子間相互作用 その2
    三上 益弘
    2020 年 22 巻 2 号 p. 163-168
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    これまでは,分子シミュレーションの方法論をモンテカルロ法と分子動力学法について説明してきた.前回からは,分子シミュレーションを適用する原子集合体又は分子集合体の原子間・分子間相互作用のポテンシャル関数について説明している.原子間・分子間相互作用は物質の個性を表し,その構造や物性の予測を可能にする.すなわち原子間・分子間相互作用は,物質モデル系を現実の物質に対応付けることを可能にする.今回は,物質モデル系の分子シミュレーションの精密化と大規模化に対応するための階層的相互作用モデルと各レベルの相互作用モデルの粗視化法と微視化法について解説する.

  • 凝縮系の第一原理計算の方法論について
    高橋 英明
    2020 年 22 巻 2 号 p. 169-172
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    Becke-Roussel(BR) の交換汎関数は,水素様原子の電子波動関数を交換ホールのモデルとして用いる.従って,原子,分子に対する電子密度汎関数法(DFT) の適用においては,交換エネルギー密度や交換ポテンシャルの重要な性質である長距離性を自然に再現すると考えられる.しかしながら,交換エネルギーの電子密度についての汎関数微分の明示的な式が得られない為,平面波や実空間グリッド基底を用いるKohn-Sham DFT の変分計算には応用できない.本記事では,修正されたBR 法によってこの問題を解決する方法を概説し,その利点や問題点を議論する.

博士論文紹介
  • 肥喜里 志門
    2020 年 22 巻 2 号 p. 173-180
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

    生体分子が関わる過程において, 溶質の内部構造ゆらぎに起因する構造エントロピーは重要な熱力学量である. これまでに分子動力学シミュレーションによる構造エントロピー手法が提案されてきたが, その計算精度については十分な検証がなされてこなかった. 本研究では高精度な計算法の確立を目指し, 擬調和近似法を基にした構造エントロピー計算法の計算精度をClausius法により評価し, 計算手法にさらなる改良を加える事を目的とした. 検証と改良の結果, Improper torsionを導入したボルツマン擬調和近似法が低分子からタンパク質まで適用可能な計算精度の高い手法であることを明らかにした.

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