チャネル乱流におけるスケール空間のエネルギー輸送を調べると，乱流エネルギーのスパン方向成分に逆カスケードが見られた．この逆カスケードに伴う流れの構造を理解するため，負の生成項に対する条件付平均を求めた．条件付平均の速度場では，壁近くの領域に主流方向を向いた二つの縦渦が示された．縦渦の間にある下降流が壁に衝突することによってスパン方向の速度が増加し，その結果スパン方向成分のエネルギーの逆カスケードが起こることがわかった．

大スケールに運動エネルギーとクロス・ヘリシティ（速度－磁場相関）を注入した，電磁流体（magnetohydrodynamic: MHD）乱流の直接数値計算を行う．大スケールから，中間スケールを経て，小スケールに至る途中で，クロス・ヘリシティの符号が反転することが観察される．それに加えて，磁気リコネクションはクロス・ヘリシティが符号を変え，その値が最小となるような領域で最も強く起きる．したがって，この計算は，非線型のMHD で磁気リコネクションの生じる領域を探すための重要な手段を提供する．

ヘリシティを伴った回転系非一様乱流では回転軸方向の平均速度が生成，維持されることが数値計算によって示されている．先行研究では平均速度を誘起するようなReynolds せん断応力のソースとして圧力拡散項が有力な候補であることを示した．本研究では回転に起因するもう一つの項であるCoriolis 効果項と呼ばれる項の役割について議論する．数値計算の結果から，Coriolis 効果項は平均速度やReynolds せん断応力が生成される過程において成長しているわけではないことが示唆された．また既往の乱流モデルでは数値計算で確認されたCoriolis 効果項の空間分布を説明できないことが示唆された．

本報では，美保湾の物理環境の数値シミュレーションを実施し，養殖場周辺の物理環境の変動特性を調べた．流速値のオーダーを比較すると，潮汐流や密度流に比べて，吹送流が主要な流れであることが示唆された．今後は，湾内の気象条件をより詳細に与えるとともに，美保湾と中海との海水交換や河川流入，開境界を通した海流を考慮する必要がある．また，テスティング手法を利用した生簀群まわりの詳細シミュレーションや，水質，底質シミュレーションを行い，現地観測データを用いて検証する必要がある．

近年，格子ボルツマン法（Lattice Boltzmann Method, LBM）を用いた建築風環境解析例が報告されている．本解説では，等温室内流れを対象として，Large-eddy simulation が組み込まれたLBM （LBM-LES）および有限体積法（ FVM-LES）を用いた解析を実施し，LBM-LES の予測精度の検証，及び両手法の結果精度と計算速度の比較を行った．結果としては，室内気流解析においてLBM-LES がFVM-LES と同様な予測精度を与えられるが，FVM-LES より高い格子解像度が必要である．計算速度の方は，LBMLES がより優れた並列計算効率が表現し，特により多くの計算コアを使用すると同じ解析精度の場合にFVM-LES より大きい計算速度を与えた．

ボイラーや発電機の運転時には，建物周辺で極めて高温な排気ガスが放出される．人々の安全性や建物への影響を解析し適切な対応策を立案するためにも，事前の拡散予測が必要となる．本研究では，単体建物周辺における高温排気ガスの拡散予測に関して，簡易圧縮性k-εモデルと非圧縮性k-εモデルを用いて既往の風洞実験の再現解析および高浮力の予測解析を行った．排出口近傍の高濃度域においては，予測モデルによる差異も見られ，簡易圧縮性モデルにおいて非圧縮性モデルよりも高い濃度が建物に到達する結果を与えた．本解説では，両モデルからの差異について，浮力加速度および乱流エネルギーの生産と消散の角度から解説する．

放射空調システムは放射パネルの設置位置により，室内熱環境の不均一性の発生する可能性がある．本研究では，この不均一性による諸不快感を検討するために，室内の各壁面( 床面，天井面含む) の一つを固定熱流量で発熱させて，数値解析を行った．壁面温度は皮膚表面温度，放射熱伝達率，放射損失に影響を与えることを確認した．対流熱伝達率と対流熱損失は主に空気温度に影響されることが分かった．均一温熱環境と同じように，人体端末の対流熱伝達率は胴体より大きく，放射熱伝達率は逆になった．

有限要素法を用いた圧縮性フローソルバを開発した．3 つのベンチマークテストケースが検証されました．それはリッド駆動キャビティフロー，角柱周りの層流とNACA0012 翼周りの乱流である．リッド駆動キャビティの流れでは，サンプリング線における平均速度プロファイルが実験データとよく一致する．角柱周りの層流では，サンプリングラインに沿った正規化された圧力変動は，理論解と合理的によく一致します．NACA0012 翼の周りの乱流では，平均圧力係数，圧力係数の変動と乱流境界層における平均速度プロファイルは，実験値とかなりよく一致する．

直径0.6 mm のファイバースコープで直径1 mm のドリル孔を観察することによるコンクリートの中性化深さ測定手法を提案した．まず，ドリル孔壁面に，フェノールフタレイン溶液を噴霧した際の呈色を，ファイバースコープで鮮明に観察できることを確認し，続いてファイバースコープの先端から観察対象までの距離の決定方法を検討した．そして，提案手法をコンクリート供試体やモルタル供試体に適用し，中性化深さを測定した．切断面においてノギスで測定した中性化深さとの比較を行ったところ，提案手法が十分な精度を有することが確認された．

界面活性剤系被膜養生剤によるコンクリートの保水メカニズム解明のため，極薄の膜をもイメージ化できるブリュースター角顕微鏡を用いて，水面上の養生剤を観察した．養生剤は濃度が異なる5 種類を用意し，それぞれの滴下量増加に伴う水面の変化は動画にて確認した．その結果，濃度10% 以下の養生剤では半透明の膜が水面を覆った．一方17% 以上の養生剤では界面活性剤分子の集合体と考えられる物体が水面を覆った．既往の研究において低濃度の養生剤ほど蒸発が抑制されていたのは，今回確認した膜が寄与したためだと考えられる．

これまでに報告例のない，セメントペーストに対する電子後方散乱回折（EBSD）による分析を実施した．その結果，セメントペーストの代表的な結晶性水和物であるCa（OH）₂ やCaCO₃ のIPF マップではほとんど検出されないという結果となった．またクリンカー成分に関しても同様であった．このことは，セメントペースト中の水和物やクリンカー鉱物の結晶構造が，標準的な構造のみではなく多種多様な構造を有していることを示唆している．一方で，IQ マップでは少なくとも結晶性の異なる水和物の分布を可視化することができることを確認した．