メカノクロミックポリマーは,力を加えることで色が変化するマテリアルである.その中でもポリジアセチレンは「ひねり」を感知するユニークな特性を持っており,その脂質の構造を生かして生体膜に組み込むことができる.本稿では,このポリマーが力を検知するメカニズムに関する最近の筆者らの研究を紹介する.長期的には生体膜内の力を測定するセンサ開発を目指す.
インドでは大気汚染とそれによって生じる健康被害等が大きな問題となっており,その主要排出源の一つが焼成レンガ工場である.レンガはインドにおいて古くから使われており,現在では年間2,500 億個ものレンガが生産されている.レンガは大気汚染の一因である一方で,安い建材として13 億人もの人口を抱えるインドの住環境向上に大きな役割を果たしている.そこで本稿ではレンガセクターによる大気汚染を削減するため,レンガセクターによる大気汚染の削減を妨げている要因を,社会背景を含む包括的なレビューにより分析する.
光活動性黄色タンパク質(Photoactive Yellow Protein (PYP))は,活性中心としてp- クマル酸(pCA)を含む125 残基からなる光受容タンパク質である.光反応サイクルの初期過程において,pCA がtrans 型からcis 型への構造変化を引き起こす.この光異性化反応を電子状態理論から解き明かすために正準分子軌道計算を行った.pCA と35 残基モデルの正準分子軌道計算から,光異性化反応に関与する, pCA から周辺タンパク質へ広がる分子軌道を確認した.
近年, 医療創薬分野や工業分野で細胞組織を用いたモノづくりが注目を集めている. その中でも操作性に優れ,三次元組織への組み立てが可能な細胞ファイバは, バイオリアクターとしての利用が期待される. しかし, 新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響で, 大学における研究活動が制限を受けている. 本研究では, これまで研究室でしか作製できないと考えられていた細胞ファイバを在宅で簡単に家庭用3Dプリンターを利用して造形したマイクロ流体デバイスを用いて作製する方法を構築し, バイオリアクターとして機能することを確認した.
本稿は人体皮膚内の細胞間質液を無痛で採取するための生体分解性多孔質マイクロニードルの新規製造法を示すものである.エマルション法を用いて作製した生体分解性ポリ乳酸微粒子をモールドに充填し,加熱処理で微粒子を溶融・連結させることによって強度が高い多孔質構造のマイクロニードルを作製した.その後,間質液サンプルの採取及び皮膚穿刺の評価から加熱処理によるサンプルの採取と穿刺性能の改善を確認した.提案した製造方法により多孔質マイクロニードルの大量生産と診断用バイオセンサーとの組み合わせへの応用が期待される.
マイクロニードルは,皮膚の角質層を穿刺し,表皮や真皮に薬物を送達するためのミクロンスケールの針である.本研究では,生体適合性と生体分解性を持つポリ乳酸を材料とした三次元積層法を用いてマイクロニードルの製作を行った.まず,熱溶解積層法を使用してポリ乳酸の針の構造体を製作し,化学エッチング法を用いて製作した構造体をミクロンスケールまで小さくすると共にニードルの形に整えた.製作したポリ乳酸マイクロニードルに薬剤を塗布することにより今後コーティングマイクロニードルとしての応用も期待される.
血流数値シミュレーションは,生体内部の血流状態を流体力学の支配方程式を解くことで計算し,血管疾患のメカニズム解明と診断,そして手術プラニングに用いられる.しかし,数値の分析には専門知識が必要であり,工学者のいない医療現場では使用し難く,また解剖的構造も複雑であるため,医師と患者での情報共有が困難である.本研究は,低減次元シミュレーション手法である1D-0D シミュレーションの計算結果を動的に患者個別3 次元血管形状にリマッピングし,バーチャルリアリティディスプレイOculus Rift で表示できるシステムを開発した.
含硫アミノ酸類は,生体内で恒常性の維持など重要な役割を担うため,その検出は意義深い.本論文では,バイオマーカーとなり得る含硫アミノ酸類を標的種とし,超簡便に多成分の当該種を検出するセンシング法を紹介する.具体的には,市販の蛍光色素2 種と金属イオンを混合するだけで自発的に形成される金属錯体型ケモセンサと多変量解析技術を組み合わせ,多成分同時分析を達成した.さらに,ヒト血清中の標的種を対象とした定量分析にも挑戦し,上述の少ないセンサ数で構築したケモセンサアレイを用いてその未知濃度予測を達成した.
砂や砂利をはじめとするコンクリート原料の不足が世界的に進行しつつある.またコンクリートの主材料であるセメントの製造においては,大量のCO2 が発生しており,全世界のCO2 排出の8% を占めるという報告もある.そこで本研究では固体として砂のみを用いて,コンクリートの代替となる建設材料の製造を試みた.砂から有機ケイ素原料を製造する技術を参考に,砂とアルコール,触媒を混ぜて密閉容器中に入れて約240℃に加熱した結果,24 時間後には砂同士が接着され,硬化体を製造できることを確認した.また製造における温度,時間,砂の量などはトレードオフの関係にあることを確認した.