歴史的価値を有する建造環境は,暮らしを豊かにする文化資源となる.建築史の役割は,それら資源の発掘である.しかし都市域が広大なメガシティでは,従来の調査手法を適用できず,資源の発掘が十分になされていない.そこで本研究は,GIS などを活用した新たな手法によりメガシティから歴史的な建造環境を抽出する.具体的にはインドネシア・ジャカルタを事例に歴史的なカンポンの分布を解明した.居住環境全体のうち58%が歴史的なカンポンであり,住民の民族構成にも特異性が確認された.今後の課題として他のメガシティへの手法の応用が挙げられる.
災害復興は,それが発生した社会に強く規定される現象である.それゆえ,古今東西の災害復興を通時的・共時的に比較分析することで,その災害が発生した社会や時代の特性をあぶり出すことが可能であると考える.そこで本稿では,現在筆者が進める「災害復興史」の構築に向けた研究の進捗状況を報告する.具体的には,筆者がこれまで進めてきた昭和三陸津波後の復興を中心とした三陸沿岸地域における津波災害後の復興に関する研究を題材とし,日本における「近代復興」の特質を紹介するとともに,そこから日本および世界の災害復興史構築に向けた構想を素描する.
本報告は,世界の建造環境へのソ連の貢献に関する現在の研究状況を速報するものである.ここでの問いは,様々な定義,ケーススタディの選択経緯,インパクトの分析等である.このテーマについてどんなアプローチが可能かについての分析と中国における代表的な例によって,上記の問いが明らかにされる.
泥流化し,長距離流動するような斜面災害の起因層が間隙の大きい火山性の軽石層であることに着目し,セメントを付加して人工的にセメンテーションを持つ高間隙構造土を再現し,その強度特性を調べた.セメンテーションを持つ高間隙構造土は大きな負のダイレタンシーを示し,セメンテーションの破壊が起きるまでは高いせん断強度を持ち弾性体のように振るまうことが明らかになった.また非排水圧縮試験ではせん断強度が一度ピークに達し,セメンテーションが喪失した後に,せん断挙動が一定に収束するような脆弱な挙動が観察された.
平成28年9月19日,宮崎県都城市五十町付近の畑に発生した大規模陥没孔により,畑地の横を通る志布志道路に200mにわたって土砂が流出し,五十町IC出口が一時的に封鎖される事故が発生した.今回の事故では人的被害はなかったものの,地盤陥没は発生箇所や発生時間帯によって人的被害を伴う事故に繋がる可能性があるため,その未然防止のためにも発生原因を解明し,必要に応じて対策することは重要である.本報では,陥没孔周辺の現場状況,地盤のゆるみ,地下空洞の把握を目的として実施した調査の結果について報告する.
津波からの避難の際,高所への移動が困難な場合に対し,最後の手段として,ごく小さな空間を確保し避難する「津波用パーソナルシェルター」が様々に考案されている.本報では,現在製造されている津波用パーソナルシェルターや,搭乗者の人体傷害基準を調査し,シェルター内における生存時間を内部の酸素量に基づいた人体耐性的な見地から考察した.津波用パーソナルシェルターの製品はその規模によって大きく2種類に区別でき,うち小型のものは,搭乗者の安全性評価や,酸素量から見た生存時間に関して検討が必要であることがわかった.
日本では,地震などの災害時大スパン建物が避難所として利用される.このような建物の天井等非構造材の落下は突発的に発生し,人命に危害を及ぼす危険性がある.天井の被害検出と安全判断は,通常人間(主に専門家)の肉眼の観察によって行われる.天井等非構造材の損傷検出と安全性評価は,画像認識の問題に置き換えることができる.現在多くの分野で用いられている深層学習,特に畳み込みニューラルネットワーク(ConvNets)は,損傷検出システムの構築に応用できる有用なアルゴリズムである.本報では,天井の損傷度を評価するため,ConvNets を使用した深層学習モデルを構築し,検証した結果を示す.さらに,損傷度の判断基となった特徴点を抽出し考察を行った.
インドネシア・パダン市では,多くの研究者によって,将来巨大地震が起こることが想定されている.将来起こりうる地震に対するリスクを軽減するためには,地震リスク軽減に向けた多くの機能が含まれた,統合的リスク評価ツールを開発する必要がある.本研究では,統合的リスク評価ツールの開発に向けて,インドネシア西スマトラ州パダン市の環境システムを明らかにする事を目的とする.まず,市役所の建物部局への建物の品質と施工管理の方法をインタビュー,グーグルストリートビューによる建物特徴の調査,建物データの分析,地域の建物に関する法令の分析を行った.これらの調査によって,調査地域の建物の50% 以上の建物が,低層から中層のRC 構造物であることがわかった.建物関連の法律の調査と実際の施工方法の調査の結果より,パダン市の地震に対する脆弱性は高いことがわかった.さらに,パダン市の43% の敷地を網羅する,パダン市特有の部落制度に関係する土地利用の問題は,建物品質の低下に関係しているものと推察される.
ミャンマー最大の都市(人口約514 万人)で,同国の経済活動の中心でもあるヤンゴン市はサガイン断層の近傍に位置し,地震リスクの高い地域となっている. ヤンゴン市の地震リスク評価として,Aung(2016) 1) が,既存鉄筋コンクリート(RC 造) の建物を対象とした地震被害関数を開発したが,使用した材料強度は仮定の値であり,実際の材料強度は明らかになっていなかった.そこで本研究では,被害関数の精度向上に向けた,ヤンゴン市の施工状況把握や,実際の材料強度の調査を行う.本報では,これまでのヒアリング調査や,現地で調達した鉄筋の調査について報告する.
2011 年3 月11 日に発生した東日本太平洋沖地震津波では,青森県から千葉県にいたる太平洋沿岸部が津波により浸水し,その面積は約561㎢に及んだ.このような広域に及ぶ津波浸水域を発災後早期に把握するためには,リモートセンシング技術が有効である.本報では,X-band SAR 画像と光学画像の組み合わせによる田畑地域浸水判定結果について報告する.
ネパール中部の都市ポカラでは2013 年11 月より多数の陥没孔が出現し,50 世帯が移転するなど大きな被害をもたらしている.著者らの研究グループは,この陥没孔について発生メカニズムと対応策を提示するために,2014 年から2016 年に渡り6 回の現地調査を行っている.本稿ではこれまでの調査結果を基にUAV による地形の変状と,表面波探査とラムサウンディング試験による陥没孔周辺の地盤構造の推定を行い,旧河道の存在と砂礫層と粘土層の境界領域に位置する軟弱層の存在を明らかにした.
2011 年に発生した東北地方太平洋沖地震は,東京湾沿岸に多くの液状化被害をもたらした.これに対し,先行研究では浦安市において,道路舗装厚別の液状化指数と道路沈下量関係から液状化による道路被害を定量的に予測するハザードマップを作成している.本研究では同地震で液状化被害が確認された千葉市美浜区をモデル地域として,道路舗装厚別の液状化指数と道路沈下量関係の地域による違いを検討した.震災後の応急復旧の影響が含まれ,バラつきも大きいが,同じ液状化指数であっても舗装厚が厚いほど沈下量が小さくなるという傾向が確認された.
射出成形品表面に現れる典型的な外観不良現象として縞模様(タイガーストライプ状)のフローマークがある.このフローマークは,成形品の表面に光沢領域と曇り領域が交互に現れるもので,成形品の表裏面で位相が逆転していることに大きな特徴がある.本稿では,このフローマークの生成メカニズムを解明するために,これまで行われてきた解析事例を解説し,あわせて著者らの開発したフローフロント追跡による動的可視化観察と成形品表面性状の相関から,その転写過程のメカニズムを解析した結果,およびこれに基づく対策の可能性について紹介する.
近年,電気自動車など自動車のエレクトロニクス化に伴い,電線配索部材の軽量化が求められている.軽量化の方策のひとつとして電線の細線化を行うが,高強度・高延性を有する銅材料創製が必要となる.本研究では,合金化などに頼らない結晶粒微細化強化に注目し,更に新規加工法『連続曲げ引抜加工』を用いることで,強度延性バランスの変化を試みた.本解説では,機械的・電気的特性と金属のミクロ組織の変化について系統的に調査し,加工による特異的な力学特性変化並びに加工素過程と金属組織の関係について解説する.
射出成形品の表面に金属薄膜を形成し,電気的機能と機械的機能を有したデバイスをMID(Molded Interconnect Device)と呼ぶ.筆者らはMID をセンサやアクチュエータなどのメカトロデバイスに応用することを目指しており,EHD(Electro hydro Dynamics)ポンプの機能を有するMID の開発の研究をしている.電場を印加すると流動する機能性流体があり,EHD ポンプはその流体を応用したものである.EHD ポンプは機械的な駆動部を必要とせず,小型ポンプとして活用できる.本報ではMID 工法を用いて流路内壁に2 重螺旋状の電極対を形成したEHD ポンプを製造し,印加電圧1.4kV において平均流量6.5cm3/min で流動することを確認した.
CFRP 複合材構造において致命的な衝撃損傷を検知するため,超音波ガイド波を用いた健全性診断システムの構築を試みている.そして,その際に重要となる超音波素子の最適配置を,波動伝播の有限要素解析により検討するため,本研究では,衝撃損傷の簡易モデル化法を検討した.具体的には,多数の剥離と亀裂から成る衝撃損傷を,擬似等方性の均質な円錐台領域に置き換え,その領域内の剛性マトリックスを低下させた.その低下率は,超音波速度変化の計測結果と断面観察結果に基づいて決定した.そして,詳細な多重剥離モデルと比較することで,本モデル化法の有効性を検証した.
本研究では複合めっきを用いてロール金型表面の微細構造を製作する方法を提案した.その結果次のことが示された.(1) 始めに沈降共析法でめっきを行い,そのあと再度めっきを行うことで,陰極上に微粒子を高密度に共析させることに成功した.(2)上記の方法で,円柱状のロール金型表面に微粒子による微細形状を付与することが出来た.(3)上記ロール金型を用いて樹脂フィルムに微細形状の転写が可能であることを示した.
本研究では,金属表面の微細構造を利用した金属- 樹脂直接接合技術に関して,表面粗化手法として陽極酸化処理を用いて,その接合性の検証や,処理条件と接合強度の関係について調査した.陽極酸化処理条件として処理電圧やエッチング時間などを制御し,20 ~ 300 nm 程度の孔構造を作製し,樹脂との接合実験を行った.各サイズの孔構造を持つ金属試験片と樹脂との間で,10 MPa 以上のせん断強度を持つ直接接合が形成された.また表面処理条件の比較から,表面の孔構造のアスペクト比が接合強度に影響を与えることを示唆する結果が得られた.
本研究では,これまでの多品種・少量生産以外にマイクロ加工と難加工性材料へ適用可能な新たな熱援用ダイレスフォーミング装置の開発を行った.具体的には,従来の高周波誘導加熱による局所加熱方法のほか,超局所加熱が可能なレーザーおよび超高温まで加熱が可能なアセチレンバーナーを用いたダイレスフォーミング装置の設計・開発を行った.さらに開発した装置を用いて引抜き加工によるマイクロチューブの創製と蛇腹形状を有するベローズ管の成形,難加工性セラミックスチューブへの適用を行い,開発した装置の有効性の検討を行った.
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