天井等の非構造材の落下被害について,著者らは1995 年の兵庫県南部地震の頃からその危険性を指摘し続けているが,最大震度7 を連続して記録した平成28 年熊本地震でも,不特定多数の人々が集まる大規模施設において多くの被害が発生した.本報では,音響性能を確保する上で重たい天井を設けざるを得ない公共ホールや大人数を収容でき避難所としての大きな役割を担う公共大型屋内運動施設からそれぞれ1 施設を取り上げ,その調査結果を報告する.
天井落下事故は後を絶たず,特に音響性能を確保するため非常に重たい天井となるホール天井等の落下防止対策は急務である.天井落下防止ネットはフェイルセーフとして有効な手段であるが,衝撃荷重の算定やケーブル等に生じる負担の軽減が課題となっている.本報ではケーブル端部に取り付けてケーブルに生じる軸力を低減する緩衝装置の天井落下防止ネットへの導入を提案し,その効果を把握するために緩衝装置の性能をモデル化し,ケーブルネットの解析モデルに組み込んで数値解析を行った結果を報告する.
平成28 年(2016 年)熊本地震により木造住宅が甚大な被害を受けた.本研究室では,被害調査を実施しており,木造住宅の被害の傾向および伝統木造建築の構造調査の結果を示す.熊本市以南,特に益城町を中心に木造住宅の甚大な被害が確認された.破壊パターンは倒壊,1 階崩壊による破壊が多く認められた.熊本市内では伝統木造建築の被害が散見され,1 階の層変形などの被害が多くみられた.一方西原村では住宅被害だけでなく地盤被害も多く確認された.詳細調査を実施した伝統木造町家建築では,短辺方向に耐力要素が少なく南東方向への残留変形が非常に大きかった.しかしながら倒壊には至っておらず,今後はその要因分析が必要と考えられる.
非排水繰り返し三軸試験により,同等の密度とせん断波速度をもつ不攪乱試料と再構成試料の液状化強度特性を比較した.品質の良い沖積砂質不攪乱試料をジェルプッシュサンプリングにより採取した.再構成試料は,乾燥突き固め法と湿潤突き固め法により不攪乱試料と同等の密度になるように作成した後,せん断波速度が不攪乱試料と同等であることを確認した.試験結果より,同等の密度とせん断波速度を持つにも関わらず,不攪乱試料と再構成試料の液状化強度特性には違いがあった.セメンテーション効果や供試体の構造異方性の違いが影響した可能性がある.
2011 年に発生した東北地方太平洋沖地震は,震源から遠く離れた関東地方沿岸部に深刻な液状化被害をもたらした.将来の地震における再液状化の可能性を考慮して,過去の液状化被害を定量的に記録し,地震防災に役立てることは極めて重要である.そこで,本研究では神奈川県川崎市沿岸部を対象に,航空レーザー測量で得られた地震前後の標高変化から地殻変動成分を除去し,液状化による地盤沈下量を定量的に示す液状化沈下マップを作成した.作成したマップは,人工的な地形改変の影響を含むものの,液状化被害報告書とよく整合する結果となった.
2016 年4 月14 日,Mw6.2 の地震が熊本地方で発生し,引き続き本震Mw7.0 が16 日に発生した.一連の地震により,熊本市,益城町,南阿蘇郡およびその周辺の地震断層に沿った地域において様々な地盤災害や構造物被害が発生した.本報告では筆者らが地震後におこなった現地調査で確認された地震被害,特に宅地と土構造物への被害の概要を報告する.益城町においては主に地震動によるものと考えられる建物の構造的被害が生じた.一方,南阿蘇郡の宅地造成地においては,地震動による地盤の大規模な変形により大きな被害が生じた.また九州自動車道で発生した大規模な盛土崩壊に関しては,発生箇所が旧河道上に位置するため,ゆるい河川堆積物で構成される基礎地盤が地震時に液状化したことで被害が生じたと考えられる.
液状化強度特性と微小変形特性の間には相関があることが知られている.しかし,これまでの研究では,相対密度とせん断剛性率,および液状化強度特性の関係をまとめた例は少ない.そこで本研究では,豊浦砂を対象として,せん断剛性率と液状化強度との関係を整理するため,供試体密度を一定
(Dr=50%,75%)となるように調整したうえで排水・非排水繰り返し載荷履歴を与え,構造の異なる供試体の液状化強度特性を比較した.鉛直方向の排水繰返し載荷を与えることにより,構造異方性が発達したためと考えられる.一方,液状化履歴により供試体の異方性の低下と構造の弱化が生じ,液状化強度も大きく低下する傾向が得られた.
本稿は,自動車から歩行者までの多様な交通モードにおいて,移動体の性能・機能が将来大きく変換する将来像を考慮し,道路等の移動空間等のインフラ側が備えるべき機能,性能について,その計画・設計論,さらに,その運用技術やこれらを支える社会規範・制度等技術以外の関連条件について,中長期的な観点で「学」の立場より提言したものの概要版である.今後の高度道路交通システム(ITS)の推進にあたり,行政,民間,研究機関等の様々な立場の人が,共通の視点に立って研究開発,実用化,導入を進めるよう,ITS の方向性や今後のITS 全体を検討していく上で考慮すべき事項や課題を共有できる指針としての使用を想定している.
本研究は,石巻市における避難訓練の結果を報告するものである.2015 年11 月15 日(日曜日,天候:雨)に石巻市総合防災訓練において,各避難所と災害対策本部の情報共有を支援し,効率的な避難所運営を実施することを目的として避難所情報共有システムCOCOA を用いた検証を行った.COCOA は沼田研究室が開発している避難所情報共有システムである.本訓練により,各避難所における避難者数をリアルタイムに把握でき,効率的に避難者名簿も作成されるため要配慮者の把握も容易にできるなど,時系列的な状況変化に応じた効率的な避難所運営が実施できることが確認できた.