詳細な野焼き頻度分布についての知見を得るために、つくば市において巡回と定点カメラによる観測によって野焼き件数の分布を調査した。2015年秋季 (9~10月) に毎日巡回して燃焼物別の日別野焼き件数を調査し、降雨前に野焼き件数が多くなることが確認されたほか、野焼き件数の57%を占めた稲作残渣は稲の収穫時期から一定期間後に籾殻、稲わらの順で焼却されることが確認された。秋季の巡回調査に続き2016年8月まで4日に1度ほどの頻度で巡回し、月別野焼き件数を比較すると9~11月に多く、1~8月に少ないことが確認された。2016年1~12月にかけて行った筑波山山頂に設置した定点カメラからの観測では、1月、10月~12月に野焼き件数が多く、2~9月に少ないことが確認され、1日の中では午前10~11時および午後2~3時に野焼きが行われやすいことが確認された。2015年秋季の調査結果にもとづいて稲の収穫時期と気象条件から稲作残渣の年間野焼き発生量に対する日別野焼き発生量比を推計する回帰モデルを構築した。回帰係数から、降雨前に野焼き件数が増えること、強風により野焼き件数が減ることが定量的に確認された。構築されたモデルに都道府県別の稲収穫時期と気象データを適用して、従前研究では推計できなかった都道府県別の大気汚染物質排出量の日変動を、2013、2014年の稲収穫時期と気象データを適用して各年の野焼き発生量比の日変動をそれぞれ推計した。
2015年12月9、10日に名古屋で観測されたPM2.5質量濃度の日内変動が大きい高濃度イベントに対して、PM2.5自動測定機のテープろ紙を用いて3時間ごとに15種類の有機トレーサー成分の測定を行った。植物燃焼とプラスティック燃焼による一次粒子の有機トレーサー成分 (レボグルコサンなど) は、PM2.5質量濃度と同じく9日夜間および10日深夜に濃度が上昇した。一方、二次的に生成した有機トレーサー成分 (リンゴ酸など) の多くは、一次粒子の有機トレーサーとは異なり、12月10日のピークは見られるものの、9日夜間には明確な濃度ピークが見られなかった。また、PM2.5質量濃度に対する各有機トレーサーの含有率は、一次粒子の有機トレーサー成分の多くがPM2.5質量濃度と類似の時間変化を示した。このため、一次粒子濃度の増加が観測期間のPM2.5高濃度化に寄与したと考えられる。これに対して、二次生成由来の有機トレーサー成分は、12月9日夜間にはその前後の期間に対し含有率が減少する傾向にあり、10日深夜は、他の期間よりコハク酸と3-ヒドロキシグルタル酸のみ含有率が高い傾向にあった。このように、PM2.5の高濃度化現象に対する有機物質の寄与は、一次粒子と二次粒子とで大きく異なっていた。高時間分解能での有機トレーサー成分の解析は、時間変動の大きい高濃度事例の要因を解析するために有用である。
大気中水銀の化学形態には、ガス状元素態水銀 (GEM) 、ガス状酸化態水銀 (GOM) 、粒子体に付着した水銀 (粒子状水銀、PHg)が存在することが知られている。GEMは反応性が低く水に溶けにくいことから大気中での寿命が長く、一方、GOMとPHgは大気から除去されやすく、PHgはその粒径が乾性沈着に大きく影響する。大気中水銀の乾性沈着量を推定するためにはPHgの粒径分布を把握する必要がある。日本海に面する新潟県柏崎市の田園地域に位置する新潟工科大学の屋上において、PM2.5サンプラーとアンダーセンサンプラーの2種類のインパクター型の粒径別捕集装置を用いて石英繊維ろ紙上に浮遊粉じん (PM) を捕集し、加熱気化–金アマルガム捕集–加熱気化冷原子吸光光度法で水銀量を測定した。その結果、全PHgに占める粗大粒子のPHgの割合と捕集時の気温には両捕集方法とも有意な正の相関性が見られ、暖候期には粗大粒子のPHgの占める割合が高く、寒候期には微小粒子のPHgの割合が高くなることがわかった。沿岸地域のPHgの乾性沈着量を推計手法によって求める場合にはその粒径分布の気温依存性を考慮する必要がある。