大気環境学会誌
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53 巻, 5 号
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あおぞら
研究論文(原著論文)
  • 福尾 彩, 花岡 航己, 新井 智尋, 中井 里史
    2018 年53 巻5 号 p. 153-164
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/11/12
    ジャーナル フリー

    大気汚染の健康影響を把握するためには疫学研究が必要であるが、その中でも曝露評価の重要性が指摘されている。今日、欧米での慢性影響を対象とした大気汚染疫学研究では、実測よりも各種モデルを用いた曝露評価が主流となっており、その中でも土地利用情報等に基づくLand Use Regression (LUR) モデルが主に用いられている。しかし、日本では疫学研究を念頭においた検討事例は限られており、必ずしも十分にはモデルの特徴はわかっていない。本研究では、LURモデルにどのような特徴が認められるかを調べるために、横浜市を対象に窒素酸化物 (NOx)、二酸化窒素 (NO2)、浮遊粒子状物質 (SPM) のLURモデルを構築し、濃度分布図を作成した。2005年度の土地利用データおよび交通関連データ等を用いてLURモデルを構築した結果、自由度調整済み決定係数はNOx、NO2それぞれ0.88、0.81となり、さらにおおむね妥当と考えられる濃度分布図を得ることができた。SPMに対するLURモデルでの自由度調整済み決定係数は0.55であった。局地汚染の健康影響評価に用いるためには空間分解能の検討が必要となることや、LURモデル構築や評価に必要な濃度観測地点数が不足している可能性があると考えられた。

  • 西川 雅高, 久我 典克, 全 浩, 小柳 秀明, 大西 薫, 宇加地 幸, 永野 公代, 森 育子, 佐野 友春
    2018 年53 巻5 号 p. 165-185
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/11/12
    ジャーナル フリー

    タクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原など砂塵嵐がよく発生する北東アジア地域の砂漠・乾燥地帯の8地域において、1998年から10年以上にわたり表層土64試料を採取した。その表層土から細粒試料(粒径<100 μm)および微小試料 (<10 μm) を分離し、化学組成分析を行った。ゴビ砂漠東地域の試料は、CO3-C, Ca, Mgの含有量が他地域に比べ有意に低く、土壌色は最も明度が低く黄赤色を帯びていた。ゴビ砂漠東地域のCO3-Cは<0.5%、薄黄灰色の土壌色を呈すタクラマカン砂漠地域のCO3-Cは1.8%と高く、8地域の土壌色と炭酸塩鉱物の含有量の間に明瞭な関係性が認められた。風化抵抗性が強くかつ土壌中の主成分元素であるAlを基準とする元素含有量比のばらつき(地域差と呼ぶ:RSD%)は地域間の特徴を表している。地域差が大きかった主要元素はCO3-C, Ca, Mg, P, Sr (RSD;15–63%)、地域差が小さかった元素はK, Ti, Ba (RSD;7–9%) であった。地域差の大きかった主要元素Ca, Mg, P, Srを解析因子として、日本に飛来した典型的な黄砂16事例と本報告の8地域表層土によるクラスター解析を行い、その類似度による黄砂発生源地域の推定をした。クラスター解析による16事例の発生源地域の推定結果とSYNOP情報による砂塵嵐の観測地域と一致性が認められた。

研究論文(技術調査報告)
  • 中島 健太郎, 西 祐理子, 川田 彩香, 山口 真弘
    2018 年53 巻5 号 p. 186-193
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/11/12
    ジャーナル フリー

    オゾンなどによる越境大気汚染が顕著な長崎において、オゾンへの感受性が高いとされるハツカダイコンの生長を指標とし、オープントップチャンバー (OTC) 法を用いてオゾンの植物影響に着目した大気環境評価実験を行った。長崎大学構内(長崎県長崎市)にOTCを設置し、オゾン除去空気区と野外空気区(大気中のオゾンを除去しない区)の2処理区を設けた。1.4 Lポットで生育したハツカダイコンの本葉展開開始時に処理を開始し、1週間後にサンプリングを行って葉と葉柄(地上部)および下胚軸と根(地下部)の乾重量を測定した。この大気環境評価実験を2015年3月から10月にかけて計9回行った。いずれの実験においても地上部乾重量にオゾンの有意な影響は認められなかったが、5月中旬、9月および10月に実施した実験において、オゾンによる地下部乾重量の有意な低下が認められた。そこで、地下部乾重量のオゾンによる変化率と平均オゾン濃度との関係を調べたが、有意な相関は認められなかった。一方、単位オゾン濃度あたりの地下部乾重量の変化率と各実験期間中の平均気温および平均相対湿度との間に有意な負の相関が認められ(p<0.05およびp<0.033)、気温や相対湿度が高いとハツカダイコンに対するオゾンの悪影響が発現しやすいことが示された。以上の結果から、越境大気汚染が顕著な長崎で観測されるオゾンは、気象条件次第では、ハツカダイコンのようなオゾン感受性の高い植物に悪影響を及ぼすことが明らかになった。

  • 古澤 尚英, 板橋 秀一, 豊永 悟史, 村岡 俊彦
    2018 年53 巻5 号 p. 194-205
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/11/12
    ジャーナル フリー

    熊本県のPM2.5主要発生源及び越境・地域汚染の影響を把握するために、領域気象モデルWRFと化学輸送モデルCMAQを用いて、2014年冬季の熊本県中心部を対象としてゼロアウト法により発生源感度解析を行った。解析期間は越境移流の強い期間であり、PM2.5質量濃度の発生源感度は国外が7割、熊本県を除く九州が1割以下、熊本県内が2割であった。また、熊本県内の発生源種では農畜産と自動車の割合が大きかった。PM2.5主要成分であるNO3の8割、NH4の4割が熊本県内起源であり、両成分ともに農畜産が主な発生源と推定された。さらに、ゼロアウト法に加え、農畜産起源のNH3を20%及び50%削減した感度解析を行ったところ、排出量の削減とともにHNO3は増加、NO3は減少し、HNO3、NOx及びNO3の全体量はほとんど減少しなかった。一方で、排出量の削減とともにNHxは減少していたことから、熊本県内の農畜産起源のNH3が大気中のHNO3と反応し、硝酸アンモニウムを形成していることが示唆された。また、この感度実験結果から、NH3を20%から50%削減した範囲でNO3の感度に非線形性がみられた。CMAQの計算結果と後方流跡線解析から、HNO3の起源は主に中国沿岸地域だと推測され、冬季の熊本県内では硝酸アンモニウムの生成が重要な役割を果たしていることから、今後はHNO3の観測も重要だと考えられた。

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