大気環境学会誌
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55 巻, 4 号
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研究論文(技術調査報告)
  • 伊藤 美羽, 櫻井 達也, 森川 多津子, 茶谷 聡
    2020 年 55 巻 4 号 p. 159-168
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    不確実性が指摘されているNH3排出量を更新し、NH3濃度およびPM2.5中無機イオン成分濃度を対象に大気質モデルの再現性検証を実施した。NH3排出量の更新はEAGrid2010-Japanを対象に行った。まず農畜産起源排出量について、家畜業におけるNH3排出量から「堆肥施肥後の土壌からの揮散」を分離し、化学肥料施肥と合算したものに国内の施肥時期を考慮した月変動係数を適用した。続いて人・ペット由来のNH3排出量について、人口分布等の活動量を年次更新するとともに、人の発汗・呼吸、ならびにペット犬に係る排出係数を更新した。大気質モデルの再現性は2015年度の関東地域を対象に、複数の排出ケースに基づく感度解析から評価した。結果、農畜産起源排出量の更新により、農畜産域(神奈川県平塚市および群馬県前橋市)において暖候期のNH3濃度に対するモデル過大評価が改善した。さらに、人・ペットによるNH3排出量の更新により、都市郊外域(東京都狛江市および日野市)において同様に暖候期のモデル過大評価が改善した。PM2.5中無機イオン成分濃度では、人・ペット由来のNH3排出量を削減することで、特に暖候期におけるPM2.5中NO3成分の過大評価が関東の広範囲において改善した。

研究論文(原著論文)
  • 山村 由貴, 新谷 俊二, 力 寿雄, 中川 修平, 王 哲, 鵜野 伊津志
    2020 年 55 巻 4 号 p. 169-180
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    2018年7月16日から21日にかけて、九州・山陰・瀬戸内・北陸地方の複数の地点で、日平均値が50 μg/m3を超える高濃度PM2.5が観測された。大気エアロゾル化学成分連続自動分析装置による成分測定および化学輸送モデルCommunity Multi-scale Air Quality(以下、CMAQ)によるシミュレーションの結果、PM2.5の主成分はSO42−であり、SO42−は九州西方海上で濃度が上昇し、その後太平洋高気圧の縁辺流に沿って対馬海峡、山陰沖を通り、高濃度を維持したまま日本海(佐渡島付近)まで輸送されていたことがわかった。海上の汚染気塊は、日中の海風により山陰・北陸地方へ流入していた。前方流跡線およびCMAQのProcess analysisによる解析の結果、桜島火山から噴出したSO2が九州西方海上へ移流し、液相・気相反応によってSO42−を生成していたことが明らかとなった。一方、日本海上のSO42−は、気相反応による生成もわずかにあるが、水平移流・拡散によって九州西方海上から輸送されたものが主であった。以上から、本研究によって、夏季の太平洋高気圧条件下では、桜島火山から噴出したSO2および生成したSO42-が九州西方海上を経由して日本海上を輸送され、広域にわたる高濃度PM2.5事例を引き起こしたことが新たに明らかになった。

研究論文(技術調査報告)
  • 近藤 裕昭
    2020 年 55 巻 4 号 p. 182-190
    発行日: 2020/07/10
    公開日: 2020/07/10
    ジャーナル フリー

    比較的小規模の建設工事に伴う二酸化窒素(窒素酸化物)等の大気質の環境影響評価の手法の中で、春夏秋冬の各季節に1週間程度の気象観測を行って年間の大気安定度の出現分布を推定し、拡散計算を行うことがなされている。しかしながらこの手法がどの程度妥当なのかについて詳しく調査された資料は見当たらなかった。本技術調査報告では全国12か所、11年間の気象官署における取得データをもとにある1年の4季各1週間の観測から推定された年間の大気安定度D(中立)の出現頻度のばらつきと、その1年を除いた10年間の各年に実際に出現した大気安定度Dの出現頻度のばらつきが同程度という仮説についてF検定により検定を行った。その結果仮説が採択される割合は低く、一般には4季各1週間の観測から年間の大気安定度出現頻度を推定するのには問題があるという結果になった。一方、昼間の工事の場合大気安定度出現頻度を使用せず大気安定度をすべてDに固定して拡散計算を行うと、煙源から40 m程度以遠では大気安定度出現頻度を考慮した場合より高濃度になる。一般には工事現場から評価地点までの距離は100 m以上あることから年間の大気安定度出現頻度を用いずにすべて大気安定度Dで拡散計算を行った結果の濃度が基準を下回れば評価としては安全側を担保できることになる。

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