大気環境学会誌
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57 巻, 2 号
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研究論文(原著論文)
  • 茶谷 聡, 國分 優孝, 高橋 和清, 星 純也
    2022 年57 巻2 号 p. 35-52
    発行日: 2022/01/29
    公開日: 2022/01/29
    ジャーナル フリー

    2019年の秋季から2020年の夏季にかけて各季節2日間ずつ、東京都内の5地点において、大気中のVOC個別成分濃度の観測を行った。観測期間を対象に大気質シミュレーションを実行し、個別成分別に濃度の観測値と計算値を詳細に比較検証することにより、大気質シミュレーションと、その重要な入力データである排出インベントリに含まれる課題を検討した。いずれの季節や地点においても、VOCの濃度計算値は観測値よりも過小評価であり、特にAlkaneやKetoneの各成分の影響が顕著であった。大気中でのこれらの成分の反応性は低いため、日本国内の発生源の他、越境輸送を通した半球規模での過小評価の影響が示唆された。大気中での反応性を加味した場合には、AlkaneやKetoneの影響度は相対的に小さくなり、Alkeneの各成分の濃度の過小評価とAromaticの各成分の濃度の過大評価の影響がより顕著に現れた。個別成分の特徴から、燃料の漏出や工業系溶剤からの排出量の過小評価と、塗料からの排出量の過大評価が原因として考えられた。Biogenicの各成分の濃度も大幅な過小評価であり、都市部における植物からのVOCの排出実態や季節変動の解明の重要性が示された。本研究のように、VOC個別成分濃度の情報は、大気質シミュレーションや排出インベントリの課題を明確にするために極めて有用である。

  • 小原 大翼, 豊永 悟史, 古澤 尚英, 荒木 真, 山本 裕典, 矢野 弘道, 山崎 文雅
    2022 年57 巻2 号 p. 53-65
    発行日: 2022/02/10
    公開日: 2022/02/10
    ジャーナル フリー

    近年、PM2.5濃度は全国的に減少傾向にあり、今後は効率的な測定局の配置への移行を検討する必要がある。本研究では、都道府県等によるPM2.5測定局配置の効率化の検討に活用することを最終的な目的として、九州地域を対象に、Regression Kriging(RK)法を用いたPM2.5濃度の空間分布予測を行った。また、越境汚染などの影響を強く受ける九州地域の特性を考慮するため、化学輸送モデルで出力されたPM2.5中の硫酸イオン濃度を広域大気汚染の指標として説明変数に追加することを試みた。日平均値、年平均値及び高濃度平均値の3種類の値にRK法を適用し、それぞれ交差検証法により予測精度を検証した結果、いずれの値を用いた場合も良好な結果が得られた。日平均値を用いた場合について広域汚染指標を追加しない条件との比較を行ったところ、統計的に有意な予測精度の改善が認められ、測定局ごとに見ても全体の73%で指標値が改善していた。以上の結果から、いずれの平均値を用いた場合においても予測結果は十分な精度を有していたことが示された。また、地域の特性に応じた説明変数を導入することで、RK法の予測精度の向上が可能であり、特に測定局の密度が低い地域でその効果が大きいことも示唆された。

研究論文(技術調査報告)
  • 佐々木 博行, 遠藤 朋美, 佐藤 詩乃, 武 直子, 水戸部 英子, 家合 浩明
    2022 年57 巻2 号 p. 66-76
    発行日: 2022/02/10
    公開日: 2022/02/10
    ジャーナル フリー

    2016年5月2日–2021年3月29日に新潟県保健環境科学研究所敷地内(新潟曽和)において、従来の4段フィルターパック法(OFP法)とPM2.5用インパクタを装着したフィルターパック法(IFP法)の並行測定を実施し、ろ紙表面のガス・粒子間の変化や付着物による過大評価(以下総称して、アーティファクト)の影響を比較した。併せて、長期的なトレンド解析に資するため両法の一致性およびデータの連続性を検証した。その結果、粒子状成分であるnss-SO42−は両法の一致性が高かったが、Clの一致性はインパクタ表面の付着物を算入するかどうかに大きく左右された。また、NO3およびNH4+は季節により一致性が変化し、対応するガス状成分(HNO3、NH3)と相反する挙動を示したことから、OFP法とIFP法とでは生じるアーティファクトの程度が異なると考えられた。さらに、インパクタ表面には海塩や土壌由来の成分が付着しており、風速との相関関係が認められたことから、OFP法では強風下での雨滴や大気中の浮遊粒子の付着によるアーティファクトが生じる可能性が示唆された。粒子状物質と対応するガス状物質との和(HNO3+NO3、NH3+NH4+、HCl+Cl、SO2+nss-SO42−)として評価した場合は、いずれも両法の一致性は高く、特にHCl+Clはインパクタ表面の付着物を加えることで明確に一致性が改善した。したがって、OFP法における過剰捕集分を補正したガス・粒子の和として評価することで、OFP法およびIFP法の一致性は高く、これまで得られたデータとの連続性は保たれると考えられた。

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