微小粒子状物質(Particulate Matter, PM)およびオゾンの観測を、越境大気汚染が卓越する春季(2–4月)に長崎県福江島において行った。2020年の福江島における観測を過去の観測結果と比較すると、PM2.5濃度およびPMに含まれる硫酸イオン、硝酸イオン濃度は減少していた。オゾン濃度についても、PM2.5濃度が35 μg/m3より高濃度の場合のみ抽出すると、例年に比べ低下していた。福江島は日本の西端に位置し越境大気汚染の影響を受けやすい地域である。新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の拡大に伴い、中国では経済活動が低下し人為起源の大気汚染物質の排出量が減少した。2020年は、中国から日本へ越境輸送される大気汚染物質の濃度が減少したと推測され、その要因のひとつとして、COVID-19の影響も考えられる。
本研究では、大気粉じん、堆積物、灰、重油の認証標準物質 (CRM) の金属元素、鉱物組成、強熱減量の分析を行った。さらに金属元素組成の類似性に基づいて試料を分類し、それぞれの試料の特徴を明らかにした。都市大気粉じん試料は長石類、石英、硫酸塩鉱物、燐酸塩鉱物からなり、As、Se、Sbの濃縮係数 (EF) が102以上であった。トンネル粉じん試料は石英を主要構成鉱物とし、Zn、Mo、Ag、Cd、Sb、PbのEFが102以上であった。主に長石類や石英からなる模擬黄砂試料、土壌試料、黄土試料ではEFが102以上の元素が観察されなかった。道路粉じん試料は石英を主要構成鉱物とし、ある試料のSb、W、PbのEFは102以上であったが、別の試料ではEFが102以上の元素が観察されなかった。石炭燃焼灰試料ではEFが102以上の元素が観察されなかった。ばいじん試料および重油試料は、珪酸塩鉱物を主要構成鉱物として含まなかった。ばいじん試料のZn、Se、Ag、Cd、Sb、Pb、重油試料のV、Ni、As、Se、Ag、Cd、MoのEFは102以上であった。本研究で得たCRMの認証値が付与されていない元素の分析値は、信頼性を高めるために他の研究機関による検証を経る必要がある。検証の後に、本研究の分析値が全国で環境大気試料の金属元素分析を行う分析作業者の精度管理に役立てられるようになることが期待できる。
COVID-19の蔓延に対し中国ではロックダウンという手段がとられた。この間には人為起源排出量が減少し、大陸からの越境輸送も変容したことが想定される。わが国の遠隔域(長崎県五島、島根県隠岐、新潟県巻、宮城県箟岳)におけるエアロゾル化学成分連続自動分析装置の観測データからは、2020年2–3月には2018、2019年の同期間に比較してPM2.5、硫酸塩(SO42−)、硝酸塩(NO3−)濃度が30~50%程度減少したことがわかった。この要因を化学輸送モデルにより考察したところ、SO42−の減少は中国のSO2排出量がロックダウン時に大幅に減少したことが要因で、その影響は東日本まで広く及んでいた。一方で、NO3−の減少については、西日本では中国のNOx排出量減少の影響も見られたが、記録的な暖冬という気象場の差が支配的な要因と推定された。