大気環境学会誌
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59 巻, 1 号
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総説
  • 向井 人史
    2024 年 59 巻 1 号 p. 8-22
    発行日: 2024/01/10
    公開日: 2024/01/10
    ジャーナル フリー

    大気粉じんにどのような元素が含まれるかという科学的な評価は重要な課題である。特に日本の粉じんは大陸から輸送された成分を含んでおり、長距離輸送を含めた大気粉じんの元素の評価や理解が重要である。ここでは、長年行ってきた隠岐島での大気観測を基に、Pbの特徴をPb/Zn比や同位体比とアジアの国々からの長距離輸送との関係を整理した。特に、中国からの影響について、現場のデータと比較しつつ鉛同位体比をトレーサーとして評価しその利用が1990–2000年代初期で有効であったことを示した。一方、2000年以降中国のPb/Zn比や鉛同位体比、また長距離輸送観測時のそれらの特徴が変化してきたため、特に鉛同位体比の地域特性を再整理した。それによると、近年の中国はかつてのような高い207Pb/206Pb比を示さず、全体的に日本に近い値にシフトしてきていた。一方208Pb/206Pb比は変わらず相対的に高い傾向を持っており過去の評価は有効であった。しかし中国(特に夏季)や、韓国由来の鉛同位体比には90年代になかった低い207Pb/206Pb比、208Pb/206Pb比が現れ、長距離輸送の新しい特徴としての理解が必要であった。今後の長距離輸送研究に役立てるべく近隣諸国の鉛同位体比の特徴を新たな図として提案した。その他、研究した興味深い微量元素について現在の中国のデータと関連し紹介した。

研究論文(原著論文)
  • 岡田 弦大, 松原 隆弥, 高見 昭憲, 吉野 彩子, 椎木 弘, 定永 靖宗
    2023 年 59 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2023/12/15
    公開日: 2023/12/15
    ジャーナル フリー

    長崎県福江島に位置する「大学研究機関共同利用 福江島大気観測施設」にて、2022年2–5月に有機硝酸の連続観測を行った。先行研究で開発した熱分解–キャビティ減衰位相シフト分光法を用いて有機硝酸の濃度測定を行った。観測期間中におけるPNs(ROONO2:Rは有機骨格)、ONs(RONO2)の平均濃度はそれぞれ0.44±0.33、0.26±0.14 ppbv(1σ)であった。また、PNsは昼間に高く、夜間に低い日内変動を示した一方、ONsは規則的な日内変動を示さなかった。福江島に到達する気塊を、後方流跡線解析を用いて、ロシア、中国北部(NC)、韓国、中国北部・韓国(NC+KR)、中国南部、日本、海由来に分類し、それぞれの気塊由来における濃度変動を調べた。2、3月はPNs、ONsともにNC由来が最も高い濃度であったが、4、5月になるとNC由来の濃度は大きく減少し、NC+KR由来が最も高い濃度であった。このような濃度変動となった原因として、大気寿命と大陸から福江島への輸送時間の関係が挙げられる。具体的には、4、5月のNC由来の気塊では輸送時間がPNsの大気寿命よりも長く、大陸で生成したPNsの大部分が福江島に到達するまでに消失する一方、NC+KR由来ではNC由来より輸送時間が短く、輸送過程におけるPNsの消失割合が低かったと考えられる。

入門講座
資料
  • 2024 年 59 巻 1 号 p. A15-A30
    発行日: 2024/01/10
    公開日: 2024/01/10
    ジャーナル 認証あり

    常時監視測定が行われている大気汚染物質の中で、光化学オキシダントの環境基準達成率だけが依然として極めて低い状況にある。光化学オキシダントのほとんどが光化学反応で生成するオゾンであること、その生成に関与する前駆物質が窒素酸化物と揮発性有機化合物であることは論をまたない。それら前駆物質の排出削減を行えば光化学オキシダント濃度が下げられるはずだが、光化学オゾンの生成量と前駆物質濃度の増減は単純な比例関係にないため、既往の対策だけでは十分な効果が得られていないのが現状である。このような光化学オキシダント問題に関する閉塞感を打破するため、環境研究総合推進費では、光化学オキシダント生成・消失過程に関与するPANなど多物質の動態解明と反応機構の精査、原因物質の低減化対策効果に関する新評価方法の確立、大気汚染予測システムの高精度化に資する開発研究などの必要性が指摘され、それに応える行政要請研究課題が複数採択された。本集会では、環境省政策担当者並びに推進費研究課題代表者から最新の政策動向や研究成果について講演をいただき、それに続いて、会場参加者からの様々な質問に4 名の講演者が答える総合討論も企画した。100名近い参加者の皆様、講演者並びに座長の方々、そして年会実行委員会のおかげにより盛会となりましたこと、改めて厚く御礼申し上げます。

  • 2024 年 59 巻 1 号 p. A31-A49
    発行日: 2024/01/10
    公開日: 2024/01/10
    ジャーナル 認証あり

    マイクロプラスチックは、海洋、河川、道路粉塵などの環境媒体のみならず、ヒト肺、気管支、心臓、血液、母乳、妊婦の胎盤、糞便、血液などからも検出されている。モデル研究によると、マイクロプラスチックの体内への摂取経路として経気道曝露が最も重要であるが、大気中マイクロプラスチック(Airborne MicroPlastics; AMPs)の実態と健康影響は不明である。このことを背景として、2021年より環境研究総合推進費「大気中マイクロプラスチックの実態解明と健康影響評価」(JPMEERF20215003)(Airborne Microplastics and Health Impact、略称:AMΦプロジェクト)を開始した。AMΦプロジェクトは、サブテーマ1「大気中マイクロプラスチックの迅速分析法確立と実態解明」、サブテーマ2「大気中マイクロプラスチックの環境動態モデリング」、サブテーマ3「大気中マイクロプラスチックの呼吸器影響の解明」の3つのサブテーマからなる。

    本特別集会では、AMΦプロジェクトの研究成果を大河内 博氏(研究代表者・サブテーマ1 リーダー、早稲田大学)、反町篤行氏(サブテーマ1、東洋大学)、梶野瑞王氏(サブテーマ2 リーダー、気象研究所)、石原康宏氏(サブテーマ3 リーダー、広島大学)からご紹介するとともに、ゲストスピーカーとして森川多津子氏(自動車研究所)、本田晶子氏(京都大学)をお招きして最先端研究についてご講演いただいた。100名を超える参加者があり、活発な議論が交わされた。

  • 2024 年 59 巻 1 号 p. A50-A71
    発行日: 2024/01/10
    公開日: 2024/01/10
    ジャーナル 認証あり

    光化学オキシダント(Ox)濃度の低減に向けての削減戦略では、基準年のVOC排出量の3割削減の実現により、改善が期待されたが、環境基準の達成率は低い水準を推移している。この予測と現状の不一致の原因を解明するために室内実験、野外実験、数値モデル計算等による、酸化性ガスのエアロゾルへの取り込み、酸化性ガスの寿命を決める物質生成と微細過程のモデルへの取り込み、数値モデル計算による削減戦略のこれまでとこれから、さらに開発途上国の深刻な大気汚染の現状について公表された。世話人の把握による対面参加者数は概数であるが、約60名強であった。

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