落葉期の幹空間における顕熱と水蒸気の輸送量と平均の濃度勾配との関係を明らかにするために, 落葉広葉樹林内において研究を行った。熱収支観測は林床面における落葉層の貯熱量を考慮して行い, その結果により落葉層内から大気中への蒸発量が求められた。樹冠下においては, 顕熱は落葉層表面から上向きに輸送され, 2高度の温度の鉛直分布も上向き輸送を示した。水蒸気の輸送は上向きに行われたが, 2高度の比湿勾配は下向き輸送, すなわち大気から林床表面への輸送を示した。大気中では, 水蒸気の輸送は比湿の鉛直分布の上で逆勾配となった。この研究においては2高度の気温および比湿の差を求めるために, 落葉層の表面または落葉層内の乾球, 湿球温度の値を2高度の下部の値とした。そうすることによって, バルク係数が求められ, 蒸発量の推定が可能である。
潜熱輸送は5月の無降雨期間に, 放射収支量の30%以下を占めた。降雨直後には, 全受熱量の100%以上の割合が潜熱輸送量となった。蒸発量は5月には降雨後に2mm/日, 無降雨期間に0.5-0.8mm/日, 11月には降雨後に2mm/日, 無降雨期間に0.3-0.5mm/日であった。
温度および比湿の鉛直分布から, 顕熱および潜熱のバルク係数を求めた。顕熱は渦相関法により, 潜熱は秤量法で別に求めた。顕熱のバルク係数
Chは日中に0.015-0.2, 夜間に0.001-0.01で, 風速0.5m/s以上で一定値を示す。風速0.4m/s以下では風速に比例して減少した。日射量が少ない11月には, 値は一定値を示さない。潜熱のバルク係数
Ceは日中に0.015-0.35で, 5月の例では夜間に2-3倍に増大した。日中については
Ce=Chはほぼ成り立つが, 早朝および夜間については
Ceは文献で得られている値より大きく,
Chについては逆に小さな値となった。
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