隕石母天体内での流体(H2O)のふるまいは,これまで全く不明瞭であった.これら流体のふるまいに制約を与えるため,近年,リン酸塩鉱物の岩石学的,同位体的研究が盛んに行われてきた(e.g., Jones et al., 2011; Yanai et al., 2012). 本講演では,系統的に,熱変成度の異なるLL4-6のリン酸塩鉱物に含まれる微量結晶水の定量及び水素同位体組成を報告する予定である.
CMコンドライト隕石NWA5958のType-A CAIの粗粒なメリライトの10Be/9Be初生比は4.6×10^-2であった。この値はCV隕石中のCAIのメリライトの初生比(e.g. 9.5×10^4;MacPherson et al. 2003,7.2×10^4; Sugiura et al. 2001)に比べ大きな値となった。またCIコンドライトで規格化した希土類元素存在度はEuに正の異常が見られる平坦な存在度を示し、一方酸素同位体比はCVコンドライト隕石中の多くのCAIsのメリライトが16O-poorを示すのに対し、このCM隕石中のメリライトは16O-richであった。以上の分析結果から、このCAIは太陽近傍にて再加熱され、メリライトは再溶融を経験した。またこのCAIは形成後、円盤内で強い太陽宇宙線を浴びたため、10Beが核破砕反応でCAI中に生成されたと考えられる。
Nagao et al. (2011) によるはやぶさ試料の希ガス同位体分析は太陽風照射とそれに伴う太陽風起源He/Ne間の分別を明らかにした.しかし,希ガス分析は粒子一粒ごとの結果でありSTEM観察との直接比較を行うには希ガス分析事前にSTEM観察を行うなど,分析方法の工夫が必要である.そこで,我々が開発したポストイオン化二次イオン質量分析装置LIMAS(Laser Ionization Mass Nanoscope)を用いることで,希ガス同位体分析を数十nmスケールの空間分解能で行うことが可能となり得る.本発表では新しい局所希ガス同位体分析手法をもとに,イトカワ表層での太陽風照射の履歴に関して期待される結果について述べる.
バイオマーカーを使った古水温指標で最近、真正眼点藻から検出されるC28とC30 1,13-ジオールおよび1,15-ジオールの量比を用いた長鎖ジオール指数(Long-chain Diol Index (LDI); Rampen et al.,2012,GCA)という指標が新たに古水温指標として提案されている。また、演者らの研究グループでは、表層堆積物データによる水温-長鎖ヒドロキシメチルアルカノエイト指標との関係からヒドロキシメチルアルカノエイト指標(12-hydroxy Methyl Alkanoate index (MA12))として提案している(Kobayashi et al., 2012)。本研究では、それら新しい水温指標を日本近海の堆積物コアに応用し、海洋表層水温の年代変動を復元したので報告する。
サンゴ骨格のδ18OとSr/Ca比は表面海水温(SST)復元に用いられる代替指標であるが、それらは骨格成長速度の影響を受け、環境変化を正しく記録しないという問題が指摘されている。McConnaughey (1989)は、δ18Oはサンゴの骨格成長速度が速いほど軽くなることを示した。一方でSr/Ca比には成長速度依存性がないことが、近年のサンゴの飼育実験の結果から明らかになってきた(Inoue et al., 2007; Hayashi et al., 2013)。本研究では熊本県天草市牛深町から採取されたハマサンゴのδ18OおよびSr/Ca 比の骨格成長速度依存性の評価を行った。本研究の結果、Sr/Ca比は成長速度に依存しないことが明らかになり、Sr/Ca比は非常に優れたSSTの代替指標であることが示唆された。これにより、温帯域サンゴを使用した温暖化の長期復元が可能になると考えられる。
白亜紀のような古代の堆積物中には陸上高等植物に由来する有機物片が普遍的に存在している.これらは主に植物体を構成するリグニンやクチンといった抵抗性高分子から構成され,化学的に安定で微生物分解や続成作用に抵抗性を持つため選択的に保存されたものである.これ等の有機化合物は分類群や生育環境によってその組成が特徴的に変化するため,化学分類指標や古環境指標などへの応用が期待されているが,地質時代の堆積物で検討した例は少ない.演者らの研究グループでは,白亜紀の陸上植物化石の化学分析により,抵抗性高分子を構成しているエステル結合態の飽和脂肪酸ユニットの組成が部位により異なることを明らかにし,化学分類指標を提案している(Ikeda et al., submitted).本研究では,様々な植物組織が含まれる海成堆積物中の植物由来の不溶性有機物(ケロジェン)に応用し,古植生や陸域古環境の復元に適用できるかを検討した.