岩手医学雑誌
Online ISSN : 2434-0855
Print ISSN : 0021-3284
72 巻, Supplement 号
増田友之教授退職記念論文集
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
Review
  • 前沢 千早, 安平 進士, 柴崎 晶彦, 渡辺 彩乃, 角田 加奈子, 三浦 慎平, 天野 博雄, 西谷 匡央
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 233-241
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル オープンアクセス
    遺伝子研究の進歩と,チロシンキナーゼ阻害剤や免疫チェックポイント阻害剤などの新規治療法の開発は,皮膚悪性黒色腫の患者管理にパラダイムシフトをもたらした.悪性黒色腫は悪性腫瘍の中でも最も変異率の高い腫瘍のひとつであり,新規治療法はこれらの変異によって影響を受ける.悪性黒色腫は,その内包する遺伝子変異によって4つのサブタイプに分類される.欧米の患者で,最も一般的なドライバー変異であるBRAF遺伝子の変異は,日本では稀である.遺伝子変異のプロファイルは,増殖,転移, 薬剤感受性などの腫瘍の生物学的特性と強く関連している.本綜説では,皮膚悪性黒色腫における突然変異と腫瘍生物学との関係について述べ,黒色腫患者の治療における遺伝子研究の重要性について解説する.
  • 阿保 亜紀子, 佐藤  孝, 菅井  有
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 243-252
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル オープンアクセス
    悪性リンパ腫の確定診断は採取したリンパ組織の病理組織学的検索によりなされるが,免疫染色を始めとした標本作製には時間を要する.捺印細胞診は,生のリンパ節をスタンプし,染色後直ちに鏡検可能であり,短時間でリンパ組織を構成する個々の細胞形態を観察することが可能である.細胞診断が良・悪性の判断を左右する最初の診断につながることから,リンパ組織の生検時には捺印細胞診標本の作製が推奨される.本稿では悪性リンパ腫の概論について述べ,リンパ節の正常構造を示しながら,反応性リンパ節症と鑑別を要する悪性リンパ腫の細胞形態学的特徴を解説する.
  • 佐藤  孝, 阿保 亜紀子, 笹生 俊一
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 253-260
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル オープンアクセス
    脾臓は血液中の老廃血球あるいは異常血球や異物を捕捉,処理する濾過装置として機能している.また免疫装置として感染防御に重要な役割を果たしている.脾臓の微小循環は赤脾髄および辺縁帯で開放性に終わっており,血液は動脈末端より細網性構築内に流出する.血液濾過機能は,この開放性微小循環と密接に関わっているが,赤脾髄,辺縁帯では,その濾過機能は異なっている.赤脾髄では主に老廃血球や異常血球が処理されるのに対して,辺縁帯では,抗原物質や免疫複合体などの微小な物質が捕捉される.
Original
  • 三河 須美子, Sakuma Tsutomu , 佐藤  孝
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 261-270
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル オープンアクセス
    ラット脾臓を用いて,マクロファージに対する 4 種類のモノクローナル抗体, RSM-1, RSM-2, RSM-3, RSM-4 を作製した.これらの抗体を用いて,脾臓を含めたリンパ組織におけるマクロファージの分布や局在様式について免疫組織学的に検討した.RSM-1, RSM-2 はマクロファージ全般にわたり膜表面に発現する共通抗原を認識しているのに対して,RSM-3, RSM-4 は特定のマクロファージに発現する抗原を認識した.リンパ組織におけるマクロファージの分布様式やその機能にはheterogeneity が認められる.今回作製した RSM-1,RSM-2,RSM-3,RSM-4 は,マクロファージの分布様式や多様な機能の解析に応用できると思われた.
  • 及川 浩樹, 及川 寛太, 水谷 久太, 新田 浩幸, 赤坂 祐一郎, 野田 晴也, 松浦 佑樹, 佐藤  孝
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 271-281
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル オープンアクセス
    アファディンはアドヘレンスジャンクションの構成分子でネクチンを細胞内アクチンに繋ぐ役目を担っている.最近,アファディンの発現低下が乳癌,大腸癌,膵癌, 子宮内膜癌の進展に関わっている事が示された. 本研究ではアファディンの発現状態が肝細胞癌の浸潤能に影響を及ぼすかを検討すると共に,その分子機構を検討した.肝細胞癌株でのアファディンの発現状態をウエスタンブロットで検討すると,HepG2で高発現を,HLE, HLFで低発現を認めた.マトリゲルインベイジョンアッセイで浸潤能を検討すると,アファディンの発現を亢進させたHLEとHLFは浸潤能の抑制を示したが,アファディンの発現を抑制したHepG2では浸潤能は亢進していた.アファディンの発現抑制でSrcキナーゼは活性化しており,Srcキナーゼ阻害剤(SU6656)の投与でアファディンの発現抑制により亢進したHepG2の浸潤能は抑制された.
  • 渡辺 彩乃, 角田 加奈子, 天野 博雄
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 283-288
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル フリー
    尋常性痤瘡は,外用剤の進歩により改善する症例が増えているが,痤瘡を繰り返す難治な症例をしばしば経験する.ルミナス社のintense pulsed light (IPL) 機器M22TM acne treatment filterは400-600 nmおよび800-1200 nmの波長域を持ち,短波長によりアクネ桿菌の殺菌や抗炎症作用,長波長により脂漏の改善が期待できる.今回我々は,IPL治療による尋常性痤瘡への有効性を検討するため,M22TM acne treatment filterを用いて,患者6例(全例女性,平均年齢27.2歳)を対象として治療前後のポルフィリン量を画像解析装置VISIA-CR® で解析した.また,治療効果の写真判定をスコア化し,治療満足度を治療前後のdermatology life quality indexを用いて評価した.検討結果からは尋常性痤瘡に対するIPL治療の有効性が確認された.
  • 及川 寛太, 及川 浩樹, 水谷 久太, 遠藤  啓, 及川 純子, 及川 慶一, 鈴木 一幸
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 289-297
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル オープンアクセス
    非アルコール性脂肪性肝炎 (nonalcoholic steatohepatitis, NASH) は進行性の慢性肝障害で,その発症・進展に酸化ストレスが大きく関わっている.本研究では,血清を用いたderivative of reactive oxygen metabolites test (d-ROMs test) がNASH群における酸化ストレス度の評価に有用であるかを検討した.また,d-ROMs testが肝臓自体の酸化ストレス度を反映しているかを検討するため,生検された肝組織で8-hydroxy-2'-deoxyguanosine (8-OHdG) の免疫染色を行った.NASH群では,健常者群に比較し,有意にd-ROM値が高値であり,肝組織でも8-OHdG陽性肝細胞を多く認めた.更にNASH群ではd-ROM値と8-OHdG陽性率の間に正の相関を認めた.d-ROMs testはNASH例の酸化ストレス度評価に有用である事が示唆された.
Case Report
  • 角田 加奈子, 大西 正純, 渡辺 彩乃, 前田 文彦, 天野 博雄
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 299-304
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル オープンアクセス
    乳房外パジェット病(EMPD)は,高齢者に好発するアポクリン腺由来の皮膚悪性腫瘍である.多くの症例は,拡大切除後の予後は良好だが,進行期のEMPDでは有効な化学療法は確立されていない.今回我々は,鼠経,骨盤,傍大動脈リンパ節,骨,脳に転移がみられた73歳男性の外陰部EMPD患者に対するドセタキセルの治療経験を報告した.ドセタキセル(DTX)投与は,皮膚原発腫瘍とリンパ節転移に有効だった.しかし,治療開始から20ヵ月後に髄膜癌腫症のために死亡した.当科においてDTXは,7例の進行期EMPDに投与され,3例が部分奏効,4例が進行だった.進行4例中,死亡例は3例で,いずれも髄膜癌腫症を合併していた.今後,DTXは進行期EMPD患者においてファーストライン治療となることが期待される.また,髄膜癌腫症を合併した患者の治療方法の確立も重要と考える.
  • 多田 広志, 三又 義訓, 室岡 玄洋, 西田  淳, 土井田 稔, 佐藤  孝
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 305-309
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル オープンアクセス
    腫瘍性骨軟化症は腫瘍によるfibroblast growth factor 23(FGF23)の過剰産生が低リン血症性骨軟化症を引き起こす稀な疾患である.今回,大腿部軟部腫瘍が原因で骨軟化症をきたした症例の治療を経験したので報告する.41歳男性.約1年前から背部痛と身長の短縮を認めた.低リン血症性骨軟化症で当院へ紹介になった.MIBIシンチグラフィーにて右大腿部に集積を認めた.静脈サンプリングでは右大腿近位部でFGF23が高値であった.MRIにて大腿動脈に接する15 × 10 mmの腫瘍性病変を認めた.以上より大腿部軟部腫瘍による腫瘍性骨軟化症と診断し,手術をおこなった.病理組織はhemangiopericytoma様の所見を示していた.血中FGF23が高値を示していたことからは,phosphaturic mesenchymal tumorと診断した.術後FGF23の値は30分で半減したが,血中カルシウムとリンの値は大きな変動を示すことはなかった.
  • 西谷 匡央, 佐藤  孝, 加藤 廉平, 菅井  有
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 311-316
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル フリー
    腎細胞癌は腎の近位尿細管由来の悪性腫瘍であり,組織型は淡明細胞型腎細胞癌が最も多い.根治切除不能ないし転移を伴う淡明細胞型腎細胞癌に対して,一次治療にチロシンキナーゼ阻害薬やmTOR1阻害薬が使用され,二次治療として免疫チェックポイント阻害薬の使用が考慮される.本症例は, 肺,肝および腟転移を伴う腎細胞癌で,腎摘出術後にスニチニブが投与された.副作用が出現したためニボルマブに変更するも治療効果に乏しく死亡した.腎腫瘍手術検体(治療前)および剖検時転移巣(治療後)の組織標本について免疫組織化学的検討を行った.腫瘍細胞はPD-L1発現を欠いており,腫瘍間質での免疫細胞の浸潤が乏しい点がニボルマブ不応の理由として考えられた.
  • 谷口 幸裕, 齋藤 永一郎, 及川 浩樹, 田中 文隆, 渡邊 収司, 及川 寛太, 赤坂 祐一郎, 松浦 佑樹, 野田 晴也, 旭  浩一
    2021 年 72 巻 Supplement 号 p. 317-324
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/10
    ジャーナル オープンアクセス
    症例は60代の男性.10年前に尋常性乾癬と診断され,紫外線療法とステロイド外用での治療が開始された.2年前に下肢の浮腫が出現するもループ利尿薬にて軽快した.2ヵ月前に下肢の浮腫が再発したため, 精査目的で当院に紹介となった.入院時検査所見でネフローゼ症候群と診断された. 抗核抗体, リウマトイド因子は陰性で,補体の低下を認めないことから, 膠原病は否定的であった.B型およびC型肝炎ウイルス感染も認めなかった.腎生検で二次性膜性腎症と診断された.二次性膜性腎症の病因として自己免疫疾患, ウイルス性肝炎, 悪性腫瘍が知られているため,更に消化管内視鏡検査と胸部~骨盤部にかけての単純CT検査が行われたが,腫瘍性病変を認めなかった.稀ではあるが,尋常性乾癬との関連が示唆される膜性腎症例が報告されていることから,本例は尋常性乾癬を病因とする二次性膜性腎症と考えられた.
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