日本看護科学会誌
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27 巻, 2 号
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原著
  • ──脱臼回避動作の特性
    佐藤 政枝, 川口 孝泰
    原稿種別: 原著
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_3-2_14
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究は,人工股関節全置換術(THA)後患者の日常生活における脱臼回避動作の特性を明らかにすることで,患者指導の指針を得ることを目的とした.研究方法は,脱臼回避動作の典型例(床の上のモノを拾う,ズボンをはく)を選択し,三次元動作解析・三次元加速度計測により,THA後患者6名と健常者5名の動作を比較し,脱臼回避動作の特性を分析した.
    動作分析の結果,健常者に股関節の過屈曲と内転,体幹の前傾が著明であった.一方,THA後患者では股関節の屈曲制限,過屈曲に伴う外転,体幹の後傾による脱臼回避動作が認められた.THA後患者の椅子を用いた動作に,股関節の屈曲制限や身体加速度の低下がみられたことから,上手な道具の活用が,身体面への負担の軽減と,安全にできる動作の拡大につながることが確認された.本研究の結果から,THA後患者においては,対象の居住環境や生活動作の特性を踏まえた個別指導の重要性が示唆された.
  • ──尺度の開発と妥当性の検討
    清水 嘉子, 関水 しのぶ, 遠藤 俊子, 落合 富美江
    原稿種別: 原著
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_15-2_24
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究では,Lazarusの理論による育児中の母親の肯定的な情動を「育児幸福感」とし,多面的な育児幸福感を捉える尺度を開発し妥当性の検討を行った.6歳以下の乳幼児期にある子どもをもつ母親を対象に,育児で感じる幸せな気持ちが生じるさまざまな場面を提示し,その度合を5段階評価で求めた.併せて妥当性の確認のため「主観的幸福感」や「育児ストレス」の尺度を実施した.有効回答872名であった.育児幸福感の項目を因子分析した結果,「子どもの成長」,「夫への感謝の念」,「子どもからの感謝や癒し」など8つの因子(41項目)が抽出された.信頼性の内的整合性を表すα係数は,第2因子の「希望と生きがい」が.867と最も高く,第6因子の「新たな人間関係」が.768と最も低かったが,すべての因子において十分な値が得られ,尺度の信頼性が認められた.育児幸福感と主観的幸福感との間には,総じて正の有意な相関があったが,「夫への感謝の念」を除き,低い相関がみられた.一方,育児ストレスとは,負の有意な相関がみられたが,「夫の育児サポート」を除き弱い相関だった.これらの主観的幸福感や育児ストレスの尺度との結果より,育児幸福感尺度の概念的妥当性について議論を行った.
  • ──血流量差に着目して
    作田 裕美, 宮腰 由紀子, 片岡 健, 坂口 桃子, 佐藤 美幸
    原稿種別: 原著
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_25-2_33
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究は,指尖血流量の左右差から乳がん術後リンパ浮腫患者の生理学的特徴を明らかにし,それがリンパ浮腫発症の予測指標として成立する可能性について検討することを目的に実施した.女性乳がん患者95人と健康な女性80人を被験者として,血流計を用いた指尖血流量測定を実施しリンパ浮腫の有無で検討した.その結果,①対象者すべてにおいて左血流量は右血流量よりも多く,②一般女性と非浮腫患者の血流量および血流量差には差を認めず,③%血流量差は浮腫患者が非浮腫患者に比べ有意に高値だった.さらに,④%血流量差30.0以上でリンパ浮腫保有率が100%となり,非浮腫患者のMean+3SD値は29.61を示した.また,血流量差7 ml/min/100 g以上で,リンパ浮腫保有率が約9倍高くなった.
    以上の結果から,血流量差増大は浮腫患者の生理学特徴といえることが示唆されたと同時に,血流量差がリンパ浮腫発症予測指標となり得,そのカットオフ値は,%血流量差29.61,血流量差7 ml/min/100 gとできる可能性が見出された.
  • 小野 若菜子, 麻原 きよみ
    原稿種別: 原著
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_34-2_42
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,在宅高齢者を看取る家族を支援した訪問看護師が,在宅高齢者を看取る家族への支援について,どのような看護観をもっているのか記述することであった.訪問看護師8名に半構造的インタビューを行った.その結果,訪問看護師は,【高齢者の長い暮らしの終わりを家族とともに支える】【残された家族のそれからの〈生きる糧〉の獲得を支える】ことを目指し,【家族の本当の思いを日々の暮らしの中から探索する】【家族の思いが叶うように日々の介護が続けられる状況に導く】【〈家族の看取り〉ができるように安心を提供する】支援を要と考えていた.その一方で,高齢者と家族の生活の場で継続して支援するには,【人として家族に寄り添いともにある関係性を育む】必要があり,そのことは専門職として【家族により近づく親近感と訪問看護師としてあることの調和をとる】必要性を生じさせていた.これらのことから,家族が後悔を残さない意図的な関わりの重要性,人として,専門職としての家族との距離感をつかむことが家族の主体性への支援となることが示唆された.
研究報告
  • 綾部 明江
    原稿種別: 研究報告
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_43-2_52
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,在宅要介護高齢者の健康状態の改善・維持・悪化予防,介護者の介護負担の改善および過剰負担の予防に対し,在宅要介護高齢者の自立支援を促進する「ケアの視点」を提言することである.
    対象は介護保険サービスを利用する要介護高齢者282人である.研究方法は質問紙調査と居宅サービス計画書の内容抽出である.調査内容は利用者条件,身体・精神状態,介護力,ケアニーズ,サービス利用状況である.分析では介護保険の介護度群別に,在宅生活継続群と非継続群で調査項目を比較し在宅生活継続に関連する要因を抽出し,さらに在宅生活継続に影響の大きい要因を明らかにした.
    その結果,影響の大きい要因としてケアニーズに属する項目である家事援助,判断力,褥瘡が導き出された.これより要介護高齢者の自立を促すケアの視点として,要支援・要介護1群では利用者の家事遂行能力を補う援助,要介護2・3群では利用者の判断力を補う援助,要介護4・5群では利用者の褥瘡に対し介護者や専門職による利用者自身の健康管理能力への援助が示唆された.
  • 藤田 君支, 牧本 清子
    原稿種別: 研究報告
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_53-2_60
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,人工股関節患者における主観的な身体的健康状態の測定するために,Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)(日本語翻訳版)の信頼性・妥当性を検討することである.術後1年以上の220名を分析した結果,WOMAC下位項目の「痛み」項目で床効果があったが,内的整合性はWOMACの3つの下位尺度内でのCronbach's α係数が0.74~0.95で,29名の再調査によるSpearman相関係数,各項目の一致率が高く,信頼性が示された.SF-36との比較による基準関連妥当性と弁別的妥当性は認められたが,構成妥当性についてはWOMAC(英語原版)と尺度構造が異なる股関節術後患者の身体的な特徴に即した4因子構造の解釈が妥当と考える.日本人股関節術患者において,WOMAC(日本語翻訳版)の信頼性・妥当性が示され,評価指標として有用なことが示唆された.
  • 二宮 啓子, 小野 智美, 村田 惠子, 中西 睦子, 太田 勝正, 水流 聡子, 唐澤 由美子, 中根 薫, 井上 真奈美
    原稿種別: 研究報告
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_61-2_70
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    学術用語としての看護用語の体系化を目指し,小児看護師が自ら行った実践をどのような用語を用いて表現・記述しているかについて明らかにすることを目的に研究を行った.
    研究方法は,小児看護師28名を対象者とし,調査当日にケアした患者1名に行った看護実践項目を順番に記述してもらい,その後記述された看護実践行為の内容について面接を行った.面接内容を,「行為ラベル」「行為の判断根拠」「行為のねらい」「行為内容」「同時行為ラベル」「同時行為のねらい」「同時行為内容」に分類し,項目の性質および項目間の関係について分析を行った.
    その結果,小児看護師が報告した調査当日の看護実践項目(行為ラベル)は39種類,184件であった.そのうち,82件が同時行為を伴っており,1つの看護実践を記述する用語に複数の看護行為が含まれる傾向がみられた.行為ラベルと行為内容との関係については,およそ4分の1が,行為ラベルが行為内容と一致せず,特に行為内容の一部のみを表現するものが多かった.また,小児看護における看護実践用語の特徴としては,母子関係への支援,子どもの発達支援,家族支援等に関する行為ラベルが全体の21%を占めていた.
  • 篠塚 裕子, 稲垣 美智子
    原稿種別: 研究報告
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_71-2_79
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,病院で死を迎える終末期がん患者の家族の添う体験を当事者の視点から記述することにより,体験の意味を理解し,その意味を捉えたケアを検討することである.現象学的アプローチを用いて13名の研究参加者に非構造化面接を実施し,得られたデータを分析した.その結果,以下のストーリーが描き出された.
    病院で死を迎える終末期がん患者の家族は,覚悟したものと現実との懸け離れた状況のギャップにうろたえながらも,改めて覚悟の時期をつくり,患者の死が訪れるという現実を見据えていた.家族は時として患者の安寧を死にさえも優先し,求めてやまなかった.その一方で,叶わないと知りながらも患者の生を願い,自分の中に同時に沸き起こる相反する願いのギャップに消耗していた.また,家族はがんに対する無力感を基盤として大きな無力を感じながらも,自分でせめてもの役割を見出していた.さらに,患者への心配は尽きることなく,家族は改めて患者のもとへ心を向けるためにも,患者のことを考えないでいられる時間を求め,必要としていた.患者に添う期間が長くなると,家族は終わりが見えず,今の状況から抜け出したいと,そっと願うようになっていた.そして,終わりが見えてきたことで安堵し,最期の時をどこかゆったりと構えていた.
    以上より,こわれやすさと気丈さの相反する体験を十分考慮したケアの重要性が導き出された.
  • 片倉 直子, 山本 則子, 石垣 和子
    原稿種別: 研究報告
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_80-2_91
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究は,統合失調症をもつ者への効果的な訪問看護を,その目的と技術に着目して明らかにした.対象は,統合失調症をもつ利用者を2年以上継続して看護し,その間利用者に入院のなかった経験をもつ7名の訪問看護師,およびこの7名の訪問看護を受けた9名の利用者である.訪問看護師へのインタビューと訪問場面の参加観察を,質的に分析した.効果的な訪問看護では,利用者の地域生活に対する意志を看護師が了解する前後で目的が変化していた.意志を了解する前の段階では,「利用者の意志表出に道を付ける」が目的となり,「利用者の状況を五感でみる」「精神障害者として生きてきた体験の把握」「その人らしい特性の把握」「意図的に日常(ふだん着)の自分を使う」等の看護技術を用いていた.利用者の意志を了解した後は,「利用者に必要な生活能力を育成する」が目的となり,一部上記の技術を継続しながら「生活上の対処能力の把握」「意図的な日常の自分と専門家としての自分を使い分ける」等の技術を用いていた.
  • 福井 小紀子
    原稿種別: 研究報告
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_92-2_100
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究では,入院中の末期がん患者の在宅療養移行の推進を目指し,患者の在宅療養移行の検討・非検討と,患者・家族要因,看護師要因,および病院・病棟要因の3側面との関連を調べる全国調査を実施した.全国の53病院82病棟において,末期がん患者を受持つ病棟看護師464名に対する質問紙郵送調査を行い,患者の在宅療養移行の検討に関連する要因をロジスティック回帰分析にて分析した.その結果,患者・家族要因として,患者あるいは家族の在宅療養の希望があること,患者の入院期間が長く,酸素療法を行っていないこと,およびモルヒネ投与方法が経口であること,さらに,看護師要因として,在宅ケアに関して同僚による助言を受けた経験があり,患者のインフォームドコンセントを促すための情報提供を積極的に行っている看護師が受持ちであることの計7項目が関連要因として示された.今後,本研究にて明らかにされた各要因を重視した環境整備が望まれる.
  • 谷村 千華, 松尾 ミヨ子
    原稿種別: 研究報告
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_101-2_110
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,農業従事高齢者に相応しい運動プログラムの構築に向けて,農業従事高齢者の農作業状況,健康状態および体力の現状について明らかにすることである.対象者は中間農業地域に在住する65歳以上の高齢者99名とし,男女別に農業従事群(150日以上群,150日未満群)と非農業従事群との比較検討を行った.
    その結果,男性においては,150日以上群,150日未満群の2群間で体力の統計的比較を行ったが,有意差はみられなかった.女性においては,生活体力のすべての項目で,150日以上農業従事群が非農業従事群と比較して有意に速く動作を行うことができ,特に,起居動作能力や歩行動作能力,身辺作業能力において高い水準を示した.一方,女性農業従事高齢者の手腕作業能力は,非農業従事者よりも優れているとは言い難いことが示唆された.今後,女性農業従事高齢者の生活体力の水準は全般的に高いことは賞賛し,体力の維持・向上に鼓舞できるように働きかけることが重要である.また,強化すべき体力の側面として,手腕作業能力を高めることの重要性が示唆された.
  • 大和田 知佐, 絹谷 政江
    原稿種別: 研究報告
    2007 年 27 巻 2 号 p. 2_111-2_119
    発行日: 2007/06/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    【目的】突然に重要な感覚を失う可能性に直面することを強いられた網膜剥離患者の体験の意味を理解し,構造と特徴を明らかにする.
    【方法】9名の網膜剥離患者に非構成的な面接を行い,得られたデータを現象学的アプローチを用いて質的記述的に分析する.
    【結果】網膜剥離患者の体験する構造は,以下のとおりであった.網膜剥離患者は,視覚の変化を気にしながらもすぐに治るだろうと考えていたが,変化は進んでいくばかりだった.そこで患者は周りの人の後押しもあって病院へ行き,医師から病名と手術しなければ失明するので緊急入院・緊急手術が必要と告げられて驚き動揺していた.直後に手術をすれば失明はしないとわかり安堵し,即座にその日の手術を受諾していた.しかし,手術を待つまでの間に万一の場合の失明不安に思いが至り,再び気持ちが揺れ動いていた.手術後,視力を保持していると実感して安心することができていた.経過は順調かどうかを自分の視覚を用いて自己確認をしていた.退院後,発病以前の生活に戻ることができ,社会的役割の喪失はないが,払拭しきれない再発の不安を抱えていた.その対処行動として定期的に検診を受診していた.
    【結論】網膜剥離患者の体験の特徴は,突然に与えられた失明の不安と失明回避による安心を繰り返すという揺れる経過をたどるものであった.
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