日本における年間の交通事故の件数は,自動車保有台数の増加とともに増加して2000年頃にピークがある.車両の安全性の向上,道路整備,罰則強化などによって近年は減少傾向にあり,車両火災も同様に減少傾向である.
日本における火災件数も減少傾向で,2018年の総出火件数は37,981件であった.そのうち車両火災は3,660件で建物火災の次に多く,一日平均10件程度の車両火災が発生している.車両火災の出火原因としては,排気管によるものが627件で最も多く,交通機関内配線が353件,電気機器が214件と続く.交通機関内配線と電気機器は,短絡とスパークが主な発火源である.2008年の主な出火原因は,排気管の他に放火やタバコなどが上位を占めており,電気関係は少ない.近年は車両の電動化が進められており,出火原因として電気関系の割合が増加していると考えられる.
自動車研究所(JARI)の水素・燃料電池自動車安全評価試験設備(Hy-SEF)では,車両火災を模擬した様々な火災・爆発実験を実施して周囲の安全性を検討している.
実験では,人体への影響を直接観測することは困難であるので,温度や熱流束等の計測値から間接的に評価する必要がある.熱の影響は,測定した熱流束をEisenbergらによる単純化された式に適用することで評価可能である.しかしながら,この式では表皮のみの軽い損傷の熱傷(火傷)しか評価ができない欠点がある.そこで,より深い皮膚層に達する重度の熱傷までを対象とする熱傷評価の数値シミュレーションモデルの開発を行っている.これまで,ISO13506に示されている熱傷の評価手法(Henriquesモデル)と,皮膚のような薄い層状物質への短時間の熱作用に適していると考えられるNon-Fourier系の熱伝導モデルをベースとして,皮膚の熱傷評価の数値モデルを開発した.
しかしながら,この計算モデルでは皮膚の深さ方向の一次元で評価しているため,体表面全体の何%が熱傷に至るのかといった評価が出来ない.熱傷が広範囲に及ぶと死に至ることもあるため,熱傷の範囲を評価することも重要である.そこで,本研究では,熱傷の範囲を評価するため三次元の皮膚モデルの開発を行う.また,固体である皮膚の熱伝導だけでなく,化学反応を含む熱流体からの熱伝達も模擬できるように,熱流体と固体熱伝導の連成解析を試みた.
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