自動車産業でのDX(Digital X- (Trans) formation)とSDV(Software Defined Vehicle)の重要性が高まり,自動運転を含む車両開発プロセスが変革しています.海外でのシミュレーションによる開発効率化や,米国・中国での無人自動運転サービスの拡大が進む中,国内でも「モビリティDX戦略」が発表され,SDVやモビリティサービス領域での業種横断的な協力が推進されています.一般財団法人日本自動車研究所(JARI)はSAKURAプロジェクト等の国プロへの参画を通じて,自動運転の技術開発と社会実装の支援に取り組んでおり,本特集ではその一部をご紹介します.
条件付きの「自動運転システム」が特に都市環境において普及することが想定される.このようなシステムの場合,システムからの介入要請がなくても,ドライバがシステムに従わず,自らの判断で上書き(オーバーライド)する可能性がある.このようなドライバ主導の介入は,自動運転の安全性にリスクをもたらす可能性がある.本研究では,対向車線のある2車線道路で,条件付き自動運転車が駐車車両を追い越すというシナリオをシミュレートし,ドライバ主導の介入の状況を調べた.その結果,ドライバによるオーバーライドは,自動運転車が対向車と駐車車両の双方に接近している間に,ブレーキペダルを踏んだりハンドルを握ったりすることによって実行されることが明らかになった.23人の参加者のうち,12人はシステムによる意思決定と操作に信頼を示し,9人はおおむね安全だと感じつつもシステムの操作について特定の不安感や不快感を覚え,2人はシステムの認識と周辺車両との接近に関連する安全上の懸念を示した.これらの知見は,ドライバの介入の要因とパターンに関する貴重な知見を提供し,自動運転システムの設計に役立てることができる.
自動運転システムの実用化に向け,社会が受容するに値する安全性をいかに確保するかがシステム製作者に対して問われている.その問いに答えるべく,一般社団法人日本自動車工業会(JAMA)では日本の自動車産業界のベストプラクティスをフレームワークとして文書にまとめて公開している.2022年に最新版であるVer.3が公開され,その内容はシナリオベースの安全性評価の国際標準や国際基準の策定に積極的にインプットされている.国際的な議論を継続してリードすることの意義は非常に大きいため,本稿では将来的なVer.4更新に向けた課題を特定するため,現状の内容が安全論証構造として必要十分なものであるかを分析した結果について述べる.
本稿では2台の車両の相対関係を定量的に再現するために,ドイツ国内の交通流を計測したドローンデータセットを用いて2台の車両の相対関係に基づいた特定のシナリオを抽出し,物理パラメータの統計値を計算する手法について述べる.道路ネットワークデータを用いて交差点に関する情報を計算し,マップマッチングによって車両の経路と交差点における進行方向を推定する.交差点における左折対直進,直進対直進のシナリオを抽出する対象とした.抽出処理の結果,それぞれ701件および414件のシナリオを抽出し,安全性評価シナリオ作成に必要な物理パラメータを計算した.将来的には各シナリオにおける車両の安全な走行に必要なパラメータの範囲の決定や,日本国内で同様な計測が行われた場合のデータに適用することで日独データの比較による地域差の検証に本稿の結果を活用する.
日本の自動運転システムの安全性評価プロジェクトであるSAKURAプロジェクトにおいて,安全性評価に必要なプロセスと評価手法の研究を行っている.本報告では,国連WP29にて定められた国際基準を満足するか検証するための交通外乱の評価シナリオを導出するシナリオデータベースの開発内容,また,自動運転システムの開発者に試行いただいた際のご意見などについて紹介する.
経済産業省と国土交通省によるRoAD to the L4プロジェクトでは,持続可能なモビリティ社会を目指し,2025年頃までに全国50か所程度で無人自動運転サービス(レベル4)を実現させることを目標として自動運転レベル4の社会実装に取り組んでいます.本稿では,当該プロジェクトにおいて一般財団法人日本自動車研究所(JARI)が担当している,自動運転車両の安全性に係る設計と評価の取組みについてご紹介します.なお,本稿は,JARIシンポジウムの講演を元に再構成したものです.
2024年9月,著者らは自動運転や,つながるクルマといったITS(Intelligent Transportation Systems)技術や政策の国際動向調査を目的として,アラブ首長国連邦ドバイ,および同連邦アブダビに出張した.本稿では,出張の主目的である第30回ITS世界会議の全体概要,自動運転,通信利用型モビリティ,AIとデータ管理に関する発表概要のほか,ドバイの交通事情,アブダビで運行されている自動運転タクシーTXAIについて紹介する.
近年,あらゆる方面でDX(Digital X- (Trans) formation:デジタル化により社会や生活の形・スタイルが変わること)が推進されるなか,将来の維持が困難な地域交通もその対応に迫られている.ただし,単なる先進技術の導入はDX実現とはいえず,既存の交通体系に先進技術を調和させることで優れた安全性と利便性を地域住民にもたらす必要がある.交通体系は複雑な要素が絡み合うため,本格導入前に各種施策の効果を試す社会実験を代替できるシミュレーション技術が重要である.一般財団法人日本自動車研究所(JARI)と三咲デザインは,産官学が共同で活用できることを目指して開発を進めてきたところ,その方向性に賛同いただいた香川大学の鈴木桂輔教授よりコンソーシアム(共同事業体)の立ち上げについて提案を受けた.このような背景のもと香川大学では,2024年から産官学に共通する社会課題を解決するためのシミュレーション技術の高度化に向けたコンソーシアムを運営しており,本稿ではその活動内容について紹介する.
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