近年の道路交通事故(以下、「交通事故」という)の状況を概観すると、自動車乗車中よりも歩行中の状態別死者数が多くなお一層の交通事故低減に向けて、歩行者を対象にした交通安全諸策の充実が重要となっている。歩行中の交通事故についてみると登下校中の子どもが交通事故に遭う事例が社会問題となり、日本の各所において、通学路の合同点検が実施されている。また人口10万人あたりの死傷者数が最も多い年齢は7歳児であり、この点から2021年より開始された第11次交通安全基本計画の対策の視点にも掲げられているように「高齢者及び子供の安全確保」が急務となっている。7歳児の交通事故については、小学校の入学に伴い一人もしくは友人同士で歩行する機会が増加すること、および複雑な交通環境に幼少期の子どもが適応することが困難なことなどが起因して、死傷者数が多くなっていると考えられる。また、小学校入学前から小学2年生までの月別の統計をみると、新一年生となった5月以降に歩行中の死傷者数が増加しており、入学直後の4月まで行われていた集団登下校の機会が減少することや、学校生活などへの児童の慣れが5月以降の事故の増加に関係していると推察される。さらに、小学校入学当初までは、保護者と一緒に登下校することや、日常生活の中でも保護者とともに歩行する機会が多かったのに対し、子どもの年齢が増すとともに親子関係から仲間関係へと生活環境が徐々に移行し、保護者が自身の子どもを監視する機会が減少することも、未熟な7歳児の歩行中の死傷者数が増加する原因と考えられる。
諸外国では、交通安全や防犯などの観点から、子どもに対する保護者の監視ParentalSupervision:以下、「PS」というを対象にした検討が進められておりPSに影響を及ぼす要因などが広く研究されている。PSの影響要因については、子どもの能力や技能の発達に対する保護者の認識が関係すると推察され、自身の子どもが独力で安全を確保できると考える保護者はPSの遂行が低く、逆に独力で安全を確保できないと認識する保護者はPSを実行すると予想される。子どもの能力や技能に対する保護者の認識を検討した調査から子どもが独力で歩道を歩行することができると保護者が考える最低年齢が約8歳であったことや、7歳から10歳の子どもに比べて、5歳から6歳の子どもの保護者は、自身の子どもの道路横断の能力や技能を過大評価することが報告されている。しかしながら、PSに影響を及ぼす子どもの能力や技能に対する保護者の認識を調べた研究は必ずしも多くはなく、特に日本の場合、適切なPSの普及促進を目的として、交通安全に関する子どもの理解に対する保護者の認識を調査した研究は散見される程度である。
本研究では、インターネットを用いたアンケート調査(以下、「web調査」という)により、3歳以上10歳以下の子どもをもつ保護者を対象にして、交通安全に関する自身の子どもの理解に対する認識を調査し、死傷者数の多い7歳児の保護者の特徴を調べることを目的とした。また、歩行中に自身の子どもの見守りを行う人員の有無についても保護者に回答を求め、日本における見守りの現状を予備的に検討し効果的かつ効率的な保護者の監視に資する今後の調査の参考資料を得ることにした。
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