欧州委員会 (European Commission,EC) は,2011年のREACH規制 (2011/696)で初めてナノマテリアルについて定義し,その後,2018年12月3日に改定したREACH規制 (2018/1881)では,ナノフォームとして「構成粒子が固定されていない状態の粒子や,凝結体または凝集体であり,個数に基づいたサイズ分布のうち50%以上が,少なくとも一つの次元のサイズにおいて1 nmから100 nmの範囲である粒子を含む,自然由来あるいは人工的に製造された物質を指す」と再定義した.この定義の範疇に含まれる様々な材質および形状のナノマテリアルがこれまでに開発されており,その特性を活かし,工学や医学など幅広い分野で活用されている.その一方,ナノマテリアルは極めて微小であることから,生体内に取り込まれやすく,身体全身に拡散されることが懸念され,さらに,表面活性が高い材質の場合は,その比表面積が高いことから,微量でも生体に悪影響をおよぼすことが危惧されている.新たに開発されたナノマテリアルが従来にない優れた機能を持つ一方,その新たな機能により従来知られていない有害性が現れる可能性を否定することはできない.そのため新機能の有用性に関する情報のみならず,安全性に関する情報がなければ,新しいナノマテリアルを安心して使用することはできない.ナノマテリアルの法規制については,欧米を中心にルール作りが積極的に進められており,とくに欧州域内に新規のナノマテリアルを輸出する場合,REACH規制に則り,手続きする必要があり,安全性に係わる情報の取得は必須とされている.
改定されたREACH規制 (2018/1881) では,ナノマテリアルは極めて微小であるため特異的な曝露パターンを持つ可能性があり,その曝露経路として吸入が重要であることが指摘されている.しかし,ナノマテリアルの吸入曝露試験の実施は難しく,懸濁液 (固体微粒子が分散した液体) の気管内投与による安全性試験が実施されているのが現状である.ナノマテリアルの気管内投与と吸入曝露を比較し,肺で認められる影響に差がないことを示す報告もあり,気管内投与の実験結果は貴重で有用と思われる.しかし,懸濁液の気管内投与では,液体としての投与であり,溶媒の影響が含まれること,また,鼻腔に曝露されず,嗅神経を経由した脳への影響を含まないこと,鼻腔の粒子に対する防御機能が考慮
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