2021年の日本の交通事故による死者数は2,636人で,これを状態別に見ると歩行中の死者数は941人(35.7%)である.近年では衝突被害軽減ブレーキなどの普及により歩行中の死者数は減少傾向にあるものの,状態別の死者数の中では最も多い.歩行者事故の交通捜査では,事故要因の究明過程において車両の衝突速度が争点となることが多く,高精度 な衝突速度の推定方法が求められている.従来より,歩行者事故における衝突速度の推定には,衝突速度と歩行者の飛翔滑走距離(衝突地点から歩行者の最終停止地点までの距離)の関係性から衝突速度を算出する方法が用いられている.しかし,この推定方法は車両の制動タイミングが衝突瞬間よりも遅れた場合には,衝突速度の推定精度が低下すると考えられている.本報告では,制動タイミングの遅れが衝突速度の推定精度に与える影響を実験的に検証するとともに,制動タイミングが遅れた場合に推定精度を向上させる方法を検討した.
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