透過電子顕微鏡 (Transmission Electron Microscope, TEM) は観察試料に電子線を照射し,試料を透過した電子線から,試料の形状やサイズ,結晶性のような様々な情報を解析する装置である.自動車に関連する研究開発において,TEMは大気汚染物質である排気ガスを浄化する触媒の観察や排気ガスにより影響を受けた実験用動物の臓器の観察等の従来の用途に加え,近年では電気自動車に必要な蓄電池や燃料電池材料の微細構造の観察にも使われている.弊所では,地球温暖化の防止に貢献するため,2000年代より水素・燃料電池に関わる研究開発に取り組んでおり,これまでに固体高分子形燃料電池 (Polymer Electrolyte Fuel Cell, PEFC) の共通の評価方法であるセル評価解析プロトコルの開発を進めてきた.プロトコル開発では,耐久劣化加速試験前後の燃料電池の電気化学的特性と燃料電池材料の構造変化の関係を明らかにすることが必要であり,電極触媒等のナノメートルサイズの燃料電池材料の微細構造を観察するためTEMを利用した.2010年代からは科研費等の支援を受けて所外のTEMを利用し,電極触媒の劣化機構解明を目的として,燃料電池の発電環境を模擬したガス雰囲気中で電極触媒の構造変化を動的にTEM観察する「その場観察技術」等の解析手法を開発してきた.本報では,自動車の環境・エネルギー分野での研究を推進するため,2022年にJARIにTEMが導入されたことを受け,装置の概要と主な機能をPEFC用電極触媒の観察を例に紹介する.
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