日本助産学会誌
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23 巻, 2 号
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総説
  • 岡永 真由美, 横尾 京子, 中込 さと子
    2009 年 23 巻 2 号 p. 164-170
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究はPerinatal Loss(ペリネイタル・ロス)の概念を明らかにし,周産期に子どもを亡くす体験をした女性や家族に,助産実践においてこの概念の適用することの可能性を検討する。
    方 法
     看護学,医学,心理社会学分野の論文を中心に検索し,Rodgers(2000)の概念分析アプローチを参考とし,属性,先行要件,帰結に関する記述の内容分析を行った。
    結 果
     Perinatal loss(ペリネイタル・ロス)は,1)元気な子どもを産めない,2)親であるという認識,3)夫婦や家族の気持ちに気づく,の3つの属性,流産・死産・新生児死亡で子どもを亡くす,という先行要件を抽出した。帰結は,通常の悲嘆と長引く悲嘆に分類できた。通常の悲嘆の帰結には1)コントロール感を取り戻す,2)亡くした子どもと共に生きる,3)夫婦や家族のきずなを深める,の3つを抽出し,長引く悲嘆の帰結には,夫婦関係の悪化を抽出した。Perinatal loss (ペリネイタル・ロス)の定義は,流産・死産・新生児死亡で子どもを亡くした両親が,「元気な子どもを産めない事実に直面する一方で,親であるという認識と同時に,夫婦や家族の気持ちに気づく」ことである。
    結 論
     概念分析結果より,Perinatal loss(ペリネイタル・ロス)を体験した女性や家族が,夫婦それぞれのコントロール感を取り戻すことで,亡くした子どもと共に生き,夫婦や家族のきずなを深められることが望ましい。また夫婦関係の悪化とはどのような状況を示すのかを情報提供することで,通常の悲嘆へと促すことができる。悲しみと共に日常生活を営む夫婦や家族の理解を深めるための丹念な記述の蓄積により,この概念のさらなる発展が期待できる。周産期看護の対象となる女性や家族にとって周産期の喪失とは何かを問い続けることは,わが国の文化的背景に沿ったペリネイタル・ロス・ケアの発展への礎となる。本概念は,ペリネイタル・ロス・ケアの実践ならびに,教育や研究への適用が可能であると考える。
原著
  • 赤羽 洋子, 清水 嘉子
    2009 年 23 巻 2 号 p. 171-181
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的
     妊婦に対する安全かつ効果的なフットケアの方法を導き出し,その実施を試みフットケアの効果を母体の心理的,生理的側面から検証する。
    対象と方法
     対象は妊娠経過が正常である妊娠32週から37週までの妊婦11人とした。検討したフットケアの内容は,温罨法をした後に膝から下にかけて末梢から中枢に行う,痛みを伴わないマッサージによるフットケアである。フットケアに要する時間は25分程度とし,フットケア実施前後に脈拍,血圧,ふくらはぎ周囲径,皮膚温度,皮膚血流,脳波を測定した。また,実施前後と翌日に質問紙による足の自覚症状と気分の評価を行った。さらに,分娩監視装置を用いて,フットケアの母体,胎児への安全性を確保した。得られたデータは統計処理を行い,前後の値を比較した。
    結 果
     フットケア実施により,以下の内容に変化が認められた。1)足では,自覚する冷え,むくみ,だるさが改善し,その効果は翌日まで持続していた。また,ふくらはぎ周囲径が縮小した。2)気分では,爽快感が高まり,翌日まで持続傾向にあった。妊婦からリラックスの言葉が聞かれ,脈拍が低下した。3)温罨法によって,皮膚温度と皮膚血流が増加し,加温が循環促進に有効であったが,持続性については認められなかった。4)妊婦に眠気が出現し,脳波ではα3が最も高値となり,入眠作用があることが示唆された。5)フットケア実施による子宮収縮の増強や胎児への影響は認められなかった。
    結 論
     本研究で検討したフットケアは,子宮収縮や胎児への影響はなく,正常な妊娠経過の妊婦へのケアの安全性が確保され,心理的,生理的なリラックスと共に爽快感を高め,足の自覚症状の改善に効果があった。
  • 長田 知恵子
    2009 年 23 巻 2 号 p. 182-195
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的
     地域において,授乳期の母乳育児ケアに精通している助産師による観察視点の構成因子を抽出し,その特徴を明らかにすることである。
    対象と方法
     対象者は,病院や地域で母乳育児支援をしている助産師6名で,研究協力者である母子は,対象助産師に初めてケアを受ける25ケースであった。
     対象者が研究協力者に母乳育児ケアを行う場面を参加観察した後に半構成的インタビューを行い,得たデータから,“助産師による観察”と思われることを意味内容に沿って抽出し,カテゴリー化したデータを既存文献と比較検討した。
    結 果
     母乳育児ケアにおいて助産師が対象の母子を捉え,アセスメントする際の観察項目や因子は,【母親】【子ども】【母子】の3コアカテゴリーから構成されていた。また先行研究と比較すると,【母親】の心理的状態として〈行動特性〉や〈内省〉〈イメージ〉が,社会的状態としては〈衣服〉や〈生活〉〈医療者〉が新たな因子として見出された。また【子ども】の「パワー」と「フォローアップ」,【母子】の「イベント」も本研究で新たに見出された。そして助産師が行っている観察の特徴として,母子を取り巻く環境や,より暮らしに密接した具体的で個別性を重視した観察因子が抽出され,中でも特に乳房の状態は助産師自身の手によって感じ分けているという観察因子が抽出された。さらに助産師の観察視点の特徴としては,【母親】と【子ども】の各々を観るだけでなく,【母子】という母親と子どもの双方の観察を併せ持つ視点から構成されていた。
    結 論
     母乳育児ケアにおいて助産師は,授乳期の母子の生活に密着した詳細な情報を多面的に観察するとともに,助産師自身の手で感じ分けていた。また【母親】と【子ども】の各々の視点からだけでなく,母親と子どもの双方の観察を併せ持つ【母子】という3視点から構成されているという特徴があった。
  • —妊娠末期から産後18か月までの日本版POMSによる追跡調査から—
    武田 江里子
    2009 年 23 巻 2 号 p. 196-207
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的
     18か月児を持つ母親の「怒り—敵意」に関連する要因の探索,および対児感情への影響を調査し,虐待予防に繋がる子育て支援を講じる際の基礎資料とする。
    対象と方法
     妊娠末期から継続して調査している母親69名が産後18か月になった時点で自記式質問紙を郵送し調査を行った。妊娠末期・産後入院中・産後1か月・産後18か月の全ての時期に有効回答の得られた33名を対象とした。調査項目は,属性,ストレス内容および対処法,日本版POMSによる気分,対児感情,対夫感情である。
    結 果
     産後18か月は「怒り—敵意」が他の時期にくらべて最も高く,他の時期の「怒り—敵意」および否定的な気分と高い相関がみられた。接近得点,回避得点,拮抗指数も他の時期に比べ高かった。接近得点は時期間で有意差がみられた。産後18か月の「怒り—敵意」に関連していたのは,年齢,ストレス自覚とストレス内容「疲労」,ストレス対処「放棄・諦め」「肯定的解釈」,対夫感情の「回避得点」であった。「怒り—敵意」と対児感情とは直接的な相関はみられなかった。接近得点はストレス対処「肯定的解釈」と,回避・拮抗指数は対夫感情「回避得点」と関連がみられた。
    結 論
     産後18か月の「怒り—敵意」の要因は直接子どもに対するものではなく,夫の手伝いや疲労によるものであったが,「怒り—敵意」が解消されないと,子どもへの虐待も危惧される。予防策として,ストレスを諦めや放棄ではなく肯定的に捉えることができるよう意味づけし,解決方法を提示していくこと,夫婦間の性役割の共通認識を促すことが有用と考える。そして,産後1か月健診では身体回復の確認や母乳支援とともに,心理面のアセスメント,気分・子どもへの肯定的感情への意識的な働きかけ,夫を含む家族の関係性を重視した子育てへの関わり方について再考していくことの必要性が示唆された。
  • 抜田 博子, 谷口 千絵, 恵美須 文枝
    2009 年 23 巻 2 号 p. 208-216
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的
     助産師が行う周産期ケアについて,血液・体液および排泄物との接触の多い手指の感染予防策として,手袋着用状況と個人的属性との関連を明らかにする。
    対象と方法
     東京都内の分娩を取り扱う病院に勤務する189名の助産師を対象とし,自記式質問紙調査を行った。調査内容は,年齢や経験年数,院内感染対策への関心等の個人的属性と,血液および体液,排泄物を扱う10項目の周産期ケアにおける手袋着用状況を,「必ず着用する」から「着用しない」までの4段階で回答を求めた。分析は個人的属性,手袋着用状況を各々2群に分類し,ケアごとに個人的属性との関連を,χ2検定により分析した。
    結 果
     177名(回収率93.6%)から回答が得られた。助産師の手袋着用状況は,分娩第II・III期の直接介助では100%,妊産婦の内診,胎盤計測・処理では98%以上が「必ず着用する」と回答していた。一方で,乳房ケアは74.1%,新生児のオムツ交換では64.1%が「着用しない」と回答していた。個人的属性と手袋着用状況との関連においては,ケア毎に関連する要因が異なっており,教育課程や感染に関する研修の有無,スタンダード・プリコーションの認知度で関連が認められるケアがあった。年齢,産科以外での臨床経験の有無は,どのケアにおいても関連が認められなかった。
    結 論
     明らかに血液・体液の接触を避けることができないケアでは,ほとんどの人が手袋を着用しているのに対し,血液ではない母乳や新生児の便については,手袋を着用しない人が多かった。また,血液・体液に直接触れない場合があるケアでは必ずしも手袋を着用していなかった。
     看護師,助産師各教育課程や感染に関する研修受講の有無,スタンダード・プリコーションの認知度で着用状況と関連が認められるケア項目があり,感染対策に関する卒前および卒後教育の充実が必要であると考えられた。
  • 常田 美和
    2009 年 23 巻 2 号 p. 217-229
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
     本研究は,第1子である早産児の出生より1年から1年半の父親としての経験を明らかにすることを目的とした。対象者は,第1子である早産児の出生より1年から1年半経過した父親である。データ収集は,半構成的面接を用いた。分析は,質的帰納的に行った。対象者に研究の趣旨を文書と口頭で説明し,同意できる場合は同意書に署名を得た。同意をいつでも撤回できること,プライバシーの保護や同意をしない場合でも不利益を受けないことなどについて説明した。
     対象者は6名の父親で,年齢は35歳から44歳,平均38歳であった。子どもの在胎週数は28週から33週,出生体重は980gから1,740gであった。
     分析の結果,【妻子の生命への危惧と願い】,【妻への配慮】,【出生と五体満足の安堵感と感動】,【「普通の子」と異なるわが子への不安】,【子どもとの絆のはじまり】,【「普通の子」に成長するわが子を実感】の6カテゴリーが抽出された。
     本研究より確認された早産児をもつ父親の特徴は,わが子を「普通の子」と比較し不安が生じた段階から,「普通の子」に成長し追いついてきたと感じることによって安心感を得ている過程であった。父親は子どもへの不安が強い段階では子どもを保護することにエネルギーを傾けているが,「普通の子」に追いついてきたと感じる段階で,子どものしつけを意識し始めるようになっていた。
  • —自律神経活動および主観的指標の観点から—
    中北 充子, 竹ノ上 ケイ子
    2009 年 23 巻 2 号 p. 230-240
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,正常経過をたどる母親を対象に背部マッサージによるリラクセーション効果を自律神経活動および主観的指標の観点から検討することである。
    対象と方法
     対象は正常な産後経過をたどる母親45名で,無作為に介入群(22名)と対照群(23名)に割り付け,2群間比較をおこなった。産後3日目,一定条件下の介入群では20分間の無臭オイルを使用した背部マッサージを施行,対照群には20分間の安静臥床を行い,心拍数・HF・LF/HFによる自律神経活動とRE尺度による主観的指標でリラクセーション効果を測定した。
    結 果
     介入群では,介入前と比較し介入中・後に心拍数の減少,HFの増加,LF/HFの減少やRE得点の上昇がみられ,リラクセーション効果を示唆する結果が得られた。しかし,対照群においても変化の仕方は異なるが,介入群同様の結果がみられ,2群間には有意な差は認められなかった。
    結 論
     産後早期の母親は,背部マッサージを受けることで副交感神経活動が優位に変化すること,主観的にもリラックス感を得られることが推測された。しかし,統計的に有意差は認められず,背部マッサージのリラクセーション効果の判定には至らなかった。安静臥床や睡眠による影響,産後における自律神経活動の個人差が大きいことが推測された。
  • 楠見 由里子, 江守 陽子
    2009 年 23 巻 2 号 p. 241-250
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的

     本研究は妊婦を対象とする調査の予備的研究として,成熟期女性を対象に冷水負荷試験を行い,冷え症を客観的に評価することを試みた。さらに自覚症状および身体的所見との関連を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     健康な女性45名を対象に,左手を15℃の冷水に1分間浸水させる冷水負荷を行い,負荷後10分間の手指皮膚温と末梢血流量を測定し,皮膚温の回復率を算出した。
    結 果
     手指皮膚温の10分後回復率が90%に満たない回復不良群が9名(20%)存在した。回復不良群は良好群に比べて,負荷前の手指皮膚温,負荷前の末梢血流量,基礎代謝量,肥満度,体脂肪率が有意に低かった。冷え症評価尺度得点には有意差がみられなかった。負荷前の手指皮膚温(r=0.501),負荷前の末梢血流量(r=0.392),基礎代謝量(r=0.368)は,冷水負荷10分後の回復率と有意な相関がみられたが,回帰分析による予測精度は低かった。
    結 論
     手指皮膚温,末梢血流量,基礎代謝量が低いほど,冷水負荷による皮膚温回復率は低い傾向にあった。しかし冷え症の自覚症状とは関連がみられなかった。
  • 鈴木 由紀乃, 小林 康江
    2009 年 23 巻 2 号 p. 251-260
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的
     出産後から産後4ヶ月間の母親としての自信を得るプロセスを明らかにすること。
    対象と方法
     産後4ヶ月の初めての育児をしている母親10名を対象に半構成的面接によりデータ収集を行った。得られたデータは,逐語録化し,データ収集と分析を平行して行う継続比較分析を行った。母親の「子どもの求めることがわかるようになった」「子どもの求めることに対応できるようになった」という体験を中心に,母親としての自信を得るプロセスに関連があると思われるデータを抽象化しカテゴリーを導き出し,カテゴリー間の関係を検討した。
    結 果
     母親としての自信を得るプロセスを構成する5つのカテゴリー【試行錯誤しながら子どもと自分に合わせた育児方法を確立する】【子どもの成長と自分の成長の実感を得る】【この子の母親であるという実感を得る】【育児優先の生活に家事を組み込み生活を新たに構える】【自分に確証を得るための拠り所を求める】が抽出された。産後4ヶ月間の母親としての自信を得るプロセスは,試行錯誤しながら自分なりの育児方法を確立していく中で,子どもの成長とその子どもの母親であることを実感しながら,家事と育児を両立させ,生活を再構していくプロセスであり,それらは他者からの確証を得ることで支えられていた。
    結 論
     母親は試行錯誤する育児の中で,子どもの成長を実感することから,自分自身の成長と母親であることを認識するようになる。また,育児中心の生活から家事も行えるようになるという行動範囲の拡大から自己の成長の実感は強まる。母親としての自信を得るプロセスの援助として,育児技術の獲得に対する支援だけではなく,子どもの成長や母親自身の成長の変化を気付かせる関わりの重要性が示唆された。
資料
  • ―経皮的酸素飽和度および心拍数に与える影響―
    高橋 由紀
    2009 年 23 巻 2 号 p. 261-270
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的
     我が国の多くの分娩施設では,出生直後の新生児ケアとして鼻腔口腔咽頭吸引が日常的に行われている。しかしながら,健康な正期産児を対象に,その有用性を検証した研究はほとんど無い。そこで,本研究は,鼻腔口腔咽頭吸引が酸素飽和度と心拍数に与える影響を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     対象は,定期的に妊婦健診を受け合併症のない妊婦から正期産で自然分娩にて出生した健康な新生児26名とした。吸引処置の有無については,隔週毎に実施週,非実施週と設定し,新生児を非吸引群,吸引群の2群に割り付けた。新生児の呼吸・循環状態の評価指標には,酸素飽和度(以下SpO2と記す),心拍数(以下HRと記す)を用い,出生2時間後まで30秒ごとに測定した。SpO2が96%以上を記録した時点と心拍数が160回/分以下を記録した時点を各状態の安定化と定義し,それらに達する時間を算出した。SpO2とHRの変化について,非吸引群,吸引群を比較することにより,出生直後の鼻腔口腔咽頭吸引の必要性を評価した。
    結 果
     非吸引群13名,吸引群13名の児において,SpO2が96%に達するまでの時間は各々623±266(平均±標準偏差)秒,687±205秒であった。HRが160回/分以下に安定化する時間は,同順に593±332秒,755±442秒であった。SpO2とHRともに両群間に統計学的な有意差は認めなかった。しかしながら,出生後10分までの観察においては,統計学的な有意差はみられなかったものの,非吸引群の方が吸引群に比して,SpO2,HRともにやや早く安定化する傾向が認められた。
    結 論
     本研究結果より,健康に出生した新生児に対して呼吸確立を目的として慣例的に実施されている吸引処置の効果を実証する生理学的根拠は得られなかった。助産師を含む臨床実施者は,慣例的に行われている鼻腔口腔咽頭吸引を再考すべきである。
  • 秋月 百合
    2009 年 23 巻 2 号 p. 271-279
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/04/06
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,不妊症夫婦において,夫のどのような側面を支援的・協力的と認識しているのか,不妊女性の視点から明らかにすることである。
    方 法
     不妊治療を受ける関東圏内在住の女性患者24名を対象に,半構造化面接を実施した。不妊や治療に関連して,支援的・協力的と認識する夫の側面(言動・態度)について尋ね,口述内容を質的に分析した。
    結 果
     分析の結果,以下の5つのカテゴリーが抽出された。1)治療過程への身体的参加;検査や治療のための精液採取,精液検査の受検,タイミングを合わせた性交,内服の励行など,治療上の不可欠な役割を夫が果たすこと,2)子どもや治療への関心;治療の結果を気にかけたり,気兼ねなく治療について話ができたり,夫が子どもや不妊治療に関心を示すこと,3)自主的な健康行動;生殖機能の向上を意識した行動を自主的にとること,4)精神的な支え;妻のストレスや苦悩を受け止めてくれること,妻の心身を気遣ってくれること,夫婦二人の生活の価値を承認してくれること,治療に対する妻の意向を尊重してくれること,5)家事の協力・身の回りの世話;妻の身体を思い遣って,日常的に家事に参加してくれること,入院中や体調が悪いとき,身の回りの世話をしてくれること等であった。
    結 論
     不妊女性の視点から,夫の支援的・協力的側面として,5つのカテゴリーが明らかになった。「治療過程への身体的参加」,「子どもや治療への関心」,「自主的な健康行動」は,不妊という課題に対し協同的に取り組むべきパートナーである夫にしか果たせない役割であり,一方「精神的な支え」,「家事の協力・身の回りの世話」は,不妊に付随した問題に対する支援的なかかわりを意味しており,夫のみならず家族や友人にも期待できる役割であることが示唆された。
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