日本助産学会誌
Online ISSN : 1882-4307
Print ISSN : 0917-6357
ISSN-L : 0917-6357
30 巻, 1 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
30周年記念論文
  • 蛭田 明子, 堀内 成子, 石井 慶子, 堀内ギルバート 祥子
    原稿種別: 原著:30周年記念論文
    2016 年 30 巻 1 号 p. 4-16
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    背景と目的
     患者のケアニーズを引き出し,患者中心のケアを提供するために,コミュニケーションは重要な鍵となる。しかし,周産期喪失は予期せずして起こり,患者の感情と自分自身の感情の双方に対処する難しさから,多くの看護者がコミュニケーションの難しさを経験する。本研究は,周産期に子どもを亡くした両親にケアを提供する看護者を対象に,認知行動理論に基づくコミュニケーションスキルプログラムを開発し,その有用性を評価することを目的とした。
    方 法
     一群による事前事後評価研究。対象は周産期喪失のケアに従事する看護師/助産師。プログラムのゴールは,対象者の態度・行動に変容が認められること。有用性の評価指標は,自己効力感,ケアの困難感,共感満足と共感疲労,コミュニケーションの変容とし,プログラム実施前,実施後,実施1か月後の3時点で測定した。
    結 果
     47名の看護師/助産師が1日のプログラムに参加,内37名(78.7%)が1か月後の質問紙まで終了した。①自己効力感は実施後有意に上昇し(p=.000),1か月後も実施前より有意に高かった(p=.000)。②ケアの困難感は実施後有意に減少し(p=.000),1か月後も有意に低かった(p=.000)。③共感満足と共感疲労は,実施前後で有意差はなかった。サブグループ解析により,実施前に自己効力感が低くケアの困難感が高い群(13名)では,共感疲労の要因である二次的トラウマが有意に減少した(p=.001)。④実施1か月後のコミュニケーションの態度・行動の変容を感じている者が28名(75.7%)であった。
    結 論
     本プログラムは,看護者の自己効力感を高め,困難感を軽減することに機能し,その変化は1か月後も持続していた。さらに,看護者の認知の変容をもたらし,コミュニケーションにおける態度・行動の変容をもたらしていることが示された。
  • 紙尾 千晶, 島田 啓子
    原稿種別: 原著:30周年記念論文
    2016 年 30 巻 1 号 p. 17-28
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     熟練助産師が分娩介助の経験を積みながら,どのようなreflectionをしているのかを明らかにする。
    対象と方法
     解釈学的現象学を理論的背景として14名の熟練助産師に対して,参加観察及び面接調査を行った。
    結 果
     助産師のreflectionは,分娩介助しているプロセスの中で行われるreflectionと,介助の終了後に行われるreflectionに大別された。
     そして介助のプロセスの中で行われるreflectionは,予測外の展開や不確かな状況を気がかりとして感知するかどうかによって違いがみられた。まず,気がかりを感知した状況では,助産師は過去の経験知から様々な手段を携えて試行していく【様態1:試行を生み出すreflection】を行っていた。一方,正常に経過,進行していく想定内の状況においては,気がかりを感知せず,自身の経験知や身体感覚を復元させて瞬間的に介助行為に取り入れる【様態2:状況との融合を生み出すreflection】を行っていた。そして介助行為の後には【様態3:鏡映的に自己を客観視して洞察するreflection】を行っていた。
     【試行を生み出すreflection】は2つのテーマ,〈成功する確信がない中で反応を探りながら試行する〉〈過去の経験で身に着けた豊富な手段を引き出す〉に整理された。
     【状況との融合を生み出すreflection】は2つのテーマ,〈身体感覚を復元させて状況の意味を瞬時に見抜く〉〈正常性を見通して自然な行動を導く〉に整理された。
     【鏡映的に自己を客観視して洞察するreflection】は5つのテーマ,〈気がかりが引っかかり心を揺さぶられながら取り組みを見直す〉〈その人にとっての出産の意味付けを共に考える〉〈経験した学びをパターン付けして塗り替える〉〈助産師として関わる自分の姿勢を見つめ直す〉〈他者との関わりの中で自分の経験知を磨き究める〉に整理された。
    結 論
     熟練助産師のreflectionは3つの様態,【試行を生み出すreflection】【状況との融合を生み出すreflection】【鏡映的に自己を客観視して洞察するreflection】に大別できた。
  • 塩野 悦子, 菊地 栄
    原稿種別: 原著:30周年記念論文
    2016 年 30 巻 1 号 p. 29-38
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,東日本大震災時直後に施設外出産を介助した医療従事者の体験を記述的に明らかにし,今後の大規模災害時の看護職の出産への備え意識を高める一資料とすることである。
    対象と方法
     平成25年10月~平成26年3月に,東日本大震災直後に施設外出産を介助した医療従事者3名(助産師・保健師・救急救命士)を対象に半構造化面接を行った。対象者が出産介助に至った体験の語りから共通項を見出し,質的記述的に分析を行った。
    結 果
     東日本大震災直後に施設外出産を介助した医療従事者が出産を安全に正確に介助した背景には,9つの共通項が見出された。それは突然の出産介助に対する〈迷いや葛藤〉,〈自分が介助するという決意〉,〈周囲の人々の関わり〉,〈出産対応への個人の経験知〉,〈分娩進行の的確な判断〉,〈感染・出血・低体温のリスクへの的確な対応〉,〈家庭用品を代用する臨機応変さ〉,〈産婦を落ち着かせる声かけ〉,〈児をただ受けとめるだけの出産〉であった。
    結 論
     本研究において,職種は違っていても東日本大震災直後に施設外出産を介助した医療従事者は安全に正確に介助していた。本結果から,大規模災害時においては,施設外出産はあり得ないことではなく,どの医療従事者にも心構えが必要であり,そのためにはリスク管理,臨機応変さ,コミュニケーションなど日頃の本質的な出産ケアが基盤になることが示唆された。
総説
  • 大関 信子
    原稿種別: 総説
    2016 年 30 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     過去30年間の国内外の文献レビューにより,助産ケアを受ける妊産褥婦の満足度について国際比較し,次の30年間の助産ケアの課題を検証していくことを目的とした。
    方 法
     国内の文献検索では医中誌web,国外文献はPubMedを用いて文献検索した。キーワードは,国内は「助産ケア(妊娠期のケア/分娩期のケア/産褥期のケア)」「妊産褥婦(妊婦/産婦/褥婦/母親)」「満足度/評価」のキーワードを組み合わせ,「原著」,「1985年から現在まで」の条件で検索した。海外文献のキーワードは,[midwifery care/midwifery practice/midwifery service],[mothers/pregnant women/women in labor/postpartum women/clients],[satisfaction/evaluation]で,これらを組み合わせ,「原著」,「1985年から現在まで」の条件で検索した。
    結 果
     国内文献では317件が,国外文献では114件がヒットした。ほとんどの研究は量的研究であり,母親の視点から助産ケアに対する満足度を調査した研究は少なく,国内は12件,国外は28件が条件を満たし分析対象とした。
     国内文献の分析結果,1997年の調査では,助産ケアの満足度が8割で,2012年には9割と上昇がみられたが,信頼性・妥当性を確保する根拠となる研究の数が少なかった。国外では,ニュージーランドの調査で,助産ケアに対する母親の満足度は77%であったが,国外でも信頼性・妥当性を確保する根拠となる研究の数が少なかった。
    結 論
     今回の文献レビューから,日本の助産師が取り組むべき次の30年間の課題を検証した。まず,助産ケアに対する母親の満足度の研究の数を増やすことが最優先課題であることが明らかになった。特に1997年に開発された尺度開発の研究を継続していくことは重要である。助産ケアのレベルを,全国均一に上げていくことは,助産ケアの満足度を全国に提示するためには必要なことである。最後に,自然出産を希望する母親たちのために,革新的な助産ケアの在り方の研究が次の30年間の課題であることがわかった。
原著
  • 伊藤 由美, 良村 貞子, 佐川 正
    原稿種別: 原著
    2016 年 30 巻 1 号 p. 47-56
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     産婦が自由に体位を選択できる分娩が,助産師と医師や妊婦の間に普及するには,その有効性に関する専門的知識は未だ不十分である。本研究は,背臥砕石位と比較し,フリースタイル分娩の母児の身体的な安全性を検証することが目的である。
    対象と方法
     正常な単胎妊娠,正期産および自然経腟頭位分娩による健康な母児(N=219)から,フリースタイル群(n=50)を抽出し,背臥砕石位群(n=50)を対照としたマッチングによる症例対照研究(n=100)を行った。
    結 果
     フリースタイル群は,初産婦,経産婦とも背臥砕石位群に比し,新生児のアプガースコア1分値が有意に低い(p<0.001)のに対し,経産婦の臍帯動脈血pH値が高かった(p<0.001)。初産婦のフリースタイル群は,背臥砕石位群に比べ,分娩第2期所要時間が有意に長く(p<0.001),産後2時間出血量も多かった(p=0.01)。生後1か月児の体重増加量は,両群間に差がなかった。加えて,初産婦のフリースタイル群における助産師の臨床経験は,分娩第3期所要時間に影響した(寄与率23%, p=0.01)。
    結 論
     本研究は,フリースタイル分娩体位が背臥砕石位よりも,新生児の短期のwell-beingとして呼吸と循環の確立に好影響をもたらすこと,さらにフリースタイル分娩では,初産婦の産後2時間の出血量を管理する必要のあることを明らかにした。
  • 谷津 裕子, 芥川 有理, 佐々木 美喜, 千葉 邦子, 新田 真弓, 濱田 真由美, 山本 由香
    原稿種別: 原著
    2016 年 30 巻 1 号 p. 57-67
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,20代女性にみられる出産イメージを,当事者への面接調査によって明らかにすることであった。
    対象と方法
     関東圏内に在住する出産経験のない20~29歳の未婚女性33名に非構成的面接法を行なってデータを収集した。得られたデータを帰納的に分析し,研究参加者ごとのコアカテゴリーをパターンコード化し,出産イメージの特徴を見出した。
    結 果
     20代女性の出産イメージを示す10の特徴が抽出された。1. 研究参加者のほとんどは出産に対して《肯定的イメージ》と《否定的イメージ》の両方を併せもつ。2. ほとんどの研究参加者の出産イメージには広がりがみられる。3. 《肯定的イメージ》のみをもつか《否定的イメージ》のみをもつ研究参加者がわずかながら存在する。4. 約半数は出産に対して現実味を感じていない。5. 4割強の研究参加者が出産に対して〔痛いもの〕というイメージをもつもののそれが出産への忌避感に結び付いてはいない。6. 《ジェンダー的イメージ》は出産を女性にとって望ましいものとする考え方とそうでない考え方とに二分される。7. 《時間的イメージ》は出産年齢を意識するものと出産時期を意識するものに二分される。8. 研究参加者の3人に1人は,出産と仕事の両立は難しいというイメージをもつ。9. 研究参加者の5人に1人は,出産に対して負い目を感じさせるものというイメージをもつ。10. 《対社会的理想イメージ》には社会に対する不満と期待が反映されている。
    結 論
     研究参加者の殆どが出産に対して肯定的イメージと否定的イメージを併せもち,連関的・分散的に多様な意味づけをしていた。研究参加者の約半数が出産に現実味を感じていない背景には,女性の過酷な就労状況,職場や地域社会における家族中心施策の未整備,仕事と出産を両立するロールモデルの不在,男女ともに出産の時期や方法を自律的に選択するための教育の不十分さが存在していた。これらの問題に取り組むことが,少子社会における出産環境の創出に向けた喫緊の課題と考えられた。
  • 礒山 あけみ
    原稿種別: 原著
    2016 年 30 巻 1 号 p. 68-77
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     第2子を迎え入れる母親に対し,2人の同時育児への適応を促すために,妊娠期における準備教育プログラムを開発し評価する。
    対象と方法
     準備教育プログラムは,ADDIEモデルを方法論的枠組みとし,先行研究を基盤にニーズ分析および目的と構成を考案し開発し,第2子妊娠中の母親に対し準備教育プログラムを実施した。便宜的標本抽出による準実験研究により介入群と対照群の2群を設定し,介入前後に自己記入式質問紙調査により,第2子妊娠中の母親の育児意識の『母親から見た第1子の様子』『2人の同時育児に対する意識』および『子ども観尺度』を評価した。
    結 果
     第2子妊娠中の母親の年齢は30歳未満11名,30~35歳未満24名,35歳以上24名であった。第2子妊娠時の第1子年齢は4歳未満48名,4歳以上11名であった。介入群(n=31),対照群(n=28)の二元配置分散分析の結果,『母親が認識している第1子の様子』の「第1子は第2子の抱っこをするという」(p<.05)において介入群に有意に増加し,第1子が第2子に関心を示す行動が強化された。『2人の同時育児に対する意識』の「2人同時育児の肯定感」(p<.05),「2人同時育児のイメージ化ができている」(p<.05)において介入群に有意に増加し,2人の育児に対してポジティブに捉えていた。一方,「2人同時育児の負担感」(p<.05),「第2子出産で行動が制限されるようになった」(p<.05),「気持ちを休めることができない」(p<.05)において介入群に有意に低下した。
    結 論
     第2子を迎え入れる母親に対する準備教育プログラムは,第1子に対する理解を高め,母親の育児意識に対しポジティブな影響を及ぼし,2人の同時育児の適応を促すための経産婦に特化したプログラムとして有効であることが示された。
  • 中田 かおり, 堀内 成子
    原稿種別: 原著
    2016 年 30 巻 1 号 p. 78-88
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     生体インピーダンスによる妊婦の体水分と関連のある妊娠・分娩期の異常(切迫早産,妊娠高血圧症候群(PIH),低出生体重等)を探索し,関連を検討する。
    対象と方法
     妊娠26週から29週の健康な単胎妊婦を対象とした。データ収集は,妊娠26~29週と妊娠34~36週の妊娠中2回と,分娩終了後に実施した。生体インピーダンスの測定には,マルチ周波数体組成計を使用した。妊婦の体水分と関連のある生理学的検査値と妊娠・分娩経過に関するデータは,質問紙と診療録レビューにより収集した。変数間の関連は,パス解析により検討した。
    結 果
     研究協力の承諾を得られた340名の内,332名を分析対象とした。生体インピーダンスとの関連性が示唆された妊娠・分娩期の異常は,「切迫早産およびその疑い(妊娠26~29週の測定後から妊娠34~36週の測定まで)」(p<0.01),「妊娠期の血圧上昇(妊娠34~36週の測定後から分娩まで)」(p<0.05),「低出生体重」(p<0.01)であった。「切迫早産およびその疑い」と「低出生体重」はレジスタンス(R)が高く体水分が少ないことが示唆され,「妊娠期の血圧上昇」はRが低く体水分が多いことが示唆された。パス解析の結果,「切迫早産およびその疑い」と「低出生体重」,「妊娠期の血圧上昇」の全てにRあるいはヘモグロビン値(Hb)からのパスを描くことができた。「切迫早産およびその疑い」と「低出生体重」は,RあるいはHbが高く体水分と血漿量が少ない可能性が示唆され,「妊娠期の血圧上昇」ではRが低くHbが高い,つまり体水分は増加しているが血漿量は増加していない,という可能性が示唆された。
    結 論
     体水分をあらわす指標と生体インピーダンスおよび,特定の妊娠・分娩期の異常との関連性が示唆された。しかし,異常の予測につながる指標の組み合わせは特定できなかった。今後,妊婦の生活やリスク発見後の対応を考えながら,妊娠期の健康につながる体水分評価指標の組み合わせや基準値を探索する,基礎研究が必要である。
  • 佐藤 珠美, 後藤 智子, ルルデス R. エレーラ C., 大塚 亜沙子, 石川 哲
    原稿種別: 原著
    2016 年 30 巻 1 号 p. 89-98
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,妊娠中期と産後の残尿と下部尿路症状の実態とそれに関連する因子を検討することである。
    対象と方法
     対象は非妊娠時と妊娠中期に正常な膀胱機能を示した女性である。残尿は超音波診断装置で測定した。測定時期は妊娠中に1回(24週~27週),産後1日から5日まで1日1回,産後1か月とした。さらに下部尿路症状の自記式質問紙調査を行った。統計学的分析は対応のあるt検定,独立サンプルによるt検定,Pearsonのχ2検定を用いた。
    結 果
     無症候性尿閉(CUR)の出現率は,産後1日が18.5%,3日が30.8%,4日が24.6%,5日が15.4%であった。産後1か月の残尿は全員が50ml未満であった。協力者が報告した産後1日の下部尿路症状(LUTS)は,尿意減弱(72.3%),排尿困難(55.4%),残尿感(29.2%),尿失禁(7.7%)であった。尿意減弱,排尿困難,残尿感は産後1か月までに10%程度に減少した(p<0.01)。しかし,尿失禁(7.7%)は産後4日に15.4%に増加し(p<0.05),産後1か月まで横ばいを示した。CURの関連因子は見出せなかったが,排尿困難に生下時体重が関連していた(p<0.01)。産後4日と産後1か月のLUTSとの間に有意な関連があった。産後4日のCUR群は正常群に比べて産後1か月の尿失禁の割合が有意に高かった(p<0.01)。
    結 論
     産後4日のCURの出現率は24.6%あったが,産後1か月には全員が消失した。一方で尿意減弱,排尿困難,残尿感,尿失禁は残っていた。CURに関連する因子は見出せなかったが,排尿困難に生下時体重が有意に関連していた。さらに産後4日と産後1か月のLUTSの出現との間に有意な関連があった。産後4日のCURは産後1か月の尿失禁の出現に有意に関連していた。
資料
  • 小山田 信子
    原稿種別: 資料
    2016 年 30 巻 1 号 p. 99-109
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     現在の助産師教育を理解するために,日本における助産師教育の発達経緯について明らかにする。今回は,1890年官立産婆養成所成立の背景として,東京における産婆教育について教育施設,教育担当者,教育内容について明らかにする。
    方 法
     東京府病院産婆教授所における産婆教育開始後東京における産婆養成所について,東京公文書館所蔵文書,医学系雑誌,官報,当時の新聞を手掛かりに史料を発掘し解明する。
    結 果
     東京における1890年までの産婆養成機関として9つの養成機関が確認できた。教育を担ったのは医学士,東京大学別課卒業医師,内務省免許産婆たちであった。修学期間は1年半のところがほとんどだったが,修学時間数でみると400時間から1200時間の間で開きがあった。具体的教育課程においても重きを置く分野が,基礎医学,産婆学の異常編,産婆学とさまざまであった。そのため,多様な産婆が教育され,濱田玄達の問題意識につながったと考えられた。東京産婆学校(紅杏塾)と官立産婆養成所を比較すると総教育時間数は同等であった。ただ時間のかけ方が異なっていた。官立産婆養成所では実地を重んじ,教育時間の半分を演習実地に充てていた。東京産婆学校では実地演習に充てた時間は総時間の1割程度のみであり,8割を講義にあて,しかも医学と産婆学の比率は50%ずつであった。
    結 論
     実地を重んじるのか座学を重視するのか,産婆の役割をどのように考えるかによってカリキュラムが異なる。今後,教育を担った医師や産婆の著述から産婆教育内容を検討し,今後の助産師教育を充実させる一助としたい。
  • —電子カルテのデータを用いた研究—
    加藤 佐知子, 竹原 健二, 新田 知恵子, 大田 えりか
    原稿種別: 資料
    2016 年 30 巻 1 号 p. 110-119
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究では電子カルテを用いて,切迫流早産で入院した妊婦を対象に実施されてきた,「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」が早産のリスク低減にもたらす効果を検討することを目的とした。
    対象と方法
     本研究のデザインは電子カルテのデータを用いた後ろ向き研究である。本研究の対象は2011年4月1日から2013年3月31日の時点で,調査協力施設に切迫流早産の診断を受けて入院をしていた妊婦230人のうち,対象基準を満たした208人とした。入院期間中に看護師や助産師が「衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導」を実施した者を保健指導実施群,実施されなかった者を対照群とした。すべてのデータは電子カルテから収集された。
    結 果
     対象者の基本属性では,平均年齢が34.7歳(標準偏差(SD):5.0),経産婦が103人(49.8%)であった。保健指導が実施された保健指導実施群は150人(72.1%)であった。二変量解析の結果,保健指導の実施の有無は,妊娠34週未満の早産(p=0.077),妊娠37週未満の早産(p=0.875)のいずれとも統計学的に有意な関連は認められなかった。しかし,先行研究の知見をもとに,社会経済的な要因や過去の受診歴などの交絡因子の影響を調整した多変量解析では,保健指導実施群の妊娠34週未満の早産に対するAdjusted Odds Ratio(AOR)は0.15(95% Confidence Interval(CI):0.04-0.57)と妊娠34週未満の早産のリスクを低下させることが示された。妊娠37週未満の早産との関連は示されなかった(AOR:0.67(95%CI: 0.28-1.60))。
    結 論
     衣服による体幹への締め付けを回避する保健指導が妊娠34週未満の早産のリスクを低下させる可能性が示唆された。本研究は探索的な研究であり,サンプルサイズが小さいことや,対象者の無作為割付をおこなっていないなどの限界がある。今後,無作為化比較試験のような,この保健指導の有効性をより強く証明するような研究の実施が求められる。
  • 東原 亜希子, 堀内 成子
    原稿種別: 資料
    2016 年 30 巻 1 号 p. 120-130
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     胎児が骨盤位である妊婦が鍼灸治療を受けた際の治療経過を追跡し,特に治療に伴う胎動の変化を把握し,鍼灸治療と胎動との関連を探索した。
    対象と方法
     妊娠28週から37週の鍼灸治療を希望する骨盤位妊婦を対象とし,治療前後の心身の反応,不定愁訴の変化,胎動について分析した。胎動の「数」は胎動記録装置(FMAM)を用い客観的指標として把握した。
    結 果
     初産婦11名,経産婦1名の計12名を分析対象とした。年齢の平均は32.7歳であった。12名全員,治療延べ24回中毎回「手足がぽかぽかと温かくなる」と答え,「リラックスして眠くなった」妊婦は治療24回中22回(91.7%)に生じ副作用は認められなかった。「足のつり」「イライラ感」が治療前に比べ治療後有意に頻度が減少した(「足のつり」z=-2.53, p=.011,「イライラ感」z=-2.00, p=.046,Wilcoxon符号付き順位和検定)。胎位変換した頭位群は8名(66.7%),骨盤位のままだった骨盤位群は4名(33.3%)であった。骨盤位診断から治療開始までの日数は,頭位群平均8.6日,骨盤位群27.3日であり,頭位群の方が有意に短かった(t=-3.7, p=.02)。治療開始時期は,頭位群平均31.5週,骨盤位群34.1週であり,頭位群の方が統計的に有意に早い週数で始めていた(t=-2.4, p=.04)。客観的な胎動数の変化として,初回治療時の平均を,「治療前20分」「治療中」「治療後20分」で比較すると,「治療中」に有意差があり,頭位群173.71回/時,骨盤位群105.63回/時と頭位群の方が有意に多かった(t=2.78, p=.02)。対象毎にみると,頭位群では「治療前20分」に比べて,「治療中」または「治療後20分」に胎動が増加していた。
    結 論
     鍼灸治療は,手足が温まり,リラックスして眠くなることが生じ,副作用は認められなかった。「足のつり」「イライラ感」の頻度が治療後有意に減少した。胎位変換率は66.7%であり,頭位群は診断から平均8.6日以内に治療を始め,平均妊娠31.5週までに開始していた。胎動の変化として,頭位群は「治療中」または「治療後20分」に胎動増加が認められた。
  • 本田 知佳子, 我部山 キヨ子
    原稿種別: 資料
    2016 年 30 巻 1 号 p. 131-140
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,更年期の女性が月経をどのように認識してきたのか明らかにすることである。
    対象と方法
     妊娠・出産の経験があり子宮摘出術を受けていない7名の更年期女性を対象に,初経から現在までの月経の認識に関して半構成的面接を行った。得られたデータは,解釈学的現象学の手法で分析を行った。
    結 果
     本研究で抽出された月経の認識に関するテーマは,5つのカテゴリー「初経時の複雑な受け止めと経験による慣れ」「月経の存在によって気づかされる女性の機能と健康」「閉経と老いていく自分」「他者との関わりが月経の認識に与える影響」「月経痛と月経の認識との関連」に分類された。
    考 察
     女性が生涯を通して月経を肯定的にとらえ,上手に付き合っていくことができるようになるためには,初経を肯定的に受け止めることができる月経教育,思春期後期の月経・性教育,母親に対する月経教育,月経痛の正しい対処法の指導が必要である。また,看護者としては,学校教育と医療従事者とが連携した健康教育システムの構築や,周産期以外の女性が婦人科受診をしやすい環境づくりを行う必要がある。
  • 町田 玉枝, 近藤 由美子, 矢阪 裕子, 佐世 正勝
    原稿種別: 資料
    2016 年 30 巻 1 号 p. 141-147
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/01
    ジャーナル フリー
    目 的
     全国で院内助産院が設立され,助産師主導の外来及び院内助産が行われている。A病院の総合周産期母子医療センター内に開設した院内助産院における妊娠・分娩管理の安全性について検討を行った。
    方 法
     平成21年1月1日~平成25年12月31日までに,院内助産院での妊娠管理を行ったlow risk経産婦214名のうち分娩取り扱いを行った179名(以下,助産院群)と同期間に周産期センターで管理したlow risk経産婦258名(以下,センター群)との周産期予後の比較を行った。第2三半期まで母児とも正常に経過したと医師により判断された経産婦が助産院での分娩を希望した場合に,妊娠28週より助産師主導管理を行った。外来終了後に毎回,診療内容について産科責任医師と協議を行った.分娩には助産師2名が立ち会い,フリースタイルで行なった.分娩を担当した助産師が必要と判断した場合には,医師の来棟要請や周産期センターへの転科・転棟を行った.
    結 果
     妊娠期間は助産院群で有意に長かった。出生体重,分娩時出血量には差はなかった。臍帯動脈血pH値には差はなかったが,アプガールスコア1分および5分値において,助産院群で有意に高かった。両群に臍帯動脈血pH値7.00未満の症例はなかった。
    結 論
     助産師主導で行なったlow risk経産婦の妊娠・分娩管理の予後は,医師によるものと差はなく良好であった。low risk経産婦に対する助産師主導の妊娠・分娩管理は,安全に行うことが可能であると考えられる。
feedback
Top