我が国に産するシロチョウ科 (Pieridae) の昆虫8属15種の染色体を観察した。染色体数とその形態は Table I とFigs. 1~32に示した。
1. Pieridae に属するすべての種の精巣は, 外皮の色彩は赤色であり, 形態は完全に結合した球形である。
2. 正常な成熟分裂は成体の精巣においても幼虫, 蛹の時期のものと同様に観察することが出来る。
3.
Leptidea amurensis の染色体のみは他の蝶類の染色体と異って多少角ばった形態を示し, また2個の大形ないわゆる “Sammelchromosomen” によって特長づけられる。
4. 日本産の
Leptidea morsei と欧州産の
Leptidea sinapis との核型は染色体構成に関して非常に異る。前者は
n, 54で点状染色体のみからなり, 後者はV形, 棒形の染色体を含む
n, 28~41の核型をもち, その間には倍数関係が存在する。
5.
Pieris rapae には日本各地に
n, 25と
n, 26の個体が混在している。その比率は前者が40%, 後者が60%である。
n, 25の核型は
n, 26の核型からm-chromosome が消失して出来た核型である。
6.
Pieris napi は
n, 26で,
Pieris melete は基本数
n, 27に1~4個の過剩染色体が加わり,
n, 27~31の染色体数を持ち, 外部形態的に類似しているこの2種も細胞学的には明らかな違いがある。
7. 染色体数とその大きさとの間には密接な関係があり, 染色体数の少い種ほどその染色体は大きい。
8.
Pieris 属は
P. rapae と
P. melete とにおいて核型の多様性がみられ, 細胞学的には相当に不安定な属である。
9. Pieridae は動揺しつつある不安定な Family であるが, 成熟分裂の時期, 精巣の形態及び色彩, 並びに染色体数の諸点から考えて, Family Papilionidae よりは非常に分化した Family と思われる。
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